ゆるいつながり#1前編「風をあつめて〜きらきら武士」


はじめに


 サブスクでAIに勧められた曲を聴く。道すがら聞こえてきた曲をAIに聴かせて特定させて後で聴けるようにする。SNSでバズッた曲を聴く。そしてAIがあなたの好みを判別して作成したプレイリストをそのまま聴く。

 好きな音楽を自分の意思や力ではなく、AIがオススメを提供してくれる時代になりました。作曲家や作詞家、裏で働いているプロデューサーのみならず、それを誰が歌っていて、どのアルバムに入っているか。いま活動しているのかしていないのか、最新の楽曲なのかもう何十年も前にリリースされた曲なのか。そこまで考えて聴いている人もほとんど居ないのではないでしょうか。

 また、AIがどういう判断基準でそれを勧めてくれたのかも明確ではなく「これを聴いている人はこれも聴いている」という形で勧められることが多いと思います。確かに、似たような音楽・自分が好きそうな音楽が流れてくれる確度は非常に高く、実際自分もその流れに従って様々な音楽に出会いました。ただその流れに従った出会い方だとカテゴリやジャンルをずっと超えられることはなく、結局それは流れるプールのようなもので俯瞰してみると蛇行しつつも小さな円環になっているのではないかと思います。

 今回、この『ゆるいつながり』プレイリストはAIがオススメする「これを聴いている人はこれも聴いている」という感覚に少しの飛躍を加えて聴く音楽の幅を広げていこうと思い作成しました。個人的な趣味なのでしばらくは主に日本の女性アイドルを中心として体系化していきます。その都度書くつもりではありますが「アイドル楽曲」というのは歌い手に依存している呼称であり、楽曲それぞれの位置を明確に示すものではないはずです。

 これは「声優楽曲」などにも言えますし、もちろん「邦ロック」もです。日本のロックの全てが「邦ロック」か、と問われるとそうではないと思います。また深く掘り下げる機会があれば掘り下げます。

 全てのアーティストが自らの意思で自分(たち)がどのジャンルに位置しているか、明言したり意識したりしているとは限りません。恐らくですが意図的に避けている思います。ジャンルを提示することでその枠外に出られなくなってしまう。そういう、アーティストが固定のジャンルを持たされる環境はいかがなものかと思います。それを愛しているのならばそれもまた良いですが。とにかくそういったジャンルをアーティストそれぞれが飛び越えたりあえて王道をやると素晴らしい化学反応が起こります。その化学反応をプレイリスト化するのが狙いです。

プレイリストゆるいつながり#1

今回作成したプレイリストはこちら

 第1弾なのでどちらかというとAI側に寄せて、途中で例に挙げた「蛇行しつつも小さな円環となっている流れるプール」を意識しました。

 ただ、いくつかの楽曲は一方からの流れを受けてその方向性をそのまま次へ渡していくものではなく、プレイリスト内の複数の楽曲にその要素を共感させていくものとなっています。この方向性をもう少し複雑化すると曼荼羅のようなプレイリストになっていきます。これが素晴らしい化学反応だと思っています。

 そもそも音楽の方向性は一方向だけでなく様々な方向に伸びていくものなのでやろうと思えば無限に広げられるのですが、とりあえずは大体10曲から20曲、50分~1時間30分ほどでひとつの塊にしていきます。
 
 大きな流れ以外にも何曲か跨いで相互作用があるような楽曲を集めました。作曲家繋がりなどで選曲したものが多いためしばしば同じアーティストの楽曲が登場しますが、そういう妙な偏りも面白いのではないでしょうか。

 せっかくなので全3回に分けて、一曲ずつ紹介していこうと思います。どこを1曲目とするかは悩みましたが……

 そういえば、最初に曲名からアーティスト、作曲者くらいまでは書き方を決めておきましょうかね。

『曲名』/収録アルバム・シングル-アーティスト(作詞:作詞家/作曲:作曲家/編曲:編曲家) 発表年

これで統一します。

1曲目『風をあつめて』/風街ろまん-はっぴいえんど(作詞:松本隆/作曲:細野晴臣) 1971年

 プレイリスト記事を書く上でまず何よりも最初にはっぴいえんどを紹介したかった。人によっては紹介するまでもないと思いますが、どちらかというと自分の周りには声優やアイドル、ボカロなどのいわゆるオタクジャンルに造詣が深い方が多いと思うので。

 バンド「はっぴいえんど」をひとことで表すならば「日本語ロックの祖」です。昨今はこのはっぴいえんど中心の日本語ロック史観も擦り倒されていて疑問も呈されていますが、まあ概ね間違ってはいないのではないでしょうか。

