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友井川拓note 〜学びの接点〜 Vol.11 「ラグビーコーチとジョッキーの話。」

前回に引き続き”対談”での学びをシェアします。

Vol.11よりタイトル変更しています!!引き続きよろしくお願い致します。

今回はJRA(中央競馬)の現役騎手である野中悠太郎氏との対談が実現。

競馬は「みどりのマキバオー」くらいの知識しかない私ですが、ラグビー 以外のトップアスリートの思考に触れることで、本当に刺激を受けた貴重な時間になりました。

「一日半歩」

是非、お楽しみ下さい。


人物紹介

野中 悠太郎(のなか ゆうたろう)1996年生まれ
  中央競馬(JRA)美浦トレーニングセンターの騎手。福岡県北九州市出身。
【2015年】 騎手デビュー。福島1R(2歳未勝利)で自厩舎のキャラメルサレに騎乗して1着となり、初騎乗から90戦目で待望の初勝利を挙げた。
【2016年】 1年目に4勝だった勝利数は、2年目で二桁に乗せ11勝に。
【2017年】 13勝。同年6月にはフランスのシャンティイ競馬場で行われた若手騎手招待競走にJRA代表として参加し、14頭立ての2着となった。この経験を機に、海外での武者修行を決意。
【2018年】 アイルランドのジョニー・ムルタ厩舎に長期遠征を行うことになった。名門エイダン・オブライエン厩舎の調教に携わるなど貴重な経験を積む。
【2018年10月】アイルランドから帰国。日本での騎乗を再開する。


今回の対談はシャイニングアークス キャリアディレクター小沼氏の紹介により実現。小沼氏は野中騎手のメンタルトレーニングのサポートを実施。

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*右下:野中悠太郎氏 右上:小沼キャリアディレクター

なぜジョッキーだったのか?

友井川:この後の予定は大丈夫ですか?

野中 :この後、競馬場に行くのでこれから準備して向かう感じですね。

友井川:そんな状況の中ありがとうございます。
騎手の方とお話しするの初めてなんですけど、これから競馬場に行くって新鮮です。当たり前の話なんですけど。笑

野中 :今から車で行きます。笑

友井川:小沼さんとはどういう繋がりがあったんですか?

野中:4年前くらいに会ったのが最初ですね。

友井川:小沼さんに話をしようと思ったキッカケとかあるんですか?
騎手としての経歴は何年か経験してましたが、当時は20歳くらいでしたよね?

野中:普段からお世話になっている先輩が4年前くらいに大怪我をしたんですよね。そのリハビリの過程で先輩がメンタルのケアをしてもらってたという話を復帰してから聞いたのかな。
入院中も色々ネガティブなことを考えたりしていて、そのケアをしてもらっていたという話を聞いて、その翌年に海外に行くんですけど、自分の中で色々考える時期があって、ちょっとでも自分の為になることなら話を聞いてもらおうかなと。

友井川:それから4・5年の付き合いですもんね。

野中:そうですね。一時期は海外に行ってたことで1、2年くらい空白の期間はありましたが、また去年あたりからお話を聞いて勉強させてもらうようになりましたね。

友井川:アイルランドでしたっけ?

野中 :はい。7ヶ月ほど行ってました。

友井川:少し話が戻ってしまうんですけど、みんなそれぞれキャリアが違うので想いも違うと思うんですけど、そもそもジョッキーになられたキッカケとかってあったりするんですか?

野中 :実家が北九州市で、実家の近くに小倉競馬場があったんですよね。小学校4年生の時に父親に初めて連れて行ってもらったのが最初で、その時に初めて騎手っていう職業があることを知って、これいいなと。
で、自分で調べたら割と体格が小さくてもなれる職業なんだなって知って自分の中でしっくりきたんですよね。

当時野球をやっていたんですが、身長も小さかったですしこのまま続けて行っても先はないだろうなと思ってたんで、プロのスポーツ選手になれる可能性があるなら挑戦してみようかなと思ったんですよね。

友井川:運命ですよね。その出会いが職業になるって。

野中 :そうですね。身近に競馬があったっていう環境が良かったですよね。

友井川:小学校4年生でその職業の存在を知って、そこから本格的にその道を目指し始めたのってどのくらいの時期からだったんですか?

