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トルシエは「ハンス・オフト」的な存在になるのか、それとも…

画像出典:https://thanhnien.vn/tai-sao-vff-khong-moi-ong-park-hang-seo-lam-giam-doc-ky-thuat-ho-tro-hlv-troussier-185230215142832773.htm

アジアカップ(カタール、2024)は、グループステージの第3節が今日から行われる。フィリップ・トルシエ監督率いるベトナム代表は、初戦で「史上最強」の日本代表に対して、前半に一時、2‐1とリードする展開を見せて注目された。

アジアカップ前、ベトナムではトルシエ解任論が強かった。パク・ハンソ前監督時代のスター選手たちを特別扱いせず、U23代表監督を兼任して若手を積極的に採用して、負ける。ベトナムではレジェンドとなったパク・ハンソ前監督が築き上げた「東南アジアナンバーワン」の地位を、SEA Games(東南アジア競技会)でもU23の各種大会でも守れず、このままではW杯アジア予選も最終予選に進めないのではないかという懸念が示されていた。

ところが、トルシエ・ベトナムは、今回のアジアカップ初戦で日本代表相手に見せた戦いでは、前監督時代とは明らかに違うスタイルであることをまざまざと見せつけた。最終的には2-4で逆転負けを喫したものの、ベトナムのサッカーファンたちは概ね高い評価をした。ベトナムサッカー連盟(VFF)も、負けたにもかかわらずボーナスを出すと発表した。パク前監督も、メディアに対して「トルシエ・ベトナムは自分が指揮をとっていた頃の代表より高いレベルにある」と賞賛した。

第2節のインドネシア戦に勝利すれば、グループステージ突破が近づく。インドネシアはFIFAランキング146位。ベトナムは94位。格下相手に、負けてはいけない試合だった。

しかし結果は、前半にPK献上してリードを許し、そのまま0-1で負けてしまった。これによって、ベトナムはアジアカップで目標としてきたグループステージ突破を達成できないことが確定した。

もちろん、ベトナム国内ではトルシエ解任論が、大会前よりもさらに激しく吹き荒れている。長年、ベトナムサッカー界をいろいろな意味で「支えてきた」ホアンアイン・ザーライFC(Vリーグ1部)のオーナーのドゥック氏は、真正面からトルシエ・ベトナムを批判し始めた。

VFFがトルシエ・ベトナムに期待しているのは、アジアの枠が8.5に拡大した2026年のW杯に出ることだ。現在、ベトナムのFIFAランキングはAFC内で17位まで落ちてしまった。トルシエ・ベトナムが批判されるのも無理はない。

即時の解任論に目をつむるとすれば、フィリップ・トルシエは今後、W杯アジア予選を闘う中で、仮にW杯本大会出場切符を手にできなかった場合でも、日本におけるハンス・オフトのような存在になれるだろうか。

現在のベトナム国内でのトルシエ解任論を見ていると、どうもそのようにはならないように思える。W杯アジア予選や、U23のパリ五輪をかけた大会の中で、「仮に目標を達成できなかったとしても、トルシエがベトナムサッカーにもたらしたものは大きいし、それを継承したい」と評価されるように持っていくしかない。

日本が1998年のW杯本大会への初出場を決める前、それに肉薄したのがオフト・ジャパンだった。オフト氏はその後、ジュビロ磐田で指揮を執り、日本サッカーに大きな発展的影響をもたらした。

ベトナムがW杯本大会への切符を手に入れるまでには、まずはそれに肉薄するだけの力をつけなければならないとするなら、ベトナムはそこまで行っていない。カタールW杯のアジア最終予選では、中国に勝ち、日本と引き分けて勝ち点4としたものの、グループ最下位だった。ベトナムサッカー史上、初めてアジア最終予選まで残ったのだから、その中で勝ち点4を得たのは上出来とも言える。しかし、誰もが「ベトナムが最下位」と予想し、そのとおりの結果になって、決して本大会を夢見ることができる状態ではなかったことも確かだった。

パク・ハンソ前監督は、つい先日、ベトナム北部・バクニン省のクラブ・バクニンFCのアドバイザーに就任することが発表された。これまでにも既に、その名を冠した子ども向けのサッカースクールの顧問となることが発表されており、絶大な人気を背景に、ベトナムサッカー界に大きな影響力をもたらしている。

パク・ハンソ前監督こそが、日本でのハンス・オフト的な存在といえるのかもしれない。

しかし、パク前監督は、監督としてクラブを率いるような形でコミットしているわけではなく、あくまでアドバイザリーとして助言をする立場のようだ。バクニン省は、Samsungの巨大工場があるところで、韓国系のスポンサーを集めやすいという事情も大きいだろう。バクニンFCは、まだVリーグ3部でアマチュアとして活動している。その意味では、日本でハンス・オフトが担った歴史的役割とは様相を異にする。

ベトナムサッカーは、日本サッカーと同じような歴史を辿るわけではない。ただ、モノの見方としてパラレルに考える思考実験をするなら、ベトナムサッカーが置かれた状況は、まだハンス・オフト的存在が出ていない状況とも言える。パク前監督がそのような存在だったのか、それともフィリップ・トルシエがそういう存在になるのか。

今から1時間後、ベトナムにとって今回のアジアカップでの最後のゲームが始まる。AFC内でランキング7位とW杯出場圏内にいるイラクが相手。実際に昨年11月、W杯アジア2次予選でベトナムはイラクに負けている。トルシエ・ベトナムはどんな戦いを見せてくれるのだろうか。