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#文芸評論
三島由紀夫という迷宮⑧ 「この庭には何もない」 柴崎信三
〈英雄〉になりたかった人➑
最後の長編小説『豊饒の海』の第一部『春の雪』の雑誌連載は、脚色、演出、主演まで担って自作の『憂国』を映画化した1965(昭和40)年に始まっている。ノーベル文学賞の有力候補に名前が挙がり、日本を代表する作家として前途は洋々とみえた。自身が生きてきた時代を舞台装置に選んで、〈伝統〉と〈行動〉、〈時間〉と〈輪廻〉という主題をつないで描いてゆくたくらみは、戦後の三島のなか
〈英雄〉になりたかった人➑
最後の長編小説『豊饒の海』の第一部『春の雪』の雑誌連載は、脚色、演出、主演まで担って自作の『憂国』を映画化した1965(昭和40)年に始まっている。ノーベル文学賞の有力候補に名前が挙がり、日本を代表する作家として前途は洋々とみえた。自身が生きてきた時代を舞台装置に選んで、〈伝統〉と〈行動〉、〈時間〉と〈輪廻〉という主題をつないで描いてゆくたくらみは、戦後の三島のなか