野中 :実は小学校4年生の文集で将来騎手になりますって書いてたんですよね。

友井川:それは凄い。

野中 :実は覚えてなくて、デビューして実家に帰った時に同級生がそういえば文集に書いてたよなって。
それで、あぁそんな時から言ってたんだなって。
ただ、ずっと続けてきた野球は最後までやろうと決めていて、中学生から乗馬を始めようって、実際に中学生から乗馬を始めましたね。

友井川:ドラマですよね。

野中 :振り返るといろんなところで繋がってたんだなって思いますよね。
あと、小学校5年生の時の担任の先生が変わっていて教室に山ほど漫画が置いてあって、その中に1つだけ競馬の漫画があったんですよね。「優駿の門」という。クラスで唯一僕だけがその本をずっと読んでましたね。
そういう漫画もちょうど自分がなりたいタイミングで手元にあって余計にジョッキーになりたいと思ったんじゃないかと。

友井川:すごいですね。もちろん人それぞれキャリアは違いますが、僕も身長は低いんですけどジョッキーの選択肢があったわけじゃないからそういう風に考えるとすごく面白いですよね。小学生の時に既に思っていることを実現するって素晴らしいです。

先進国で感じた違い

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友井川:デビューの時の心境はどうだったんですか?

野中 :とにかくレースで乗るのが楽しみで仕方なかったですね。
正直、小学生の頃から夢だった職業につけるってことに実感も沸かなかったですしね。

友井川:アイルランドに行かれたって話ですけど、その前にも海外に行かれてたんですよね?

野中 :そうですね。1週間フランスで世界中の若いジョッキーを集めたレースをロンジン(時計メーカー)が主催して、そこに日本から僕が行かせてもらって、実際にレースに乗ったり調教したりして過ごしたんですけど競馬の世界がこんなにも違うのかというカルチャーショックを受けて、もっと勉強したいなと思ったのがキッカケで改めて長期で海外に行き学ぼうかなと思いました。

友井川:それは即決だったんですか?

野中 :ほぼ即決でしたね。

友井川:アイルランドは競馬の先進国なんですか?

野中 :イギリス発祥っていうのもありますし、競走馬の生産国という意味では世界でトップクラスですね。

友井川:どこが一番違ったんですか?

野中 :日本だと馬って特別な存在なんですよね。競馬場とか乗馬クラブに行かなきゃ会えないような。
ヨーロッパは馬と過ごすのが日常なんですよ。馬との距離感が日本と全く違いましたね。そこに衝撃を受けましたね。

友井川:日常にあるってやはり違いを産みますよね。ラグビーも同じで、先進国って広場でラグビーをやっていたり学校でやったり、小さな頃から親しんでいることが多いですよね。近くにモデルケースがいることってどんなスポーツでも発展するには必要なんでしょうね。

野中 :特別じゃないってことはすごく大事なことかも知れませんね。自転車に乗るような感覚で馬に乗っているので。距離感は大事だなった率直に感じました。南米の人がストリートサッカーやっているイメージですよね。

ジョッキーの門

友井川:でもジョッキーになるって相当な狭き門ですよね。

野中 :そもそも競馬学校に入るのが難しいですね。

友井川:そういう意味では若いうちに色んなものを犠牲にしますよね?

野中 :でも競馬の場合、競馬学校に入れなかったらジョッキーになれないんで中学校の時点で入れなかったら諦めざるをえないんですよね。ある意味早い時期に見切りを付けられるって意味では他のスポーツより良いのかもしれないです。
野球とかサッカーだと高校卒業でプロになれなかったとしても引っ張ることも可能ですよね。
結局プロになれなかった時にそれしかしてこなかったって状況になると、それから何かを始めようとしてもハードルが高いですよね。
だから早めに騎手っていう職業に気がついたもん勝ちっていう考え方もあるかもしれないですね。

友井川:その発想はなかったなぁ。ギャンブル的な感覚はありますよね。

野中 :ドラフトかかって3年で戦力外とかザラにありますよね。

友井川:ラグビーって会社に属して仕事もさせてもらっている選手も多いので他のスポーツに比べると多くはないと思いますが、引退後のキャリアってどのスポーツも問題視されていますよね。だからこそ、そのスポーツだけってなってる選手は正直心配してしまう部分は色んなスポーツで共通する部分ですよね。

学びと競馬ならではのこと

友井川:少し話変えさせてもらって、このNoteのコンセプトの話になるんですが。
先ほどの話にも通づる部分も多いんですが、”サッカーしか知らない者は、サッカーすらも知り得なくなる”って言葉を僕自身大事にしていて、どんなスポーツでもその分野しか知らないと競技力としての成長も難しいと感じています。
他のスポーツだったりビジネスだったり組織作りだったりリーダーシップだったり様々なことから学びながら色んな知見を得て競技生活をしていくほうがより成長出来るんじゃないかなという想いもあってこのNoteを書き始めたんですよね。
野中さん自身が競馬以外に積極的に学んでいるようなことがあったら教えて下さい。

野中 :他のスポーツ選手と意見交換したりはもちろんしますが、競馬学校時代も自己啓発本など多く読むこともありましたね。
もともと本を読むのは好きだったってこともあって。あとは他のスポーツを見てどういう考えで臨んでいるのかなど興味はあるので積極的に自分から学ぶようにはしていますね。

競馬業界ってすごく狭いので馬主さんとかにご飯誘ってもらう機会がある時は積極的に行くようにしています。

友井川:馬主さんになるような方って経営者や企業を築いたりって方も多いでしょうしね。

野中 :そうですね。色んな考え方に触れることが出来るのでとても勉強になりますね。身近にそういう方がいるっていうのはある意味幸せな環境ですね。

友井川:1日に何試合も乗ることあるんですよね?

