本木晋平

鍼灸師/保育士/JAPAN MENSA(メンサ)会員/IQ149(WAIS-Ⅲ)/実用…

本木晋平

鍼灸師/保育士/JAPAN MENSA(メンサ)会員/IQ149(WAIS-Ⅲ)/実用イタリア語検定3級/AEAJ認定アロマテラピーインストラクター/趣味は芸術鑑賞、読書、小説執筆(2019年神戸新聞文芸年間賞(小説・エッセー部門)受賞)、スイーツめぐり

最近の記事

【ショートエッセー 神戸新聞文芸202409】復習で青春を ※落選作

 母校の同窓会主催の講演会に出かけた。この手の講演会に出るのは初めてだったが、それは、講演者が大学時代のクラスメートだったからだ。配属された研究室も同じ無機化学だったから、なおのことである。ある国立大学の教授になっていて、研究室の同期では出世頭である。  一方、大学を卒業してから二十六年、流れ流れて今は鍼灸師をしているわたしは、すっかり化学の素人になってしまっている。情けないことだが、今、母校の大学入試を解かせたらほとんどできない自信がある。卒後の化学との関わりは、せいぜ

    • 【小説 神戸新聞文芸202409】生きがいと言われても ※落選作

       今津吉正が、俳句仲間の島本国雄の顔色が悪くなっているのに気づいたのは、俳句結社「銀の雲」の七月の句会のときだった。選句のときに明らかに覇気がなく、集中していないのが伝わるのか、隣の神経質そうな句会仲間の女性が国雄を流し目で見ながら顔を顰めている。その顔には指紋見てないで俳句見ろよと書いてあった。   はじめは句作のスランプ中かと思った。あるいは梅雨どきの蒸し暑さで体がやられているのかと思った。  句が選ばれても、益体もないという表情を浮かべたまま、庭園に無造作に置かれて

      • 【小説】はじめての願いごと 〜さばえ近松文学賞 恋話(KOIBANA)RETURNS2 落選作〜

         明治の終わり頃の話である。小学校を卒業したきよは鯖江の織物工場で働き始めた。鯖江の特産品である石田縞は人気が高まる一方で、織物工場は多くの働き手を必要としていた。  きよは石田縞も工場で働くことも好きだった。自分が働いている工場の製品でなくても、これはと思う石田縞は熱心に研究した。工場に出向いて端切れを分けてもらうこともあった。  それだけに、きよは自分の不器用な手が恨めしかった。何をやらせても他の織工より時間がかかった。四年目になるのに、後から入ってきた織工にさえ抜か

        • 【ショートエッセー 神戸新聞文芸202407】教養はソップのように ※落選作

           鶏鍋とちゃんこ鍋の違いは何かと訊かれて当惑したことがある。調べても具材や作り方に明確な違いはなさそうである。相撲部屋によっては鶏肉以外の畜肉やシーフードも入ったちゃんこ鍋を作るところもあるようだが、それは家庭で作る鶏鍋についても言えることで、「鶏が入っている鍋」だからと言って「鶏しか使ってはいけない」わけではない。結局、作り手が一般人か力士かどうかの違いでしかないのだろう。  個人的に好きなのは、鶏がらでとっただしに、醤油ベースに調味して、さらに具材を入れて煮る「ソップ炊

        【ショートエッセー 神戸新聞文芸202409】復習で青春を ※落選作

        • 【小説 神戸新聞文芸202409】生きがいと言われても ※落選作

        • 【小説】はじめての願いごと 〜さばえ近松文学賞 恋話(KOIBANA)RETURNS2 落選作〜

        • 【ショートエッセー 神戸新聞文芸202407】教養はソップのように ※落選作

          【小説 神戸新聞文芸202407】ある道徳教科書の話 ※落選作

           タイトル:Pさんの歴史教科書  学習目標:揺るぎない信念、よい生活習慣の継続、不屈の精神の大切さを理解する  Pさんは子どもの頃から歴史、特に日本史が大好きでした。お父さんが大変な歴史好きで、週末や夏休みにPさんを全国の名城や博物館に連れて行ったことも影響していたのでしょう。歴史の成績が特に優秀だったPさんは、学校の先生から、君は日本を代表する歴史学者になるだろう、ひとびとの心のよりどころとなる本を書くだろうと言われました。  大学を卒業した後、Pさんは会社員として働

