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#美の来歴

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古今の美術作品と歴史のかかわりをたどるエッセイ。図版と資料をたくさん使って過去から未来へ向かう、美の旅へようこそ。
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#ヴァトー

美の来歴㊽ 三島由紀夫が愛した絵  柴崎信三

美の来歴㊽ 三島由紀夫が愛した絵  柴崎信三

〈英雄〉になりたかった人のたくらみ
 三島由紀夫の〈蹶起〉と自裁の日から半世紀が近づいた秋、その現場となった東京・市ヶ谷の陸上自衛隊東部方面総監部の旧庁舎、現在は敷地内を移転して再構築した「市ヶ谷記念館」の旧総監室を訪れる機会があった。

 「あの日」に駆け出しの記者がそのバルコニーの前にたどり着いた時、すでに壇上に三島たちの姿はなく、集まった自衛官らはその場から三々五々散って、蹶起の主張を書き連

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三島由紀夫という迷宮⑪ エピローグ 〈物語〉へ                  柴崎信三

三島由紀夫という迷宮⑪ エピローグ 〈物語〉へ   柴崎信三

〈英雄〉になりたかった人⓫

 三島由紀夫の〈蹶起〉と自裁の日から半世紀が近づいた秋、その現場となった東京・市ヶ谷の陸上自衛隊東部方面総監部の旧庁舎、現在は敷地内を移転して再構築した「市ヶ谷記念館」の旧総監室を訪れる機会があった。
 「あの日」に駆け出しの記者としてそのバルコニーの前にたどり着いた時、すでに壇上に三島たちの姿はなく、集まった自衛官らはその場から三々五々散って、蹶起の主張を書き連ねた

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三島由紀夫という迷宮④ 〈アルカディア〉は何処に              柴崎信三         

三島由紀夫という迷宮④ 〈アルカディア〉は何処に     柴崎信三         

〈英雄〉になりたかった人❹


 初めての「洋行」で巡った欧州の経験の最初の具体的な結晶が、二年後の1954(昭和29)年に発表した小説『潮騒』である。
 作家が遺したおびただしい作品群のなかでも、『潮騒』の特異性は際立っている。もちろんこの純愛小説は、流行作家になって活動の幅を広げてゆく三島がエンターテインメントとしての作品の画期をなし、それがベストセラーとなって繰り返し映画化されるなど、同時

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