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感情を味方につける力【EQ-こころの知能指数-】

人生は、知性によって生きるものには喜劇、感性によって生きるものには悲劇である。-  ホラス・ウォルホール

お久しぶりです!マインドフルネスストレス低減法講師のYusukeです。

昨年から続く世界的なパンデミックで、私たちの生活スタイルは一変してしまいました。おそらく多くの人が、外出を控えたり、リモートワークによって、家に留まる時間が極端に増えたことで、精神的な苦労を感じているのではないでしょうか。

私も一時期少し体調が優れなかったので、1人で外を散歩する機会を増やしました。日光を浴びて、体を動かし、新鮮な空気を吸うだけで体の調子が全然変わりました。自律神経を正常に維持することがどれほど大切か痛感しました。

また、慣れない環境の中で、毎日不安や恐怖、怒りといった様々な感情に振り回されているかもしれません。また、そういったネガティブな感情が、体の不調に繋がることや、家族や会社の同僚などの人間関係に悪影響を与えることを経験している方は多いかもしれません。

でも、どれだけ技術が発達しても、私たちは感情というものと付き合っていかなくてはいけません。

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「人間は感情の生き物である」

という言葉があります。これは、感情はどうにもできないもので、人間はそれに振り回されて生きる動物だ、という意味でしばしば使われます。確かに私たちの多くは、その瞬間の感情に流されて、配慮に欠けた言動や行動をしてしまうことがあります。

大阪のおっちゃんに言わせれば、「腹立つもんは腹立つんや!」です。

怒りや恐怖を瞬時に完璧に取り除くことはできません。しかし、それを上手にコントロールすることは可能です。そしてその能力は誰でも養うことができます。

「人間とは感情を統御しうる生き物である」

これは、日清、日露戦争で活躍した東郷平八郎、元内閣総理大臣の原敬、実業家の松下幸之助、稲盛和夫などが影響を受けた日本の実業家で思想家の中村天風の言葉です。

中村天風は、それこそが人間の本当の姿である、と述べています。

もしかすると、感情という原始的な衝動を制御する術を身につけることが、現代の人間がクリアするべき一つの人生目標なのかもしれません。

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そんな感情を統御する能力を表す指標として、エモーショナルインテリジェンス(以下、EQ)というものがあります。これは一般的な知能指数IQの感情版です。日本語では「こころの知能指数」なんて呼ばれたりします。ちょっと洒落てますよね〜。

最近では、社会生活を上手く送れる人は、総じてIQではなくEQが高い人だという研究が多く出ており、ますます感情を管理できる力の重要性が認知されてきています。

そこで今回は、こころの知能指数EQについて説明したいと思います。

まず結論として、先にこの記事のポイントを書いておきます。

・感情とは、生き残るための行動を起こす衝動
・脳には理性を司る部分と感情を司る部分があり、互いに調整し合っている
・緊急事態のときは、感情が脳をハイジャックし、理性が機能しなくなる
・感情を適切に制御することでハイジャックを防ぎ、理性の機能を維持できる
・EQとは、自分自身と他者の感情に気づき、それを理解する力。また、その気づきを使って自分の行動や人間関係を上手に管理する力。
・EQは4つのスキル(自己認識力、自己管理力、社会認識力、人間関係管理力)で成り立つ
・マインドフルネス瞑想がEQを向上させる

以上がこの記事の要点です。

ではまずは、EQの前に感情とはそもそも何か?というところから始めます。

感情とは行動を起こす衝動

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EQの概念を世界に広めた「EQこころの知能指数」の著者、ダニエル・ゴールマンは、感情について

“感情とはすべて本質的には行動を起こそうとする衝動であり、進化の過程で私たちの脳に刻みつけられた反射的な行動指針だ”

と説明しています。この定義にもあるように、感情はそれぞれに役割があり、体へ及ぼす影響も違います。

例えば、人は怒りを感じると、血液が両手に集まります。これは、武器を握ったり、相手に殴りかかったりするための準備です。怒った時に手に力が入り無意識に握り拳を作るのも同じ理由です。また、心拍数が上がり、アドレナリンなどのホルモンが一気に生成され、闘うか逃げるために必要なエネルギーを作ります。

恐怖を感じると、血液は両足などの大きな骨格筋に流れて逃げる準備をします。そのため、顔は血の気が引いて青白くなります。恐怖を感じた瞬間は、一瞬体が固まり、その間に逃げるべきか戦うべきか決断します。

