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なぜ10代の女の子はシングルマザーとなり、再び学ぶことが難しくなるのか、アラジは未来をどう変えるのか。

下里です!

さて、先日…

若年妊娠により退学を強いられた女の子【あと50人】に人生を変えるチャンスを届ける【100人の月額寄付サポーター】を募集しています!

というマンスリーファンディング(5/5~5/31の27日間の挑戦)をはじめました。アラジが2021年3月からはじめた新事業拡大のためのクラウドファンディングです。

このnoteでは、この事業立案のきかっけや、実際にどのようにプログラムマネジメントしているのか、今後アップデートされていくべき懸念点等を、まとめるために、書いています。

比較的、実務的な内容になっておりますので、ただただ、長いです。「国際協力」の「実践」にご関心のある方には、読んで面白い文章となっているかもしれません。

目次は以下となります。


若年妊娠問題を取巻く文化的・社会的背景

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シエラレオネの社会的・文化的な背景として、女の子が早く結婚すること、そして1年以内に出産すること、その後も子どもを多く産むことは、一般的でした。しかし、この考えは徐々に過去のものになりつつあります。

UNICEFは、40%の女子が18歳になる前に出産していると2015年のレポートで報告、また、シエラレオネ政府も文書「National Strategy for the reduction of Adolescent Pregnancy Sierra Leone」において、29%の女子が、妊娠により退学していることを、大幅に懸念しています。

懸念理由は大きく分けて以下の2点です

(1)平均寿命を下げる、高い出産リスク

出産は、全世界共通で、女性の人生の中で、最大のリスクです。

骨盤の発達していない10代の出産は、陣痛を長引かせ、命がけです。10代の女の子の死亡原因の一位は「出産」です。特に、シエラレオネにおいては「世界で最もお産の危険な国」と揶揄されることもあるほど。現にシエラレオネにおける妊産婦死亡率は常にワースト3位付近をうろうろとしており、その死亡の根本原因は、長引く出産の大量出血であると言われています。(自分も長男出産の時に、出血多量で、命がけでした)

医療現場の物的・人的リソース不足は深刻で、農村部では病院まで歩いて2・3時間というところも珍しくありませんから、多くは自宅出産となります。日本では、3分1の妊産婦が帝王切開手術で出産していますが、高リスク出産である10代の女の子が自宅で出産を迎えることが、どれだけの恐怖か想像を絶するものがあります。

10代のお母さんが出産に挑むとき、赤ちゃんの死産率は高まり、お母さんの妊産婦死亡率、さらに出産の後遺症「産科フィスチュラ」の発症率も高くなってしまうのです。「産科フィスチュラ」については詳しくは過去に書いた別記事「あなたが出産の後遺症で、社会から差別され断絶されるとしたら?」をご覧ください。

(2)教育を受けた後に享受できる、あらゆる機会からの断絶

若年出産した女の子の8割は、妊娠したことを後悔しています。

若年妊娠は、女の子の鬱や自殺・自傷の原因になるばかりではなく、HIV-AIDSの罹患や、家庭内暴力にも相関関係があります。また、教育機会から断絶されることで、その後の女性の経済進出を非常に困難にしていきます。

後述「アラジが変える未来」にも述べていきますが、女性の社会進出は、今後の経済発展には不可欠な要素です。

具体的な法/政策改正の歴史

そのような背景から立て続けに、以下の2つの法律/政策の改正・施行が行われました。

(1)2007年:早婚の禁止令

シエラレオネは非常に伝統的な社会で、信仰の多くが女性差別的です。11年間の内戦を経験し、初等教育を完了していない世代の識字率は約3割と言われており、書面の理解を必要とする法律婚は農村部に浸透していません。

女性が伝統的な結婚をするとき、多くは両親が決めた年上の男性と結婚することで、男性家族は持参金を受け取ることになります。農村部の貧困家庭において、早婚は大きな経済効果をもたらすものと考えられており、2010年代には、約5割の少女が18歳までに児童婚を経験していたと言われています。

しかし現在、国際社会では、児童婚は完全なる女性への権利侵害であるとことはご周知の通りです。シエラレオネ政府は2007年には、伝統的な結婚をする際には、双方が18歳以上であることを条件付けしています。(※しかし、この法律は双方の親の同意があれば16歳で結婚できることになっており、今後の法改正が課題となっています)

2016年の国連文書「 Sustainable Development Goals: The 2030 Agenda for Sustainable Development - Advanced Draft Report on Adaption of the Goals in Sierra Leone」でも、2030年のSDGsゴール達成目標年までに、シエラレオネにおける児童婚の撲滅を掲げています。

