下山田志帆/Shimo Shiho
エースを止めるか、ナプキンを止めるか…アスリートと生理の付き合い方を考えてみた。
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エースを止めるか、ナプキンを止めるか…アスリートと生理の付き合い方を考えてみた。

下山田志帆/Shimo Shiho


あれは大学4年の夏の事だった。

自分が所属していた女子サッカー部のリーグ戦。

ちょっと走るだけで汗がだらだらに流れるような蒸し暑い日で、前日の雨の影響もあってか湿ったグランドからの熱気が凄まじい。そんな日だった。

当時、センターバックというディフェンスのポジションを担っていたのだが、試合内容はかなり押されていて、相手エースを中心に攻め込んでくる相手の攻撃をとにかく必死になって守っていた事を覚えている。

確かその瞬間も、相手エースが得意のドリブルでこちらのゴール前に侵入してきた時だった。スルスルと相手を交わしてゴール前に迫るエース。あと1人味方が抜かれたら、自分が対応しないとやられるな。そう感じ、エースを止めるべく集中力をグッとあげる。いよいよ、味方がスルリとかわされ自分との1対1となった。さあ、どうやってヤツを止めようか。そんな時。

股の間を、何かグニュっとしたモノが突然動いた。

そして、それがスルリと股の間から下へと落ちていく。


「生理用ナプキンだ。」


一瞬で察した。

股の間で固定されていたはずのナプキンが、重力のままに股の間から足を伝って下に向かっているのを感じた。

「やばい、このままだとナプキンが落ちる…!」

切り込んでくるエースと、下に落ちるナプキン、どっちを止めるべきか。絶体絶命且つ初めてのシチュエーションに、私の頭はパニック寸前だった。


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女性と生理


女性の身体にとっては切っても切り離せない生理。

1ヶ月に1回はやってきて、時にはお腹の痛みを引き起こし、時にはイライラが止まらなくなり、時には信じられないくらいの食欲をよこしたりする。

生理用品にかかるお金だってバカにならないし、なんかもう、生理がアタリマエにやってくる現実が許せなくなったりもする。それでも、毎月訪れるこの時間とどう付き合っていくかは、女性の身体を持つものとして考えなくてはいけないことなのである。

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アスリートの生理との付き合い方


生理との付き合い方。

それはアスリートにとっては、また違った次元の話になってくる。

普段、生活している分には、生理との付き合い方をコントロールしていくことは可能だ。血が漏れても目立たない洋服を着たり、自分のタイミングでトイレに駆け込むことも可能だろう。

だけれども、スポーツをしている時、特にチームスポーツのアスリートにとってはコントロールもクソもない。むしろ、競技をしている時間はチームにその時間をコントロールされている立場になる。トレーニングや試合の時、「あ、ナプキン変えてきます!」なんて抜け出すことはほぼ不可能だし、ユニフォームを血が目立たない色のものに自分だけ履き替えることは許されない。


そのような制約がある中で、パフォーマンスを落とさずしてどのように生理と向き合うのか。女性の身体をもつものであり、アスリートでもあることで、「生理との向き合い方」という課題が2つに増えているのである。


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エースを止めて、ナプキンも止める


生理用ナプキンを落としそうになったその瞬間。

私の右手はとっさにずれ落ちているナプキンを抑え、私の左足はエースの足元にあるボールに伸びていた。

足に引っかかったボールは運よく味方の足元に転がっていき、ナプキンは完全に落ちることなくズボンの中でぐちゃぐちゃになっていた。

一旦、ボールが外に蹴られたことを確認した後、ぐちゃぐちゃのナプキンをズボンに手を突っ込んで引っ張り出し、くるくるに丸め、ゴール脇に投げ捨てた。かわいそうに、私のチームのキーパーは、その試合中私のナプキンの間近でプレーすることになったのだが、とりあえずは危機を逃れたのである。


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アスリートと生理用ナプキンの相性


ナプキンなんてそんな落とすことないだろうに、大げさな。

そんな風に思われたかもしれないが、汗まみれになった下半身や、水たまりにスライディングした後など、吸着力を失ったナプキンというのはかなり危うい状態になる。日常的にズボンが絞れるほど汗をかく人なんてなかなかいないだろうし、水たまりにダイブする人なんてもっといないだろう。

