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オールドファッション

40代前半の取締役が自身の思想が時代遅れだと気付き、若者に売る為に若者にプロジェクトを任せる、そんなようなドキュメンタリーを見た。

それを素直に受け取れない自分は、いわゆる老害というものに既に足を踏み入れているのだろう。

しかし、自分がその"若者"だった頃から時代の進む方向に違和感を感じていたので、天性の老害なのかもしれない。

「言っておきますけれどね。私はこれで一切仕事やめるつもりじゃないんです。おばあちゃんのような生き方は私にはとてもできないわ。私は私の人生を生きるし、おばあちゃんだからといって私にもまいにも自分の生き方を押し付けることはできないはずよ」

おばあちゃんは寂しそうに微笑んだ。

「確かにもうオールド・ファッションなのかもしれませんね」
梨木香歩 西の魔女が死んだ

先祖や土地と繋がって生きていた時代は、人生の節々で数世代先の事を考える瞬間があったことだろう。

今はあまり心惹かれないかもしれない。けれどいつかきっと分かってもらえると思う。結果的にこれは君たちの為になる。

ひとつの行動の長期的影響を体感的に理解できている、(若者と比べ)長期的視点を持っている年長者が、短絡的なウケを狙って、そういう提案をできなくなってしまったら…

そもそもが大人が作り上げた消費のステージ、その消費が正解という枠の中での自由。若者がもし、もう消費を止めようと声を上げたならそれでもGOサインを出すだろうか。そういう違和感を感じたのだ。(ビジネス系ドキュメンタリーにそういう視点を持ち込むのがお門違いなのだが)

宇宙船ボイジャーは、未だかつて人の手の入ったものが踏み込んだことのない宇宙空間を航行中。

ただ一人、ずっと律儀にリポートし続ける、自分の見たものを。

地球がなくなったって、彼はずっと通信を試みようとする。

誰も受け取り手のいない場所へ、『正しく』受信する相手のいない場所へと、

分かっていても発信し続けざるを得ない、そういう切実さを抱えて。

『ボイジャー』は私にとって、ずっとすいう半擬人化された孤独の『記号』だったのだ。
梨木香歩 水辺にて

全世界と常に繋がっている状態。未だかつて人が踏み込んだことのない領域への境界線を跨いだ現在の私たち。

生まれてからずっと、繋がっていない状態を知らない若者たちとは大きな溝があるだろう。

『正しく』受信する相手のいない場所へと、分かっていても発信し続けざるを得ない。

見渡せば、腐敗した社会構造や、それは老害と言われても仕方がないな、と思う事は沢山ある。私にもきっとその要素はある。それでも。自分の見てきたものをリポートし続けたい。

「確かにもうオールド・ファッションなのかもしれませんね」

そう思いながらも。老害の図々しさを持って。

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