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サウナの脳への効果

ここ3~4年でサウナが空前のブームになっており、「ととのう」という言葉が2021年のユーキャン新語・流行語大賞」にノミネートされるほどに認知度が広まりました。

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かくいう私も温泉が大好きなので月に4~5回程度時間を見つけては行っていましたが最近では仕事終わりに”ととのう”目的で銭湯に立ち寄ることも増え、徐々に「サウナ―」と自称したくなるような自己意識が芽生えてきています。(まだまだ玄人レベルに達しはしませんが)

ととのった時には、仕事の嫌なことがどうでもよくなるというか、無条件で前向きにとらえられるポジティブ精神が得られますよね。

さて、ある意味ドラッグ感覚に近い「ととのう」という言葉や感覚が、なぜここまで人々を魅了し市民権を得たのか。「ととのう」は身体にどのような恩恵を与えてくれるのかについて今回は生理学的・脳科学的・心理学的な観点を含めながらお話していきたいと思います。

そもそも「ととのう」の定義とは?

サウナ好きなら誰もが知っている日本最大のサウナ検索サイト「サウナイキタイ」の公式ページによると、「ととのう」という状態は以下のように表現されています。

「ととのう」とは、サウナセッションを習慣的に行った先に待つ「心身が調律された状態」である

ここでいう「サウナセッション」とは
①サウナで身体を温める
②水風呂で身体を冷やす
③外気浴でチルする
という3種類のタスクを一通り行うことをいいますが、とはいえ「心身が調律された状態」なんてすごく抽象的過ぎてよくわからないですよね。

「ととのう」に到達するまでのプロセスは分かっても、どういう状態が「ととのう」なのかはなかなか言語化して表現するのは難しく答え合わせがしづらいという点があります。

言うなれば、この苦行を3~4回程度繰り返した者のみが到達できる秘境の「ゾーン状態」という感じでしょうか。
くらくらしてるけど気持ちいい なんていう言い方もあるけど多分これは体験してみないと腑に落ちないと思います。

ととのうが身体に与える作用 - 生理学的観点-

感覚的な表現だけではなく、「ととのう」をもう少し生理学的に説明してみましょう。「ととのう」までのプロセスで身体の中では交感神経と副交感神経という自律神経が、まるで電気のON/OFFスイッチのようにパチパチと交互に入れ替わっています。

【自律神経のざっくりの説明】
交感神経:ストレスがかかって身体が戦闘態勢になると優位になる自律神経
副交感神経:リラックス等、身体が非戦闘態勢になると優位になる自律神経

具体的にサウナセッションの中で身体的な変化がどのように起きているか以下にイラストを載せてみましたので参考にしてみてください。

①サウナに入りたてはリラックスから始まる
②サウナに入ってしばらくすると身体が戦闘態勢に入る
③水風呂に火合っている時も寒冷ストレスで身体が戦闘態勢になる
④外気浴で身体がリラックス状態になり、①~④を繰り返すとととのう

外気浴の時には、交感神経が優位だったころに発生した興奮ホルモンがまだ血中に残っており、リラックス状態と興奮が絶妙なバランスで共存している状態と言えます。これを3回ほど繰り返すとその先の「ととのう」という境地に達することが出来ます。

また、①~④のセッションを繰り返すことで、血管も収縮したり拡張したりしながら血管の柔軟性を得られるので、だんだんと汗をかきやすくなったりサウナ効果が効率よく得られるようになります。

「ととのう」の脳への作用  - 脳科学的な観点-

実は脳科学の世界でも、サウナでととのうことが認知症の予防に効果があるということを検証する大きなプロジェクトが実施されています。*1

具体的にはフィンランドで健康な男女13,994⼈(30〜69歳)を対象としてサウナの利用習慣のアンケートを取り、その後39年間にわたって追跡調査をしたという壮大な調査があります。

その結果的、39年間の追跡調査中に13,994人中、合計1805⼈の認知症患者が診断されたうち、サウナの利用習慣が多い人は少ない人と比べて認知症になるリスクが少ないという統計結果になりました。

統計結果を日本語訳 (by 筆者)

もちろん認知症になる要因としてサウナの利用習慣以外にも、
・体重 
・体脂肪
・習慣的なアルコールの摂取量
・喫煙習慣
・余暇の過ごし方
などなどいくつもの説明変数はあるのですが、そういったものをある程度考慮したうえでの結果になっています。

簡単に結果をダイジェストとしてまとめると、以下になります。

・1か月のサウナ利用回数が9~12回の人は、月に4回未満の人と比べて認知症リスクが0.81倍低い

・サウナのセッション回数や時間がある程度多い人は、認知症リスクが低い
(注:多ければ多いという結論にはならない)

・高すぎるサウナ温度は逆効果で、認知症リスクが高まる。

サウナ大好きフィンランド人がどの程度サウナ利用をしているかというデータも面白いですが、それ以上に興味深かったのはサウナ温度が高すぎると逆効果だということです、、、

100度以上のサウナ自体あまり見かけることは少ないですが、個人的には熱いのが大好きなので高温度サウナがある場合は確実に利用していました。。今後はもう少し健康を考えて、適度な熱量のサウナを選んでいこうかなと思います。

また他の論文*2 でもサウナで火照った身体が通常体温に戻る過程で脳の神経回路が強化され、視覚課題でのパフォーマンスが上がるということが分かっています。

なぜサウナは日本で流行るのか -心理学的観点-

最後に、なぜ昔から銭湯にあるサウナが”今”になってここまで爆発的に流行ったかを(あくまで個人的な考察ですが)心理的な観点でいうと

修行への憧れ、自己顕示欲を満たせるから というのがが大きいからではないか?と考えています。

どういうことかというと、日本人には禅の宗教観があり、心を整えるための座禅という文化があります。
最近は若い人の間で増えてきている「修行」に対する憧れを実現するための滝行やお百度参り、護摩行などが体験できるツアープランなども増えてきていますが、サウナはこれらの修行に比べて費用や手間の観点でかなり実践のハードルが低いということがあります。

またある意味で苦行とも言えるサウナを楽しんでいる自分自身に酔いしれ、そこに自分らしさを感じることで自己肯定感が高まる心理が働きます。

「自分の趣味はサウナです」という風に外部にアピールする人が多いのは、自分はこんなツラいことにもチャレンジし耐えられる、というある種の自己顕示欲の表れとして気軽にアピールできる最高の話題だからなのではないかと考えてます。

まとめ

いずれにせよ、サウナは心理的にも生理学的にも脳科学的にも健康的な意味で確実に貢献していると思います。

温浴の文化はフィンランドのサウナ、韓国のチムジルバン、日本のととのうサウナそれぞれ楽しみ方も違えばルールも違うことでしょう。

「ととのう」という状態はある意味、修行好きの日本人がたどり着いて言語化に成功した境地ですし、是非この「ととのう」の習慣がもっと広がって「健康大国」としての日本に姿に繋がっていけばいいなと思います。

------------------------------以下参考文献---------------------------------

*1:  https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/02656736.2018.1504992

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