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【エッセイ】自転車日本一周記7

北海道は広かった


さて、いよいよ北海道の話をしよう。日本一周で一番思い出に残ったのはどこ? そう聞かれることは多くある。そして答えるのは北海道だ。
様々な旅人が目指す場所。歩く人も自転車の人もバイクの人も車の人も。一度は北海道を一周したいと思ったことがあるはずだ。

実際何人もの旅人にあった。その手段も目的も様々だったように思う。
そんな北海道の話をこれから数回に分けてしよう。

どこから話をしようかちょっとだけ悩んだ。
実は、宿に泊まったのはこの北海道だけの話だ。それも3回。その話からしようと思う。

だいたいだ。野宿にもだいぶ慣れてきていて、北海道に入ったばかりの函館では通り過ぎる若者にこんなところで寝てるよ。と言われても平気だったくらいである。
そんな生活が板についていたのにも関わらず宿に泊まったのだから、大体はトラブルが原因である。
最初は襟裳岬(北海道の下に飛び出しているとんがったところ)を通り過ぎた辺り。おっと、北海道は左回りをしたんだ。外を大きくぐるっと。だから函館から苫小牧を経てぐっと南に下っていった。そこから襟裳岬を越えて北上し始めた頃の話だ。

そもそもだ。北海道は寒かった。雪は積もっていた。それに加えて太陽が顔を出さない日が何日も続いた。結局3週間くらいかかった道のりで太陽の下を走ることが出来たのは3分の1くらいだ。

それでも毎日まっすぐな道をひた走るのは嫌いではなかった。苦痛ではあったし、先の見えない道と言うのを始めて経験した身としては不安も大きかった。なにせ町と町の距離が半端じゃない。
看板に100キロ先にイオンがある表示があったら、イオンどころか町がない。途中で人里があればマシで本当に100キロなにもなかったこともある。

まあそれはいい。それより。薄暗かった雲から雨が降り始めたのがその襟裳岬を越えた頃だったのだ。あまりの寒さに死ぬと思った。北海道と言えばライダーズハウス(旅人のための雑魚寝が出来る宿)だけれど、その辺りには調べた限りなかった。どうしようかさんざん悩んだ結果素泊まりの宿をとることにした。ビショビショで突然飛び込んだにも関わらず何も言わずに泊めてくれた。素泊まりなのでご飯もでないが久しぶりの屋内での睡眠だった。スマホの充電を気兼ねなくできるというのも久しぶりの体験だったのでとりあえず現状報告をした記憶がある。

そんな時だった。本当に珍しく電話が鳴った。
画面を見ると大学の先輩。日本一周をすることは知らせていた。だから心配して連絡をしてきてくれたのかもしれないと思った。

『結婚式出てくれるよな』

寝耳に水。
聞けば8月の半ばだという。正直、8月いっぱいは帰るつもりはなかったのである。それが大きく予定が変わった瞬間でもあった。ま、いいんだけどさ。結婚式楽しかったし。

それが一回目。

そして二回目はついに雪が本格的に降ってきたからだった。
いつものように東屋を見つけて寝袋を敷いて寝る準備を整えたのは網走。寒いなぁとは思っていたが、それはもう慣れたものだった。でも、雪が降り始めて風に舞って顔に落ちてくるのを理解した時。そこで寝るのを諦めた。

近くにライダーズハウスがあるのを見つけそこに駆け込んだ。ほかに誰もおらず。言葉少なく。「そこで寝ていいから」そう言われただけ。
気まずいままに眠りについたのを覚えている。
それに朝起きてだれも居なくて。声を掛けたのだけれど、誰も出てくる気配もなかったから手紙だけを残して出てきた記憶もある。ずいぶんと適当なものである。繁忙期だったら違ったんだろうなと思ったのは3度目の宿泊の事だ。

稚内。最北端の地でライダーズハウスに泊まろうと決めたのは記念の意味が強かった。せっかくここまで来たのだから。そう思った。
まあ、ここはにぎやかなおばちゃんが相手をしてくれた。前もって電話してくれなきゃいなかったかもしれないよと笑っていた。
夏は人がたくさんで寝る場所もないくらいなんだけどね。そう写真を見せてくれ、普通に一緒にテレビなんかを見ていた。
すると、そのライダーズハウスの玄関がノックされた。おばちゃんも首をかしげていたから予定のない来客だったのは分かる。
そして、現れたのは同じ時期に同じように日本一周を目指していた人だった。年齢も近い、よくわからない目的もおんなじ、そんなふたりが。たまたま、稚内で出会うなんて運命じみた出来事が起きたのだ。だって、前後の日には誰も泊まりに来ていないんだ。運命って言ったって過言じゃないと思うよ。
いろんな話をしたような気がするのだけれど、あんまり記憶には残っていない。連絡先も交換しなければ名乗りもしなかった気がする。ただ同志に会えたことをただ喜び。その場の空気に酔いしれた。
また、周っている間にどこかで会えたら面白いね。なんて別れ方をしたが結局、会うことはなかったな。

そんな北海道の宿泊の思い出だ。

長くなるからいったん区切るけれど。北海道の話はまだまだ続く。
次は、北海道で出会ったいろんな人の話をしようと思う。


納沙布岬


お土産屋さんで見たTシャツ 旅立つ前に欲しかった


みんな写真にとる場所


最北端のライダーハウス

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