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ウクライナ危機から学ぶ「リスクオフ=円高」の正否

株式会社EventHubの下河原です。
今回は、「リスクオフ=円高」が正しいのかについて、今回のウクライナ危機における為替変動とも合わせて、自分の考えを纏めています。

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個人的に抱いていた「リスクオフ=円高」に対する疑問

米ドル円が円高に進んだ際、
「リスクオフ環境だったので、円が安全資産として買い進まれた」
「リスクオフで円が買われた」
と説明されることが多いと感じています。
(リスクオフ環境: 投資のリスクを落としたいため、リスクの高い商品が売られて、リスクの低い商品が買われる環境のこと)

私は株式投資を始めた大学生の頃から「なんで円がリスクオフで買われるのか」疑問に思ってました。でも、肝心の説明はどの経済番組でもしてくれないことも、更に疑問に思っていました。勿論、ニュースは時間が限られているので仕方ないんですが。。。
これ以外にも、金融市場では「〇〇だからxx」という説明がされることがあるのですが、「過去そうだったから」以外の理由をしっかりと追及していく姿勢は大事だと自分は思っています。
現に今はこの環境下において長らくドル円の抵抗線であった114円~115円を突破して120円を目指そうとしています。「リスクオフ=円高」だけで米ドル円の方向に別途していた場合は、この動きは理解しがたいのでは、と思います。

「リスクオフ=円高」が、何故疑問なのか

全世界的に見ると、円は確かに取引量は多いです。BIS(Bank for International Settlements)の統計によれば、取引量では米ドル、ユーロに続いて円は3番目の取引量になっており、単独国家で使われている通貨としては異例の取引量です。
参考:  bank for international settlements 2019 
これだけ見ると、円は相当な安全資産であることは間違いないです。

一方で、リスクオフ環境下において、米ドルに対しても日本円が「安全資産」として買われるべきなのでしょうか。全世界の基軸通貨である米ドルを売って、日本円を安全資産として買う人がいるでしょうか?
「米ドルと日本円、どっちの方が安全な資産だと思う?」とシンプルに誰かに聞いてみても「んー流石にドルでしょ」となりそうですよね。
そう考えると、「リスクオフで円高が進みました」という説明は、「え?本当にそうなのかな。。。」となってきます。

何故「リスクオフで円が買われていた」のか

私が考える「リスクオフで円が買われていた理由」は、以下の2つです。

① 円キャリー取引が解消される
金融の世界では「キャリー取引」というのが存在します。
これは金利が低い国でお金を借りて、為替市場で外国通貨に換えて、外国の資産に投資するという取引です。
例えば、日本人が米国不動産を買う時に、日本の銀行から借り入れして米国不動産を買うのは「キャリー取引」と同じです。
(1) 日本円で借りる
→(2) 借りた日本円を米ドルに換える
→(3) 米ドル不動産購入資金として活用する

日本は全世界的に見ても、長らく低金利環境でした。結果、「日本でお金を借りて、外国の資産に投資をすると儲かる」と考える投資家も多く、「日本で円を借りる→円を売って、外国通貨を買う(円安)→外国資産に投資する」という流れは長らくありました。

リスクオフ環境になると、資産を売って現金化したり、借り入れを返済しよう!という動きが活発になります(=キャリー取引の解消(unwind)といいます)。
結果的に、キャリー取引を活用する投資家は、リスクオフ環境においては
(1) 外国資産を売る
→ (2) 外国通貨を売って、円を買い戻す(円高)
→ (3) 円で借りていたお金を返済する
という動きをすることになります。
この(2)の動きが、「リスクオフだと円高(円を買う)」につながっているというのが、私の1つ目の回答です。

② 景気悪化時に、金利を引き下げる余地が日本は少ない
ちょっとわかりづらいコンセプトですが。。。
金利が上昇すると、基本的には通貨も上昇します。
逆に、金利が下落すると、通貨も下落します。

例)
日本において、金利1%が急に20%になった
→銀行に1年100円預けるともらえる金利は今まで1年だったのに、今後は20円もらえる
→日本円に変えて銀行に預けよう!(日本円で投資しよう!)
→日本円を買う
→円金利が上がると、日本円が上昇する(円が買われる、円高になる)

