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SUPPOSE DESIGN OFFICE / etc inc.吉田愛さんとの対談。改めて、日本の素晴らしさを考える。

今回は、SUPPOSE DESIGN OFFICE / etc inc.吉田愛さんとの対談の機会をいただきました。これまで、吉田愛さんの建築を体験させていただく中で、心地よさの中にもどこか背筋が伸びる、何とも言えない感覚があったのですが、その理由が今回の対談で分かりました。

伝統を重んじながらも新しいことに挑戦する。簡単なようで難しい取り組みを建築で表現されている愛さんとの対談はとても有意義で楽しい時間でした。ありがとうございました。

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今回の「the tea today」では、建築家の吉田愛さん(SUPPOSE DESIGN OFFICE / etc inc.)をお迎えしました。吉田さんにお話を伺いたかった理由は、日本茶と建築という一見異なる分野が、室町時代から今日に至るまで非常に密接な関係にあること、そして吉田さんが日本茶についてどのように感じているのか、その洞察に興味があったからです。高校時代に茶道部に所属していたという吉田さんと、新茶を楽しみながら現代における日本茶の可能性を探りました。最後までご覧ください。


吉田愛・ プロフィール
建築家 / 代表取締役
1974年広島生まれ。SUPPOSE DESIGN OFFICE Co.,Ltd.共同主宰。広島・東京の2ヵ所を拠点とし、インテリアから住宅、複合施設など国内外で多数のプロジェクトを手がける。JCDデザインアワードなど多数受賞。主な作品にNOT A HOTEL NASU、ONOMICHI U2、千駄ヶ谷駅前公衆トイレ、松本本箱など。近年では絶景不動産や社食堂等の新規事業のプロデュース・経営総括を担う。2021年、新たに空間プロデュースやインテリアスタイリングを事業の核とする「etc inc.」を設立。2023年、広島本社の移転を機に商業施設「猫屋町ビルヂング」の運営もスタートするなど事業の幅を広げている。建築を軸に分野を横断しながら活動している。


新原:吉田さんは普段からお茶は飲まれますか?


吉田:はい、飲みます。元スタッフから新原さんが手がけた樹脂製の急須(warenai)をプレゼントされ、東京の自宅で使っています。私は東京と鎌倉の二拠点生活を送っており、東京での暮らしはいつも慌ただしいので、あの急須は片付けが楽でとても便利です。ただ、鎌倉にいる時は少しゆとりがあるため、陶磁器製の急須でお茶を淹れることが多いですね。所作を楽しみながら、優雅な時間を過ごしています。


新原:ありがとうございます。環境に合わせて使い分けていらっしゃるのですね。今日は吉田さんに「新茶 2024」をご用意しました。今から淹れますね。


吉田:(茶葉の香りを嗅いで)とても良い香りがしますね。海苔のような深みも感じられます。では、いただきます。(お茶を飲んで)甘いですね。そして本当に美味しいです。これまでは日本茶は食事や和菓子の脇役だと思っていましたが、このお茶は主役になれます。それくらい美味しいです。



新原:ありがとうございます。「新茶 2024」は鹿児島でもトップクラスの茶葉です。


吉田:これくらい香りが良くて濃い味わいだと印象に残りますね。やはり日本では薄い緑茶がスタンダードなのでしょうか?


新原:まさにその通りです。多くの家庭ではお茶をさらに水で割ったようなものを飲んでいるのではないかと思います。日本ではお茶離れが進み、年間消費量が減っている一方で、輸出量は増加し、抹茶はインバウンドでも大人気です。「海外で日本茶が流行っている」という事実を広めた方が、国内でももっと普及するのではないかと思ってしまいます(笑)


吉田:最近は月に一度海外に行くのですが、日本で評価されていないものが海外で評価されていることがよくあります。先日もミラノとコペンハーゲンを訪れて、そのように感じました。家具や建築も日本茶と同様です。日本には素晴らしい技術やサービスがあるのにもったいないと感じます。


新原:おっしゃる通りです。現状を嘆いても仕方がないので、日本茶の素晴らしさを啓蒙するのが私の使命です。この魅力を知れば、もっと多くの人々が日本茶を楽しむようになると信じています。だからこそ、私は “お茶の民主化”を諦めたくなくて。


吉田:大衆向けの観点からも、日本茶を外で飲む機会が限られていますよね。「純喫茶」や「喫茶文化」という言葉がありますが、その「茶」は日本茶が主体ではないですから。日本茶をメインにした飲食店もありますが、どちらかというと敷居が高いイメージ。もともと茶室で飲まれていたことも影響しているのでしょうか?


新原:仰る通り、外出先でお茶を飲むとしたら、まずはペットボトルです。飲食店で言うと、現状では甘味処での脇役というポジションでしょうね。私も以前は外で日本茶が飲める機会を増やし、その文化を作ろうと躍起になっていました。しかし、今では自宅で飲むことを推奨し、日本茶を飲む習慣を普及させる方にシフトしました。吉田さんは学生時代に茶道部だったとお聞きしましたが、その経験や茶室という空間が、現在の建築やデザインにおいても影響していると感じますか?



吉田:私自身も年齢を重ねる中で、和の要素を求めるようになってきました。茶室は、光と影の使い方、素材の選び方、時間の経過を感じさせること、しつらえの美しさ、奇をてらわない潔さ、季節感や自然を最小限で表現する点など、質素でありながら小宇宙です。その精神には大きな影響を受けました。若い時は開口部が大きく、光がたくさん入る、思い切りのいいモダンな建築を好んでいましたが、今は逆です。薄暗い中から明るい外を見る方が光を感じられますし、闇があることで光の存在をより感じられます。直接的でないものが日本の美だと感じますし、それが私自身にもフィットしますね。


新原:ホームページを見た限りで恐縮ですが、近年のサポーズデザインオフィスの案件ですと、「千駄ヶ谷駅前公衆トイレ」のようなデザインですか?


吉田:あの建築もそうですね。最近、和の精神を感じさせる建築が海外のクライアントから求められることが増えています。スティーブ・ジョブスが禅の影響を受けていることも関係していると思いますが、華美なものよりも、ミニマルな中に精神性があることが重要。要素を削って引き立たせることを良しとしている傾向があると感じます。私たちも、伝統的な手法をそのまま用いるのではなく、ニュアンスや精神性を取り入れて、自分たちらしく編集し、その良さを現代に伝えていく必要があります。現代に即した打ち出しは、日本茶においても同じことが言えますよね。



新原:まさにです。


吉田:私が千利休を好きな理由は、彼がイノベーションを起こした点です。センス抜群で編集能力が高く、誰も使わなかった黒い茶碗を格好良さに変えたことで、彼が定義したことがその後の価値を大きく変えました。現代版の千利休がいれば、日本茶の世界も大きく変わるかもしれませんね。アウトプットにはまだまだ可能性があると思います。日本茶には多くの産地がありますが、それぞれの土地を知ることも大切ですよね。ワイナリーのように産地を訪ね、試飲と旅行を兼ねたコンテンツを作る。また、さまざまな産地の日本茶を一堂に集め、建築を通して全体の空気を楽しんでもらう。色んなアイデアが出てくると思います。


新原:ありがとうございます。私たちにもまだ多くの可能性があると感じています。今日の刺激を胸に、これからも活動に励んでいきます。吉田さん、本日はありがとうございました。



吉田愛さんとの対談で使用した道具はこちら。

他、知覧茶の記事はこちら。

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