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一人のオリックスファンから見たアダム・ジョーンズという選手

プロ野球も2022年シーズンが終わり、オリックス・バファローズが26年ぶりに日本一を決めました。
オリックスファンとしては非常に嬉しい限りですし、自分としては大阪近鉄バファローズから応援していたので、「バファローズ」というチームが史上初の日本一になったということだけでも、とても感慨深いです。

そんなリーグ優勝と日本一を果たしたオリックス・バファローズにとって、欠かすことのできない存在がいます。
それが、元メジャーリーガーで2020年から2021年の2シーズンオリックスに在籍した、アダム・ジョーンズです。
もうだいぶ前のことですが、アダム・ジョーンズ選手についての記事が出ました。

この記事を見たときに、現役選手としてのキャリアを終えて第二の人生を歩んでいくのかなと思いましたが、日本でのキャリアを通して感じたこと、学んだことがありのままに綴られているように読み取れました。

オリックスファンからすると、ジョーンズ選手について良い印象を感じている方が多いのではないでしょうか。自分もその一人ですが、改めて一人のオリックスファンから見たアダム・ジョーンズという選手を綴っていこうと思います。

1.メジャー通算282発の大物が来た

2019年12月にオリックスがアダム・ジョーンズ選手の獲得を発表。その後、2020年1月26日には関西空港で入団会見が行われました。

このときの僕の心境としては、「これはオリックスの救世主になるんじゃないか」と思いました。
何故なら、メジャー通算で1823試合に出場し1939安打、282本塁打を記録している圧倒的な実績を誇っているところはもちろんですが、当時のチーム状況を考えた時に、長打を期待できる打者が吉田正尚選手やTー岡田選手と、いずれも左打者だったことから、打線に厚みが出るんじゃないかと期待していました。

また、その時には、ジョーンズの他にもアデルリン・ロドリゲス(2022年途中阪神に所属)も獲得していたので、彼も含めることで打線の厚みが出て、オリックスのウィークポイントだった長打力の改善に期待できるのではないかと感じました。

キャンプ中盤にはこんなポスターも。オープン戦告知ポスターを見てもわかるように、バリバリのメジャーリーガーだったジョーンズに対する期待の大きさがわかるかと思います。

キャンプも順調に過ぎていき、いよいよ開幕といった時に大きなニュースが飛んできました。
それは、新型コロナウイルスの流行によりプロ野球の開幕が延期したことでした。これにより、3月下旬の開幕は6月19日になり、各球団の選手も調整せざるを得ない状況となりました。

そして迎えた開幕…

2.2020年シーズン

2020年開幕戦、ジョーンズは4番・ライトで出場しました。
打席ではノーヒットで、守備では動きが遅くヒットでの打球を前に落としたりと、思わず目を疑いたくなるプレーが目立ちました。
メジャー時代には、4度のゴールドグラブ賞受賞という実績を持っていましたが、開幕戦の守備を見た時には「あれ?」という声しか出てきませんでした。

その後も打撃面ではホームランは放つものの、守備面でもまずいプレーや反応が遅いところと、正直目を疑いたくなるシーンが目立っていました。

しかし、西村監督がシーズン途中で辞任し、中嶋聡2軍監督(当時)が一軍監督代行となった試合から3試合連続でホームランを放ち、徐々に本来の力を発揮するようになりました。また、9月10日の埼玉西武戦(メットライフドーム※現ベルーナドーム)では、日米通算2000本安打を達成しました。

シーズン通しての結果は

87試合 打率.258 12本塁打 43打点 OPS.749

というもので、正直なところ主軸としては物足りない、当初の期待よりも低い成績でした。

3.2021年シーズン

迎えた2021年シーズン。新型コロナウイルスの影響により来日が遅れる選手が他球団では目立ちましたが、ジョーンズは1月中旬に来日。
キャンプも順調に過ごし、開幕戦でも5番・指名打者としてスタメン入りしました。

シーズン序盤は指名打者でスタメンに名を連ねていましたが、股関節の違和感やワクチン接種の副反応、身内の不幸で戦列を離れる時期がありましたが、中盤から代打としての出番が多くなります。

代打でタイムリーを放ち、一塁ベンチにガッツポーズをするジョーンズ
(2021年8月28日撮影)

