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【ハートフル】昨日の敵と今日の敵

夫の不倫を知った奈美恵は、不倫相手の若い女の家に乗り込みます。
自分が被害者であり弱者だと信じる奈美恵は、彼女をこてんぱんに打ち負かしてやりたいと思って来たのですが、相手は理屈を並べてのらりくらりとはぐらかし、一筋縄では行かない曲者。

はたして奈美恵は勝つことができるのでしょうか?
それとも、自分の夫を取られてしまうのでしょうか?
女同士の負けられない闘いが、いま始まります!

*************
▶ジャンル:ハートフル

▶出演

  • 奈美恵:村木芳(オムニバス・ジャパン)

  • 亜紀:池尾麻里(東北新社/OND°)

▶スタッフ

  • 作・演出:山本憲司(東北新社/OND°)

  • プロジェクトマネージャー:大屋光子(東北新社)

  • プロデュース:田中見希子(東北新社)

  • 音効協力:小林地香子

  • 収録協力:オムニバス・ジャパン

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『昨日の敵と今日の敵』シナリオ

登場人物
 奈美恵(45)
 亜紀(33)

亜紀「で、この状況、どうしようとお考えですか」
奈美恵「え?」
亜紀「だから、どうしようというお考えなんですか」
奈美恵「ど、どうって……」
亜紀「ふー」
奈美恵「くっさ」
亜紀「ああ、タバコお嫌いでしたね」
奈美恵「あの、どういうつもりなの」
亜紀「どういうつもりって、いらっしゃったのは奈美恵さんのほうでしょ」
奈美恵「……」
亜紀「何か言いたいことかなんかあっていらっしゃったんでしょ」
奈美恵「え、ええ……」
亜紀「だったらあたしがどういうつもりとか関係ないでしょ」
奈美恵「ず、ずいぶんな開き直りようね」
亜紀「開き直りっていうか、あたしに何をしろと」
奈美恵「いや、だから」
亜紀「あなたの旦那さんは今いないですよ。タバコ買いに行ってるんで。ここで待ちます?」
奈美恵「いや、私はあなたに──」
亜紀「あたしに。何ですか?」
奈美恵「いやだから。その……」
亜紀「あたしなんですか?」
奈美恵「え?」
亜紀「あたしに話なんですか?」
奈美恵「もちろんよ」
亜紀「浮気って夫婦の問題じゃないんですか。話をする相手は旦那さんなんじゃないんですか」
奈美恵「あなたには責任ないって言うの」
亜紀「あたしに責任? ないでしょ」
奈美恵「どういう神経」
亜紀「だって知らなかったんだもん」
奈美恵「知らなかった?」
亜紀「不倫だって」
奈美恵「知らずに不倫してたって言いたいの」
亜紀「違いますよ。普通に恋愛してたのに、知らないうちに不倫させられてたってことです」
奈美恵「同じことでしょ」
亜紀「全然違うでしょ」
奈美恵「私、結婚してるの知ってたよね。あなたが会社にいたときから」
亜紀「知ってましたよ。でも奈美恵さんの旦那さんが誰かなんて知りませんよ」
奈美恵「話したよ。ねえ、亜紀ちゃん」
亜紀「だとしても覚えてませんよ。新人研修のときでしょ? 何十年前の話ですか」
奈美恵「ほんの十年前でしょ」
亜紀「そのあとあたし会社二社も変わってるんです」
奈美恵「相変わらず長続きしないんだね」
亜紀「ほっといてください」
奈美恵「私の旦那だと知ってたとしても知らなかったとしても、どうなのよ」
亜紀「は?」
奈美恵「人の旦那と不倫することについてはどうなのよ。いいと思ってるわけ?」
亜紀「思うわけないじゃないですか」
奈美恵「実際やってるじゃない」
亜紀「だからー」
奈美恵「そういうとこ! 昔から」
亜紀「はあ?」
奈美恵「雑用したくなくて係長に上目遣いで甘えて仕事ズルする子」
亜紀「いつの話してんですか。てかズルって」
奈美恵「ほんの十年前よ。人ってそんな変わるわけないのよ」
亜紀「あたしが誘惑したとでも言いたいんですか。結構な決めつけですね」
奈美恵「私には言う権利がある」
亜紀「権利」
奈美恵「妻なんだから」
亜紀「妻ね」
奈美恵「とにかく、私はあなたのこと許さないから」
亜紀「そうですか」
奈美恵「慰謝料とか、なんか……取ってやるから」
亜紀「そうですか。どうぞ」
奈美恵「いいのね」
亜紀「まあ、今はお金ないんでちょっと待ってもらいたいですけどね」
奈美恵「お金にもだらしないのね」
亜紀「あなたの旦那さんは出してくれないし」
奈美恵「は? あなた不倫しておいておまけに人の旦那に金までたかってたの」
亜紀「違いますよ。全然違う」
奈美恵「何が違うのよ」
亜紀「なんでもないです」
奈美恵「とにかく、あなた責任取ってよ」
亜紀「責任取るって、どう」
奈美恵「それは……自分で考えて」
亜紀「形で示せってことですか」
奈美恵「そうね」
亜紀「土下座でもすればいいんですか」
奈美恵「そういうことじゃ……」
亜紀「土下座で済むんならしますよ。でも、気持ちの問題なんじゃないんですか」
奈美恵「え?」
亜紀「あたしがどんなにごめんなさいあなたの旦那さんと不倫しました許してくださいって謝っても、結局奈美恵さんと旦那さんの気持ちの問題なんじゃないんですか」
奈美恵「それは、だからこっちはこっちで」
亜紀「そうですか」