愛情や優しい気持ちを感じると、副交感神経が覚醒します。すると、体は消化や休息機能が活発化するリラクゼーション反応を起こします。また、穏やかで満ち足りた状態は、他人への思いやりが強まり、他人とより上手く協調できるようになります。

こうした感情による行動の喚起は、有史時代よりはるか以前には有効でした。数百万年前は、人間は常に捕食の危険と隣り合わせで、また日照りや洪水などの厳しい自然環境に晒されていたからです。しかし、環境を克服した現代には、この感情反応の大半は時代遅れになってしまいました。


考える知性と感じる知性

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現在の私たちがホモ・サピエンス=「理性を持ったヒト」と呼ばれる通り、人間の脳には感情を司る部分の他に、理性を司る場所があります。ゴールマンは、この2つを「考える知性」と「感じる知性」と呼んでいます。

考える知性とは、一般的に知能指数を表すIQと言えます。事態を正確に把握し、合理的に熟考し、思慮分別をつけるのが「考える知性」です。一方、衝動的で、パワフルで、ときに非論理的な命令を出すのが「感じる知性」です。

この2つの知性は、普段は緻密な連携でうまくバランスを保ちながら働いています。「感じる知性」は、「考える知性」に情報をアウトプットし、「考える知性」は、「感じる知性」のアウトプットをよく検討し、ときには拒絶します。

しかし、強い感情が起こると、このバランスは崩れ、「感じる知性」が「考える知性」を凌駕してしまいます


なぜ脳は感情にハイジャックされるのか

感情が理性よりも強い理由は、脳の進化の過程を見ると分かります。

少し脳の話をしたいと思います。脳は進化の歴史から見ると、3つに分けることができます。

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1つが、脳幹と呼ばれる脳の最も古い部分です。脊髄の上端を取り巻く形をしています。首の根っこあたりです。脳幹は、呼吸や体温、代謝などの生存維持の基礎機能を調節する役割を担っています。

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その脳幹の上に、大脳辺縁系と呼ばれる感情機能を持つ部分が発達しました。大脳辺縁系には感情反応を担う扁桃体やそれに関わる行動の記憶を保持する海馬などがあります。ここがゴールマンの言う「感じる知性」にあたります。

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そして3つ目が、大脳新皮質と呼ばれる脳の最も新しい部分です。脳を想像するときに思い浮かべるシワシワの部分です。大脳新皮質は、言語能力や抽象概念の理解、想像、計画、感情の制御、自意識などを担っています。ここがゴールマンの言う「考える知性」です。

こうして進化の過程から分かるように、大脳新皮質が生まれるずっと前から大脳辺縁系は存在しています。そして、大脳新皮質の多くの部分は、辺縁系から派生したり、拡大する形で発達しています。なので、感情を司る脳は思考を司る脳を含む広い範囲に大きな影響力を持っています

簡単に言うと、日本の社会と同じく脳も年功序列で古参の方が強いのです。


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知覚した情報は、脳幹→大脳辺縁系→大脳新皮質の順に伝達されます。

通常の感情反応は、まず情報が大脳新皮質まで届き、そこで情報を分析、理解します。もし感情の反応が必要だと判断されると、前頭前野(大脳新皮質の一部)から扁桃体に「これは腹立たしい状況だ。怒るぞ」のようにメッセージを送り、感情の発生を指示します。

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しかし、大きな危険を認知した場合、扁桃体は新皮質の判断を待たずに、独自に緊急事態宣言を出します。なぜなら新皮質は分析して評価を下すまでに時間がかかるため、生死に関わる瞬間にその判断を待っていては、死んでしまう可能性があるからです。(まさに日本政府が決断を躊躇している間に、地方自治体が独自に発令するようなものです!)

そうして扁桃体は強い感情を発生させ、脳と体は緊急事態モードに入ります。こうなると、大脳新皮質の機能は低下し、感情をコントロール出来ず、理性的な判断ができなくなります。

これが感情のハイジャックの仕組みです。

まとめると、脳が感情にハイジャックされる原因は、扁桃体の暴走と、情動反応を普段コントロールしている大脳新皮質の機能不全です。

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賢くて普段は大人しいのに、小さな事で急に激昂し、怒鳴ったり、物を壊したり、手を出すといった行動をとる人はあなたの周りにはいないでしょうか。

衝動的に社会的に不適切な行動をしてしまい、社会的地位を失う人は少なからずいます。海外では成功しているプロのスポーツ選手がそういった暴力沙汰を起こすケースをよく見かけます。

