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四十四歳

2020年 5月 6日
 五月末までに最低三日間の休暇をとるように上司から連絡があった。そんな連絡があって速攻休暇をとる人もいれば、計画的に日時を連絡してくる人も居る。私はといえば、元々予定していない休暇が突然あると、どうして良いのかわからなくなる。この時期、どこに行っても店は開いていないし、不用・不急の外出は控えることになっている。皮肉だが不用な休暇は不要なのだ。しかたがないので、各週の水曜日に休みをとることにした。二日出勤して一日休んで二日出勤して休んで。
 M氏が大型連休最終日につなげるように三日連続追加になる形で休暇申請をしてきた。そうするとM氏の大型連休明けの出勤は五月十一日となる。しかしM氏が現在担当している業務の締め切りは五月十一日である。M氏は大型連休前にその業務をすでに終わらせていたのだろうか。
 連休直前の四月二十八日。
「Mさん、三日連続休暇申請出してますけど、そうなると五月十一日の締め切りの業務はどうなりますのん?もうその業務は終わってますのん?」と私はM氏に訊ねた。するとM氏は
「えっ?えっ?えっ?えっ?」と頭を左右に動かし、私の方に向きながら、とぼけたことを言う。これはM氏のいつものことである。M氏なりの誤魔化し戦法。幼稚未満な戦略。「あぁ、うっかりしてた!」みたいな顔しやがって。今まではこれでうまくいっていたのかも知れないが、今年度からは私がM氏を管理するのだ。M氏のやつ、本当はわかってたけど、誰かがどうにかしてくれるだろうと思っていたのか。「この日とこの日は休暇をとろうと考えているので、五月十一日の締め切り日をなんとか出来ないか?」とあらかじめ言ってくれれば良いものをM氏は黙っていた。そんなことも出来ないM氏。
「え?どうなんですか?もうこの仕事は終わってるの?」と私は再びM氏に訊ねる。えっ?えっ?えっ?えっ?と言われただけではわからないから。
「えっ?えっ?まだ・・・」とM氏。私はM氏が何を言っているのか聞こえないフリをして
「えっ?何?」と聞く。
「あ、まだです」とM氏。
「何がまだ?」と私。
「まだその仕事は終わってません」とM氏。
「じゃあ、コレどうするん?やる時間無いやん」と私。
「そうですねぇ・・・」とM氏。私はイライラしてくる。M氏は四十四歳。独身男性。こんなやつでも肩書きは「主任」なのだ。うちの猫の方が賢い。おかしいよこの会社。
 埒があかないので、私はあちこちに電話で連絡をとり、締め切り日を五月十八日にしてもらうことにすることが出来た。「主任」なのにこれくらいのことは自分でやれよ。
「○○と連絡をとって締め切り日を五月十八日にしてもらいました」と私はM氏に連絡した。
「あ、はぁ」とM氏。
 私はM氏の保護者か!
 彼は一人暮らしをしているらしく、自宅にはGoogleのアレクサ?なんか喋ったら部屋の照明を付けてくれたり、テレビの電源を付けてくれたり、音楽を流してくれたりするやつ、それを設置しているらしい。M氏がアレクサに向かって何をどんな風に話しかけているのかの動画があれば見てみたい。「えっ?えっ?えっ?えっ?」とかアレクサに話しかけているとは思えない。恐らく童貞。風俗店に行く勇気なんてない。自宅でエロ動画ばかり見ているのだろうと想像してしまう。「アレクサ、最新のエロ動画を見せて!」
 私のグループにはそういうタイプの人間が二人居る。その二人ともが四十四歳。*

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