早婚における法改正についてここまでは比較的、よい動き方なように思えますが、問題は次です。

(2)2015年:妊娠中・または出産した女子生徒の通学禁止令

2015年という年は、エボラ禍の真っただ中で、学校機関は長期的に閉鎖されることを余儀なくされました。そのため、若年妊娠が大幅に増加することとなります。学校または両親からの不十分な性教育、コンドームへのアクセスの難しさ、経済的困窮によりセックスワークを余儀なくされた子、望まない妊娠の理由は様々です。

そこで、政府は女子児童の妊娠中は、通学をしてはならない、という政策を決定します。妊娠した女の子だけを100%悪とする、みせしめのような差別的政策は、予想通り国際社会から大バッシングを受けることとなります。(特に、アムネスティ・インターナショナルはこの法改正を大批判していました)

後に、2019年の12月に西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS:Economic Community of West African States)の司法裁判所での可決を得て、2020年には、この政策は撤廃されることとなります。試行期間は5年間でしたが、社会的なスティグマが形成されるにたやすい期間であったのは言うまでもありません。

国民の8割がラジオ放送で情報を取得している現在、国民の意識醸成は素早く、2019年に禁止令が撤廃された際に、アラジがポートロコ県マケレ村・ンボロ村の住民約600名に世帯調査を実施したところ、「10代の妊娠は恥ずかしいこと」「自分の妹のように思っている子たちが、10代で妊娠するなんてみじめ」「大人になってからでは、恥ずかしくて学校には通えなくなる」「村に一番必要なことは、充分な学校設備」という返答がおよそ90%を占める結果となりました。

伝統的な学びや慣習よりも、経済活動に積極的に参加するための現代教育の重要性は徐々に強く認識されています。

禁止令が撤廃された後も、若年妊娠自体が地域でのいじめや陰口の対象となることから、過去の禁止令が現在でも女の子たちが学校に戻ることを非常に困難にしています。

若年妊娠女子復学支援について

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シエラレオネの10人に3人、29%の女生徒が妊娠により中退しているという事実は、国際協力業界全体で、コロナ禍により教育支援が下火になっている現在、忘れてはならない課題だと考えています。

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私たちは、月約2,000円を、特に経済的に厳しい状況に置かれている、シングルマザーと赤ちゃんへの教育費と養育費をセットにした奨学金として、女の子が中学校を卒業するまでの4~5年間、毎月給付するというプログラムを今年の3月からスタートさせました。現在5月の時点で実際に7名の女の子が小学校6年生から再スタートしており、今期は56名の女子復学を目指しています。

ちなみに、支援事業の正式名称は、日本語だと「若年妊娠女子復学支援」で現場では「Teenage Mother Scholarship Program C1」となっています。

※他にも、毎月の奨学金給付支援に関してはProgramA1-A2/ ProgramB1が現在稼働していますが、最も経済的に困難な状況に陥る全ての人(多くはシングルマザー家庭/里親家庭など、パターン化されます)が、比較的どんな年齢・家族構成であっても、一時的な現金給付によりサポートすることができるプログラム構成になっており、わが国の生活保護制度を参考としています。

但し、私たちと受益者が契約に至るまでには、女の子と赤ちゃん、そして赤ちゃんの養育者に課する様々な制限があります。最初のヒアリング項目は50項目以上に上りますが、絶対的に求める条件としては以下の19個です。

Beneficiary criteria for starting support:Program C1
The beneficiary satisfies all of the following conditions

1. Teenage mother under 20 years old.
2 .Unfinished education up tp JSS3.
3. Teenage mothers have one baby.
6. Does not have a family that they have to care for.
7. Has a willingness to go back to public education.
8. Her family agrees with her return to public education.
9. The school where she is considering re-enrolment is within walking distance of 1 hour from her family home.
10. She has a prospect of re-enrolling in school before one month will have passed since the start of support.
11. She can visit the office with her baby once a month to report recent conditions and receive money.
12. She is not married.
13. She does not live with a person who made her pregnant.
14. The person who made her pregnant has abandoned financial responsibility.
15. She can accept ADP taking pictures of  her and her baby, and introducing pictures to use for the Japanese Web page to collect more funds.
16. Her baby is over 7 months old.
17. Her baby can inoculate from a baby bottle.
18. Her family can support to take care of her baby.
19. She has a good relationship with their baby

