地球温暖化は人間活動の二酸化炭素排出が主因なのか。脱炭素は正しいのか。

〇本当に地球は温暖化しているのだろうか。


環境・リサイクルに関連する仕事を10年以上しているので環境に関連する情報に触れる機会が多い。特に最近は脱炭素経営などと言われ、我々も脱炭素を事業に取り込んでいき、どのようにビジネスチャンスに繋げていくか日々模索している。そうなると当然、地球温暖化に関する情報はよく目にするようになる。IPCC(国連・気候変動に関する政府間パネル)の発表にある「産業革命前からの気温上昇を1.5度以下にしなければ人類に深刻な影響を及ぼす」という記事はよく目にするしそれが当然の事実として報道されるケースが多い。脱炭素は「まったなし」であり、最優先で人類が取り組むべき課題というわけである。欧州より一歩遅れて日本でも始まった脱炭素の動きもこれを受けてのことだ。
 
一方で、私は「本当に温暖化しているのだろうか」と疑問に持つこともあった。地球温暖化に懐疑的あるいは否定する意見もネットではよく目にする。武田邦彦氏などは地球温暖化に否定的なことで有名で、彼の記事やYouTubeはよくみることができる。地球温暖化に否定的な意見でもその程度は様々で「そもそも温暖化はしていない、今はむしろ氷河期だ」と地球温暖化の問題定義そのものを否定する者から、「人間活動は地球温暖化に影響しているが、その影響力や将来予測はまだまだ科学的な検証が必要」などさまざまである。
 
そこで私は、スティーブン E. クーニン「気候変動の真実」(日経BP、2022年)を手に取った。地球温暖化の世の中の論調に疑問を投げかけた本であるが、この本から学んだことを軸に今回のテーマ「地球温暖化は人間活動の二酸化炭素排出が主因なのか」について語りたい。
 

〇著者のクーニン氏はこのテーマに最も適している一人


日本ではタレントのような「コメンテーター」が多いが、著者のクーニン氏は評論家でもなければ経済学者でもない物理学者である。著書はカリフォルニア工科大学で筆頭副学長も務めたこともある科学者だ。コンピューターモデルにより物理計算の権威で、民主党オバマ政権ではエネルギー省の科学時間として気候研究プログラムに関わっている。経歴からみれば、彼は物理学からみた地球温暖化の専門家であり、かつ世界の流れが「脱炭素」の方向に決まっていく政治の中で現場にいた。彼ほどの適切な人物はいない。実際、この本は大いに参考になった。
 

〇人間活動の地球温暖化への影響を考える時に重要なこと


ここの議論で大切なのは、①人間活動が地球の気候にどの程度影響を与えているか、②人間活動の結果、気候はどう変化するか、③気候が変化した結果、人間活動にどう影響するのか、の3点だけだ。極端な話だが、人間活動の結果として気候が変化しても人類に悪影響がなければそのままでいい。また、気候の変化が人類に悪影響を及ぼすとしても人間活動の結果でなければ、我々の活動を根本から変えることはあまり意味がない。他に原因があるからだ。
 
 今の脱炭素の流れは世界経済のルールを根本的に変えている。その重要性を理解して自分たちの損にならないような制度作りに先行して長年取り組んできたのが欧州だ。炭素税などはその最たるものであろう。炭素税が課せられれば、環境コストをかけず価格競争力が強みの中国製品は、大幅に不利となる。輸送中にかかる温室効果ガス排出量を考慮にいれるのであればなおさらである。今では家電業界が韓国のサムスンやLGにぬかれた今でも安泰とみられていたトヨタのような自動車メーカーもテスラのような電気自動車の戦いに一歩遅れている感があり苦戦が予想される。企業だけでなく、私のいるベトナムのような発展途上にいる企業は圧倒的に不利になるのが脱炭素関連の制度・ルールだ。地球温暖化の政策はグローバルにルールを根本から変えるからこそ、ファクトを重ねて科学的に分析し、慎重に政策決定しなければならない。
 

〇二酸化炭素が地球温暖化の原因かどうかはまだ議論が必要


地球は太陽からエネルギーを受ける。地球に大気がなければ100%エネルギーを受け取り、受け取ったエネルギーはすべて宇宙に放出されるが、実際は3割程度が雲などに反射される。受け取った7割は大気中の温室効果ガスが熱を閉じ込める。その大気の99%は窒素と酸素だが、熱はこの2つの気体を通り抜けるため地球の温暖化には影響しない。熱を地球に閉じ込めないのだ。影響するのは残り1%の大気、その中でも人間活動が影響を与えているのは主に二酸化炭素とメタンなのである。中でも二酸化炭素は排出量が多く、メタンと異なり長期間地上に蓄積されるため影響が大きい。つまり、地球は温暖化している⇒地球の熱は太陽エネルギーだけから受け取る⇒地上の熱を保存しかつ人間活動がもっとも影響を及ぼしているのが二酸化炭素に代表される温室効果ガス⇒二酸化炭素など温室効果ガスを減らす⇒地球温暖化は止まる、というロジックである。

