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使いたくはない言葉たち〜ボタンは押させるものじゃない〜

「言語化」

それはデザイナーが好きな言葉ランキングのトップ3に入るのでは?というくらい、この界隈でよく使われる言葉である。

僕自身、弊社の最終面接にて「デザイナーに最も必要なスキルは何だと思う?」と聞かれて「言語化の力ですねっ」と即答している。それを受けた面接官の表情からも「こいつわかってんな」というニュアンスを感じたものである。

とにかくそれくらい、デザイナーには「言葉」にこだわる人がたくさんいると思っている。

デザインの本質は「課題解決」。だからこそ、どんな種類のデザイナーであれ「何のためにデザインしているのか?」を認識する必要があって、そのためには正確な言葉が必要になる。ニュアンスひとつで全然違う姿が現れてしまうので、言葉尻まで繊細に取り扱う。

言葉を生業にしているのは、何もコピーライターだけではないのだ。

えてしてデザイナーは、言葉にはこだわりを持ちがちであり、言ってしまえば「面倒くさい人たち」である。そんな僕も例に漏れずかなり面倒くさい。むしろ面倒くさいことを誇らしく思ったりもする。それはまるで終わらない中学2年生のごとく。

…そんなこんなで、僕には「その言葉は間違っちゃいないけれど気になるなあ」と感じる言葉シリーズがあって、今回はその中のいくつかを紹介してみようと思う。

デザイナーってこんな人もいるんだ…という興味津々さで読んでいただけると嬉しいし、同業の方はその面倒くささに共感してくれると、それはそれで嬉しい。

念のため申し添えしておくと、これはあくまで個人的に気になっているだけであって、その言葉を否定する意図は全くない。ポエムを読む感覚でお付き合いいただきたい。

僕が思う「この言葉は使いたくない3選」

ターゲット

これはもはやビジネス的には一般用語。だけど僕はあまり好きじゃない。

例文:
「このサービスのターゲットは10代の若者です」

何一つ変なことは言っていない。でも「ターゲット」って、まるで「射抜く」というか…「狙いを定めてドカーン!」というイメージを持ってしまう。なんだかユーザーに申し訳なくなるのだ。もちろん誰もそんなつもりで言ってないとはわかりつつ「的みたいに言うなよ」と人知れず思っている。

そこで、僕はよく「特に使って欲しい人たち」みたいな言い方をしている。だってそうでしょう。特にその人たちのことを思いながらせっせとサービスを作っているわけで。ターゲットという言葉を使わなくても全然やっていけるのだ。

…自分でも面倒くさいなあ、と思っている。だから許して欲しい。でもそんなことを思っている。

ちなみに同じような言葉として「刈り取る」も苦手だ。営業活動のクロージングで使われる言葉であるが、買ってくれる相手に対して「刈る」とは物騒すぎるだろう。

◯◯させる

面倒くさい劇場を進めよう。続きまして「◯◯させる」である。

例文:
「ボタンを押させる」「ログインさせる」「選ばせる」

特にデジタルのプロダクトを作る中で聞く言葉だ。これも僕は全然好きになれない。ユーザーのことを舐めているのか…という気持ちにすらなる。まるでコマじゃないか。

ボタンは押してもらうもので、ログインしてもらうもので、選んでもらうもの。強制も推奨もなく、ただただユーザーにとっての動機やきっかけがあるかどうかだ。

普段から新規サービスの開発に携わっている身としては言ってて辛いのだが、人は簡単には新しいことを試さないし、そのサービスを利用したとしてもすぐに離れてしまうし、継続利用なんて本当にしない。私たちデザイナーは脳みそを振り絞りながらそのための工夫を考え続ける日々である。

「◯◯させる」と言ってる人も、決して誰かをコマ扱いしている意図はないのだろう。ただし、その言い方には「甘さ」を感じてしまう。操り人形なんかじゃなく、めちゃくちゃ難しいのだ。ユーザーに動いてもらうってことは。

「言霊」だとかいうように、言葉は言ってしまったが最後、一人歩きするものだ。だからこそ慎重に取り扱いたいな、なんて思う。そういえばドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』の中に「言葉にしてしまうと、感情が言葉に上書きされてしまう気がして」というようなセリフがあったことも今思い出した。

