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世界で一番レコード店の多い街は渋谷ではない件:The fact that Shibuya is not the city with the most record stores in the world

世界で一番レコード店の多い街は渋谷ではない件


「世界で一番レコード屋の多い街は渋谷」とよく言われてきた。「ギネスブックにも載った」とも言われてきた。しかし、そのギネスブックの記事をいまだに見たことがない。私の検索方法が悪いのかもしれないが、あれば見てみたいものである。

そこで実際に1991年から2023年まで「レコード+CDマップ」で国内のレコード店密集地域の店舗数で調べてみた。(1990年、2006年無し、2014年以降隔年)
すると、2000年、2001年の新宿エリア(西口、東口、南口)が都内では74軒と一番多かった。渋谷エリア(宇田川町、神南、桜ヶ丘、渋谷など)は都内では66軒で2位だった。もちろん当時「そういうの嫌いだから」と掲載を拒否されたお店もあったと思うが、データに基づいた数値から見ると新宿に軍配があがった。
別に「渋谷 対 新宿」みたいな対立を煽るという意味ではまったくなくて(笑)事実を羅列するとこうなったということである。

レコード+CDマップ23-24

ではどこが世界で1番レコード店が多いエリアだったのか?

数字は嘘をつかない。レコード店が日本で一番多いエリアは大阪のミナミ(心斎橋+難波+日本橋)エリアが2003年、2004年で93店舗あった。レコードマップには「ミナミ」の名称で区分けされていないし、大阪の方からすると心斎橋+難波+日本橋が同一エリアというのは違和感があるかもしれないが、「ミナミ」というエリア名とギリ歩ける範囲内という観点で考えるとこのエリアが日本一、いや世界一だったと思う。当時の大阪には何度か行ったことがあるが、肌感としてもレコード店は相当多かった記憶がある。当時の大阪の強者の中古盤店もかなりアメリカに買い付けに行かれていて、現地アメリカの中古盤屋の店内で何人にも遭遇したりした。先回りされて「もう何もねぇな」と落胆したり、先回りして安堵したりしたものだ(笑)
なお、最新のレコードマップ2023-24年度版でも、心斎橋+難波が32店で1位である。渋谷16店、新宿30店となっている。

世界の都市対抗では東京が店舗数1位だった

discogsの過去記事を翻訳してキャプチャしたもの

こちらも少し古い情報だが2017年のdiscogsの情報で日本は国別では8位の158店舗となっているが、そのうちの93店舗が東京に集まっており、新宿、渋谷、御茶ノ水、下北沢など都内の合計店舗数で都市別では世界一位になっていた。


渋谷は輸入盤を世界一売った街

ただし、渋谷は「新譜の輸入盤」の販売量は過去60年では歴代累計で世界1位ではないだろうか。1960年代からヤマハ渋谷店、70年代からシスコレコード、ディスクポート、パイド・パイパー・ハウス、80年代からタワーレコード、WAVE、芽瑠璃堂、90年代からマンハッタンレコード、DMR、ギネスレコードなどの輸入盤を取り扱っていた有名店が長期間にわたり存在し、各店舗の目利きバイヤーが良質の音楽を仕入れていたのだ。

では輸入中古盤はどうだったか・・・アメリカの大手ディストリビューターが取り扱わなかったようなアーティストや、自主盤的なもの、ある地域限定で流通されていたような知名度の低いレコードを目利きできるバイヤーが中古盤として買い付けしてきた。それがマンハッタンレコード創業者の平川氏だった。マンハッタンレコード開業時には「日本で見たことのない珍しいレコードが山程あった」そうでコレクターや有名ミュージシャンも挙って訪れたそうだ。