野中 :もちろん、人によって全然変わりますが僕の場合は週に10前後ですね。

友井川:週に10前後レースがあって勝つ時もあれば負ける時もありますよね。振り返ることや気持ちを切り替えなければいけないサイクルが圧倒的に他のスポーツより多いじゃないですか?その際に工夫されていることってあるんですか?

野中 :もちろんああすれば良かったって悔やむ事は時にありますが、でももう次の馬が自分の目の前に来てしまうので次のレースの事だけを考えるようにしています。
その中で馬場状態とか次のレースに必要な情報だけは整理して残りは週の全てのレースが終わった後にゆっくり振り返るようにしていますね。落ち込んだりするのは日曜の夜でいいかなみたいな感じです。

友井川:でもそれって言うの簡単だと思うんですけど、すごい難しいですよね。ラグビーだと通常は次の試合が1週間後にやってくるので、人によると思いますが、実際私自身は試合の翌日までには切り替えようってスピードなんですよね。
試合の当日は勝っても負けてもその試合に支配されてしまうことが個人的には多いですね。
僕らも気にせず次の試合に向けて進もうって言葉では言っても体現するのって簡単な事じゃないですよね。
もちろん経験や思考の整理の仕方を工夫したりで上手く処理出来るようにはなりますが、そういう部分で工夫してたりしますか?

野中 :100%は無理だとしても、それをいかに少なくするかっていう挑戦ですよね。逆に他のスポーツの方が時間がある分、切り替えるのは難しいんじゃないかと思いますけどね。
だからどのようにして切り替えてモチベートしていくのかって知りたいですね。
そういう意味では忙しくするのはいい事なのかも知れませんね。

友井川:だからこそ色んなスポーツの方の知見を得るのって本当に大切なんだって実感しますよ。

馬の気持ち

友井川:人の気持ちも正直わからないのに、馬の気持ちわかるって単純にすごいと思うんですけど。笑

野中 :あ〜でも、わかんないですよ。
もちろん雰囲気や状態の良い悪い、走る気があるないとか感じ取れますよ。
ただ本当に根本理解しきれてるかって難しくて、馬の気持ちを100%人間が理解するのって無理だと思うんで悩むところであり面白いところだなと思いますよ。

友井川:馬との相性はありますよね?

野中 :ありますね。どんな馬でも乗りこなせるのが理想ですけど、ある意味合う合わないも個性なんでそれはそれで大切なことかなと思います。

友井川:そもそも人間でさえ100%分かりあうのは無理だと思っているので。笑

野中 :難しいですよね。体調良いなと思ってたら、ちょっとした気に入らないことで走ってくれなくなることなんてありますしね。頭が良すぎるがゆえに走るって行為が辛くてやめてしまう馬も実際にはいますしね。ある意味、夢中になってガムシャラに走ってくれる馬の方が扱いやすい面はあります。笑

野中悠太郎とは

友井川:子供のことから大事にしている想いとか言葉とかってありますか?
僕はさっきもお話しさせてもらったんですが「サッカーしか知らない者は、サッカーすらも知り得なくなる」って言葉を大事にしていて、自分の分野だけに留まらず色んな分野から学びを得たいという想いがあります。

野中 :小さい頃から現在までを振り返るとめっちゃ普通だったんですよ、ずっと。
5段階評価でオール3の体育4で、学年で260人くらいいてテストの結果130番みたいな。笑
小学校の野球も7、8番でセカンド出て下手ではないけどスペシャルではないような人生を生まれてからすっと過ごしてきたんですよね。
自分が才能のある人間だとは1ミリも思わないんですよね。ジョッキーやっていてすごいですねって言われることもあります。でも僕めちゃくちゃ普通の人です。と常に思ってます。
たまたまジョッキーという職業に出会えただけで本当に平凡な人間です。
この先も歩む人生は同じようなものだと仮定して、じゃどう人生をより良くしていくかを考えますね。
自分の出来ることをコツコツやっていこうというのが僕の目標です。

