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池之上小学校の桜のいのちをつなぐ 〜穂木の剪定・接ぎ木編〜

園藝部員の大沢です。今回は桜の木をきっかけとした池之上小学校の桜のいのちをつなぐプロジェクトのレポートをお届けいたします。

「池之上小学校の桜のいのちをつなぐプロジェクト」とは?

現在、校舎の建替が進んでいる世田谷区立池之上小学校(世田谷区代沢2-42-9)
シンボルツリーの赤松は移植予定ですが、児童だけでなく近隣住民にも親しみのあった正門周辺の桜(ソメイヨシノ)は諸般の事情により多くの木が伐採を予定されています。幹に「伐採」と書かれた札を下げた桜の木たち。
仕方のないこととはいえ、児童の保護者達も切ない気持ちになっていました。
そんな中「なんとか桜を守るために挿し木でいのちを繋ぐことができないか?」と、保護者の一人がシモキタ園藝部に相談をくださったことから始まったプロジェクトです。

小学校での授業で挿し木を行うにあたり、大きな問題となったのは桜の木の挿し木は成功率が大変低く、もしひとつも上手く行かなかった時にこども達が残念な思いをしてしまうのではないか?という点です。
ですが、もし上手く行かなかったとしても立派な木を一度切ってしまったら簡単には取り返せないことを通して、植物を育てていくことの難しさや大切さ。
切った枝も染色などで活かすことが出来ることなど、様々な可能性を伝える機会になれば。ということで、2月1日(火)の授業に向け園藝部員たちの準備が始まりました。

挿し穂の剪定

1月23日(日)の午前中、関係者立会いのもと、挿し木に使うための桜の枝を剪定を園藝部プロ部員マメシバさんが確認しながら元気な枝を選りすぐっています。

挿し穂にする枝を切るところ。高所作業は庭師のプロ部員が行っています
挿し木や接ぎ木に使う枝は新芽がついた新しい枝が良いとされています

挿し木だけでなく接ぎ木も行うことで、可能性の幅を増やす

桜の挿し木自体が難しい上に、さらに今回は時期的にも良くないタイミング。
桜のいのちをつなぐ可能性を増やすため、接ぎ木も行うことに。
マメシバさんが、樹木を実生・挿し木・接ぎ木で育てている矢澤ナーセリーさんに事前連絡を取ってくださり、1月28日(金)に接ぎ木のための桜の枝をお届けに伺ってきました。

矢澤ナーセリーさんへの訪問

お天気に恵まれた1月28日(金) マメシバ & 大沢 の2人でのどかな田園風景が広がった茨城県のつくばみらい市にある矢澤ナーセリーさんの圃場へお伺いしてきました。
矢澤ナーセリーさんでは実生・挿し木・接ぎ木によって繁殖させた樹木を販売されています。今回は代表の矢澤光一さんのご好意で実際の接ぎ木作業の見学と貴重な お話をお伺いする時間をいただくことができました。

茨城県つくばみらい市にある矢澤ナーセリーさんの圃場

桜の接ぎ木作業

校舎の建替などで 大事にしていた桜の木を切らねばならず、矢澤さんの元に相談にいらっしゃるケースは他にも多いそうです。
鮮やかな手捌きで作業を進める矢澤さんから桜の接ぎ木について伺いました。

新芽が2つになるように穂木をカット

台木による寿命の違い

池之上小学校の桜の品種、ソメイヨシノは この世に存在する全てが接ぎ木で繁殖
したもので一般的に短命と言われています。ですが、それは台木に使用されている
もともと寿命が短いアオハダザクラのためとも言われており、台木にオオシマザクラを使用している小石川植物園のソメイヨシノには樹齢120~130年の木もあるそうです。今回は矢澤さんが用意してくださったオオシマザクラの実生苗を台木に使用します。

台木になるオオシマザクラの実生苗

「可能であれば台木も同じ地域で育てられたもの、自分達で育てたものを使用できると大切な木の後継樹としては より理想的ではないか」と仰る矢澤さんの言葉に切ることが決まってから準備するのでなく、日頃から今 存在している木々達をいかに後世へつないでいくのかを 考えながら育てていく。そんな機会を園藝部で作って行けたらと感じました。

オオシマザクラの台木を根元でカット
さらに接着する面もナイフで切りとります
穂木も接着面をカットします
台木と穂木を合わせるだけで落ちない驚きの熟練の技

矢澤さんが手際よく穂木と台木の形成層を平らに切り出し、その断面を合わせるとそれだけで ひっくり返しても穂木が落ちなくなりました。驚きです。

くっつけた穂木と台木をテーピングで固定
テーピング後
水分の蒸発を防ぐため温めて溶かした蝋をハケで塗りつけます

最後に穂木から水分が蒸散するのを防ぐため蝋を塗って作業は終了です。
この10本の桜の接ぎ木は矢澤ナーセリーさんに預かっていただき半年後まで しっかりと管理してくださいます。

札を書かせて頂きましたが、池之上の之の字を間違えておりました。すみません。。。

失敗から学ぶ大切さ

実は あらかじめ矢澤さんにお伺いするために接ぎ木に関する基本的な質問を用意していたのですが「話に聞くことは簡単だけど、自分達で調べたり試行錯誤する方が絶対学びになるから」と園藝部員に向けて熱いアドバイスを頂きました。
矢澤さん自身たくさんの失敗を経て学び、考え続けることで 今の素晴らしい知識と技術を培っていらっしゃったそうで「こども達にも失敗を通じて学ぶことがたくさんあることを伝えてほしい」と今回のプロジェクトを応援してくださっています。

矢澤さんと相棒の圃場の番猫 ゴンちゃん

接ぎ木のこと以外にも 自分の好む環境に合わせたタネの生存戦略や、インタビュー途中にハウスに訪れたヒヨドリをキッカケに鳥とタネの関係性、矢澤さん自身がこの仕事を始めることになった経緯など、興味深いお話を他にもたくさん聞かせて頂いて、あっという間の1時間半。
こども達との挿し木授業や今後の企画など、今回の矢澤ナーセリーさんでの体験を活かせるようにするにはどうしたらよいか。と 早速 話し合いながらの帰路となりました。

矢澤さん、お忙しい中 貴重なお時間とお話を 本当にありがとうございました!

株式会社 矢澤ナーセリー
代表:矢澤 光一(敬称略)
HP:http://yazawa-nursery.com

1月28日(日)に行った池之上小学校の桜の穂木を使った挿し木の授業の様子はこちらから



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