人生が二度あれば

♪ 父は今年八月で 七一 〜 ♪ とくら。

私は、もうすぐ実家を出る。
もう決めたことだけど、夜になるたび迷う。

理由はたったひとつ。
父を、ひとりにしてしまうこと。

私は、正直言って父のこと、あまり好きではない。
好きでこんなにも長く、一緒に暮らしているわけではない。

思春期のころには、
「早くひとり暮らしがしたい」
「自由になりたい」
なんて、人並みに夢見ていたりした。

それでも、父が建てたこの家。
家族5人、柴犬のゴン、亀3匹ともに暮らした家。
5人がいたのはほんの短い時間だったけど、悲しいことのほうが多かったけど、
それでも、いくつかの幸せな思い出が染みついたこの家。

その家に、父を置いていく。

自分が建てた家で、ひとりきりで暮らすって、
そんな寂しいことってあるかな。

いつもそれを想像してしまって、ずっと家を出られなかった。
いつまでも「手がかかる娘」を演じることが、親孝行になるような気がして。

だけど、いよいよここにいては叶わない夢を見つけてしまって、私はもうすぐこの家を出ていく。

父は「好きにしろ」としか言わない。
いつも、それしか言わない。

私はずっと考えてきた。
父をひとりにしないために、やりたいことをあきらめる人生。
父をひとりにしてでも、やりたいことをやる人生。

親孝行ってなんだろう。
父はどちらを望むだろうか。

悩むまでもなく、父は後者を望む人だ。

そんなこと分かりきっている私は、結局、父の存在を言い訳にしていたのかもしれない。

私はたぶん、
大事なときに、
いつか永遠に会えなくなるときに、
父のそばにいられないことが怖い。
その瞬間に、父をひとりにすることも、怖い。
後悔をしたくない。

父はきっと、なかなかしぶとく生きてくれると思う。

それでも、命なんて簡単に消えるってことを、私は二度も知ってしまった。

ありがとうもバイバイも言えない。
それどころか、ひどい言葉と態度を投げ捨てたままでも、永遠の別れはある日突然、容赦なくやってくる。

後悔しないために、これまでずっとそばにいたのに、
置いていっていいのかな。
いつか、悲しいことが起こってしまわないだろうか。

何度も何度も考える。

父のためじゃなく、自分のため。
自分が悲しまないため、後悔しないために、ずっとずっと考えている。

それでも夢を見つけてしまったから、
私はもうすぐ家を出ていく。
この決断を後悔しないように、頑張って生きていく。
毎晩、そう決意して目を閉じる。

けれど、
5人で住むにも広すぎたこの家で、
あのころよりもずっとずっと老いた父がひとり暮らすのかと思うと、

せめて母が生きていてくれたらと、願わずにはいられない。

自分勝手だけど、今ほどそう願ったことはない。

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80年代生まれのライター/隠れ作業療法士/エンタメ系コラム、インタビュー、タウン誌を中心に執筆/noteはエンタメを自由に語る場所/著書『なぜ90年代J-POPはあんなにアツかったのか?』(電子書籍)70's、80's、90'sオタク。映画、音楽、舞台、漫画を広く深く。

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