友井川:本当に24年しか生きてないですか?笑
スポーツでもビジネスでもどうメタ認知を高めるかって鍵だと思っていて、自分の強み・弱み、立ち位置を認識する能力って大事だけどなかなか出来ることじゃない。
自分の弱さを認めるってトップアスリートでもなかなか出来ない。1割もいないと思っています。
自己分析してメタ認知が高い選手が最終的な結果はわからないですけど成長するって観点では伸び代が大きいと確信しています。野中さんの話を聞いていてコツコツやっていくって思えることはすごいことだと思いますね。

野中 :僕なりの格言はこれかなって考えると「一日半歩」かなと。一日一歩でなく昨日より1ミリでも前に進んでいれば良しとしようと。それを積み重ねて何年か経って振り返った時にこんなに進んでたんだって思える人生が僕にとってバランスがいいなと思っています。

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暇な時に調べたんですけど、野球選手が144試合で9番バッターが全試合出場すると1年間で回ってくる打席が508打席くらいなんですよね。
それを仮に2割5分で15年間続けた場合。高校卒業して15年、もちろん高校卒業してすぐ試合に出続けるのは簡単なことじゃないですけど。
33歳で1905本くらいのヒットが打てる計算なんですよね。
地味な選手かもしれないけど、コツコツ積み重ねていった結果、もう少しで2000本を達成して名球会入りますくらいのレベルになれるんだと。で僕もこうなりたいと。
超一流でGⅠでバンバン勝つっていうのは、才能ある後輩に任せればいいと。笑
そのかわり自分に出来ることを積み重ねたいなと。

友井川:4割打っても2年しか出れなかったら1000もいかないですもんね。もちろんそれはそれで凄いですけど。
考え方自体も素晴らしいですけど、それを野中さんの言葉できちんと言語化出来ているのがいいなと。
思っていても言葉に出来ていないと体現するのは難しいと思います
ので。聞いてて引き込まれますし、勉強になります。

野中 :自分の立ち位置を理解するって、どの業界にいても大事なのかなと。

友井川:暇な時に調べ物ってするってこともいいですよね。

野中 :ある意味、今の時代調べようと思えば何でも調べられるじゃないですか?

友井川:もちろん、難しい本を読むのもいいですけど、自分の興味ある事を調べる・情報を得るとかしてそれを自分に置き換えて考える・思考をめぐらすってことがいいですよね。
それが自分の本業にも繋がりますし、違うアイデアにも広がりますし成長ってことでは絶対に大事ですよね。

挑戦したいこと

友井川:将来的に挑戦したいことはありますか?

野中 :最初にジョッキーを目指したのはカッコいいなと思ったことだったんですけど、今は馬に乗ることが本当に楽しいです。
それがジョッキーという仕事を続けるモチベーション、レースで乗るモチベーションになっている。

この先自分に何が出来るのかなと考えると、ジョッキーっていう存在を早い段階で知ってもらうって活動をやっていきたいなと。

友井川:競馬の世界の間口を広げるって意味では本当に楽しみにしています。
ただ野中さんみたいな人材は競馬界に留まらずに色んな業界に影響を与えて欲しいなと思ってます。
今回は本当に勉強になりました。
自分の分野以外の方から学ぶことが大事だとこの対談を通じて再認識しました。
すごく楽しかったです。

野中 :僕自身も自分の考えを人に話すことってなかなか無いので、ちゃんと言語化することで頭も整理されて良かったです。
こういう機会をいただけて凄い良かったです。ありがとうございました。

友井川:是非、競馬場に誘って下さい。笑

野中 :もちろんです。

対談を終えて

まず、メタ認知の能力が凄く高いなと素直に感心しました。
次々に来るレースに上手く対応する術は、他のスポーツも見習うべき点が多くあると思います。言語化する能力はどのスポーツでもビジネスでも成長する上では必須ですね。
お話をしていて、どんなものも違う視点で捉え・咀嚼し自分に置き換えて前向きに考える姿勢は本当に見習うべき点が多いなと勉強になりました。
改めて自分とは異なる世界の人に話を聞く機会が大事だと認識しました。

少し別の観点で。
人生の選択肢を増やすという意味では色んなものを体験することが大事だなと実感しました。私は幼少期にたまたま身近にラグビーボールに触れる環境があったのでラグビーという競技が人生の選択肢にありました。競馬が身近にあればそういう人生を選択した可能性もあったのかなと考える感慨深いです。

歳は取りましたが、色んなものに触れる機会を自ら作っていこうと思います。

最後までお付き合い頂きありがとうございました。

対談後、レースの様子を独りで観ながら勝手にドキドキしていました。笑
野中選手を引き続き応援下さいませ。

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