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箱 (台本)

〇事務所に積みあがる段ボール。
2人のスーツの男がだらだらと部屋を行き来している


A「社長、いい奴だったのになぁ。ハーゲンダッツくれるし」
B「いいとこそこかよ。
 まぁ週3でダッツ買ってたしそうか…
 いや他にもあるだろ?社長の良いとこ。…ないか」
A「あーもー腰いて~。休憩しよ休憩。
 3人でよくやった方だって…てかあいつ
 まじどこまで飯買い行ってんの?遅くね?」
B「またどっかで田んぼのイナゴとか眺めてんだろ?」
A「はは、懐かしーねそれ。(窓開ける)
 みんな薄情だよなー最後の片づけにも
 集まりゃしねぇ」
B「みんな次の仕事探しで忙しいんだろ」
A「だからってさー」
〇配達員、右から入場
配「ごめんくださーい ペリカン運輸でーす」 
〇B駆け寄る
B「あれっなんか受け取るもんあったっけ?」
配「まいど~ …え? なんすかこの段ボールの山は。
 とうとう潰れたんすか!?」
A「そうなんだよ聞いてよぉ!
 社長の日ごろの行いのせいでさぁ、社員の大半が
 ストって仕事回んなくて倒産したんだよぉ!」
〇Aと配は受け取りの手続き
配「マジすか…。まぁいつかはこうなるんじゃないか
 と思ってましたけど。えっじゃあ
 もうここなくなるんすか」
B「そうだな。というわけで配達も多分これで最後だ」
A「うわまじか!やべぇ泣ける~」
配「ここ俺の憩いの場だったのに~」
A「出されたお茶絶対飲んでたもんね」
B「きみ時間の許す限り居たしなあ」
配「そおなんすよぉ。まじ社長に文句の一つでも言っ
 てやんないと気ぃすまないっす。
 ていうか社長は?どこ行ってんすか?」
B「それがなぁ」
A「夜逃げ中なんだよ。社長」
配「夜逃げぇ???」
A「そー夜逃げ」
B「社員のストライキから3日目くらいかな、気づいたときには音信不通だったよ」
配「やばいっすねそれ…(着信)うわっ!上司からっす…
 すいません最後なのに
 とりあえずファイトっす!そいじゃっ」
〇配達員退場。AB見送る
A「この会社も終わり、かあ」
B「んー。(作業に戻る)」
A「いろんなことあったなあ。主に社長のせいで」
B「感傷的になってる場合じゃないぞ。
 さっさと片付けないと」
A「ちぇー。相変わらずドライだよなぁ…」
〇B、来た荷物に手を付ける
B「…あ?」
A「へ どした」
B「なん,かこれ、差出人かいてないんだけど」
A「…えマジだやば。てかなんで今気づいたん?」
B「気付かなかった…いつも判子ばっか押してるから惰性で」
A「マジ社畜じゃん。宛名はうちだしなんか取引先とかじゃねぇの?」
B「いや、そうなら絶対に書くだろ。それに必要なものは全部送ってもらったよ」
A「ん~ あ、じゃあ社長から⁉」
B「いや、クール便じゃないからハーゲンダッツじゃない」
A「そっかー じゃ何???」
B「もしかして…社長への嫌がらせ…?」
A「あーあり得る あ じゃあゴキブリだね」
B「何でそうなる」
A「だって嫌がらせと言えばゴキブリかロケット花火だろ?」
B「お前の常識は変なところで治安が悪いんだよ」
A「えー?じゃあ猫とか」
B「は?急になに?」
A「いやこのまえさぁ、テレビで見たんだけど、箱の
 中にいる猫が生きてるか死んでるか箱開けるまで
 わかんないから、箱の中の猫は半分生きてて
 半分死んでるんだってー」
B「ふーん??」
A「だからこの箱の中身は半分生きてて
 半分死んでる猫だよ」
B「この中身、多分生物じゃないし、全然動かないけど
 な?」
A「じゃあ死んでるわ」
B「なんなんだよ。」
A「もう面倒だからあけよーぜ」
B「そうだな」
〇B、ハサミを取り出すが、動きを止める
A「…どした?」
B「お前が死んでるだの生きてるだの言うから
 開けずらくなった。」
A「そ?んじゃ俺開ける~」(箱を持つ)
B「ちょ、待て!」
A「え?なんで」
B「ほんとに、死体だったらどうする…?」
A「はぁ~?なわけないじゃん」
B「考えてもみろよ、社長だぞ?悪気なく方々に
 トラブルとハーゲンダッツをばらまいてたような
 あの社長の会社に宛先不明の荷物を送るっつった
 ら!」
A「…確定で嫌がらせじゃん」
B「そう!そして社長の所業から考えても、何が入っていてもおかしくないんだよ」
A「そおかもしんねーけどさー、なんで死体とか物騒なことになるわけ?」
B「…ほら、社長消える直前にガチの殺人予告来たとき
 あっただろ?」
A「あーあれ?」
B「そう、社長が方々に持ち掛けた企画がほぼ社長自身の手によって頓挫したあの事件だ」
A「確かにあんときは鳥肌立ったわ…え、てことは中
 身…」
AB「……」(箱から遠ざかる)
B「ま、まぁ仮にの話だよ。それにほんとにそうなら分かるはずだし」
A「そうだよなぁ!マジ焦らせんなって!」
B「ごめん ごめん。でも、今回はそれだけでかい“やらかし”だったからさ」
A「企画立ち上げたときの社長の目、すんごい
 キラキラしてたんだけどなぁ」
B「あの目ね。」
-回想-
〇在りし日の企業で社員が作業をする
〇社長室から社長が出てくる
社「聞いてくれ皆!」
A「聞いてますよ」
社「ありがとう! 実はずっと考えていた企画が実現しそ
 うなんだ!!もう関係者への売り込みはしたから今す
 ぐ取り掛かれる!」
B「売込みって…社長自分でやったんですか!?」
社「そう!自分が知ってる会社手当たり次第に声を
 かけたから、大きな仕事になると思う!
 責任も重大だが、他社との交流もできるから今後に
 も役立つと思うんだ!」
A「すっげーっすねそれ!」
社「そうなの!この企画は当たればこの会社にとって
 大きな利益になる!具体的な状況を説明するから
 集まってくれ。みんなで協力して成功させよう!」
全「おお!」
〇社員たち希望に満ちた表情でざわめく
-回想終わり-
B「あの目を見ると全部うまくいく気がしたんだよな」
A「まあ社長本人がそう信じて疑わなかったからね。
