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雨の日に降ってきたやさしさ

9月初旬、久しぶりの雨の日。保育園に息子を送った帰り道、レインウェアのフードを目深にして必死に自転車を漕いでいた。
家までの所要時間は10分ほどだが、しっかりと降る雨で顔はびしょ濡れになり視界も悪い。そろそろきつくなってきたな。でも家まであと200mだ、頑張ろうと思った、そのとき。

すみませーん。 

頭上からの声が聞こえる。

なんだろう。
数メートル行くとまた同じ声。

すみませーん。

ふと漕ぐスピードを緩めて横の車道をあおぐと、大きな大きなトラックの運転席から窓を開けて身を乗り出す運転手さんと目が合う。
声の主は彼だったようだ。
そして一言。
「袋、落としてますよー」

え!
振り返ると、自転車の後ろカゴにおいたはずの、レインウェアのカバーがなくなっていた。

雨の日は保育園バッグが濡れないようにと上に被せているカバー。
行きはしっかりバッグに挟み込んでいたものの、
中身を保育園に預けて軽くなったバッグの上にふわっと載せられただけのカバーは、簡単に風で飛んでいってしまったようだ。無事子どもを預けて気も緩くなっていたのだろう。

しまったー!お礼を言って大急ぎで自転車を漕ぎ元の道を戻るが、しばらく探してもカバーは見つからなかった。
でも、不思議とそこまで落胆はしなかった。

件のトラックが走っていたのは両側四車線の、結構な交通量がある大通り。
その横の歩道は比較的道幅があるので、私はそこを自転車で走っていたのだが、たまたま後ろカゴからカバーが飛んでいったのを、横を走る運転手さんが見てくれていたようだ。

大きなトラックの上から声かけてくれたことだけでも恐縮なのに、諦めずに何度か声かけをしてくれた。運転手さんの優しさに心が沁みた。

まだまだ暑さ残る晩夏、レインウェアの中は蒸し蒸しで汗と雨にまみれているのに、なぜだか気分は少し爽快だった。

〜カバーの行方〜
 「はい、これ」
夜、帰ってきた夫から渡されたのは朝失くしたと思っていたレインカバー。
近くの植え込みに引っかかっていたらしい。

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