ポートランドのマットさんと過ごしたパーマカルチャーな一日
2023年4月30日(日)
10時~12時「子どもとパーマカルチャー」@シモキタのはら
15時~17時「パーマカルチャー・ギャザリング」@かまいキッチン
ポートランドでパーマカルチャーを実践し、教育・普及活動を長年行っているマット・ビボウさんが4年ぶりに来日。ご縁のある下北沢でワークショップを行ってくださいました。午前中は親子を主な対象とした「子どもとパーマカルチャー」、午後はマットさんと交流する「パーマカルチャー・ギャザリング」。参加者は、頭だけでなく心と体でパーマカルチャーとは何かを感じ取れたのではないかと思います。主催した私たちにとっては、何年も前からみんなで区や鉄道会社に提案をして実現した下北沢の緑の空間が、いかに大切なものであるかを実感できた一日でもありました。マットさんの最初の下北沢来訪から関わっている部員のともみがレポートします。長いですが、ご覧いただけると嬉しいです。
Matt Bibeau (マット・ビボウ)
ポートランドの'Jean's Farm'でパーマカルチャーを実践している教育者で、子どもから大人までのワークショップなどを行っています。
マットはポートランドのクリエイティブなパーマカルチャー、
プレイスメイキング、自然教育などの活動を15年間続けてきました。
行政と市民活動をつなぎパワフルに機能するNPO「シティリペア」の
コアメンバーとしても12年に渡り活躍。
現在は、市民の庭でのパーマカルチャーの実践をコンサルティングする
'PDX Permaculture'も立ち上げています。
マットさんと下北沢
マットさんと下北沢のご縁は2017年4月に開催したワークショップを皮切りにした3回の来訪。シモキタ園藝部の前身である「シモキタ緑部会」とその仲間たちが招聘したものでした。2017年は前年に世田谷区の参加と協働の場である北沢PR戦略会議が始まって、小田急線地上線路が地下化されたあとの下北沢をどんな街にしたいかと盛り上がっていたころ。住民が主体的に関わって街を良くしているポートランドから学び、マットさんに一緒に妄想していただいたのでした。↓はその時の投稿です。
コロナでしばらく来られなかった下北沢に久しぶりに降り立ったマットさん。4年前はグレーな工事ヤードだった線路跡地の変貌ぶりへの嬉しい驚きをFacebookにも記してくださっています。
子どもとパーマカルチャー@シモキタのはら
「シモキタ園藝部 こや」でのアイスブレイク
さて、今回のワークショップですが、強風と雨の予報が不安だったこの日。まずはシモキタ園藝部の拠点「こや」の室内で、マットさんが’のはら’で集めた宝物を大きなザルに並べて、参加者を迎えました(*植物の採取は小田急電鉄が管理するエリアで許可を得て行っています)。
【ここからの「子どもとパーマカルチャー」の写真とタイトル写真はすべて植田絵里菜さん撮影】
ザルの上に何があるかよーく観察し、目をつぶっているあいだにマットさんがどれかを隠すので、隠したものは何かを当てるゲームです。
夢中になって何ラウンドも遊んだ頃、天が祝福してくれたかのように雨風がおさまって外に出ることができました。
のはらで自己紹介タイム
のはら広場は住民の声が届いて緑地になった象徴的な場所です。マットさんのポートランドでの活動を2017年に知ったことが背中を押してくれました。山崎久美子さんは当時の中心メンバー。今回通訳をボランティアしてくれた村上ゆうさんはポートランドに留学経験があり、マットさんの農園にも滞在し、今は下北沢を中心に山崎さんとポリネーターズという活動を行っています。二人とも園藝部員でもあります。
三人の自己紹介の後、シモキタ園藝部から、どうやって線路跡地が豊かな緑になったのかと、それを市民が主体となって守っていることをご紹介しました。
逆のものを集めよう
いよいよ参加者がのはらの宝物を発見する番です。マットさんが取り出したのは卵のパック。チームに分かれて、その縦1列ずつに「逆のもの」をコレクションするゲームです。たとえば「固いもの」対「やわらかいもの」、「新鮮なもの」対「枯れたもの」。どんなテーマで集められたものかを別のチームが推理するので、簡単には当てられないテーマにするのがコツです。
みんなが集め終わったころにマットさんが鳥の鳴きまねをして集合をかけます。どんな「逆のもの」をコレクションできたでしょうか?