さて、全世界的に景気が悪くなると、各国では借入を促進し、投資を促すために金利を引き下げます。(直近のルーブルとかもそうです。)

では、現在金利が0.5%のA国と3.0%のB国、どちらの方が金利引き下げによる投資促進効果はありそうでしょうか(あるいは、金利引き下げ余地はあるでしょうか)。
勿論答えはBです。3.0%を0.2%にすると2.8%も金利は下げられますが、0.5%を0.2%に下げたところで0.3%しか影響はありません。
今はマイナス金利という概念もありますが、マイナス金利を考えても、元々金利が低い国は景気悪化時に金利を大幅に引き下げることはなかなか難しいのです。

結果的に、リスクオフ時にはこういう発想になります。
例)
景気が悪くなってきた!各国は金利を引き下げて、投資を促進するかもしれない
→でも、日本は既に金利が低いな。。。ということは、日本はここから更に大幅に金利が下がることはないかも。アメリカは金利がまだ高いな。これから一段と金利が下がる可能性があるな。。。。
→金利が下がったら、米ドルも売られるはずだな。逆に、全世界的に金利が下がるなら、円金利はそこまで下がらないので、円の価値は相対的に高くなるかも。
→円高を見越して、円を買っておこう!

この動きが、「リスクオフだと円高(円を買う)」につながっているというのが、私のもう1つの回答です。

ウクライナ危機における「リスクオフ=円安」の理由

対して、今はリスクオフ環境下においても円安に進んでいる状態です。これはなぜでしょうか。私が考える理由は3つあります。

① 全世界的な金融緩和の影響で、円キャリー取引がそもそも減少していた
「リスクオフ=円高」の時代に比べると、日本と諸外国の金利差はなく、現に短期のEUR金利と円金利は長らく逆転していました。この状態では、円のキャリー取引は減少するため、当然リスクオフに伴う返済のための円買いも減ることなります。

② インフレ環境下において、世界的に金利を引き上げる方針が示されている一方で、日本においては未だに金利を積極的に引き上げていく方針は示されていない
FRB(米国の中央銀行)はじめ、各国中銀はインフレ対策のための金利引き上げを実行しようとしています。日銀においても、直近長期~超長期の金利上昇については黙認する姿勢を見せていると感じていますが、一方で「金利を上げていくよ」というメッセージを積極的に出してもいないと思っています。
結果的に投資家としては、金利的にメリットが見える外国通貨への投資を増やしていく展開となり、円安が進んでいます。

③ 貿易赤字の拡大
教科書的な話ですが、直近のコモディティ(商品市場のこと。エネルギー、農産物などが含まれる)価格の上昇により、日本の貿易赤字はさらに拡大しています。
一般的には、貿易赤字の拡大はGDPを押し下げる(=輸入による支出が増える一方で、輸出による売上が減るため)効果があると言われています。また、支払いのために円を外貨に変換するために、円安が進展すると言われています。
ある程度の水準まで来ると、今度は円安による影響で日本からの輸出品の価格が割安になる(例:200円の商品は、1ドル100円なら2ドルですが、1ドル200円なら1ドルで買える)ことから、どこかの水準で貿易赤字が黒字転換し、円安進行も解消される(=外貨売上が増えるため、今度は日本企業は外貨を円に換える)と言われています(=通称Jカーブ)。
ただ、直近はコモディティ価格の上昇が止まる気配がないため、円安進行には歯止めがききづらい環境だと考えています。

まとめ

上記考えると、「円が安全資産だから、リスクオフで円高に進展した」という、ニュースで一般的に行われている説明は、誤解を招きかねない説明だと思っています。

過去、リスクオフで円高が進展していたのは、円が安全資産だからではなく、「円金利が低いから」がロジック上は適切な回答だと考えています。

「金融市場は雰囲気で動いている」なんてコメントもしたくはなるんですが、自分の信念として「雰囲気で動いている、は言い訳として使わない」と決めています。なぜなら、金融市場に限らず、全ての動きには、必ず理由があると思っているからです。
論理的な理由がないと「雰囲気だから」「こういうものだから」に流されそうですが、「なぜなんだろう」を突き詰めていくことが金融市場に限らず、全てのことにおいて大事だなと思っています。

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