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鉄さびの話

身の回りにある鉄。その性質を知ることは、生活の知恵でもあります。建築材料から日用品にいたるさまざまな物が鉄でできています。日本に古来からある南部鉄器やキャンプで活躍するダッチオーブンなど。ただし、鉄はその性質からうっかりするとすぐに錆びてしまいます。そこで、不思議な鉄の性質を知ることでその対処方法を学んでいきたいと思います。

黒サビの話
キャンプ用品に使われるダッチオーブンは、正しい使い方をすると長年使っていても錆びません。なぜでしょうか?ダッチオーブンの使い方は、料理が終わったあとにお湯で綺麗に洗い、油を塗って、煙がでるくらいまで火にかける。次に料理を始めるときに、熱して油を塗って料理をする。これの繰り返しで、黒くさらさらの表面が保たれます。これは、鉄サビの一種である四酸化三鉄という物質によって鉄が保護されているからです。サビには、進行するサビと、進行しないサビの二種類があります。黒サビは進行しないサビ、赤サビは進行するサビです。

では、ダッチオーブンの表面で何がおこっているのか、考察していきましょう。油を塗って、火で焼き付ける。ダッチオーブンは鉄です。油の主成分は炭素です。鉄と炭素を一緒に熱することで、ダッチオーブンの表面に四酸化三鉄。つまり黒サビの皮膜ができます。四酸化三鉄はそれ以上サビが進行しませんが、小さな穴が空いている構造のため、油を塗って保護します。そして、使い込んだダッチオーブンはそれを繰り返していますから、四酸化三鉄の層に覆われた大変丈夫な調理器具となるわけです。使い込まれたブラックポットの完成です。

ダッチオーブンは手入れを繰り返し、四酸化三鉄の層をつくりあげる


赤サビの話
様々な姿を見せる鉄、その鉄の本来の姿とはどういう姿なのでしょうか?じつは、自然界で鉄の安定状態は「赤サビ」です。そうです。あのボロボロになってしまう赤サビが、じつは鉄の安定状態なのです。ですから、鉄はほっておくと、酸化して安定状態に戻ろうとするのです。赤サビは三酸化二鉄といいます。

製鉄
鉄の原料となる鉄鉱石の中には鉄が安定した赤サビの状態で存在します。その赤サビ状態の鉄を、純鉄にもどすのが、製鉄です。製鉄は、鉄鉱石とコークスを幾重にも重ねて高温の火で熱します。そうです。ここでも鉄と炭素が登場します。すると、いくつかの化学反応ののちに、純鉄(Fe)が出来上がります。その化学反応のうち、一つ目に起こる反応が、赤さびを黒さび化することなのです。三酸化二鉄+一酸化炭素→四酸化三鉄です。(ちなみに、一酸化炭素は炭素を酸素と一緒に熱することで発生しますから同時に生成されます。)とすると、錆びてしまったフライパンやダッチオーブンも、油を塗って火で焼き付けると復活させることができることがわかります。

もう一つの黒サビ
鉄にはさらに不思議な形があります。赤さびである三酸化二鉄の形態違いです。少し難しくなりますが、私たちが見ているいわゆる赤サビは α(アルファ)-Fe2O3、別名ヘマタイト。これの形態違いにγ(ガンマ)-Fe2O3、別名マグへマイトがあります。このマグへマイトが、もう一つの黒サビです。
岩手の名産で鉄瓶で有名な南部鉄器があります。最初につくられた時には四酸化三鉄の皮膜がつけられていますが、手入れを怠ると錆びてしまいます。しかし、お湯を沸かすための鉄瓶はダッチオーブンのように油をつかうことができません。そこで、鉄瓶が錆びてしまったら、茶殻を沸かし、一晩おきます。これで赤錆はなくなります。さて、何がおきているのでしょうか。

じつは、お茶の成分のタンニンが作用しています。赤さびにタンニンが触れると、同じ三酸化二鉄でも形態が変化して、もうひとつの黒サビと化し、それ以上錆びなくなります。ただし、この黒サビは熱に弱い性質があり強い火力で熱するとたちまち赤さびに戻ってしまいます。ですから鉄瓶の空焚きは禁物です。
身の回りで赤さびをみつけたら、茶殻をすりつけてみてください。赤サビはすぐに黒サビへと変化します。これを応用した商品に、自動車部品用の「赤錆転換防錆剤」というものがあります。これは、タンニンと透明なアクリル塗料が混ぜられており、赤さびを黒さび化し、同時に透明な塗膜をつくり、そこを守ります。もちろん、これは調理器具や熱をもつ場所には使えませんが、自動車部品以外でもベランダや外部などでサビを見つけたときにとても役にたちます。少量で販売されていますから気になるサビがあったら試してみてはいかがでしょうか。

金属の不思議な性質
もうひとつ、サビの話でとても不思議なことがあります。
亜鉛メッキという言葉を聞いたことがあるかもしれません。建築の手すりや外部の雨がかかるところに使われます。これは、鉄に亜鉛のメッキをつけて錆びにくくしたものです。鉄を保護しているだけと思われがちですが、もうひとつ亜鉛には大切な役割があるのです。鉄と亜鉛が接していると、亜鉛の方が先に錆びて、なんと鉄が錆びにくくなるのです。そして、錆びやすい亜鉛を塗装など表面処理をすることで、長年そのままの状態が保たれるというわけです。これは、「金属のイオン化傾向」の差を使ったテクニックです。イオン化傾向の大きい金属と小さい金属を触れさせておくと、イオン化傾向の大きい金属から錆びていきます。そこで、鉄をなるべく錆びさせないためには、イオン化傾向の大きい金属、亜鉛、アルミ などを触れさせておくことで、錆びにくくすることができます。以前、ビンテージカーの下に亜鉛板を貼って本体を錆びにくくしている人の動画をみたことがあります。すぐに錆びてしまう鉄製品にアルミホイルをくっつけておくだけでも効果があるはずです。

と、ここまで書いて気づいた事があります。
南部鉄器の鉄瓶は、内側に水垢をつけて内部のサビを防ぎます。白い水垢、その正体は水道水に含まれるカルシウムやマグネシウムです。そう、ここでもイオン化傾向の差によって鉄がさびにくくなっているのです。

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