様々なケースに陥る受益者にとって、使用されやすいプログラムスペックにしていく必要があることが、今後の課題です。

現在2021年3月からプログラムがはじまり2か月が経過しましたが、例えば、今後のアップデートの必要性としては、母親が母乳を調整し学校に戻るために、現段階での授乳を1日何度までに抑えておく必要があるのかは、赤ちゃんが哺乳瓶を吸啜できるかどうかの大きな判断材料になるため、ヒアリング項目に追加することを検討しています。

また、赤ちゃんが2人以上いる場合でもサポートを受け入れるのか、完全に赤ちゃんの面倒を見られる家族がいない場合、保育園代金(相場:月約4,000円前後)を追加支給するのか、地域に保育園がない場合、ベビーシッター代金(相場:月約6,000円前後)をさらに追加支給するのか、などの事業スペックの拡大は、今後さらに現場で求められていくことと考えています。

また、母親が赤ちゃんに虐待をしており、学校に通学していない場合、ただこのサポートを停止するだけではいいというわけにはいかず、連携する児童養護施設ときちんと連携をとることも求められており、現在月に一度の理事会を通し、現場と調整しながら、プログラムをアップデートし続けています。

※外部非公開情報のcondition4 とcondition5については、受益者候補の虚偽の申告を防ぐために、インターネット上に公開してはならず、スタッフ間でのみ共有されることとなっております。

※受益者は契約上、広報ファンドレイジングのための写真撮影に同意しておりますが、受益者の個人情報漏洩を防ぐために、受益者の本名、支援に至るまでのストーリー、写真は、同じ場所に掲載してはいけないこととなっています。

現場では、以下の2名のスタッフが主に業務を分担しておりまして、非常に助かっております。

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プログラムの契約は1月1日~6月30日と7月1日~12月31日の2度の更新手続きがあり、更新する月1か月前までの毎月のモニタリングによって、今後のサポートの有無を決定していきます。契約は、受益者が通学している間に赤ちゃんのお世話をする家族1名も同時に行います。

通常3月・5月・6月・7月・8月・9月・10月・11月・1月・2月は、受益者が赤ちゃんと一緒に現地オフィスに訪問しモニタリング、現金給付を行います。長期休みの重なる4月と12月には、現地スタッフが、受益者宅に家庭訪問を実施します。

受益者はどこから来るのか

NPO法人アラジの現地団体ADP Japanは、Civil Society Organizations' Committee East、Human Rights Committee Eastなどのメンバーであり、現地スタッフのPidiaが、毎週ケネマ県、バシスでのミーティングに参加しております。

この地域のローカルNGOや行政のミーティングの場で、私たちの契約条件に一致しそうな、支援対象候補となる10代の母親の情報が共有されます。現地スタッフのPidiaが、コミュニティのリーダーやチーフ(首長)、連携する市民社会組織のメンバーと協力し、実際に地域に訪問し、シングルマザーに対して、家庭訪問を行います。(シエラレオネは、建国前かつては首長国として栄え、現在でも5州16県170以上のチーフダムからなります)

ケネマ県オフィス周辺のSamai towm community, Burma section community, Bomboma vilpageの3つが主な活動地域であり、家庭訪問の後には、実際に最初のヒアリングのため赤ちゃん、日中赤ちゃんのお世話ができる人、10代の母親に、アラジ現地オフィスに訪問してもらいます。

ヒアリングは、女性スタッフのKadiatuが担当します。50以上のヒアリング結果をもとに、日本事務局で受益者を選定、契約書を発行し、再び、現地オフィスで支援契約を結びます。最初の給付金で女の子は、新しい制服・バック・文房具などを準備し、母乳の量を調整していきます。赤ちゃんは、哺乳瓶でミルクを飲む練習をします。

現地スタッフのPidiaが教育省や学校関係者と連携し、復学登録を行い、次月からは、赤ちゃんの養育費と10代の母親の教育費として、奨学金が支給されます。毎月のモニタリングはスタッフのKadiatuが行っています。モニタリングでは、世帯月収や家族の人数状況、学校の出席日数、健康状態など、約15の質問と、5種類の写真撮影に応じることを、受益者と約束しています。

若年妊娠女子復学支援の立案のきっかけ

そもそもプログラム立案のきっかけを聞かれるときに「下里さんもお二人の子育てを経験されて…」と言われることもあるのですが…自分が立て続けに年子を出産し、1歳2歳の育児に翻弄されていることは、今回のプログラム立案には、全く関係がありません。