リソース

まだまだいきましょう。

これは自分でも「気にしすぎかな?」と思うのだが、この際いいや…言っちゃうと「リソース」って言葉もあまり使いたくはない。

例文:
「どれくらいのリソースが必要ですか?」
「◯◯さん、この作業やれますか?リソース的に大丈夫そうなら」

誰かにタスクをお願いするときや、逆にお願いされる時に使われる言葉が「リソース」。もちろんそれは「人」「物」「金」を指す概念なのだから何も間違っちゃいない。

でも、でもですよ。

誰かにお願いごとをするときに、その言葉を使うことによって、相手を資源扱いしているような気分になってしまう。その相手は人間だし、クライアントであれ社内のメンバーであれ、同じチームで頑張っている人間だ。わざわざ無機質な言い方をしなくても良かろう。

しかも純粋な資源ならば、数が増えれば増えるだけ仕事もこなせるのだろうが、こちとら人間である。3人加われば3倍のタスクをこなせるわけでもない。そもそもが資源っぽくない存在だと、僕は思う。

…これは本当に面倒くさいなと自分でも思うのだが、僕は言い換えとして「時間と脳みそ」だとか言っている。「◯◯さん、時間と脳みそ的に大丈夫そうなら、この作業もお願いできますか?」といった具合だ。大丈夫かどうか怪しいのは僕の方かもしれない。

でも、だって人間だもの。時間があっても、他に集中しているタスクがあるのなら今は追加のお願いごとはしない方がいいかもしれない。そんなことを考えるのは僕が人間で、相手のことを考えようとしているからである。

同僚にも聞いてみた「自分は使わない言葉3選」

「こんな記事を書いてるよ〜」という、いわば「僕は面倒だアピール」を同僚にしたところ「だったら自分は◯◯って言葉ですね」なんていうレスがすぐに返ってきた。

なんだ、やっぱりみんな最高じゃん。

ということで、そんな愛すべき同僚たちの「自分は使わない言葉」をいくつかピックアップしてみたいと思う。

巻き取る

さっそく出てきたのは「巻き取る」である。

例文:
「そのタスク、巻き取ってくれませんか?」
「巻き取るね」

この同僚曰く、巻き取るも何も「分配してるだけじゃないか!」とのこと。

僕は正直なところ、この言葉を使っていたので「ああ、なるほどねえ」なんてすっとぼけてみせた。でも確かに「巻き取る」って、ちょっと偉そうな言い方だな。言わんとすることはとてもわかったので気をつけようと思う。

刺さる

どんどんいこう。かなりいい調子だ。

例文:
「その機能は、このペルソナには刺さるかもしれませんね」

これは懺悔したい。僕もけっこう使っている言葉だけれど、冷静にみてみると「”刺す”なんて失礼すぎるだろうが」である。「そのペルソナには使ってもらえるかもしれませんね」で良いじゃないか。

あるいは「ニーズ」という意味合いを強めるなら「そのペルソナには響くかもしれませんね」である。何にせよ刺す必要はない。

握る

最後に登場するのが「握る」である。

例文:
「クライアントと握る」
「その話は◯◯ということで握っている」

つまりは「合意する」みたいな意味だ。

思わずその同僚に「でもさ、握手するって意味なら、握るでもよくない?」と聞いてみた。しかし「”握り潰す”みたいなトーンを感じる」とのこと。それはそれでそうだな、なんて思った。

ようこそ、愛すべき面倒な人たちのいる世界へ

自分で書いていてもだんだん面白くなってきたし、同僚に聞いてみても「うわー面倒くさいな」と笑ってしまった。

しかし、自分にも同僚にも共通しているのは、「そんなことどうでもいいやん」と言いたくなるくらい言葉に気を遣っていることだ。デザイナーは言語化が命。生命線だからこそ、そこへのセンサーは常時ON。

言葉の意味として合ってる・合ってないだけでなく「ふさわしいかどうか」が重要なのだ。それは厳しくも俗人的な基準だからこそ、人それぞれで面白い。

皆さんにもどうか面白がっていただけたら本望である。そして共感してくれたそこのあなた、やっぱりちょっと話しましょう。皆さんの「こんな言葉は使いたくない」を聞いてみたい。デザイナーたるもの、こだわってナンボで、そんな言葉のこだわりにこそ人間性は宿るはず。なんてそれっぽいことを言ってこのコラムを締めたいと思う。ごきげんよう。


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