第8話

〜授業の合間の休憩時間〜


「克己っ!」


席に座ったままの優希也が克己に声をかけ、手招きをする。
克己は優希也の(含み笑いのような)表情から何かあるな、と察する。


「めずらしくねっ?」
「何が?」
「いやさぁ、克己があんなに感情的になってるのってなかなか見ないからさっ!」
「そう?」
「照れんなって!」


克己が平静を装っていることを看破している優希也は、いたずらっぽい表情で克己に問いかける


「(気になるのは)あの子か?」
「・・・」


黙って頷く克己


「好みとか人それぞれだから俺がどうのこうの言うのはお門違いだけど、あの子は……」


顔を斜め上に傾けて視線を天井に一度向けてから、改めて克己を見据えてから


「あの子は、なんつーか、、、」


言葉を選ぶかのようにしばしの沈黙が流れる
時間にしては一瞬だが、克己にはとても長く感じた
その間に優希也が言いそうな言葉をイメージして、何を言われても良いように準備をする


「俺は悪くないと思うぞ!」
「???」


予想外の回答に唖然とした表情をする克己
そこにはあえて触れずに優希也は続ける


「悪くないっていうか…むしろ良い子だと思う!まぁあくまで直感だし、もちろん人となりは知らないから本当のところはどうなのかわからんけど……そんな気がする!」
「・・・」
「クラスメイトだし、ゆっくり知ってきゃいいだろっ!」


そう言いながら克己の肩を叩く優希也
こういうときの優希也の "観(かん)" は外したことがない。
コクッ、と頷きながら『さすが』といった表情を浮かべる。

一方で同じように『さすが』といった表情で克己を観る優希也。
克己のあの仕草、あの状態になったとき、これまで一度として外したことがない。
『思ってたより高校生活も楽しめそうだ』と、心の中でつぶやく優希也は笑いを堪えられずにいた。

〜放課後〜

各自帰り支度をしていると違うクラスの生徒がちょいちょい入ってくる。
小・中学校の同級生が集まっている様子で、一緒に帰るようだ。
たまたま同じクラスになった克己、優希也、里奈の3人
本当に運が良いなぁと思いながら下校準備を進めていると、里奈が出身中学が違う女子クラスメイトと談笑している。
どうやら途中まで一緒に帰宅しようと誘われてるようだ。
『さすが里奈だな』と思う克己
里奈は誰とでもすぐに打ち解けられる明るさや人懐っこさも兼ね備えている。
それでいて野球のときは別人かのように自他共に厳しい面を持ち合わせている。


「あいつの真の姿、今すぐ見せてやりてぇー!」


優希也と里奈は小学生のときの学童野球チームのチームメイトだった。
だからこそ里奈の厳しい面を間近で見てきた。
そのことを"真の姿"と表現しているのが何とも優希也らしいと克己は思う。
目を合わせて笑い合う二人


「何笑ってんの??」


声のする方を振り向いたら里奈がすぐ隣にいた。
ほんの一瞬目を離しただけなのに何で隣にいるんだ?といった表情をしている二人に『ふふふっ』と意味あり気な笑いを浮かべる里奈。


「怖ぇよ!」


思わず声が出る優希也
それに対して


「何がよ?!」


と、応戦する里奈


「音もなく隣に現れるとか忍者か!」
「居ちゃいけないっていうの?!」
「普通に声かけたりすればいいだろ!」
「そんなの私の勝手じゃない!」


二人の関係性を知らない人から見たら激しめの口喧嘩のように見える光景だが、二人を良く知る克己からしたらこれが日常なので、いつも通り仲良いなぁというような微笑みを浮かべている。


「(ったく、相変わらず可愛げがねぇ)」
「んっ?何か言った?」


聞こえないような小声でポロっと出ただけなのに、聞き逃さない里奈


「まぁまぁ。」


ここで克己が割って入ってくる


「2人とも、この後の予定は?」
「俺は特にないなぁ」
「私も特に急ぎの用事はないけど…」
「そしたらみんなで野球部の練習見に行かない?」


克己の思わぬ発言に少し驚く優希也と里奈
互いに目を見合わせて
互いに苦笑いしながら


「「行こう!!」」


3人はグランドへ向かう。

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