 失敗したあとのあいさつ回り大変だったなー。
 フツーに怒られたし。社長どんなだった?」
B「さすがにあの失敗はこたえたみたいでさぁ、
 ハーゲンダッツをしょぼくれた顔で注文するのを
 みんなで取り押さえたよ」
A「社長はハーゲンダッツしかないの?」
B「それから殺害予告とかきて…社長居なくなったのは
 その2週間後か。ストと言い、相当効いたんだな」
A「ほんと勝手だよな。ま、会社の危機ってなった
 とたん仕事そっちのけで転職する奴ばっかだけど」
B「そう言うなよ。さっきも言ったけど、みんな不景気
 の中生きていこうと必死なんだよ」
A「ジョーダンじゃん!わかってるって…。てかお前がこ
 の会社に残ってる方が驚きなんだけど。俺社長が
 失踪した初日にやめると思ってたからさぁ」
B「お前どんだけ俺のこと薄情だと…できないよ。
 一応、恩もあるし…」
A「恩?」
B「俺さ、就活で鬱っぽくなってから家にずっとこもっ
 てたんだけど、どこから聞きつけたのかある日突然
 社長が家に乗り込んできて、一緒に会社やらないか
 って…」
A「うーん やりそう!」
B「だろ?んで断ったら、それ以降毎日来て、話して、
 帰ってくんだよ。正直キッツいなぁって思って最初
 は無視してたんだけど、話してる時の社長めっちゃ
 必死でさ、話してるうちにもう何でもいいやってな
 って、あっちゅう間にこの会社に取り込まれてたっ
 て話さ」
A「ちょ、言い方笑 んでも、社長そういうとこあるよ
 なー。熱意しかないのに熱意だけで惹きつけるっ
 つーか、会社全然関係ないところから人引っ張って
 きたり。俺とか正にさー」
B「あー元ヤンの話だろ?」
A「それ。なんであんとき俺に声かけたかなー
 俺あんときめっちゃメンチ切ってたし、眉毛なかったんだけどみたいな」
B「その話、社内で有名だよな。社長ボコられ事件」
A「まー結果的に営業めっちゃ天職だったんだけどね」
B「人を見る目はあったってことかな。社員が優秀だって評判だったし」
A「それが、その社員ごと放り出されることになると
 は。何か一言くらい、言ってくれても良かったろ」
B「……」
〇社内の運び出しが終わる。例の箱だけ残される。
A「なんかしんみりしちまったな!すまん!」
B「あぁ、いや…そういえばお前はもう転職先決まって
 るのか?」
A「え!?あ~それが、まだっていうか何というか…」
B「は⁉おま、こんなとこで片付けなんてしてて良いの
 か?」
A「あーあー違うんだよ!…笑わないで聞いてくれるか?」
B「おう」
A「俺、東京で起業しようと思ってて」
〇B、目を見開く
B「…そりゃまた、大きく出たなぁ」
A「おぉ。だからまぁ、今はその準備期間兼、
 本格始動までのモラトリアム中的な?」
B「は~。人は知らん間に成長してんだなぁ~」
A「そんな大層なことじゃないって。そもそも成功す
 るかわかんないし…お前は?どうすんの」
B「俺は…実家に帰るよ。地元で仕事探してみる」
A「お前の方が決まってねーじゃん!大丈夫かよ?」
B「元々やりたい事があったわけじゃないしな。
 まあ、いったん出直してみるよ」
A「そうか…あのさ、もし実家かえってみて、落ち着い
 たらさ」
B「…?」
〇舞台端の段ボールから音
〇AB、箱の方へ振り返る
B「今なんか、音しなかったか?」
A「した。あの箱から」
〇A、箱を持ち上げ、持ってくる。B後ずさる。
B「ぉいおいおい! ちょ、待て持ってくるな!せっかく
 あの箱に話もってかないようにしてたのに!」
A「落ち着けって!この箱が社長宛てだとしたら、社長
 につながるものがあるかもだろ⁉俺やっぱ社長の事
 諦めらんねぇよ!」
B「それにしたって絶対ろくなもんじゃねえって!」
〇再び物音
A「うおお」 
B「ひぇ」
B「やっぱやばいってこれ!爆弾とか呪いの人形とかじ
 ゃねえの⁉」
A「いや待て!…もしかして…猫じゃね?」
B「は?…何言ってんの?」
A「さっき言ったじゃん!半分死んでる猫って!やっぱ生
 きてたんじゃん?」
B「いやいや絶対違うって!!何言ってんの⁉怖いよ!!」
A「そうと決まれば開けるっきゃねえ!」
〇A、ハサミを持ち出す
B「うわあああ!やめろ!」
〇B箱に覆いかぶさる
A「うおっなんだよあぶねーな!!」
B「お前がだっ!こんな得体のしれないもん開けずに
 捨てた方がいいに決まってるだろ!」
A「お前!ガチで猫だった時のこと考えろよ!!
 かわいそうだろ!!」
B「お前こそ爆弾だった時のこと考えろよ!
 開けたら死ぬぞっ」
〇舞台右端からドアを開ける音。
C「ただいまぁ」(舞台右から)
〇B、机の下に箱を隠す。
A「え、なんで?」
B「いいからフツーにしてろ」
〇C、入場
C「いや~大変だったよぉ。イナゴ見てたら職質受け
 ちゃって。 へへ」
B「あ~ははは大変だったね!最近はなかったのにね」
C「そうなんだよねぇ。聞いたら最近人事異動で入っ
 てきた駐在さんでさぁ、僕も顔知らないからびっく
 りしたよねー。説明に時間かかっちゃった。
 あ!はいこれ、お昼だよ~。遅くなっちゃったごめ
 んねぇ?」
B「いやいや!買ってきてくれてありがとう!…コーヒー
 淹れようか?俺入れてくるよ」
C「わぁ、ありがとう~」
〇C、舞台右中央寄りに着席。AB、左手前で密談
A「なぁ、なんであいつには教えないんだよ?箱の事」
B「あいつほんとになんも考えてないからな。あいつにだけはばれないようにしねーと…」
A「なるほど。箱見つけた瞬間箱にかじりつきそうだ
 もんなあいつ…」
B「そう。だからあくまで箱の話題は出すな。いいな?」
A「おう」
〇密談中にCが箱に気付く。手早くテープを破る
C「ねー。これなんの箱かなぁ」(聞きながら開ける)
〇AB、気づいて駆け寄る
B「待てっ!それは」
C「え、なに?」
〇C開ける。全員が中身を見る。
〇AB、気づいて駆け寄る
B「待てっ!それは」
C「え、なに?」
〇C開ける。全員が中身を見る。
全員「あ」