 ここで日本語ロック論争の全てに触れようとすると、それ(はっぴいえんど)までに日本語ロックは存在しなかったのか、ニューミュージックとは、矢沢永吉やもちろん内田裕也にまで触れないといけないので一旦Wikipediaを参照していただきたいです。(https://ja.wikipedia.org/wiki/日本語ロック論争)

 正直今更この流れをまた別の文章で書き直したところで、という感じです。とにかく日本のロック、いや日本の音楽世界ははっぴいえんど以前以後で全く違うものになっています。

 メンバーは細野晴臣、大瀧詠一、松本隆、鈴木茂。それぞれのWorksをいちいち取り上げているとそれだけでプレイリストが10個くらいはできてしまうのでこれもまた大幅に割愛しますが、本当にざっくりと説明すると細野はYMOでテクノ・電子音楽の世界を広げ、大瀧はシティポップを確立、松本隆は松田聖子などへの楽曲提供で詩のスペシャリストに、鈴木茂はソロ活動のみならずさまざまなアーティストのレコーディングに参加し強烈なギターテクニックを日本音楽史に刻みつけています。これを書いている途中で「はっぴいえんどWorks」というプレイリストを作成しましたのでまたそちらの紹介noteもまた書こうと思います。

 さて、ようやく楽曲そのものについて触れますが『風をあつめて』は1971年に発表された2ndアルバム『風街ろまん』に収録されています。聴くと、50年前の頃の都市がノスタルジックに眼前に浮かび上がるような不思議な空気感を纏っているように感じます。セピア色の街に生ぬるい、気だるい風が吹いて日常に溶け込んで鈍い色を付けていくような、なんとなく夏の頃を歌った曲だと思うのですが、50年前はやはり今ほど暑くなかったのかなと思います。調べてみたら1971年8月東京の最高気温が34.4℃でそれ以外の日は大体30℃前後でした。当時の街並みや空気を描いていると暑さに言及しなくても気温まで伝わってくるんですね。

 自分は珈琲屋のくだりが好きです。よく珈琲屋で暇を潰しながら思案するので。

2曲目『八月』/八月-fishbowl(作詞作曲:ヤマモトショウ) 2023年

 ジャケットが同じだ!そう、ジャケット繋がりの選曲です。


 実に52年後にアイドルに、松本隆が多くの詩を提供したアイドルの血脈の果てに、静岡のご当地アイドルグループであるfishbowlにジャケットオマージュをされるはっぴいえんど、ちょっと面白い。

 歌詞を見ると、うるせえお前今の八月クソ暑いぞ。って感じです。ジャケット以外に繋がるところというと、いつかわからない過去を振り返るようなくだりがあるんですよね。

「Do you remember? 君はもっと自由だったころのことを知ってるかい?」

 ここの歌詞が特に妙に刺さっています。この「もっと自由だったころ」っていつだろうなあと。単純にアイドル現場にとっての不自由な期間といえばコロナ禍のライブ活動の自粛や声出しNGだったり、接近時のルールが変わったりなどたくさんありました。fishbowlも例に漏れずコロナ禍に活動を開始したグループでその不自由さは痛いほど知っていると思います。この歌詞の少しあとの「今年が勝負だからなんです」はアイドルの活動期間に賞味期限のようなものがあるとするならばというよりはコロナ禍からある程度抜け出そうとしているこの時期こそが勝負だということなんだろうなと解釈しました。

 二つ目の見方があるとするならば、それこそ『風をあつめて』の頃の、昭和に対して漠然と抱く自由なイメージでしょうか。なんかこう、若い子が「なんか昭和良かったらしいね!」みたいに歌ってるのが面白いんですよね。

 「バーディア それは来月のこと」

 ここからしばらくファンクの話。次のファンク楽曲が元ネタなこともあり、この楽曲もかなりファンキーです。ファンクってなんだよって言われると日本語で表現するのは結構難しい。とにかく色々曲を聴いていくしかない。

 そもそもファンクとファンキーも厳密には違う感覚らしい。都市的/田舎的みたいな。自分はジャズをベースとしたダンスミュージック、くらいの感じで考えてます。あとで書きますが、ジャズもファンクもブラックミュージック(黒人音楽)です。基本的にダンスミュージックの下地にはいつもブラックミュージックがあって、西洋クラシックの和声(ハーモニー)の文脈ではなく、どちらかというと身体的要素が多分であるため、じっくり聴くというよりは全身で感じるライブ・クラブサウンドには欠かせないものとなっています。 