しかし、クーニン氏はここで地球が吸収する太陽エネルギーは239W/㎡だが、人間の影響はそのうちわずか2W/㎡、全体の1%程度でしかないと述べている。これが本当であれば、人間活動を制限して炭素排出量をゼロにしたとしても全体の効果は1%しかならないことになる。今の脱炭素の政策やそれを忠実に守って経営を進めようとしている政府や企業の努力は全く地球温暖化に貢献しないことになる。
 

〇「科学的に検証を重ね、いろんなオプションを検討する」


 クーニン氏は、地球温暖化を否定しているわけでなく、「地球温暖化の主な原因が人間活動にあるかどうかは科学的に議論の余地がある。地球温暖化が人間の緊急かつ最優先の課題であるかはまだ明確でない」といっているだけである。だからこそ政策決定は慎重に行うべきであると主張しているのだ。地球温暖化を否定しているわけではなく、結果ありきの議論は科学ではないと主張しているのだ。例えば、地球の二酸化炭素濃度が増えていることは明確に認めている。よく議論になる気候モデルもまだまだ未完成な部分が多く、必ずしも正確に未来を予測できるわけではないとしている。
 
 これが単なる論文の中での科学技術論争であれば問題はない。しかし、この議論は政策に反映され、人間の特に経済活動に大きく影響を及ぼすから問題なのだ。例えば、私の住む東南アジアの国々は発展途上の国が多い。人口はどんどん増え、一人当たりGDPも毎年上昇していく。貧しい国が豊かに鳴っていくのだから当然である。経済発展にエネルギーの確保は重要だが、潤沢な資金もない中で安価な石炭は最も魅力的である。法律で禁止されなくても銀行が石炭事業には投資しないとなれば、発展途上の国の企業は資金調達できない。かといって温室効果ガスの排出を減らした高い設備を導入する余裕もない。まだ、「最優先かつ緊急の命題」であるかどうかわからないのに、人間活動を制限したり、貧困を増長するようなことがあっては意味がない。
 

〇常にニュースを疑う


 この本を読んで共感し、どちらかといえば今の私は地球温暖化懐疑派である。地球温暖化肯定派、懐疑派、否定派であれ、いろんな意見に目を通して自分の頭で考えることが大切であるとつくづく感じた。脱炭素の動きは、金融業界、政治、学会などいろんな利害関係がからんでいる。それぞれの立ち位置により発信内容に影響がでていくる。中には単純な陰謀論に結びつける意見もある。できる限り正しい考え方、意見を身に着けるために以下の3冊はとても学ぶことが多かった。ぜひ参考にしてほしい。
 
泰郁彦「陰謀史観」(新潮社、2012)
烏賀陽弘道「フェイクニュースの見分け方」(新潮社、2017)
デヴィッド・ロバート・グライムス「まどわされない思考」(KADOKAWA、2020)
 

〇我々にできることはなにか。


 クーニン氏の「気候変動の真実」は、地球温暖化の主因を人間活動による温室効果ガスと決めつけ、それを緊急の課題として他の課題をなおざりにして炭素排出量の削減に取り組むことに疑問を投げかけている。少なくともまだ科学的には決着がついていないことを公にするべきだと。それが経済活動に大きな影響を与えるのであればなおさらである。例えば、発展途上国で石炭発電ができなくなった結果、十分な電力が確保できず、貧困の問題が増加した、などでは意味がない。私は彼のこのような意見に共感する。
 一方で、安易に「地球温暖化は起こっていない」「〇〇の陰謀である」など安易な意見に飛びつくのも問題がある。当たり前のことだが、両方の情報に触れて自分で考え、自分で判断するしかない。
 

〇ビジネスでは脱炭素が既に必須となっている。


 残念ながらビジネスでは、脱炭素に関わる対応は緊急の課題である。既に長い期間をかけて欧州の金融機関や政治がこの方向で進んでいる。企業活動でいえば、今後は間違いなくスコープ1~スコープ3までの温室効果ガス排出量の算出が求められるようになる。温室効果ガスを削減し、それで間に合わなければ排出量取引や自主炭素市場からクレジットを買うと同時にそれをコストに反映されコスト増に見合ったモノ・サービスを販売する。企業ではそのような視点で動く必要があるし、ビジネスパーソンもそこを念頭に担当する部門、立場の範囲で先手を打っていく必要がある。

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