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ウクライナ危機で第2次リーマンショックは起こるのか(最終回)20220314

スマートバンクCFOの下河原です。
本日は、「ウクライナ危機で第2次リーマンショックは起こるのか」の最終回(第4回)です。
第1回投稿: こちらです。
第2回投稿: こちらです。
第3回投稿: こちらです。
第4回投稿: こちらです。
- Twitter @Yshimogawara

これまでのおさらいと今回の趣旨説明

第4回投稿のことを書きたくて書き始めたのですが、前提整理3回+本題1回という変なバランスになってしまった点について、お詫びします。。。

第1回・第2回・第3回と書いてきたので簡略に纏めます。
・リーマンショック時にはCLO // CDO という金融商品が流行していた
・リスクを切り分ける形で色んなものが混ざったCLO // CDO が色んな投資家に販売されていたことが、地域的な経済不安を世界中に急速に拡大させる原因となった
・商品を組成していた金融機関はCDSでリスク管理をしていたが、CDS取引でポジションが完全にカバーされていると誤解をしていた。実際には、相手方金融機関の倒産リスクまでは考慮できていなかった
・結果的に、とある金融機関の健康状態が悪化すると、CDSでヘッジされているポジションの損失が急遽復活する可能性が懸念されて、金融システム全体への不安とつながる結果となった

本題: ウクライナ危機の今、リーマンショックのようなことが起きるのか

やっと本題ですが、今ウクライナ危機により世界の金融市場は若干混乱しています。
ロシアへの経済制裁がロシアのみならず制裁を加えている側にもダメージがありうること、全世界の経済成長が鈍化する可能性があること、エネルギー供給の不足によりエネルギー価格上昇が全世界的にコスト上昇として重しになりうること、などが理由です。
株価下落率をみると、日本株も実は2022年3月11日時点で最高値から約25%程度下落しており、これはなかなかの調整です。
では、リーマンショックの時みたいに7,000円割れを目安水準まで下落していくようなシナリオが起こりうるのでしょうか。そこまでいかずとも10,000円を割り込んでいくようなシナリオは起こりうるのでしょうか

結論: 起こりえない(あくまでも私見です)

私の現状の考えでは、「起こりえない」になります。理由は下記の通りです。

① リーマンショックの下落は、「景気不安が懸念されていた」ことが直接の理由ではなく、「金融システムの脆弱性」がもたらした下落
特に第3回で記載した内容が適切かと思いますが、リーマンショックがあれだけ大幅に株価指数の下落を伴ったのは、「景気が悪かったから」でもなく、「バブルがはじけたから」でもありません。

「CLO//CDOという商品が未成熟であり、不透明なリスクを世界にばらまいていた」
「投資家は不透明なリスク商品に関する投資をしていた結果、投資ポートフォリオ全体のリスク分析(リスクがどこから来るのか、何がどう動いたら自分のポジションがどれくらい毀損するのか)が管理できていなかった」
「金融機関は自分自身のポジションをCDSでヘッジしていたが、リスク管理手法が稚拙で、リーマンや他の金融機関の倒産(の可能性)を適切に考慮していなかった」
→「リスク管理を金融システム全体で適切にしていると思っていたけど、実はできていなかったのか。。。」
この点が衝撃であり、パニック売りを招いたのです。

「ウクライナ危機でマーケットが大幅に下落しているから、同じようなことが起こるのではないか」と考えるのではなく、過去の金融市場の上下については、何が原因かを適切に分析・理解することが大事だと考えています。「株価指数の変化」は、表面上に見えている数字の単なる上下であり、本質を見極めるのが大事、というのが私見です。(EventHubの3valueにもthink simpleというvalueがあります。)

② 現在、投資家も金融機関もリスク管理を高度化している
第1回~第3回で少し触れてきた下記の要素も含めて、投資家・金融機関双方において、リスク管理は非常に高度化しています。
・相関性を加味した、自社全体のポートフォリオのリスク
・あらゆるシミュレーションを行った上での最大損失額(VaR // Value at Risk)の計算と、最大損失額発生時に対する自社資本金額のバランス確認(VaRも奥が深い世界なので、いつかVaRについても書きたいなと思っています。。。)
・リスク管理において相手方の倒産リスクを加味し、損失をカバーできるための担保の授受(Margin Call)を日々行う(これをDaily Margin Callといいます)

他にも色々ありますが、過去の失敗から学んで市場参加者は今非常に高度なリスク管理を行っており、結果的にどこかの銀行が倒産しても、その倒産リスクが業界全体に波及していくリスク(コンテージョンリスク // contagion risk)は低いと考えています。
また、「CLO//CDOのリスクが不透明なまま投資していた」という点も第1回・第2回で書いていましたが、こういった投資はそもそもかなり減っているという肌感覚です。
金融機関側も自分が販売した商品については一定買い取る必要も当然生じてくる部分はありまして、いたずらにリスク管理が難しいような金融商品については、組成を避けているように思えます。
なお「どういうリスクを許容するか」は内規次第ですが、こと自分自身の経験に基づいて言えば「Aという商品とBという商品のリスクを掛け合わせた商品を作る」みたいな、テーラーメイドの商品のリスク管理についてはトレーディングデスクはかなり説明責任を負わされていた印象があります。

③ 中央機関のリスク管理も高度化している
加えて、中央機関のリスク管理も高度化しています。
例えば、一般的なCDSも含めて、相対取引は中央清算機関という第三者を通して取引することに原則なっています(ただし、複雑な取引は中央清算機関を通さない代わりに、担保授受を行って倒産リスクをカバーしています。)
仮にリーマンのような倒産が起きた場合、昔は倒産に伴う清算価値の計算などが終わらないと自分のポジションがどれくらい回収できるのか確定しなかったのですが、今は中央清算機関があるおかげで、倒産に伴う処理が非常にスムーズにできるようなシステム構築がされていますし、中央機関を通さない取引についても担保処分によって迅速な回収が可能になっています。

他にも、バーゼル3、バーゼル3.5、Dodd Frank 法、定期的なストレスチェックなど、リーマンショック後に導入された数々の規制・指針に従って金融機関は運営を求められており、リーマンショック時のような(今振り返ると「稚拙」な)リスク管理手法は、現在認められておりません。

纏め

未だにマーケットが大きく下落をすると「リーマンショックの時みたいに1万円を割り込むシナリオはあるのか」「もしあるなら、それを待ってから投資しよう。。。」みたいな話を見かける気がしています。

勿論、私含めて市場参加者が気づいていない大きなリスクが金融市場やどこかに隠れている可能性はあります。ただ、ことリーマンショックを振り返ると、金融システム全体に対する脆弱性を懸念して緊急回避的な現金化が急速に起きたことが下落幅・スピードを増長させたと考えています。
その観点では、現在の金融システム運営においては、同じようなシナリオが懸念されることはないと考えています。

補足1

なお、今回のウクライナ危機がより広範囲を巻き込んだ戦争(第3次世界大戦など)になる場合は、話は別だとも考えています。不可抗力条項(Force Majuere)などの話も関連してきますが、補足としては若干長くなるため、割愛します。あくまでも「第3次世界大戦には発展しない」という前提のもとの結論になります。

補足2

主に社内含めて金融の専門家ではない方を意識して書いており、読みやすさ重視のため簡略化して記載している部分も多くございます。
金融専門家の方からは見苦しい纏めになっているかもしれませんが、その点はご海容いただけますと幸いです。また、このような記事を最後まで読んでくださった全ての方に心より御礼申し上げます。
何か不備や誤記、ご意見の相違などがあれば、是非後学のためにも(今後も)ご指摘いただけますと幸いです。


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