どれだけ賢くても、どれだけ仕事ができても、どれだけスポーツで良い成績を収めていても、一瞬の感情ですべてを台無しにしてしまうことは誰にでもありうることです。

実際、タレントスマート社の調査によると、自分自身の心の動きをリアルタイムで正確にわかっている人は、わずか36%です。つまり、私たちの3分の2は、感情に支配されていて、心の動きを把握して自分の味方につけることが出来ていないのです。

人生を上手く生きるには、自分の心の動きを正しく認識し、感情を適切にコントロールする力がとてつもなく大切です。

ギリシャの哲学者ソクラテスも、自身の習慣・道徳・気質を自覚し、自分がどれだけ怒りを抑制できるかを把握することの重要性を説き、「汝自身を知れ」と言ったとされています。

ということは、2500年前から人間は全然変わってないのかもしれませんね。。。

EQとは?

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さて、ここからようやく本題のEQに移ります。

感情をコントロールする、というと、感情を抑え込むようにイメージされるかもしれません。しかし、先ほど説明した通り、私たちが感情を理性で抑え込むことはできません。ここでいうコントロールとは、その瞬間に生まれる感情を正しく認知し、適切な状態に制御することを意味します。

EQ2.0(トラヴィス・ブラッドペリー他著)では、EQを以下のように定義しています。

“EQとは、自分自身と他者の心の動きに気づき、それを理解する力。また、その気づきを使って自分の行動や人間関係を上手にマネジメントする力。”

EQの4要素

では、EQをもう少し噛み砕いて細かく見ていきましょう。

EQは4つのスキルから成り立っています。

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個人的なスキル「自己認識力」「自己管理力」とは、自分の心の動きを認識し続け、行動や傾向をコントロールする力です。

社会的なスキル「社会的認識力」「人間関係管理力」とは、他者の気持ちや行動や動機を理解して、人間関係を改善させる力です。

この4つのスキルは、自己認識力→自己管理力→社会的認識力→人間関係管理力の順で身につけることができると考えられています。

ではそれぞれのスキルについて簡単に説明します。

自己認識力とは

その瞬間の自分の心の動きを正しく把握し、さまざまな状況での自分の傾向を理解する力。また、自分が何に反応するかを、ありのまま直に理解する力です。

自己認識力が高い人は、会議で難題にぶつかりストレスを感じる状況などでも、自分の苛立ちに気づき、感情に流されず、自分を冷静に保ち、口調に気を配り、適切な会話ができます。

逆に自己認識力が低い人は、焦りやストレスが周囲に伝わり、コミュニケーションが円滑に進んでいないことに気づきません。また、言い訳がましくなったり、言葉や態度が攻撃的になってしまう傾向にあります。

自己管理力とは

自分の心の動きを知ることによって、柔軟性を保ち、行動を前向きな方向に変える力。また、一時的な欲求を脇に置き、より重要で大きな目標を追いかける力です。

自己管理力が高い人は、周囲の人が議論に熱中しているときでも、我慢強く、平静を保ちながらしっかりと人の意見に耳を傾け、理性(知識や知恵)を使って応答できます。

自己管理力が低い人は、感情に流され、悪気はなくとも人に失礼な対応をしてしまいがちです。また、物事がうまくいかないとき、ぶっきらぼうになったり、パニックになったり、あまり深く考えず拙速に行動してしまいます。

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社会的認識力とは

他者の感情を正確に読み取り、相手の心の中で何が起きているのかを理解する力。また、他人が考えていることうや感じていることが自分と違っていても、相手の立場に立てる能力を指します。

社会的認識力を構成する最も大事な要素は「聞くこと」と「観察すること」です。他人の意見にしっかりと耳を傾け、周囲で何が起きているかを観察することを指します。

別の言い方をすると、話すことをやめ、心の中にいつも浮かび上がってくる独り言をやめ、相手の結論を勝手に推測するのをやめ、次に何を言おうかと考えるのをやめることです。また、自分の考えや感情を排して、ありのままに他者を観察することと言えます。

社会的認識力が高い人は、状況に応じた対応ができ、ほとんど誰とでも人間関係を築くことができます。また、悪い知らせを伝えるときに、相手の感情に配慮するのが上手です。他者の気持ちを察して話し方を変え、納得させることができます。

逆に社会的認識力が低い人は、自分の考えに囚われて人の話を聞かない傾向にあります。そのため、その場の会話にきちんと参加できなかったり、周囲の人がどう感じ、何を考えているかを理解できず、会話の文脈や流れを読めません。