3曲目『September』/September-Earth, Wind & Fire 1978年

 この曲に「Ba de ya」という歌詞(歌詞?)があります。これがバーディアですね。

 タイトルは9月ですが歌詞自体は12月に9月のことを思い出す曲です。「Do you remember ?」もちゃんと入っていますね。fishowlプロデューサーヤマモトショウの意識が見えます。しかし何故『8月』のジャケットは『風街ろまん』だったのか。EW&Fだと直球すぎたのかな。EW&Fには4人モチーフで使えそうなアルバムジャケットもあるのですが……。

 EW&Fの話をするとこれまた長くなるのですが、彼らが活躍した70年代のアメリカ音楽というとファンクやディスコ、要はダンスミュージックでした。もっともディスコ時代の興りは60年代の黒人やヒスパニックを中心とした同性愛者のカルチャーの中にありました。このゲイ中心ディスコブームは元々虐げられていたマイノリティがエイズの流行などにより更に厳しい目を向けられたため、そういった同性愛者の出会いの場という部分が抜け落ち、1970年代半ばからは属性に関わらず開かれた場所になっていきます。これが今ではクラブミュージックとなり、EDMや曲同士を繋げるDJプレイへと展開していくのです。

 彼らもアフリカにルーツを持っています。どの楽曲もブラックミュージックと呼ばれるファンクやジャズの文脈を強く感じます。この楽曲自体は電子音楽の要素はありませんが、後年は電子音楽の要素を取り入れた楽曲も制作されました(ヒットはしませんでしたが……)

 

4曲目『ねぇバーディア』/ティー・フォー・スター-Negicco(作詞作曲:池田貴史) 2015年

こちらももろバーディアです。もろバーディアって何

 Negiccoも新潟県のご当地アイドルグループで、今はみんな子持ちなのに活動があるという不思議なグループです。一般的に求められているアイドル性というよりは楽曲・歌唱力の高さを買われている派閥でしょうか。この楽曲のみならず本当に良い楽曲が多い。『八月』を書いたfishbowlのプロデューサー、ヤマモトショウさんは明らかにNegiccoを意識した投稿をされていましたね。

 元からかなり好きだった様子。次の曲に続くのですがこの楽曲の作詞作曲は池田貴史=レキシです。

 バーディアを人名のように扱っているのがレキシの遊び心を感じます。というかこのプレイリストはヤマモトショウ・池田貴史が強過ぎて成り立っています。

 「あぁ 風と水と炎」なんてそのままですからね。こういうちょっとふざけたのをふざけてないですよみたいな顔をして突き抜けたポップさでエモくしてしまうのが池田貴史の強さです。

 また序盤に「目と目が合うたび 微笑みがえし」という歌詞があります。EW&Fへのオマージュはわかるんですが、ここはキャンディーズへのリスペクトです。日本語表現としては「微笑みかえし」で、濁らなくていいわけですから明確です。第2回ではキャンディーズの楽曲『微笑みがえし』も紹介します。

 

5曲目『きらきら武士』/レキツ-レキシ,Deyonna(作詞作曲:池田貴史) 2011年

 そしてレキシ楽曲。Deyonnaは椎名林檎です。

 テンポこそ違えど、何故EW&Fをオマージュしたのかがわかります。池田貴史自体がかなりファンク・ソウルの人です。

 今年は所属事務所を退所されましたが、活動は続けていくようです。良かった……Negiccoのみならずアイドルにとても良い楽曲を書き下ろしてくださるので……

 レキシ自体の話をするとその名の通り歴史上の出来事や人物を取り上げて楽曲にするプロジェクトです。秦基博や椎名林檎、斉藤和義、持田香織など有名アーティストをせっかく呼んでいるのにその名前をそのまま使わずに歴史上の物事をあてがったふざけたレキシネームを与えるという愚行をしています。好きなんですけどね。Deyonnaってなんだよ。

 個人的な思い出ですが中学のときに嫌いだった社会の先生がドヤ顔でコミックバンドみたいな感じで授業中にレキシを紹介していて、あとでクラスメイト全員に違うんだレキシは音楽的にも素晴らしくて……ってこのnoteみたいな話を熱弁してめちゃくちゃうざがられたことがあります。

 いま思えば先生も稲穂の話とかしてたから多分普通にライブとか行ってたんだろうな……今なら分かり合えるかもな……


 前編はこんな感じです。これでもめちゃくちゃ削りました。いやそこ違うだろってところもあると思いますが、事細かに完全にさらっていくと分量がえげつないことになりかけたので半分くらいまで減らしました。今後もプレイリスト紹介noteはたまに上げようと思うのでそこで補完できたらと思います。

 次回は中編「林檎殺人事件〜SHIKIBU feat.阿波の踊り子」の予定です。

 

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