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コンサルタントの「問題解決」ノート術 #2:書き(描き)出すことは想像以上にパワフル

書くことでそんなに効果があるの?
いまでも議事録やプレゼン資料は書いているのに、どこが違うの?

きっと頭の上にたくさんのクエスチョンマークが浮かんでいることでしょう。「書き(描き)出す」ことは、実は想像以上のパワーを持っているのです。

まだ#1を読まれていない方は、こちらもどうぞ。

記憶の錯覚を避ける

書くことを難しく言い換えれば、人間の認知行動のひとつであり、思考の外在化の手段だと言えます。

書くことは、アウトプットとして一方的な作業と思われがちですが、実際には書くことはインタラクティブな性質を持っています。はっきりと自覚していない思考や心の動きをわかりやすい言葉で表現する作業であるとともに、その作業を通して自分自身をよく知るための行為でもあります。

普段意識はしないものの、書くときには自分の内面と対話し、内面を言葉にするために感性を働かせ、書こうとする対象を詳細に観察し、新しい知識を獲得し、自分と自分を取り巻く世界を一層深く理解する過程でもあります。
書き出すことをしなければ、「知った」だけであったものがいつのまにか自分の中では「理解した」に変換されてしまい、それ以降確認する機会を失います。

では、必要に迫られていざ書き出そうとすると、何が起こるでしょうか?
わかっているつもりになっているだけなので、書き出したり、人に説明することが出来ないのです。

この時に「書く」という行為は、別に本を書けとか論文を書けとか、そういう立派なものである必要はありません。また、じっくり時間をとって、後になって書いてまとめなければいけないというわけでもないのです。メモやラクガキでも十分、事後では無くライブで書くのでもオーケーです。

ポイントは、自分の言葉(絵)で書くということだけです。自分というフィルターを通っていることが大事なのです。
「フラッシュバルブ記憶」の話しをしましたが、書くことで記憶の錯覚、つまりわかっているつもりになることを解消できます。
これが、ひとつ目のパワーです。

ロジックに強くなる

次に、認知心理学の視点から、書くことのパワーを考えてみましょう。

「マジックナンバー」というのを聞いたことがある読者も多いでしょう。野球の「マジック」ではありません。人間の記憶には、長期記憶と短期記憶があり、短期記憶の能力は7±2チャンクであるというものです。これは、アメリカの認知心理学者ジョージ・ミラーが1956年に発表した論文で提唱されたもので、チャンクというのは言語上のある種の固まりを意味している単位です。

最近の研究によると、もっと小さな数しか脳は処理できなくて、4±2チャンクがマジックナンバーであるとも言われています。ネイティブアメリカンは、数を数えるときに「1、2、3、たくさん」と数えていると聞いたことがありますが、どうやらそっちの方が正しそうですね。

認知心理学では、人間の脳の情報処理の仕組みを、短期記憶と長期記憶の二つの貯蔵庫としてモデル化しています。得られた情報は、まず短期記憶貯蔵庫に一時的に保管され、必要に応じて長期記憶貯蔵庫から記憶を引き出し、関連性をチェックしています。長期記憶貯蔵庫に記憶を格納するには、短期記憶に入った情報を何度も繰り返し出し入れする、あるいは何かしらの衝撃(物理的、精神的な)が必要となります。

何かを書く時には、この短期記憶貯蔵庫の中で、情報や思考を具体化する言葉を選び、表現としてまとめ、推敲するということを同時に行っています。

ところが、短期記憶貯蔵庫の能力は思ったよりも小さいため、すぐにこの処理は手一杯になってしまいます。情報や思考を具体化する作業を一生懸命頭の中で行っていると、推敲つまり文と文の論理関係のチェックまで手が回らず、アウトプットはとても拙い表現になってしまうのです。

会議中に、空中戦が白熱してくると、「だから、あれがこうなったって言ってるだろう!」なんてセリフが出始めるのは、短期記憶貯蔵庫のキャパシティを越えてしまった瞬間だと思っていいでしょう。
延々と議論していると、段々とロジカルでなくなっていくのも同じことです。脳は、情報を早くアウトプットして短期記憶貯蔵庫の負荷を下げるよう作用するので、こういうことが起こるんですね。

こうならないようにするためには、うまく負荷を下げる必要があります。

そうです!書き出すのです! 

