見出し画像

【エッセイ】自転車日本一周記16

沖縄上陸!

沖縄上陸の前にだ。フェリーの中の話をしよう。片道24時間の船旅だ。そして時間を潰す方法は限られている。とりあえず甲板に出てジャグリングの練習をした。揺れるし、落としたら帰ってくるはずはないのでそれも怖かった。そして暗くなるのも早かったから早々に中に戻った。あっという間に本島は見えなくなったし他に人も甲板にはいなかった。

旅人は自分を含めて3人。バイクのちょっと年上のお兄さんと、自転車のおじいさん。おじいさんはなんだか距離を取られて会話も禄にしなかっった。お兄さんと仲良くなった。バイクで日本を周っているのだと聞いた。たしか33歳。日本一周するなら最後のチャンス。そう言っていた。
余談だけど。旅をしていて会ったことのない世代はいない。10代から60代までみんないた。多分年齢はあんまり関係ない。30代から50代は代償が大きいだけだと思う。

話を戻そう。
フェリーの中、バイクのお兄さんと話が盛り上がる中。手に入れたばかりの物を取り出した。鹿児島でお試しでもらったカードゲームだ。これをふたりで何度か遊びながら盛り上がったし、十分な暇つぶし道具になった。そんなつもりで入手したわけじゃなかったのに。どう役立つか、わからないものだ。
フェリーの中は雑魚寝。やることもないからほとんどの人が寝ていた。途中いくつかの島に停留しながら沖縄本島に辿り着いたときには船旅は飽き飽きするほどにはなっていた。バイクのお兄さんがいなかったら結構苦痛だったと思うよ。

沖縄にだどり着いて、結局一周することになった。南に行ってからぐるっと北に向かって反時計回りに一周した。一旦、ジャグリングサークルに顔を出して次回の練習日を聞いてそれに合わせてぐるりとした。
北へ行けば行くほど人気はなくなるし、休憩する場所もなくトイレを探して必死に漕ぎ続けたり。スコールに何度もあい、その度にあっという間に乾く服を見て困惑したり。あまりにも食べるものにありつけなくて小さな売店みたいなものを見つけてポテチを買って食べた。
途中でヤンバルクイナを見かけたりもした。車で行くと音で逃げちゃうらしいけど、自転車だと気づかれないからその辺りにひょこひょこ歩いていた。

ああ。思い出した。ひとつ思いもしない自転車トラブルがあった。
サドルを止めているボトルが折れたのだ。バキっと音がして。おしりが宙に浮いた。
慌てて自転車屋に飛び込んだけど。そこは沖縄。そんなネジはない。ホームセンターへ行ってみたらどうだ。と親切に案内された。結局自分で、それっぽいボルトとネジを買ってとりあえず止めた。ほんととりあえずだ。ま、これで一応最後までもった。

そしてぐるりと回った先でジャグリングサークルの練習会に参加し30人ほどいる集団に圧倒され。その実力に気圧された。

途中で、18歳の大学入学を一年遅らせて自転車で旅する若者に会った。同じ時期に南に下った彼はまだ沖縄にいた。あれだ。日本一周の看板を実際に背負って旅するやつだ。いろんな人に恵まれ、ごちそうになり、助けられながら旅していたと聞いた。石垣島に二週間いたとも言っていた。自分との差が大きすぎて面白かったよ。同じ日本一周すると言ってもいろんなスタイルがある。どれがいいとかどれが悪いとかは知ったことではない。やりたいようにやればいいと思う。
そんな彼だが三角のカバンを自転車の前後ろに付けて完璧装備だったのだが。実家に送ろうと思うと言っていたよ。日本は恵まれている。そんなに荷物は必要ないんだよ。そのときばかりはそうだよなぁと思った。

台風が近づいてくる中。臨時で動いたフェリーに乗って本州へと戻った。結局一週間ほどの滞在だ。狭い沖縄。どこかで会えるかもなと別れたバイクのお兄さんには会えなかった。
そんなもんだよなぁと思いながら台風の影響で2、3人しか乗っていなかったフェリーの中はちょっとだけ寂しく思えたんだ。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?