自己紹介、関心ごと(主に研究の話)


専門分野は臨床心理学、心理療法論、カウンセリング心理学で、特にユージン・ジェンドリン博士の考案した「フォーカシング(focusing)」の実践や理論の研究をしています。稀にカメラのレンズとかフォーカス技術の研究開発をしていると勘違いされます (写真は見るのも撮るのも好きです)。

フォーカシングは、フェルトセンス(felt sense)と呼ばれる曖昧で有意味な身体感覚を生かして、自身の問題や状況をより理解する方法です。カウンセリングの効果研究を背景に考案されたものですが、カウンセリング場面に限らず、どのような人でも、日常の中でも活用できるセルフヘルプ・セルフケアの技法としても利用できます。

ユージン・ジェンドリン(Eugene Gendlin)という人は、1926年にオーストリアのウィーンでユダヤ系の家系に生まれ、ヨーロッパの戦火を避けて幼少期に渡米。シカゴ大学に学び、同大で教員もしていました。博士論文を含む彼の専門分野は哲学(現象学やプラグマティズム)ですが、カウンセリングの研究で著名なカール・ロジャーズと共同研究を行っていました。そのため、これまで臨床心理学・人間性心理学分野で著名で、2019年に逝去されるまで、晩年も精力的に研究活動を続けていました。彼の哲学分野に関する書籍や論文集も没後相次いで刊行されています。

これまでに多数の学会からの受賞歴がありますが、2021年、アメリカ心理学会(APA)よりLIFETIME ACHIEVEMENT AWARD(生涯に渡る業績を称える、いわゆる特別功労賞)がジェンドリンに授与されました。

僕は大学に入ってからフォーカシングというものに出会いました。もともと心理学にも哲学にもどちらにも関心があり、どちらも学べそうな大学の学部を選んで進学していたぐらいなので、哲学者が作った心理療法の技法、そして身体性を重視した彼の思想自体にも強く惹かれたのでした。

広くメンタルヘルスのための技法、ある種の自己啓発法として、ジェンドリンの『フォーカシング』(1981)という小さな書籍は、数多くの言語に翻訳され、さまざまな国や地域で読まれています。その後『フォーカシング指向心理療法』という名称で、さらに臨床場面の応用的に展開されています。これは、心理療法にフォーカシングのエッセンスを生かすということだけでなく、数多ある心理療法の技法を統合するために、フォーカシングという視点の活用を提案するものでもあります。

フォーカシングと心理療法に関しては、学部ゼミ以来お世話になっている恩師の先生や研究室の関係者で執筆した『傾聴・心理臨床学アップデートとフォーカシング』(ナカニシヤ出版)で、自分の研究テーマの1つである「心理療法とメタファー」に関する一章を執筆しています。

臨床場面でのフォーカシングの活用は、これまでもこれからも重要なトピックです。一方で、僕自身はかねてから、どうすればより多くの人に、それもなるべくなら、普段カウンセリングというものにアクセスしづらい、より広範な人に対して、どうすればフォーカシングのエッセンスをお届けできるのか、元々のフォーカシングが有していた一般的な利用方法にも関心を持ってきました。

特に、フォーカシングが持つ創造性を引き出すためのトリガーとして、「言葉遊び」や「なぞなぞ」が持つ創造性に注目しています。
ジェンドリンの言語に関する理論的な知見を参照しながら、フォーカシングとなぞかけを融合させた「なぞかけフォーカシング」と技法を開発しました。これは、なぞなぞやなぞかけをして遊ぶように、楽しみながら自分の身体感覚という「謎」を探究するレッスンをするワークです。

こちらは先程ご紹介した書籍のほかに、一般の方でも楽しめるフォーカシングのワーク集『フォーカシングはみんなのもの』(創元社)にも収録されています。

学部や大学院でも、主として心理臨床分野での教育を受けてきましたが、学部時代から哲学や宗教学、文化論、教育学、特に「身体論」に関する分野をご専門とする先生方から直接学ぶ機会に恵まれました。

身体論の観点から、フォーカシングでも重視されている身体性アクセスを促すための「仕組み」や、我々の身体が有する潜在的な機能をより賦活化させるための環境との関わりにも関心を持って研究や実践に取り組んでいます。

特に、現代美術家、建築家として著名な荒川修作+マドリン・ギンズに関する研究プロジェクトの一貫で刊行された研究所『22世紀の荒川修作+マドリン・ギンズ 天命反転する経験と身体』(フィルムアート社)にも、ジェンドリンと荒川+ギンズについての論考「臨床的手続き」としての建築とその使用法ージェンドリンと荒川+ギンズー」が収録されていいます。

最近では、日常場面でも時として私たちが遭遇しうる「勘(hunch)」という奇妙な現象、特に南極や極寒の雪山などの極限状況において見受けられる冒険家や山岳ガイドの特異的な身体感覚に注目した「山岳ガイドの身体性〜勘の分析試論」(関西大学東西学術研究所紀要 第54輯)という論文を書きました。

心理臨床実践や日常でのフォーカシングという技法の活用方法はもちろん、それを支える身体性や環境への関わりなど、幅広く心身の健康について関心を持っています。


文献情報

池見陽 (編著) (2016).『傾聴・心理臨床学アップデートとフォーカシング』ナカニシヤ出版.

三村尚彦・門林岳史 (編) (2019).『 22世紀の荒川修作+マドリン・ギンズ 天命反転する経験と身体』 フィルムアート社.

村山正治 (監) 日笠摩子・堀尾直美・小坂淑子・高瀬健一 (編) (2013).『フォーカシングはみんなのもの:コミュニティが元気になる31の方法』 創元社.

岡村心平 (2021). 山岳ガイドの身体性 : 「勘」の分析試論 関西大学東西学術研究所紀要 第54輯, p.201-221

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