見出し画像

SeriesA6.5億円資金調達に関する振り返り: 役に立ったこと

自己紹介リンク (@Yshimogawara)

SeriesA資金調達関連記事

記事の目的

前回はSeries A 資金調達において、(特に自分の経歴に基づいて発生したであろう)学びのポイントについて振り返りました。一方で、「逆に大きな金融機関での経験が全く活きなかったってわけでもないから、その点を逆に教えてほしい」という声もいただきました。元来ポジティブな人間ではあるので、それに倣って今回は自分の過去の経験がどういう形で今度は役に立ったのか、について振り返ります。

役に立ったこと①:大企業における意思決定方法、プロセスなどをある程度知っていたこと

これは、一般的に「大企業」と呼ばれる会社や、官公庁系、金融系からスタートアップ転職をされる方には特に当てはまると思いますが、関係者間の中の意思決定プロセスについてある程度肌感覚を持っていたことが、まず役に立ったと考えております。

俗に言う「稟議」について、

  • 承認プロセス(意思決定機関及び意思決定期間

  • 必要資料

  • 意思決定取得のハードルの高さ

などある程度肌感覚があったので、「A社の意思決定は慎重にやるだろうから時間かかるかな」とか「B社は重厚長大系の企業だから、一度意思決定したものの情報が変わると迷惑を掛けそうだな」とかの感覚を経験値として持っていたのは、情報を出すタイミング・優先度などの判断において非常に役立ちました。特に、前職では「社内稟議メモ」を作るのに本当に大変な時間と労力をかけていたので、稟議の大変さも身に染みていたのはよかったです。

ちなみに、「社内メモ」を長い時間かけて作ることは時間の無駄、という声もあると思いますが、社内メモを無数に作ってきた経験として、メモを書いていく中で整理しきれていない内容や、確認しきれていない論点・リスクなどが浮き彫りになってくることが多々ありました。特にリスクが大きく慎重な判断が必要な決定において、社内での「重たい」確認を経ることは、メリット・デメリット考慮した上で必要な場合もあると思っています。

役に立ったこと①:企業の規模や特性に応じた意思決定の仕方を、ある程度温度感として知っていた

役に立ったこと②:契約書のバージョン管理・フォルダ管理のルール設計方法と、管理の重要性を知っていたこと

調達案件に限らずですが、大きな金融案件においては関係者が複数いることが常です。調達案件においては、最終的には企業と投資家のみになりますが、それ以外には「既存投資家」「(案件を途中まで検討してくれていた)他の投資家」「外部アドバイザー(弁護士、会計士など)」は最低限いますし、場合によってはそれ以外の関係者も入るため、優に10社を超えることもあります。

当然、色々な関係者から契約書のコメントは入りますし、自分たちの弁護士にも見せる必要があるため、「この契約書は誰からどの段階で来たものなのか」「誰に対して、どのバージョンを見せているのか」などを管理していないと、「投資家にせっかくコメントを貰ったのに、見せていたバージョンが古かった」「A社には最新版を見せていたのに、B社には古いバージョンしか見せていなかった」という事態が発生します。また、単純に「ファイルを探している」という無駄な時間を発生させる要因にもなります。

ちなみに、当方は以下のルールで管理をしていました。ご参考になれば幸いです。

フォルダ管理

「大きな枠のフォルダ」→「小さな枠のフォルダ」というように、フォルダの中にフォルダを作っていきます。この際に、奥に深く潜っていくことについては気にしません。何回もクリックする手間を防ぐより、管理が不適切に行われる方が問題だと考えています。

ファイル管理

フォルダの冒頭には番号をつけて、カテゴリー別に分けます。01~09台がオーソドックス情報(定款など)、11~19台がオーソドックスな契約書(投資契約書、株主間合意書など)、21~29 / 31~39と頭の番号が後ろに行くにつれて、補足情報となるように管理しています。(Appendix 情報などは99などと明記)。これをすることで、「これ関連の契約書は何番台のフォルダを見ればいい」「基本情報は若い方を見ればいい」「大きな番号のフォルダは、さほど綿密にみなくてもいい」というルールが出来上がり、フォルダを探す時間を削減します。

フォルダの中にフォルダがある場合、余程のことがない限り「フォルダ以外のファイルは置かない」ようにします。これも、なるべくシンプルにすることで探す時間を削減するためです。どうしても、そのレイヤーに置かないといけないファイルがある場合は、上記の通り「xx」など冒頭につけて、そこに格納しています。

また、特にgoogle drive などドライブ上で管理している場合は、フォルダの命名時に外部フォルダなのか内部フォルダなのかを明確化しておき、検索上でも社内外どちらのフォルダなのか(外部フォルダの場合は誰向けのフォルダなのか)を判別して、探す時間を削減していました。

ファイル管理

ファイル管理ルールは、以下の通りです。

  • 「日付_(番号)契約書名_コメントした人+コメントした日」(以下、バージョン)のルール付けをする

  • 外部の人からコメントをもらった場合、original版を必ず保存する。「xA_バージョン」のように命名をすることで、誰からどのバージョンに対してもらったコメントなのか、管理をしておく

