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#美の来歴

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古今の美術作品と歴史のかかわりをたどるエッセイ。図版と資料をたくさん使って過去から未来へ向かう、美の旅へようこそ。
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#鏡子の家

三島由紀夫という迷宮⑪ エピローグ 〈物語〉へ                  柴崎信三

三島由紀夫という迷宮⑪ エピローグ 〈物語〉へ   柴崎信三

〈英雄〉になりたかった人⓫

 三島由紀夫の〈蹶起〉と自裁の日から半世紀が近づいた秋、その現場となった東京・市ヶ谷の陸上自衛隊東部方面総監部の旧庁舎、現在は敷地内を移転して再構築した「市ヶ谷記念館」の旧総監室を訪れる機会があった。
 「あの日」に駆け出しの記者としてそのバルコニーの前にたどり着いた時、すでに壇上に三島たちの姿はなく、集まった自衛官らはその場から三々五々散って、蹶起の主張を書き連ねた

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三島由紀夫という迷宮⑥ 白亜の邸宅と〈空洞〉の時代   柴崎信三

三島由紀夫という迷宮⑥ 白亜の邸宅と〈空洞〉の時代   柴崎信三

〈英雄〉になりたかった人❻

 三島が日本画家、杉山寧の長女、瑤子と結婚したのは、豊田貞子との3年にわたる関係に終止符を打った翌年の1958(昭和33)年6月である。文学上の師で、のちにノーベル文学賞受賞をめぐって先を越されることになる川端康成夫妻が媒酌人を務めた。知人の紹介による見合い結婚である。

 6月1日に行われた挙式と披露宴、その後の箱根、京都、別府、福岡などをめぐる2週間の新婚旅行は

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