本来、求められている支援ニーズを、自分の個人的な経験やトラウマに基づいて、事業として立案することは、現場では相応しくありません。

(しかし、受益者が実際に教育現場に戻るときの条件として、赤ちゃんが7か月以上である、母乳を調整できる状態である、赤ちゃんが哺乳瓶から吸啜できる、という契約上の条件付けがスムーズにできたことは、子育て経験が役立ったな…と思っています)

具体的な実行理由としては、シエラレオネ政府が今後、2022年までの達成目標として掲げている下記の10個の大まかな戦略の、10番目を私たちの独自の活動で補完できると考えたからです。

1.保護者への性教育の促進
2.すでに妊娠しているまたは出産した10代の女子に対する精神的・身体的サポートの促進
3.孤児や虐待を経験している女子、児童労働をしている女子への事前サポートの促進
4.GBV(性暴力)を受けていた女子への事前サポートの促進
5.初潮に備えた性教育と生理用品の提供
6.男子への性教育の促進
7.5州16県170以上のチーフダムにおける、性教育指導及び児童婚の抑制指導
8.学校機関への保健室の設置と機能の充実
9.農村部への女性教員の配置
10.すでに退学している女生徒への、奨学金の付与

特に10番目の奨学金の付与においては私たちが事業地を構えるケネマ県の教育省の担当者へのヒアリングの結果、概ね実施されていないことがわかったため、今回のプログラム立案にいたりました。

※最大限、現場に有意義なプログラムを届けるため、最大限皆さまのご支援を有効活用するため、事業の客観的な評価基準について現在熟考を重ねております。半年、1年という区切りでまずはインパクト評価・分析を行い、その後も事業の社会的な価値を測定し続けていく所存です。

変化する10代の妊娠理由

10代で出産した女の子の8割が、妊娠したことを後悔しています。

10代の女の子の妊娠の理由は、2010年代までは「児童婚」でした。しかしこの主流要因は現在徐々に変化しつつあります。

男女の教育格差が徐々に是正されていくにつれ(特に、初等教育課程におけるジェンダーギャップ指数は現在限りなく1.0に近い数字になっています)中学校受験(NPSE)を得て、中学校に進学できる女子の割合は大幅に増加しています。しかし、農村部ではまだまだ中学校自体が少ないため、親元を離れて寮生活となる女生徒が多くいます。

都市部でボーイフレンドをつくりますが、コンドームへのアクセスの難しさ、性教育の知識不足により、妊娠にいたります。しかし、男性側も複数の若者と関係を持ってるため、経済的責任を果たさない・果たせないケースがほとんどです。

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上記写真は2018年に下里が撮影した現地で売られているコンドーム。薬局で1箱3個入り5,000SLLリオン(約100円)という値段で販売されていますが、都市部においても平均世帯月収が5,000円~10,000円と言われており、到底少女のお小遣いでは手の届かない価格です。

あと個人的だけど、このパッケージでは、絶対に、買いにくい…。

また、シエラレオネにおいては、未だに学校機関での性教育のカリキュラムがないということですが、 Marie Stopという政府機関が、学校単位ではなく、コミュニティベースで、性教育に関する啓蒙活動を担っているとの報告を受けています。

最後に…女の子の未来はどう変わる?

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政府の発行する「NATIONAL N URSING AND MIDWIFERYSTRATEGIC PLAN 2019-2023」によると、慢性的な医療設備・人員不足を是正するため、助産師・看護師の需要はますます増加しています。

また、就学前教育も非常に重要視されており、保育士の需要増に加え、その後の義務教育課程においては、男性教師の性暴力を防ぐため女性教師の村落派遣も今後の必須課題とされています。(0.5%の女子の妊娠は性暴力によるものと言われています)

家族計画の観点でも、女子教育の充実は、出生率を減らし、5歳未満時の死亡(乳幼児死亡率)を減らす有効な手段であると考えられています。

上記のような様々な理由から、女の子の教育と就労は、シエラレオネ共和国における最重要課題の一つです。

女の子が4~5年かけて教育を完了できれば、その後に、幅広い未来を描くことができます。女の子の未来が変われば、赤ちゃんの未来、国の未来、すべてが変わります。世界の圧倒的な格差を、私たちが少し縮めることができます。私たちはそう信じて行動し続け、すべての若いシングルマザーと共に、頑張っていきます。

月額寄付サポーターになり、女の子が卒業するまで、サポートを届けることは、「決断」であると思います。

毎月の支援は、サポーター自身の人生も変えます。

しかし、祈っていては、願っていては、現状は変わらないのです。皆さんが一緒にご決断くだされば、世界の現状を、少しずつ変えることができます。

ご支援を頂ける方は、ぜひよろしくお願いいたします。







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