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「広告してあげられないから一人でがんばりなさい」と言われたプロダクトやサービスたちは一体どうするのか。

もう昨年のことだが、2020年12月に第1回目となる一般社団法人日本ネーミング協会主催の「日本ネーミング大賞」が発表された。

このアワードは、ネーミングの重要性を広く社会に発信することで産業の進展に寄与することを目的に、優れたネーミングを表彰するために創設されたものだ。

M1ならぬ「N1グランプリ」である。

製品の売り上げに多大な影響を与えるネーミング。

2019年度の商標登録出願件数は190,773件を数え、さらに経済のグローバル化によって、世界に通用する国際競争力のあるネーミングや商標権の重要性はますます高まっています。

しかし、開発者情報や由来が明確ではなく、ネーミングの体系化は進んでおりません。

ネーミングをつくるクリエイターへの意識も低い現状があります。

ネーミングは、モノとコトが世の中に生まれ出るための羅針盤であり、商品に命を与える存在です。

日本ネーミング大賞は、審査とプロモーションを通じて、ネーミングの重要性を広く人々へ伝え、ネーミングを取り巻く環境を充実させることで、生活文化と経済の発展をめざします。

ノミネートされた作品はやはりどれも秀逸だ。


例えば、去年発売40周年を迎えたTOTOの登録商標「ウォシュレット」。

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今から40年前(1982年)、「おしりを洗う」という新しいトイレ文化を普及させるために生まれた商品で、現在国内での普及率は8割を超えているという。知らない人を探す方が難しいネームだろう。


海外でもウォシュレットの普及は進んでいるが、日本ほど普及している国はまだなく、だからこそ「日本のトイレに感動する外国人」は多いという。


東京にたった今降り立った、なんて素晴らし場所だろうか。

ここで楽しい時間を過ごすことができると思っている、私は寿司の大ファンであり、尻の穴に噴射される温水ジェットの大ファンなので。

-ジャック・ホワイトホール(英国のコメディアン・司会者)


当時、トイレ文化を「拭くから洗う」に変えようとするこの商品のネーミングは相当難航したらしい。

そんな中、「おしりを洗う」というコンセプトから抽出したキーワード「Let’s Wash」を語呂良くすることで「ウォシュレット」は生まれた。


ネームは「コンセプトを想起させる」ものの方が望ましい場合が多く、コンセプトの直訳表現よりも「程よい違和感を生じさせる」方が、ターゲットの好奇心をくすぐりやすいと私は考えているため、「こんなに良い事例はない」とウォシュレットを紹介させていただくことは多い。


しかし、こんなにも秀逸なネームを、40年以上も前に生み出しているというのだから、開発者には本当に頭が上がらないでいる。



日本ネーミング大賞の副審査委員長である「岩永嘉弘さん」は、

「民主党」、HONDA「FIT」、渋谷「bunkamura」「109」、「日清oilio」、「ソラシドエア」などの名付け親で、ネーミングに携わるものであれば知らない人の方が少ないだろう。


1990年以降に生まれたヒットネーミングが、その開発プロセスとともに紹介されている「ネーミング全史」の中には、そんな岩永さんの慧眼が其処此処に登場する。

ブランディング活動の種となるのが、ネーミングです。

先に書いたように、ネーミングがロゴ化され、パッケージに記され、広告の翼に乗って人々の心へ、と飛翔していくからです。

マーケットへ、世界へ、伝播してブランドが成就するのです。

完結するわけです。

その種作り、ネーミング作りから、ブランディングの長い旅は始まるといってもいいのです。
PCの、あるいはスマートフォンのあの小さな画面上で展開される広告に、たくさんの勧誘コピーは説得力を持ちません。

画面によってはジャマでしかない。

結果としてネット広告のコピーは短くなりつつあります。

コピーが減って、表現がシンプルになれば、残るのはネーミングです。

ネーミングだけがあればいい。
新商品の数は増えるのに、不況だから広告費は増えない。

むしろ減少する、という事態が起こる。

すると、広告を出してもらえない商品が生まれてくる。

発売に際して「広告してあげられないから一人でがんばりなさい」と突き放されるモノが出てくるわけです。

さあ、どうするか。

いずれもネーミングにおける「核心」をついている。


では、「広告してあげられないから一人でがんばりなさい」と突き放されたプロダクトやサービスたちは一体どうするのか?


こうなるともう自分の名前である「ネーム」で勝負するしかない。

そして、これは予算の少ない中小零細企業にこそ当てはまってくる。


だからこそ「お金がないのでネーミングには使えない」と言うのではなく、

お金がないからこそ、できる限りの予算を「ネーミング」に投じるべきなのだと個人的には思う。


ネーミングとは、モノとコトが世の中に生まれ出るための羅針盤であり、商品に命を与え、その未来さえも決めてしまう大変高尚な行為だ。


その価値が「日本ネーミング大賞」によって世の中に広がっていくことを期待して止まないのは、決して私だけではないはずである。


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「事業に役立つネームコレクション」というnoteマガジンは、ネーミングデザイナーの一面を持つタナカシンゴが、日常の中で、目に留まったネーム、何か気になるネーム、記憶に残っている離れないネームとしてコレクションしているものに、ヒトコト考察を添えて、ネーミングのヒントとなる情報を毎月お届けしているものです。


よく読まれているネーム・ネーミング関連のnoteは下記になります。


ここからは2021年1月の「事業に役立つネームコレクション」になります。

それでは、いってみましょう。


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