          【小説 神戸新聞文芸202407】ある道徳教科書の話 ※落選作

          【小説 神戸新聞文芸202405】豆苗育て ※落選作

           キシヤマさん、だいぶ変わっているからと介護施設の同僚から話は聞いていたが、別の介護施設でも働いたことがあるわたしはそれほど気にも留めなかった。 「豆苗ばかり育てているの。いっそ、豆苗専門の農家になればいいのにと思うくらい」 「ベランダにプランターを置いてハーブを育てているひととか結構いるけれど。アボカドを育てるひともいるし」 「いやいや、そういうレベルじゃないから。百聞は一見に如かず。キシヤマさんの家に行けば分かる。すごいんだから」  利用者のプロフィールや直近数ヶ

          【小説 神戸新聞文芸202405】豆苗育て ※落選作

          【入選】ショートエッセー(3枚)「神戸人形と吉田太郎さんのこと」が神戸新聞文芸に入選・全文掲載されました。

          神戸新聞文芸 (神戸新聞 2024/5/20月付朝刊 14面読者文芸欄)で ショートエッセー(3枚) 「神戸人形と吉田太郎さんのこと」 が入選・全文掲載されました。 神戸新聞に散文が掲載されるのは5年ぶり(2019年1月に小説「ピーマン祭り」が入選・掲載)、エッセーでは初となります。 選者の三浦暁子先生、ありがとうございます。 ★神戸人形の作者・吉田太郎さんへの追悼文として書きました。廃絶していた「神戸人形」を復興させた吉田太郎さんの偉業は、絶対に、絶対に語り継がれるべ

          【入選】ショートエッセー(3枚)「神戸人形と吉田太郎さんのこと」が神戸新聞文芸に入選・全文掲載されました。

          【エッセイ】文学賞に落選したときに確認したいこと

          学校では絶対に教えてくれないことの一つは間違いなく 世の中には「選ばれし者」がいる 世の中には「注目されやすいひと」がいる だと思う。 学校で教えないのは、この種の「残酷な真実」を言ってしまうと誰も勉強しなくなるからである。 わたしが思いつく「選ばれし者」「注目されやすいひと」のひとりはさくらももこ氏である。彼女は小学生の頃からよくコンクールに入選し、賞状をたくさんもらっていたらしい。まさに生まれながらのクリエイター、物書きである。 そうでなくても、文学賞、文芸祭、

          【エッセイ】文学賞に落選したときに確認したいこと

          【エッセイ】『複合汚染』の宿題 〜第1回有吉佐和子文学賞落選作 応募総数2077〜

          『複合汚染』の宿題   和歌山が生んだ有吉佐和子の代表作は何かと訊かれたら、迷わず『複合汚染』と答える。  初めて読んだのは大学生のときだった。理系で化学を専攻していた身には、農薬や防腐剤、着色料や中性洗剤などの乱用と、それを容認する社会を糾弾する『複合汚染』は新鮮だったが、もう少し科学を信頼してほしいと思わないでもなかった。科学や文明の産物である化学物質が自然と生活を破壊するというなら、その化学物質の毒性を軽減させたり、より毒性の低い化学物質を開発したりすることで、破

          【エッセイ】『複合汚染』の宿題 〜第1回有吉佐和子文学賞落選作 応募総数2077〜

          【ショートエッセー 神戸新聞文芸202403】白菜のように ※落選作

           寒くなると白菜が出回る。大好きな野菜というわけではないが、体を温める鍋料理や煮込み料理をする機会が増えると自然と白菜の出番が増える。  白菜が入るとボリュームが増すし、ビタミン類や食物繊維も豊富で体調が整う気がする。それに、だしを吸った白菜は美味しい。そのときどきの旨みを吸って蓄えた白菜は、白菜自身が持っているかすかな甘みも加わって、他の野菜では得られない満足感を与えてくれる。何より、旬のものを食べているという感覚が好きだ。冬の恵み、凝縮された冬の良さそのものをいただくあ

          【ショートエッセー 神戸新聞文芸202403】白菜のように ※落選作

          【小説 神戸新聞文芸202403】除夜の鐘の音数え ※落選作(選外佳作)

