IGN JAPAN『Chinese Parents』レビュー 裏話、香港で生まれた人と内陸で生まれた人に聞いた中国のリアルな教育事情

実際の中国文化を反映した本作は異国情緒が新鮮で楽しく、「中国の親」という存在を監視者のようなシステムに組み込んでいるため、独特の制限があり興味深く挑められる。プレイによる中国文化への理解が深まるし、親しみも持てるようになる育成シミュレーションゲーム。

『IGN JAPAN』誌に寄稿させていただき2020年10月03日(土)にパブリッシュされたレビュー。この拙著は自身の説明能力が足らずいろいろと担当編集者にお手間いただいた格好になった。たどたどしい痕跡があるのはそのせい。今後は(ちゃんと読んだとはいいがたい)技術書を熟読して、商業文の番外編のような本稿のように、あるいはまったく違った分野の記事を書いていき、学んだものを身体になじませていくのでよろしくNEってしたい次第。自分はこれから今よりよくなるから。よくなったら自分がするビデオゲームの話をもっとあなたに楽しんでもらえるようなるから。魅力的に伝えられるようになるから。

そして本題、今回のレビューを書くにあたり中国の方から詳しく実情を訊いた。聞き込みできる環境にあったから好奇心を満たしたかったというのもあると思う。そのため特になくていいんだけど始めは末文に下記のものを入れようとしていた。

本作がどれだけ実際の中国文化を反映したものなのかファクトチェックみたいなものを本誌で本家ニュース翻訳や「香港ガリ勉眼鏡っ娘ゲーマー」に「中華娯楽週報」で活躍する歐陽宇亮女史に都度話を伺った結果、かなりの度合いで実際の中国文化を反映していることがわかった。本作のプレイはよき中国留学となるだろう。

そう! IGN JAPANづてにちょっとした交流がある香港生まれの「歐陽宇亮」女史からたくさんの事情を訊いたんだ。そして内陸生まれのアニメーター「ナクガム」氏にその内容を伝えたら「香港と内陸はちょっと事情が違う」ということをうかがえた。独り占めするのはもったいないので両方からの中国事情を記そうと思う。非常に興味深く聞けた内容なので楽しかったり驚いたりするはずだ。

まずは香港サイドの歐陽宇亮女史に「ゲームではこう描かれている。実際のところはどうなのか」と聞いていった。少しずつ箇条書きにしよう。

・親による監視は人生に影響するほどあるのか。親は子どもの行動を監視して口出しをする、スパルタ教育する意識が強いのか。
・社会人になると親が結婚を勧めてくるのか。
・メンツという考えの重要度。親が親戚と子どもを自慢し合ってメンツを競うような文化は普通に存在しているのか

といったことを訊いた。すると返ってきたのがこう。

・ご質問のいずれに対しても回答はYESです。中国には「望子成龍(子が龍に成ることを望む)」という言葉があり、基本的に親は常に子供がNo.1であり続けることを望んで、スパルタ教育をしています。虎媽(虎ママ)という単語もあります。スパルタ教育がすごい母親のことです。主に教育の「成功者」を呼ぶ言葉ですね。

・子供の成績が学級1位だったり、一般に褒められるような能力に優れたり(ピアノのコンクールで優勝するとか)すると、子自慢も至って普通です。親同士で子自慢ができることが教育が成功した親の特権のようなものです。期待に応えてくれた子には何でも買ってあげて、どこにでも連れて行ってあげて、その願いを何でも叶えます。子自慢はメンツというのはもちろんありますが、純粋に自慢したくて仕方ないのもあります。それだけ子が可愛くて目に入っても痛くないわけですから。

・もちろん監視もすごいです。龍になるよう子を教育しなければという強い意識があるので、学業成績に限らず課外活動、趣味、交友・恋愛関係も監視しています。しかし同時に溺愛も凄まじく、子が学校で不当な扱いをされたと思ったらすぐに怒鳴ってきます(怪獣家長と呼ばれます)。子の扱いをめぐって親同士が口喧嘩をすることもありますね。

・子の受験(高考)に際しては親が仕事を辞め、子と一緒に全国各地へ行って、受験の会場まで同行することも珍しくありません。子がイイ大学に入ったら、親も仕事を再開しますが、理解のある職場が多く、以前の職場に復帰したり、新しい職場へ転職する際に「子供の高考に同行するために前の仕事を辞めました」と説明するとすんあり受け入れられたりします。