代打での成績は打率.429、出塁率.568と勝負強さを見せました。個人的には、代打で登場すれば四球かヒットで出塁するぐらいのイメージが付いていました。

シーズン通しての成績は

72試合 打率.234 4本塁打 23打点 OPS.677

といったものでしたが、それ以上に代打成績の良さが印象的でした。
さらにチームは25年ぶりのリーグ優勝。クライマックスシリーズも勝ち上がり、日本シリーズに進みます。そこで印象的だったのが、日本シリーズ第5戦の9回表、ヤクルトの守護神・マクガフから放った勝ち越しソロホームランでした。

この時、僕はテレビを見ていたのですが、ジョーンズがホームランを打った際には思わずガッツポーズをあげ、涙を流してしまいました。
なにしろ、この時のオリックスは1勝3敗で迎えた第5戦、リードしていた8回裏に山田哲人の3ランで同点になった後の状況だったので、オリックスとしては負ければヤクルトの日本一が決まるという絶体絶命のピンチでした。
そんな中、ジョーンズが放ったホームランで6−5と逆転し、そのまま勝利。この勝利で、第6戦の開催地であるほっともっとフィールド神戸で日本シリーズが開催することが決まり、当時のTwitterでオリックスファンが「#神戸に帰ろう」という願いを叶う結果になったのです。

ジョーンズは日本シリーズ第5戦でのホームランについて、次のように語っています。

「何もかもが完璧だった――あの瞬間は一生忘れない(中略)純粋で、色褪せることのない喜びだ。今でも目を閉じれば、あの時の光景がハッキリと浮かぶ」

「人生の第二章」アダム・ジョーンズ

彼がそう語ったように、我々オリックスファンにとっても、決して忘れることのできないホームランになりましたし、オリックスファンとしては、「なんとしても神戸に帰りたい」という思いや願いが強かった分、ジョーンズの決勝ホームランでその願いが叶ったのはとても嬉しかったものです。
きっとオリックスファンとしても、日本シリーズ第5戦で放ったジョーンズのホームランは、後世に語り継ぎたいホームランになったことでしょう。

4.ジョーンズのチームに対する姿勢

①「えっ、ジョーンズがキャッチボール!?」

イニング間にキャッチボールをするジョーンズ(2021年7月2日撮影)
イニング間にキャッチボールをするジョーンズ(2021年7月2日撮影)

僕がジョーンズを見ていて驚いたのが、イニング間に外野手とのキャッチボール役を自ら買って出たシーンでした。
通常、外野手とのキャッチボールは若手選手が行うことが多いのですが、それにジョーンズ自らが率先して行っていたのです。
このシーンを見たのは、2021年7月2日対埼玉西武戦(メットライフドーム※2022年よりベルーナドーム)でしたが、その後観戦した試合でも、よくキャッチボール役をしていたシーンを見ました。
メジャーで実績もある彼が、オリックスではスタメン落ち→代打の切り札となった中で、キャッチボール役をする姿を見た時に、「チームの勝利のために自分のできることを探し、ベストを尽くすこと」を大事にしているのだろうなと感じました。
そこには、メジャー時代の実績というプライドよりも、チームの勝利のためにという思いを持ってプレーするという彼の考え方が結びついているのかもしれません。

②ラオウ杉本にバッティングのアドバイス

また、ジョーンズはラオウこと杉本裕太郎選手に対して、アドバイスを送り覚醒させたという点も、チームに対する姿勢として取り上げても良いでしょう。
ジョーンズは、杉本選手に対して

「成功するための助言をした。基本的なこと。1球で仕留めるとか、切り替えるとか」

五輪落選のジョーンズ「オリックスで頂点に立つ」先生役でラオウ杉本覚醒
(日刊スポーツ、2021年8月14日)

ということを述べたようです。
具体的には、

「ホームランをバカバカ打つんじゃなく、例えばランナー二塁の場面を想定して、どうやってランナーを返すのかを意識して打つ。そういうことを常に心がけている」

「ラオウ」杉本を覚醒させた、“イチロー・ジョーンズ・浅村の教え”
https://baseballking.jp/ns/287107

「コロナ禍の昨年の自主トレ中、杉本の打撃を見て「お尻をボールにぶつける感覚が大事。両手と上半身はくっついてくるからバット(のヘッド)が出る」と指摘。腕力に頼っていた打撃から、軽く振っても飛ぶ。大きなコツを会得した」