そんな基準で作られている生理用ナプキンは、アスリートにとっては非常に相性が悪い。

雨の日の練習後、グランドにポツンと落ちている白い物体を見つけ大爆笑したことも何度かあった。(中・高生というのはこうゆうネタが面白くて仕方なかったりするわけです)

ナプキンを落とす落とさないまではいかなくとも、汗で蒸れ、量が多い日用のナプキンのかさばりにイライラする経験をしたアスリートは少なくないはずだ。


生理がなければ、いつも通りプレーできるのに。


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生理がこないことを"本気で"願うアスリート


アスリートと生理に関して、ちょっと違った視点から描いてみたい。

生理がこなければいいのに。
生理がなければ、いつも通りプレーできるのに。

そんなことを、ある意味"本気で"願っているアスリート達がいる。


トランスジェンダーのアスリート達。


なんで女性の体なんだろう。なんで男性には生理がこないのに自分にはくるんだろう。アスリートとしてのモヤモヤに加え、そんなモヤモヤを抱えながら彼らもまた生理と付き合っている。

練習や試合の前後、同じロッカールームで着替えをすることはスタンダードだ。皆がワイワイと着替える中で、ナプキンを握ってトイレに向かう姿をみられることが嫌だったり、トイレまで行けたとしてもナプキンを剥がすペリペリ音を聞かれることが苦痛なアスリートもいる。

アスリートの枠を外していうのであれば、薬局で生理用品コーナーの前にたち、可愛らしいデザインの中から自分のナプキンを選択しなければいけない現実はトランスジェンダーにとって直視したくないシュチュエーションだったりする。


いかにして生理と向き合わずに、付き合っていくか。それは、トランスジェンダーのアスリートが考えなくてはならない大きな課題なのである。


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付き合い方の選択肢を増やしていこう


一昔前まで(なんなら今でも)、女性アスリートに生理はいらない、なんて主張がまかり通っていたという。

生理がこないほど絞られた身体が、アスリートとして相応しいというわけだ。

けれど、時代は過ぎ、生理がとまったアスリートが身体を壊したり、精神的な不調に見舞われたり、引退後に生理不順や不妊に悩んだりすることにスポットが当たるようになった。そして、「アスリートがどのように生理と付き合うか」の議題の重要性は、ジワジワと広まってきている。


現役アスリートであり、生理用ナプキンに例の一件でトラウマを抱えた私は、最近タンポンという新たな選択肢を見つけた。ナプキンよりも格段に楽ではあるけれど、いろんな意味でなんとも言えない気持ちになることは間違いない。(メンズのみんな、察してくれ。)

もっとアスリートが生理と楽に付き合えないのだろうか。トランスジェンダー のアスリートが生理と向き合う瞬間を減らすことはできないだろうか。

そんな想いを抱えモヤモヤしていた時、Twitterをペラペラと見ていたらとある生理用品の記事を見つけた。

履くだけで生理用品の代わりになるというパンツが世の中にあるという。漏れることもほとんどなく、履いているだけで大丈夫だという。なにそれ。パンツ履いてるだけでいいとか最強かよ。

ただ、そのデザインをみたときに、純粋に自分は履けないな。そう思った。

カッコいいデザインのパンツを好む自分にとって、股のスレスレを晒すことになるショーツ型、しかもレースや肌色のパンツはどうしても履こうという気持ちにはならなかったのだ。

でも、履きたい。

生理との付き合い方、変えてみたい。


というわけで、アスリートの生理問題に新たな選択肢を生むべく、女性らしいデザインから一旦離れたデザインを有するパンツを開発することになった。

今はまだ、どんなパンツがアスリートファーストになるのかを探っているところで、だからこそアスリートのリアルな意見を必要としている。

アスリートと生理の付き合い方に、新たな選択肢を生むために。女性の身体をもっていたとしても、いかなる時も、どんなセクシャリティでも、女性スポーツ界のアスリートが思い切りプレーをできるように。


アスリートのみなさん、一緒に生理用パンツつくってみませんか?


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下山田志帆/Shimo Shiho
女子サッカー選手です。同性のパートナーとほっこり暮らしています。ノーノーマルな社会を目指しています。生き方を模索するあなたを肯定し続ける人でありたいです。