           あと数時間もすれば音もなく年が変わる頃に除夜の鐘が鳴り始めた。  除夜の鐘は煩悩の数の分、百八回鳴らされると言われていて、そうであれば当然百八回聞こえるはずでる。もっとも、実際に百八回鳴ったか確認したことはない。三十秒ごとに鐘が鳴るとすると、百八回目を聞くまで一時間近くかかる。一時間も鐘の音に集中する能力を持ち合わせていないわたしには無理な話だ。一時間も集中できないから大したことも成し遂げられなかったかと思う一方、集中力をそういうことに使うのも集中力の無駄遣いではないかと

          【小説 神戸新聞文芸202403】除夜の鐘の音数え ※落選作(選外佳作)

          【短編小説 原稿用紙15枚】スモモの木で一羽の鳥が 〜藤井佯「故郷喪失アンソロジー」落選作〜

           いっそ雪になればいいのにと思う、冷たい雨の降る晩だった。  残業を終えて勤め先からアパートに帰ってきたヨウイチが郵便受けを検めると、クリーニング店や新興宗教やデリバリーピザのフライヤーに混じって、高校の同窓会案内の封書が入っていた。  ヨウイチは初めて見る封書だけ鞄に収め、濡れたフライヤーを握ったまま、部屋のある三階まで用心しいしい階段を上っていった。  濡れた階段に足を取られそうになる。靴の買い替え時だと思う。  十一時半になろうとしている。食べずに寝る方が体にいいのは分

          【短編小説 原稿用紙15枚】スモモの木で一羽の鳥が 〜藤井佯「故郷喪失アンソロジー」落選作〜

          【追悼】神戸人形の作者・吉田太郎さんのこと。

          先ほど  吉田太郎さんが亡くなったお知らせがスマホに来ました。 吉田太郎さんは神戸人形の製作者であると同時に、「伝道者」でした。 彼が書いた『神戸人形賛歌 よみがえるお化けたち』(吉田太郎 著、神戸新聞総合出版センター、2021)は、神戸人形の歴史と魅力ーー神戸の文化の豊かさを伝える出色の書です。 わたしと神戸人形との出会いは、kiitoで催されていた人形の展覧会「TOY&DOLL COLLECTION」。 https://japan-toy-museum.org/a

          【追悼】神戸人形の作者・吉田太郎さんのこと。

          【ショートエッセー 神戸新聞文芸202401】筆は選ぶもの ※落選作

           二十歳のとき、成人祝いで父から万年筆をもらった。まったく親不孝なことだけれど、父がくれた万年筆はわたしの手に馴染まなかった上、二年もしないうちにペン先が割れてしまったので、そのまま捨ててしまった。現在愛用している万年筆は、四半世紀前、当時東京の日本橋にあった丸善の文房具売り場で買った万年筆である。会社員になって初めての冬のボーナスで買うこともあって、購入前に何度も書き味を試したことを覚えている。 万年筆に限らず筆記用具はこだわる。鉛筆やシャープペンシルは使わない。基本は万年

          【ショートエッセー 神戸新聞文芸202401】筆は選ぶもの ※落選作

          【小説 神戸新聞文芸 202401】イロハモミジの栞 ※落選作(選外佳作)

           恒例の古本まつりで買った古本の一冊に見覚えのある栞が挟まれているのを見て、ケンタの時間が止まった。 ケンタが十代の頃、恋人のユウコに贈った手製の栞だった。 電車を乗り継いで行ったデパートの文具売り場で売っていた手漉きの厚手の和紙に、紅葉の名所で知られる古刹の庭園に落ちていたイロハモミジの紅葉を押し花にしたのを乗せてラミネート加工した。 栞違いということはない。自分が作ってユウコに渡した栞と同じだ。 この本はユウコが読んだのだろうか。ユウコも読んだのだろうか。それとも、挟んで

          【小説 神戸新聞文芸 202401】イロハモミジの栞 ※落選作(選外佳作)

          鳴かず飛ばずの一年

          2023年は鳴かず飛ばずでした。 大殺界だったからかもしれません。 小説はまったくヒットせず。 特に北日本文学賞、明石市文芸祭が全滅というのが精神的にこたえました。 北日本文学賞は来年もチャレンジしようと思います。半年なんて割りとすぐ来ます。今のうちに題材を考えないと。 鳴かず飛ばずと言えば、エッセーも落選ばかりでした。 考えてみれば、文芸コンクールで入選しようと思うこと自体、自分には大それたことなのでしょう。 #今年のふり返り

          鳴かず飛ばずの一年