マットさんによれば、このゲームをするたびに思ってもみなかったテーマが出てきて、気づかされるそうです。楽しく遊びながら、自然の様々な側面を発見できるゲームですね。
自分の石を当てよう
つぎにマットさんが取り出したのは、紙袋に集めた小石です。それを一つずつ、目を閉じた参加者に手渡しました。
よーく「自分の石」を体験したら、目を閉じたままでマットさんが石を集めます。そして真ん中にすべての石を広げます。
不思議なことに、目では見ていないのにどれが「自分の石」かすぐにわかりました。もう一度目をつぶって触ると、「ああ、この石だ」とわかります。ふだんは視覚に頼りがちですが、他の感覚がいかに多くを私たちに教えてくれるか気づかされました。そしてすっかり「自分の石」と仲良くなったので、持ち帰りたいような気持ちになりました。
場所に感謝してギフトを返す
いよいよ最後のゲームです。マットさんが語ります。
「今日の体験で、ここが特別な場所だとみんなわかったと思います。みんながこの場所を大切に思うように、きっとこの場所もみんなのことを大切に思ってくれているでしょう。だからこの場所がみんなに与えてくれているものに対して、みんなからもギフトを返しましょう。1つのチームになって、自然のマンダラをつくりましょう」
「明るいもの・暗いもの。カラフルなもの・地味なもの。つるつるしたもの・ザラザラしたもの。そんないろいろなものの存在を自然は愛していると聞いています。この場所の自然があなたに語りかけていることを感じ取りましょう」
美しいマンダラができあがって、みんなしみじみと今日感じたことを振り返りました。マットさんが語りかけます。
「この場所が与えてくれたものに感謝しましょう。これは今日のこの場所のマンダラですが、1ヶ月もたてばまた違う自然の表情を見られるでしょう」
「さあ、リラックスして深呼吸してください。
匂いを嗅いでみましょう。
自分の心臓の音が聞こえますか?
足の裏で地面を感じましょう。
この時間を共に過ごしたみんなに感謝しましょう。
子供たち、大人に気づかせてくれてありがとう。
この土地にI love youと伝えましょう。
I'm here for you. You are here for me.
(私はあなたのためにここにいます。あなたは私のためにここにあります)
この場所がみんなを一つに(unite)してくれました。
今この瞬間に、ここでこのマンダラを囲んでいることの大切さ。
みんなからの贈り物を、この場所に返すことができました」
「パーマカルチャー」を言葉で説明するのは難しいですし、言葉でわかった気になっても意味がないことに気づかされました。土地に根付いて、土地に感謝して、土地に自分ができることをお返しする。そのすべてがパーマカルチャーです。それは感じて実践することからしか学べません。
この日マットさんから教えていただいたネイチャーゲームはいつでも誰でも簡単に行えて、子どもたちの普段の遊びでもできるものです。
下北沢駅のすぐ近くに、こうして自然とつながれる場所を与えていただけたことに感謝しつつ、このような気づきの機会をこれからも持っていきたいと心に誓いました。
パーマカルチャー・ギャザリング
@かまいキッチン
午後は山崎さんのお店「かまいキッチン」に場所を移し、マットさんとの交流会が行われました。集まった皆さんも、アーバンファーミングを実践している方、教育者、環境活動家、近くの教会で養蜂をされている方、シティプランニングに関心のある方、目黒区議さん、そしてシモキタ園藝部員の面々等々と多彩でした。(ここからの写真は植田絵里菜さんではありません)
マットさんは「パーマカルチャーとは何か」を講義するのではなく、マットさんが運営するJean's Farmの、四季を通じたたくさんのきれいな写真のスライドショーを通じて、ポートランドに旅したような気持ちになって感じ取ってほしいとおっしゃいました。