  • 外部展開する際は、相手からもらったバージョンとの比較版を作成してblackline 版とclean版、両方送る

ファイルの命名ルールは、「厳格に守ることでどれが最新バージョンなのか」「この改変は、どのタイミングで入ったものなのか」「この人に対して最後見せたバージョンから、どこが変わっているのか」を管理できます。また、外部の人からもらったoriginal バージョンを必ず保存して比較版を送ることで、「相手からもらったコメントのどの部分が反映されていて、どの部分が反映されていない(拒否した)のか」をわかりやすく見てもらうことが出来ます。

また、「誰に対してどのバージョンを見せたのか」を管理するのは非常に大事です。自分は過去何バージョンかトライした結果、下記のようにスプレッドシート上で管理するのが一番分かりやすいと思っています。

契約書管理表
  • Latestの欄に、最新情報を記載する(日付+名前で、いつ誰からもらったものが最新かを記載)

  • 各関係者の欄を作り、それぞれの契約書のどのバージョンをその人に展開しているか記載。セルの条件付けを設定しておく。

    • 最新バージョンと同じ場合:セルの色は白

    • 古いバージョンを展開している場合:セルの色はピンク

    • そもそも展開していない場合: セルの色は黄色

    • リクエストされていない場合: Not requested yet を記載(記載したセルの色は灰色になる)

この管理をすることで、「誰にどのバージョンを展開したか」「新しいバージョンを展開する必要がある人は誰か」を、漏れなく一目で管理することが出来ます。

役に立ったこと②: フォルダ・ファイル管理を適切に行うことで、「探す時間の削減」「漏れの削減」を効率よく出来た

役に立ったこと③: 知識

当たり前の話ですが、当然知識ベースで役に立つことはたくさんあります。会計上や税制上の取り扱い、会社法における要請、契約書の構成など、過去の知識が役立つ場面は多くありました。ただ、これは社会人をやっている以上、誰しも過去の知識が役に立つ場面はあるので、特別な話ではありませんが。。。

役に立ったこと③: 知識が(ある部分も)あった

役に立ったこと④: レスポンスの早さ

これは、プライベートな部門にいた時の経験というよりは、債権営業をしていた時の経験が活きています。レスポンスを早くするという部分は活きることが多いですが、1日1,000件程度来るお客さんからのプライシングメールをひたすら捌いていたという特殊な経験が活きているだけな可能性もあり。。。個人に限った話かもしれません。。。

役に立ったこと④: レスポンスが早い(こともある)

役に立ったこと⑤: 根性

自分がゴールドマン・サックスに転職したのは、当時債券本部長を務めていらっしゃった小澤ふみ子さんという方と面接をして、「この人と働いてみたい」と思ったのが理由でした。勿論、その後小澤さんのみならず、色々な先輩・同僚の皆様から刺激を受けて素敵な経験を積ませていただき、様々なアドバイスを頂戴しましたが、一番頭に残っているのは小澤さんから言われた言葉です。

振り返ると2013年3月に転職をして暫くたった際に、最初に担当することになる大き目の案件が入ってきました。フロアを歩いていると、小澤さんから声をかけていただき、近況についてお話した後に、今の案件についてこう聞かれました。

「ねえ下河原さん。あなたは、今例の案件、どういう気持ちで取り組んでいる?」

そもそも自分にとっては大きな案件でしたが、小澤さんや債券部全体にとっては普通の規模の案件でした。そんな案件について知っていただいていることに嬉しさを覚えると共に、「なんで知ってるんだろう」と改めて尊敬したのを昨日のように思い出します。

「どういう気持ち。。。なんと答えたらいいだろう」と悩んだのですが、「転職して間もないけど精一杯頑張って食らいついていこうと思っている」みたいなことを答えた気がします。それに対して、小澤さんからはこう言われました。

「あなた、頑張るのは当り前じゃない。会社からお給料もらってるんだから。頑張っただけでは、私は満足しないし、ただ頑張ったことを私は評価しないわよ。」
「私はどんな案件でも”自分がこの案件を落としたら、自分も大切な何かを失うかもしれない”と思って取り組んでます。それぐらいの気持ちを持って取り組まないと、やり残したこと・もっとやれたこと、があるかもしれないじゃない。」

そして最後に、こう言われました。

『私があなたを採用したんだから、「下河原さんを採用してよかった」て私が思える、そんな社会人になりなさい。私を失望させないでね。期待してるわよ。』

多くの方から金言やアドバイスを実に色んな局面で頂戴しましたが、この言葉ほど正確に思い出すことが出来る言葉はない気がします。いつになるかわかりませんが、次小澤さんとお会いする機会があった際には、自分の社会人遍歴をお伝えして「採用してよかったと思いますか?失望してませんか?」と聞いてみたいし、その時が来るまで日々善処していく所存です。

纏め

纏めると、役に立ったことは5点です。

  1. 大企業の意思決定について、肌感があった

  2. 契約書・フォルダ管理のルールが徹底されていた

  3. そもそもの金融・法的な知識は、ある程度あった

  4. レスポンスが鍛えられていた

  5. 根性も鍛えられていた

前回の記事だけだと、全く前職の経験が役に立たなかったように聞こえた部分もあるかもしれないので、「役に立ったこともありますよ」という記事でした。個人的な経験値に基づく部分も多いかもしれませんが、ご参考になれば幸いです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?