奈美恵「あのさ、さっきから言いたいんだけど、反省してんの?」
亜紀「まあ奈美恵さんの旦那さんと結果的に不倫してたことは、申し訳ないことしたというか、そんな気持ちはありますよ」
奈美恵「全然そういうふうに見えないんだけど」
亜紀「ま、反省とは違うんで」
奈美恵「だからそこ!」
亜紀「しょうがないじゃないですか、もう起きてしまったことは」
奈美恵「なんで? なんでさあ、私のほうがモヤモヤしなくちゃいけないの? 浮気されたのは私のほうなんだよ。私は被害者なのよ。ね、わかってる?」
亜紀「被害者ねえ」
奈美恵「まあ言いたいことはわかるよ。あなたも被害者って言いたいんでしょ。それはたしかにね。でもさあ、あなたは失うものないじゃない。うちにはね、大きい子供もいるの。家もあるの。規模が違うわ規模が。もう全然違うわ!」
亜紀「もういいんで、戻ったら連れて帰ってもらえます? 来るなって言ったのにあっちから無理やり来たんですよ。迷惑なんですよ。あたしもう別れたつもりなのに」
奈美恵「え、嘘でしょ」
亜紀「そう思うなら本人に聞いてくださいよ」
奈美恵「……あの人、私にゴメン、もう戻れない許してくれって泣いて家出てったんだよ。だから私追っかけて来たんだよ。そんなわけないでしょ」
亜紀「だから本人に聞いてくださいって。連れて帰ってください。二人揃って迷惑なんですよ」
奈美恵「ちょ、ちょっと待って。亜紀ちゃんのこと取り返しのつかないぐらい傷つけてしまったって言ってたよ。どういうこと?」
亜紀「何がですか」
奈美恵「あの人が……待って。あなた不倫とは知らなかったって言ったよね。じゃあ旦那が結婚してるっていつわかったの」
亜紀「さあ」
奈美恵「ねえ、どのタイミングで知ったのよ」
亜紀「いいじゃないですかもう」
奈美恵「よくない! どうしてわかったの!」
亜紀「だからそんなこと知ってどうするんですか」
奈美恵「教えて。私には知る権利がある」
亜紀「また権利か」
奈美恵「……そうなのね……あなた、もしかして……」
亜紀「なんですか」
奈美恵「あの人に迫ったのね」
亜紀「え……」
奈美恵「そうなのね。結婚してるって言うしかない状況になったのね」
亜紀「(ため息)……そうですよ。旦那さんに、父親になってくれって頼んだんですよ。でもなれないって言われて、なんでって聞いて。そしたら……そういうこと。これで満足?」
奈美恵「……ってことは……」
亜紀「はい」
奈美恵「あなた、子供が……?」
亜紀「大丈夫ですよ。安心してください。すっきりきれいになりましたから」
奈美恵「堕ろしたの!?」
亜紀「もう一人で片付けましたから。あいつ一銭も出してくれないし」
奈美恵「お金がないって、そういうこと」
亜紀「まあ……」
奈美恵「でもどうして。堕ろすなんて……」
奈美恵「簡単に決めたわけじゃないですよ。悩みましたよ」
奈美恵「誰か相談する人いなかったの」
亜紀「こんなこと話せる人なんてそんないないですよ。あたしが唯一心を許せる親友には相談しましたけど。そしたらさあ、堕ろしたほうがいいって言うんですよ。あの子、母子家庭でずっと苦労してきたから。てっきり産んだほうがいい、応援するって言ってくれると思ってたんですよ。そうなんだーって思って」
奈美恵「亜紀ちゃん……」
亜紀「あなたの旦那は父親になれないって言うし、会社のおっきいプロジェクトも任されてるし、やっぱ無理かーって」
奈美恵「……」
亜紀「でも、もういいんですよ。自分で決めたことなので。今さら赤ちゃん戻ってくるわけじゃないし」
奈美恵「……」
亜紀「もういいでしょ。ね」
奈美恵「ごめんなさい!」
亜紀「え、なんで奈美恵さんが謝るの」
奈美恵「申し訳なくて……」
亜紀「ちょ、ちょっとやめてください」
奈美恵「ごめんなさい……!」
亜紀「いいってもう。ついさっきまで怒ってたじゃん」
奈美恵「ほんとに。ほんとにごめんなさい……」
亜紀「なんで奈美恵さんが泣いてんのもう」
奈美恵「(しばし泣く)」
亜紀「(ため息)」
奈美恵「……許せない」
亜紀「え?」
奈美恵「最低! あいつ許せない!」
亜紀「え?」
奈美恵「なんで男って、男ってそうなのよ!」
亜紀「え?」
奈美恵「許せない。亜紀ちゃん」
亜紀「え?」
奈美恵「力を合わせましょう」
亜紀「え?」
奈美恵「妻と不倫相手で争ってる場合じゃない」
亜紀「え?」
奈美恵「これは、女の戦いよ!」
亜紀「えー?」
奈美恵「あんな女の敵をのさばらせててはダメ!」
亜紀「それは賛成だけど、どうするつもりですか?」
奈美恵「それは、それはこれから考える……!」
   ドア開く。
亜紀「あ、帰ってきた」
   靴音、後退る。
奈美恵「あなたーっ!」
   靴音、逃げていく。
                              〈終〉

シナリオの著作権は、山本憲司に帰属します。
無許可での転載・複製・改変等の行為は固く禁じます。
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ただし、以下のクレジットを表記してください。(作品内、もしくは詳細欄など)
【脚本:山本憲司】
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