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チーズ職人の1日は深夜3時に始まる

少しずつ身近になってきたチーズ。国産チーズも少しずつですが認知されてきています。「チーズ職人」ってフレーズはたまに聞くけど(都会にいるとあまり聞かないか。)一体何をやっているのか未知でないでしょうか?半ば昼夜逆転ぐらいの生活。チーズ作りとともに私の1日をご参照ください。

AM2:25

起床。ぐっすり眠れるときもあれば、寝坊しないかドキドキで眠れない日もあります。コップ1杯の白湯を飲んで出勤。

AM3:00 

10分ぐらい前には到着。前日18:00までに届いている卸や店舗の受注をみて製造数の調整。

ボイラーの電源をONにして、ボイラーが温まる間に器具の準備。塩の計量など。この頃には前日の夕方に絞った新鮮な生乳を積んだタンクローリーがはるばる多摩地区から到着しています。

朝の渋谷にミルクを大量に積んだタンクローリーが走っているなんて、10年前に誰が想像できたでしょうか。エモい。

AM3:20

洗浄したパイプラインを通じて、チーズバットと呼ばれる2層構造の中側に生乳を入れます。

「器具をセットしたよ」「牛乳を止めて」など店舗を挟んで窓越しにすべての手を挙げるだけで意思が通じる運転手さんとのやりとりは、往年のキン肉マンとテリーマンのような阿吽の呼吸。

チーズバットの外側(ジャケット)には水が貯まるようになっており、その水を加熱したり冷やしたりすることで乳の温度を調整します。直接加熱すると焦げになってしまうためです。

ボイラーでジャケットの水を加温するのですが時間がかかります。その間に抗生物質、血液検査、比重の検査をしたりチーズの袋を広げたり、チーズの準備を行います。

AM4:00 

低温殺菌を行います。63℃で30分。その後、ジャケットを冷却。その間、使った器具洗い物や、次の日の用意など結構せわしなく動いています。
低温殺菌後の乳を試飲。季節や気温により味が異なります。夏場は牛が水をたくさん飲むのでスッキリとした味わいだし、冬場は穀物飼料の香りが強い。

AM4:45 

乳の温度が40度近くになったら乳酸菌投入。その後レンネットという乳を固めるものをいれます。

※乳酸菌:乳に含まれる乳糖と呼ばれるものを餌に増殖。pHを下げます。

※レンネット:仔牛の第4胃からとれるキモシンと呼ばれる成分を含んだ乳を固めるもの。

AM5:45

カッティング。チーズハープと呼ばれるワイヤーで固まった状態のチーズのもと(カード)をカットします。カットする硬さは茶碗蒸しのよりも柔らかいぷるぷるした状態。この作業で出来上がりのチーズの硬さや食感が変わってきてしまうので、重要なポイントです。

乳酸菌なども違いますが、このカットの大きさでチーズの硬さも決まります。
・カマンベールなどの中がトロッとするほど柔らかいチーズ→大きめにカット
・パルミジャーノなどの硬めのチーズ→細かく(米粒大に)カット

ちなみにモッツァレラはクルミ大とかトウモロコシ3粒分とされています。

のカット後には、カチョカヴァッロを収穫したり、配送準備などを行います。

AM7:30

先程カットしたカードとは別に、カットした断面から出てくるホエイ。ホエイを90度ぐらいまで熱するとリコッタが出来上がります。蒸気でチーズバットを温めるため、部屋がスチームサウナ状態。けれどもホエイが温まったなんとも言えない甘い香りが部屋中に立ち込めます。

AM7:45


一部のホエイに漬け込んだカードからホエイを抜きます。この頃には木綿豆腐を触ったようなしっかりとした硬さになっています。そしてカードからホエイをどんどん抜いていくとカードは結着していきゴムボールのような弾力のある塊になります。ここで仕上がりの硬さを調整していきます。

AM7:50


少し休憩。一度家に帰り犬の散歩をしたり、朝ごはんを食べたりしたり、仮眠したり。

AM9:00

スタッフに急冷したリコッタをパッキングしてもらったり、洗い物をしている間に、pHが下がり、チーズが練れる状態になります。練り始めるタイミングの見極め。ここも重要なポイント。練り始めが遅い(過発酵)と弱い生地になってしまうし、早い(未発酵)だと硬い生地になってしまいます。一般的に牛乳のpHは6.6〜7.0。モッツァレラを練るのは5.2ぐらいと言われていますが、この見極めはpH計を使わず、素直に伸びるかどうかのストレッチテストを何度も繰り返します。

ここからはひたすらモッツァレラとブッラータづくり。多いときでモッツァレラ300個ほど、ブッラータは200個ほど作ります。

AM11:30

掃除は遅番のスタッフに任せて帰宅することが多いです。シャワーを浴びて、昼食。結構な体力を使うので、また仮眠。

PM13:00

ランチミーティングをしたり、打ち合わせをしたり、スタッフと打ち合わせをしたり、事務作業をしたり。経営者としての時間はこの時間。

PM16:00 

仕事を切り上げて、週に1度キックボクシングに通って無になります。他にも整体で身体を整えたり、病院に行ったりとメンテナンス。

PM18:00

帰宅して、夕飯。たまに外で友人とご飯を食べたりもしますが、無理はしない。

PM20:00 

たまに無理して外食したりもしますが、21:00あたりが限度。就寝します。


職人の仕事

チーズ職人をしていると、

ゴールデンタイムに寝られて、ホエイの蒸気で顔はパックされ、サウナのような室内で汗をかき新陳代謝はOK。バケツの水や水が入ったチーズのパックを運んで筋トレにもなる。なんて健康的なんでしょう。

と、冗談はさておきます。

チーズ職人の1日は上記のような感じです。

職人というだけあって、毎日同じ作業が多いです。

ただ、毎日、気温も違えば乳の状態も違う。それらをコントロールしながら理想のチーズをつくっていきます。

モッツァレラで言えば、かんだときにジュワ~とミルク汁があふれるようなモッツアレラ。硬すぎもせず、軟すぎもせず、繊維感を感じられるようなモッツァレラ。これらはpHやカッティングのタイミング、ホエイを抜くタイミングや、温度管理でバランスを取りながら調整していきます。

ブレを少なくするため、毎日毎日掘り下げていきます。そして毎日トライアンドエラーを繰り返します。昔よりもブレ幅は大分小さくなってきました。

ワインは1年に1回しか結果が出ませんが、僕たちがつくているフレッシュチーズは日々美味しくできる。進化できる。そこが職人の魅力でもあります。

職人仕事面白いですよ!




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