そうすれば一時的に負荷が減り、書き出したものの論理関係のチェックに短期記憶貯蔵庫の能力を割り当てることが出来るというわけです。
脳力をフルに活用するためには、表現することとロジカルに考えることを作業として分けるのが有効です。

書き出してしまえば、ロジックに強くなるというのが、二つ目のパワーです。

これまでお話しした書くことの二つのパワーは、記憶の錯覚に陥らないようにすることと、物事の関係性を吟味するロジックに強くなること、つまり、個人の認識力を高めるものでした。

次にあげる三つ目と四つ目のパワーは、チームのパフォーマンスを高めることです。

共通認識を持つ

コンサルタントの「問題解決」ノート術 #1の中で、「需要予測が”当たる”」の話しをしました。用語の定義がされていないために、解釈がばらばらで議論にならないことは意外に多いものです。

上司「佐藤くん、この仕事、急ぎではないけどなるべく早くお願いするよ」
佐藤「わかりました。なるべく早く仕上げます」

翌日

上司「佐藤くん、あの資料、出来たかな?」
佐藤「なるべく早くと思って、今日手をつけようとしていたので、まだ出来ていません…」
上司「明日の会議で使う必要があるから、なるべく早く欲しかったのに…」

ちょっと大袈裟かもしれないですが、”なるべく早く”という語句に対して、二人が異なる時間軸で認識していたことでミスコミュニケーションが起こってしまいました。

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コミュニケーションという言葉は、その語源はラテン語で、こんな意味を持っています。

communication
=communis(共通の)+munitare(通行可能にする)

つまり、「共通のものをやりとりする」というそもそもの意味を持っています。認識や定義が異なっている語句をやりとりしても、それはcommunicationとは言えないのです。

日常生活で起こるミスコミュニケーションは、あとになってからちょっとした喧嘩に発展してみたり、白熱した飲み屋の議論だったり、その程度で事は済みます。「なんだ、そういう事だったのね」と簡単に解決できます。

ところが、仕事においてのミスコミュニケーションは、成果が出ないだけでなく、時には致命的なダメージにまで膨れあがる危険性もあります。仕事で海外のメンバーとテレコン(電話会議)をいくら繰り返しても、なかなか業務が進まないというのは、こんなことも影響しています。

十分気をつければ会話の中でも認識違いを避けることはできますが、書き出すことによって曖昧さを排除し、比較的容易にお互いの認識違いを見つけることができます。
これが、書き出すことの三つ目のパワーです。

人格と意見を分離する

たとえば、投資審議会のように決裁を仰ぐ場なら、必ず議事録が書かれるはずです。ここまで読んできた方は、「議事録も書き出すことのパワーを持っているのか!」と思われるかもしれませんが、ちょっと違います。
議事録を読むと、こんな書き方をよく見かけます。

佐々木係長:次期基幹システム増強開発について説明
伊藤統括部長:「投資回収の期間が長すぎるのではないか。外注先の見積の妥当性をもう一度見直して予算削減を図るべきである。」
竹下事業部長:「要求定義にこれまでの議論が一部反映されていないのではないか。事業部の担当者と再確認をして、漏れの無いように願いたい。」
村上課長:「事業部からの要請は十分聞いているが、現時点では必要機能が曖昧な部分があり時間がかかると聞いている。追加機能として別立てで検討することにして、まずはスタートして納期優先に進めさせて欲しい」

結論:再審議。外注先候補数社に相見積もりを取って予算削減案を次回提示。

気づいたでしょうか?

議論された内容よりも、誰が発言したかが結論に色濃く反映されている場合が多いのです。投資審議のような場は特別かもしれませんが、通常の会議でも”誰が言ったか”で内容の妥当性を判断しがちです。本当により良いプランを見出そうとするならば、役職や立場や経験や性別や国籍を超えて、意見の中味だけを議論すべきだということには誰でも頷けるでしょう。

具体的には、フリップチャートやホワイトボードに書いたり、ひとつひとつの意見をポストイットに書いたりすることで、個人攻撃にならず、純粋に出された意見について参加者全員が議論できるのです。

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いつも通りの会議なら、ある議題に対して2人が議論する場合、自然とその2人は相手と対峙するような姿勢になります。激論になると、相手と2人しかいないかのような雰囲気になり、段々と人格にまで踏み込む口論になりかねません。

意見を書き出してしまえば、たとえ書き出したフリップチャートやポストイットを指さしながら行ったとしても、その意見についての反論は意見の中味についての指摘となります。

四つ目のパワーは、意見と人格を切り離すことが出来ることです。

まとめ

書くことは、2つの個人のパワーと2つのチームのパワーを高める効果があります。

2つの個人のパワーとは、
 「記憶の錯覚を避ける」
 「ロジックに強くなる」

2つのチームのパワーとは、
 「共通認識を持つ」
 「人格と意見を分離する」

こんなパワーがあるなら、すぐに書いてみたくなりますよね。

とはいえ、「書くことがいいのはわかったけど、仕事でヘタな事はやっぱり書けないな…」という慎重な人もきっといるでしょう。ラクガキからでもまずは書くことが大事です。
でも、ちゃんと書こうとするなら、それなりのお作法が必要なのも事実です。

そこで、ロジカルな書き方を#3で説明していきます。


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