人間関係管理力とは

自分と他人の感情を理解し、その理解を利用して人との関わり合いを上手くマネジメントする力。また、時間をかけて他者と絆を築く力を指します。

人間関係管理力を身につけるには、これまでに説明した自己認識、自己管理、社会的認識の3つの能力が必要です。

人間関係管理力の高い人は、たとえ共通点がないように見える相手でも、相手の興味を上手に読み取ってそれについて訊ねたりすることで、前向きな関係を構築できます。今風に言えば、コミュ力が高い人ですね。

逆に、人間関係管理力が低い人は、「味方」でない人や信頼できないと思う人がいると、その人のことを悪く言う癖があります。また、そう言った人の考えや経験をあからさまに一蹴してしまいます。ネガティブな発言が多く、周囲の人をうんざりさせてしまいます。

以上がEQを構成する4つのスキルです。

では、一体何をすればEQは高まるのでしょうか。

マインドフルネスがどのようにしてEQを高めるのか

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EQ2.0の著者、トラヴィス・ブラッドペリーや、EQ(こころの知能指数)の著者、ダニエル・ゴールマンは、EQは後天的に鍛えられる能力であると主張しています。

EQを鍛えるのに最も効果的な方法の一つとして挙げられているのが、マインドフルネス瞑想です。(ドヤ顔)

というか、EQ=マインドフルネスじゃん!?と思うほど、EQとマインドフルネスは共通点が多いのです。

マインドフルネス瞑想をすることでEQが高まる要因は、マインドフルネス瞑想で養われるメタ認知力注意集中力体への感受力によります。

EQの4要素うち最も大切なのが自己認識力です。自分に何が起きているか認識できて初めて、自分の感情をコントロールすることができます。自分のことを認識し、コントロールして初めて、自分の外へと目を向け、他者の中で何が起こっているのか認知することができます。そして、他者の気持ちを理解することで、適切なコミュニケーションを図ることができます。

この自己認識力というのは、まさにマインドフルネスのコアです。

マインドフルネス瞑想で養われるメタ認知力体への感受力が向上すると、その瞬間に起こっている自分の思考や感情に瞬時に気づくことができるようになります。すると、感情のハイジャックを防ぎやすくなり、理性を維持した状態で、物事に対応できるようになります。

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また、自分の感情を明確に識別できるようになるので、他者の感情もより鋭く感じることができるようになります。なぜなら、人間は他者の感情を自分の中に再構築することで感じるからです。(通りで私はドラマを見てよく泣いちゃう訳だ。。。)

さらに、自分に何が起こっているのかを認識できると、反射的な衝動ではなく、意識的に次の行動を選択できるようになります。

また、マインドフルネス瞑想で養われる注意集中力は、雑念に振り回されず、目の前の自分に最も大切なことに集中する自己管理力につながります。

さらに、自分の内側への観察だけでなく、他者の表情や仕草、その場の雰囲気の変化にいち早く気づく鋭さをもたらします。すると、他者の考えていることや気持ちをより正確に読み取ることができるようになります。それにより、相手へのコミュニケーションの取り方を意識的に調節することができ、より効果的に人間関係を管理することができるようになります。


まとめ

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ということで、今回はこころの知能指数EQについて説明しました!

以下にもう一度まとめます。

・感情とは、生き残るための行動を起こす衝動
・脳には理性を司る部分と感情を司る部分があり、互いに調整し合っている
・緊急事態のときは、感情が脳をハイジャックし、理性が機能しなくなる
・感情を適切に制御することでハイジャックを防ぎ、理性の機能を維持できる
・EQとは、自分自身と他者の感情に気づき、それを理解する力。また、その気づきを使って自分の行動や人間関係を上手に管理する力。
・EQは4つのスキル(自己認識力、自己管理力、社会認識力、人間関係管理力)で成り立つ
・マインドフルネス瞑想がEQを向上させる


少しでもみなさん自身が自分をより深く理解するきっかけになれば幸いです。

EQを高めるには、マインドフルネス瞑想をしましょう!ということです。

まずは10分間のマインドフルネス瞑想を行ってみましょう。


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最後までお読みくださりありがとうございました!


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本記事の参考、引用元文献

「EQ2.0 心の知能指数を高める66のテクニック」 トラヴィス・ブラッドベリー他著

「EQ こころの知能指数」 ダニエル・ゴールマン

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