・子の彼氏、彼女は必ず家に連れて来てもらって見ますし、社会人になってからも結婚相手を薦めることも多いです。
(歐陽宇亮女史よりの返信)
※「望子成龍」は内陸側で育ったナクガム氏によると「社会的に高い位置に立たせたい」という考えになるそうだ。ひょっとしたら歪んだ思想だと考えられるかも知れない、らしい。

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・コネでイイ会社の仕事を斡旋することもしょっちゅうですね。社会人になっても毎朝子と一緒に職場へ向かったり、子が職場で不当な扱いを受けたと思ったときに両親+親戚など多人数チームを組んで職場に乗り込んで上司や社長と戦ったりしますよ。
(歐陽宇亮女史よりの返信)

虎媽(虎ママ)に関しては『虎妈猫爸』(Tiger Mom)というコメディドラマがあった模様。こちらのブログに内容が書かれている。
https://ameblo.jp/imajunjinjing/entry-12057009920.html
よく考えたら中国では2016年まで「一人っ子政策」があったし1人の子に掛かる親の期待というのはやはり大きいのだろうと想像に難くない。

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・お年玉は断るのは基本的にダメですが、遠慮するふりをして、しばらくしたら受け取るのがマナーです。これはお互いの暗黙の了解ですね。

お年玉は日本人としては断るなんてちょっと聞かない。親は「まあまあすみませんね」くらいでいうし子供は「ちょーセンキュー!」、「やったやったあ!ありがとう~!」ぐらいで受け取る文化だと思う。だけど「遠慮のポーズのあとに受け取る」っていう様式だったら日本でもあり得るとも思う。あんまり日本と変わらないかもね。

中国ではIQ以上にEQが重要だと言われますね。確かに日本ではEQってあまり聞かないですね。大衆的な認識では、EQはエモーションをよくコントロールできる能力のことです。なので自制心とか穏やかな気持ちといった訓練になりますね。EQはIQを補い得ますが、IQが高くてもEQが低いと活かせないという認識が広がっているので、「IQよりもEQのほうが重要だ」と一般に言われます。
(歐陽宇亮女史よりの返信)
※内陸で生まれたナクガム氏によると「EQよりもIQの方が重要視されていた」そうなので地域差があるようだ。

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EQとは「Emotional Intelligence Quotient」の略で「心の知能指数」とも呼べそうな、感情の表現や知覚などにまつわる指標。比較的新しい概念でIQテストでは人の脳の能力すべてをカバーできないというところから研究され、始まりは心理学者が中心となったようだ。IQは計算方式にもよるが言語と記憶など複数のものをまたぐように、EQもまた複数のものからなり、自身の感情制御や他者の感情の推察力など自己のものから他者との関係の制御といった社会的なものにまでおよぶ。

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・ちなみに結婚とか恋人関係については、日本では想像しがたいですが中国ではたとえ40代になっても子が新しい人と付き合い始めたら、すぐに恋人を実家に連れて行きます。そして数十人以上が集まる親戚同士の集いにも連れて行きます。そこで両親だけではなく、多くの親戚に恋人のことを知ってもらい、認めてもらうように努めるのです。彼氏でも彼女でも変わることなく、とにかく恋人の両親と親戚にいっぱいサービスして、イイ印象を与えることに必死です。こうした背景もあって、中国では同性愛者は完全にアンダーグラウンドな存在になるわけです。

※これはナクガム氏いわく内陸側でも共通のよう。

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・親戚同士の子自慢合戦はすさまじいですね。きょうだいでも、自分が育てた子を自慢し合うんですよ。きょうだいの中で誰が一番子を龍に育てているのかを競うのです。
(歐陽宇亮女史よりの返信)
※本作の「メンツバトル」に関してだがナクガム氏に言わせてもかなりマジらしい。

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もちろん中国の教育から逸脱して奔放に生きる子供もいる。それはどこでだって同じように。かつて自分が日本の教育から逸脱して奔放に、それはもう子供ゆえの不自由という名の下の自由を謳歌したように。


※以下IGN JAPAN歐陽宇亮女史の連載。


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