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「Vの安売り」論 後記

5日に書いた長い長いお気持ち表明を昨日Twitterでシェアしたところ、予想以上の反響を呼び、正直書いた本人が一番驚いています。尊敬する有名撮り鉄の面々にもご覧いただけたようで、彼等にリツイートされた事で大きく拡散しました。それによって多くの同業者の皆様に届いたのは望外の喜びであります。

凄い事を書いたつもりはなくて

この記事は撮影に本腰を入れるようになった昨年ごろから徐々に抱くようになった思いを分かりやすくまとめたものですが、少なくとも私だけが感じている事ではありません。
SNSで活動するようになってしばらく経つと、良い写真が撮れる場所に行くと多くの同業者に遭遇するのに、Twitterには写真がそれほど多くは(時には全く)上がって来ない事に気付きました。程なくして、写真が上手いのに撮影した傑作を公開する事を渋る人も居る現象にも気づきました。
それが昔の自分には納得いかなかったのですが、今ではよくよく理解しています。承認欲求に任せて載せる事が、自滅への第一歩になる事を彼等はわかっていたのです。

本文で一匹狼などという言葉を持ち出しましたが、私も長年そういう存在で、それこそ教育してくれる師匠のような存在はおらず、色々と失敗しながらここまで来ました。本文には過去の反省と自責、そして自戒の気持ちもありました(だからこそ多くの共感も得られたのでしょうか)。
もし昔の自分に教えるとしたらどう言えば良いか、鉄道に興味がない人に教えるとしたらどう言えば良いか、というのを意識しながら言葉を選び順序を考えて、丁寧に言語化したつもりです。
決して斬新な発想が書かれていたわけではない事は、先達の皆様ならお分かりかと思います。

それでも大きな反響があったのは、あのような価値観が今まで敢えて言語化されてこなかった事が大きいからだと思っています。私のように経験から自然と身に付いて来るもので教わらずとも気付いてしかるべき、みたいな風潮もある気がします。

倫理が技術に負けた結果

しかし私はこれも悪しき慣習の一つだと思っています。本文の記述と一部被りますが、そもそも昔は、鉄道写真はある程度性能が高い撮影機材を持っていなければ撮れないもの、なおかつ写真の撮り方や良い撮影地、列車の運転情報などをインターネットから調べられる時代ではなく先達から教わらなければ分からなかったため厳しい参入障壁があり、撮り鉄になるというだけで一定のレベルで選別がされていた筈です。

一方で、カメラの性能が向上してコンデジやスマートフォンであっても手軽に写真を撮れてしまう時代になり、同時にTwitterやInstagramが普及すると撮り鉄への参入障壁がぐっと下がった。皮肉なことに、みるみる数を減らす国鉄型の車両を当時の撮り鉄が熱狂的に追い求めていたため、少ない被写体に大量の撮り鉄が集まる構図が出来上がってしまったのだと思います。
重要なのは、機材の高性能化と低価格化・SNSの爆発的な普及に我々の倫理観が追い付けなかったという事実です。なにもこれは撮り鉄に限った事ではありませんが、現代技術の恩恵にあずかって新たにカメラを持った多数派には、先達の間にあった暗黙の了解などというものは分からなかったのです。そして、SNSの威力は先達にも計り知れないものだった。あれよあれよという間に今のような状況に辿り着いてしまったのでしょう。バードウォッチャーの場合、日本野鳥の会という昔から存在した権威ある団体が近年やっと情報統制を公に呼びかけて一応はこの情勢に対応する術を身に付けましたが、撮り鉄はそうはいかず、色々な場面でボロが出てしまっている。

今の言説に決定的な裏付けはありませんが、少なくとも撮影者全員が最初から高いリテラシーを持っていれば(或いは将来的なリスクに集団レベルで早期発見が出来ていたら)問題がここまで肥大化する事はなかったでしょう。

今後我々に求められるリテラシー

今は、本文に示したような、かつては(今でも)暗黙の了解として存在した価値観を積極的に啓蒙していかなければならないと思っています。
全員が全員SNSに写真を載せる事の弊害を理解してはいません。個人情報を晒しているわけではないから良いでしょ、レベルの認識かもしれません。
しかし撮影地は誰かの個人情報でなくても、有限の資源であり共有の財産です。個人情報を扱うのと同じぐらい慎重になっても良いのではないでしょうか。小中学校で教えろとまでは言いませんが、より社会全体に根付かせる事が肝要です。小学生ですら自分の携帯電話を持つようになる時代ですから、情報モラルに関する教育は早くから本格的なものを施す事が求められています(教育の現場でどこまで教えているかは素人の私には分かりませんが)。

実際、大勢にこうしたリテラシーが備わるにはもうしばらく時間が要るのでしょう。今すぐ良い方に変わるとは思いません。

まあ、その動きの一つとしてまずは今回の記事や他の方々が鳴らした警鐘が同業者の皆様の心に響いているのなら幸いです。
有料化しても良いぐらいの内容、と褒めて下さる方も居ましたが、ある意味で大多数の人間が良識として備えておくべき事だし、みんなが手軽に読めた方が良いと思っているので、私のお気持ち表明は無料公開しています。
しかし物書きで稼ぐのも小さな夢なので企業からの案件もお待ちしておりますよw


言いたい事言ったけど

ぶっちゃけ私自身も、これまで「安売り」されてきたV写真に助けられてきたケースも多いため、声高にSNSへの掲載を咎める権利は無いのかもしれません。無名で大した実績もない若造が出しゃばっても痛いと受け止められかねないし、諸刃の剣を振るった覚悟もありました。
だからといって我々が今まで通り「Vの安売り」を続けるわけにはいかないので、私も含め軽率な投稿をした事は反省して今後より慎重な姿勢を取って行けばいいのではないでしょうか。

あと、安売りできるほど膨大にV写真がない人や、高く売り込むようなV写真を撮れないと自負する方も多いでしょう、というか私も公開を勿体ぶるほど凄い写真が撮れている自信はないです。しかし実際に凄いかダサいか普通かは、それを手に取ってご覧になった人が決める事ですし、対価を払ってまで見てくださった人なら、それ相応の批評をして下さる筈です。だからこそ不特定多数が気軽にアクセス出来て、軽率に批判できるような空間で見せるわけにはいかないと思っています。

あと、皆さんブログを使いましょう。写真が勝手に流れて来るSNSと異なり、わざわざホームページにアクセスしなければならないため、その時点でオーディエンスを選別できます。継続的に良質な投稿を行えればページビューを稼いで広告収入を得る事も出来ます(ハードルは相当高いですが)。展示や販売よりは圧倒的に手軽で、なおかつ自分の傑作に一定の価値をつけて発信できます。SNSは収益源になるプラットフォームへ誘導するための宣伝ツールとして使うのが一番です。

調子に乗るのもこの辺にしておきます。
今後ともよろしくお願いいたします。

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