90年代のレコードの埋蔵量は日本が世界一、その理由は渋谷だった

私が開業した1994年当時、市中のレコード店はほぼCD屋に切り替わり(先輩に斜陽産業と言われた(笑))世界的にはレコードを店頭で売らなくなっていた。しかし渋谷では輸入盤のレコード全盛期だった。店頭では「オルタナティブ・ロック」「ヒップホップ」「R&B」「HOUSE」など当時流行していた音楽のレコードが大量に渋谷の輸入盤店で販売されていたので、このジャンルのレコードは世界で一番東京に埋蔵されていると思う。その時代に海外に買い付けに行っていた人ならわかるが、その頃新譜のレコードをレコード店で積極的に売っている都市は他にはなかった。少なくともロンドン市内やロスアンゼルスの大型店ではCDに完全に切り替わっていた記憶がある。
そんな買い付けの記憶も薄れ始めた2014年頃、今から10年くらい前にオルタナの某アルバムをebayに誤って出したら異様に高騰して、最初は意味がわからなかった。それで原因を冷静に考えてみると、高騰していたオルタナの某アルバムは、渋谷のどこの大型店でも山積みになっていた事に気づいた。そう、当時はもう世界の街中のレコード屋ではレコードは買えなかったのだ。あんなに売れたレコードなのに日本以外ではあまり流通していなかったのではないだろうか。そしてそのオルタナの某アルバムが2010年代以降に再評価され世界的な価値が上がって高騰したのである。

各年代のレコードコレクターとDJの渋谷の関係

現在60歳前後の先輩のDJと話していて「80年代後半から90年代前半は渋谷は新譜、中古は新宿西口」で買っていたという方が多かった。
渋谷は毎週空輸されていた新譜を買いに「友達のいる◯◯へ」、中古は「新宿西口の小滝橋通りの◯◯へ」という感じだった。私も20代前半の頃はそういう感覚だった気がする。世界から毎週到着される新譜レコードとの出会いを求めて渋谷に来ていた。皆そのようにお話ししてくれた。様々なジャンルを求めて輸入盤の新譜を買いに来ていた。1995年には1米ドル=80円とかなり円高が進み、新譜のレコードも安くなって買いやすくなり始めていた頃でもある。

Records always come with good memories attached

その上の世代の方とも渋谷の昔の「レコ屋噺」をたくさんお聞きした。道玄坂のヤマハに通った方のお話しも非常に貴重だった。ヤマハに通っていた方からは必ずBYGのお話しも一緒にされていたのが興味深かった。宇田川町時代のタワーレコードのオープンニングスタッフだった方のお話しは非常に興味深いお話しだった。また別の先輩からは今は無き緑屋で月賦で(?)ドクタージョンの帯付きの日本盤のレコードを買った話しなど、正しい思い出から美化された間違った思い出まで様々あると思うが(笑)、沢山当時のレコードにまつわるお話しをお聞きしてきたが、皆さん総じて目をキラキラさせてお話し頂けた。音楽の話やレコード買った時の思い出話はみんな楽しいのである。
レコードにはもれなく思い出が付いてくるのだ。

渋谷は世界からレコードを買いに来る街に

少し古いが2018 年 2 月 3 日放送のテレビ番組のテレビ朝日『世界が驚いたニッポン!スゴイデスネ!視察団』の中で、「この街にコレを買いに来た!」という企画で外国人観光客240名から出口調査を行い「渋谷には中古レコードを買いに来た」という結果が放送されていた。当時の頃を思い出してみると2015年頃から徐々に外国人観光客が増え始めコロナ前の2018年にはかなり増えていた記憶があり、アンケート内容は概ね合っていたと思う。弊社にテレビ番組でレコードに関する取材が増え出したのもこの頃である。


世界で最も訪れてみたいレコードショップに選出!

僭越ながら、こちらも少し前だが、弊社渋谷店が2018年6月に「世界で最も訪れてみたいレコードショップ TOP 10」の第9位に選出(レコードストアデータベースサイトのVinylHub調べ)された。この記事のあとから外人観光客が激増した印象がある(discogsの過去記事を翻訳してキャプチャしたもの)


discogsの過去記事を翻訳してキャプチャしたもの

これからの渋谷のレコード店は

渋谷は戦後、「海外の新しいレコードカルチャーを提供する街」だった。諸先輩方々もレコードを求めて彷徨い、現在は世界各国のレコードファンがレコードを求めて渋谷を彷徨っている。皆「ワクワクするレコード」を求めて彷徨う街なのだ。今後もそうして行かなければならないし、海外から来るお客さんもレコード屋で十分に楽しんで帰って欲しい。そうすることが「渋谷のいちレコード屋」としての役目だと思っている。そして過去60年に渡り、諸先輩方々が魅力的なレコ屋街を形成してくれた歴史を繋いでいかなければならない。


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