「ラオウ」杉本を覚醒させた、“イチロー・ジョーンズ・浅村の教え”
https://baseballking.jp/ns/287107

上記の2点を主にアドバイスしていたようです。
結果、杉本選手は2021年パ・リーグ本塁打王を獲得する大ブレイクを果たしました。
杉本選手は、それまで追い込まれてもフルスイングしていたところを、軽く振っても飛ぶように力を抜くことをジョーンズからアドバイスを受けて、本塁打王だけでなく打率.301と打撃が開眼したのです。
メジャーで培った経験値をチームの選手に落とし込めて、チームの勝利だけでなくリーグ優勝に貢献したことは、数字以上に大きな功績といってもいいでしょう。
ちなみにジョーンズが退団した後も、オリックスの試合を見ては杉本選手にアドバイスを送っていたりと、現在でも繋がりはあるようです。

5.最後に

2020年〜2021年の2シーズン、オリックスでプレーしたアダム・ジョーンズ。
2021年にオリックスを退団した後、現在はスペインで過ごしています。
オリックスを退団した後も、彼のTwitterでは時々オリックスに関してツイートしていましたが、日本一を果たした時にはこのようなツイートをしていました。

このツイートは素直に嬉しかったですし、オリックスファンも数多くジョーンズにリプを送っていたのも印象的でした。
ちなみに彼のツイートにある「藤様」とは、近鉄〜オリックスと39年に渡ってチームの通訳担当をしていた藤田義隆氏のことで、藤田氏はジョーンズの通訳をしていました。
(※藤田通訳は今年をもって勇退)
ジョーンズは藤田氏のことを以下のように語っています。

「本当に素晴らしい人で、面白い。出会った頃から、僕はフジの後をついて回った。いつも彼を追いかけて、日本の文化や伝統、歴史、オリックスの歴史、彼の人生、とにかく次から次へと何でも聞いた。フジの存在は僕にとって本当に大きかった。僕たちは親友になれた。今でも彼とずっと連絡を取り合っている。彼からたくさんのことを教わったんだ」

「人生の第二章」(アダム・ジョーンズ)
https://www.theplayerstribune.com/jp/posts/adam-jones-the-second-chapter

ベテラン通訳の藤田氏から、日本の文化や歴史、オリックスというチームについてなど様々なことを知り、学んだことで、「日本での2年間は人生で大切な時間を過ごすことができた」といいます。
また、ジョーンズにとって藤田通訳の存在がいかに大きな支えになっていたかということも読み取れますし、改めて裏方さんの存在がどれだけ大事なものかということも考えさせられます。
そして何よりも、ジョーンズ自身が日本の文化や日本の野球に対してとにかく知ろうという考え方は、異文化理解をしていくうえで非常に大事な点ではないかと思います。

打席に立つジョーンズ(2021年10月20日撮影)

ちなみに僕にとって、アダム・ジョーンズといえば上記の写真が1番印象深いです。
バッターボックスでの構え方を見た時、素直に格好良いと感じましたし、何度もシャッターを切りました。
このジョーンズの構えは、僕自身、現在草野球で打席に立つ際に尊敬の意味も込めて真似しています(笑)

アダム・ジョーンズがオリックスに入団した際、入団記者会見でのコメントは
「優勝するということは保証できません(笑)。ただ、自分が確実に保証できることは一生懸命やることです。そして勝てるようにプレーすることです」でした。
また、キャンプ中には「オリックスを長い低迷から救いたいと思う」ともインタビューでコメントしていました。

2年間の在籍期間で、打撃成績だけを見れば物足りない部分はありますが、チームをリーグ優勝に導いたこと、また杉本選手など野手陣にアドバイスを送ったといったことを踏まえると、チームに対する貢献度は非常に大きいですし、退団した後もTwitterでオリックスのことをツイートしている姿は、オリックスファンとしては嬉しい限りです。
願わくば再び日本に来て、オリックスに携わってくれればと思います。


参考文献
・「人生の第二章」

・五輪落選のジョーンズ「オリックスで頂点に立つ」先生役でラオウ杉本覚醒
(日刊スポーツ、2021年8月14日)

「ラオウ」杉本を覚醒させた、“イチロー・ジョーンズ・浅村の教え”

・アダム・ジョーンズ選手入団発表記者会見


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