Jean's Farmはポートランドのダウンタウンから車でわずか10分くらい。オレゴン富士と呼ばれるマウント・フットの麓で水に恵まれ、農園からの湧水が小川になっているそうです。農園だけでなく教室やアウトドアキッチンやコンポストトイレもあります。自然と切り離された都会の子どもや大人が、自然との関係を結びなおすための場所です。
マットさんは語ります。
「Jean's Farmは教えるのではなくいっしょに学ぶ場です。完璧にしようとはせず、まずはトライしてみる。自分も失敗から学んできました。してはいけないことをしたとしても、罰を与えることはしません。自分がしたことによって何が起きるのかを学ぶのが大切です。子どもも大人も、失敗してもいいんだよということを理解してほしいです」
「子どもたちの関心の流れに寄り添うことが肝心です。子どもたちを手助けするだけでなく、子どもたちにもCan you help me?(助けてくれる?)と言っています」
「たとえばニワトリの卵を鳥小屋から採る経験をすれば、いのちをいただいている実感がわきます。ヒトはいろいろな生き物と共存しているから生きていけます。自然には手を付けないほうがいいという人もいますが、全く手を付けずに生きていくことはできません。どういう関係を自然と結ぶのか。それは交換(exchange)の関係です。奪うだけでなく返す、感謝の気持ちを持つこと。自分にできるお返しをする。それを実践して感じ取る場をめざしています」
「虫たちのために、いつどこでどんな花が咲くようにするかが、パーマカルチャーでは大切です。ヒマワリの花が枯れても、鳥たちのために刈らずに残しておきます」
「Jean's Farmの教育プログラムではアウトドアキッチンでのピザづくりが重要な役割を果たしています。どうやって収穫して、それをどう料理するかはひとつながりです。ピザづくりを通じて20くらいの教えを得られます。ピザの生地が発酵するように自分たちの体の中にも微生物の活動があり、ピザづくりが自分たちのケアをすることにも通じます。自然も自分もそんなに変わりが無いのです」
「季節の循環(Cycle of time)を常に意識します。2015年に日本に初めて来たとき、満月を愛でている人たちに出会って感動しました。月の暦(陰暦)は人類の元々のカレンダーであり、自然のサイクルに寄り添っています。日本に触発されて、Jean's Farmに月見のための東屋を建てました」
「現代の農業(agriculture)は食べ物を育てるために土を殺しています。私たちのパーマカルチャー(permaculture)は、食べ物を育てているというより、土を育てています(We are not growing food. We are growing soil)」
「死んだものも新しい生命を作っていきます。自然の中ではごみになるものはありません」
Jean's Farmの作物はCSAというシステムで市民も購入できますが、マットさんは「もっとも良い取引は貨幣による取引ではない」と言います。アラスカに野菜を送ってかわりにサーモンを送ってもらったりしているそうです。収穫した野菜を保存食にして、ギフトにしたりもしているそう。
パーマカルチャーが何なのか、少しわかってきたような気がします。それを丸ごと体験できるJean's Farmを訪れてみたくなったのではないでしょうか? 8月がお勧めで、サマーキャンプもやっているそうです。日本からも多くの方が訪れています。
スライドショーのあとは、興味津々になった参加者たちがマットさんを質問攻めにして、充実した交流の時間が持てました。
番外編。午前の部が終わったちょうどその時、世田谷区の保坂区長がのはら広場に通りがかりました。ポートランドの住民自治に学ぶ著書も出されている区長はマットさんとも親交があり、再会を喜びました。
シモキタ園藝部は植物と人の営みが循環し、心地よく共生するまちづくりを目指しています。今回のマットさんからの学びを活かして、子どもも大人も、街の人と自然が関係性を結びなおす場づくりを下北沢で行っていきたいと考えています。参加してみたいとお思いになりましたら、ぜひお声がけください。
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