暗転


END


■登場人物
A  楽観的。根明で社交的。
B  慎重。根暗。
C  何も考えてない。交番は第二の実家。
社長 体育会系。無自覚トラブルメーカー。会社倒産
   に伴い行方不明。ハーゲンダッツくれる。
配達員 若い。会社に入り浸る。お茶は出されれば出
    された分飲む。

~あとがき~
こんにちは。
今回からあとがきをつけてみようと思います。
結構前に書いた台本が眠っていたので供養させていただきました~。
なかなか楽しんで書いたので、皆様に届くころにも、
そこそこ楽しんでいただけるものになっていればいいなぁと思います。
未来はいつも現在になる瞬間まで確定しません。まるで箱を開けるまで生死の分からない猫のように。
しかし進路や人生の岐路に立たされた時、未来の選択を否応なしに迫られることがあります。
そんな時に分からない未来におびえてしまうことも。私もその一人です。
一方で、未来は自動的に訪れるものでもあります。未来だったものは今この瞬間にも現在になり
過去になっていく。寝てても起きてても、それこそ生きてても死んでいても未来は来ます。恐ろしい。
だからこそ私たちは迷いながら、悩みながら、時には何も考えずに生きていくのかなと台本を書きながら、思いました。

あとがきが思ったより長くなっちゃった💦
またどこかでお会いできることを、また、読者様のよりよい未来を願っております。
今回は長々と台本を読んでいただき、
本当にありがとうございました!!!!
ではまた!!!!

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