見出し画像

思い込みの怖さ

みなさんの日常には思い込みというのがどれほど潜んでいるのでしょうか?
もちろん自分自身ではどれほど思い込みに影響されているのかを認識するのは容易なことではないですが、思い込みによって可能性が狭まれていることが少なからずあるはずです。

今回はスポーツにおいて思い込みに大きく影響された事例を見ながら、その対象法について考えていきたいと重います。

1マイル4分の壁

メートル法を用いている日本ではあまりメジャーでありませんが、陸上トラック競技に1マイル走(約1609m)という競技があります。
この競技では1923年に4分10秒という記録が打ち出されて以降30年以上も記録が更新されることはなく、人間には4分を切ることが出来ないというのが定説になっていました。
その記録への挑戦の無謀さはエベレスト登頂や南極点到達に例えられるほどでした。

画像1


しかし1954年ロジャー・バニスターが4分を切るという偉業を成し遂げると、その後1年間に23人もの選手が4分を切るのです。
これは急激にシューズの性能が進化したわけではありません。
ロジャー・バニスターの快挙により4分を切れないという思い込みが払拭されたことで、4分を切るための練習メニューが組まれていったことにより成し得たものでした。

日本人100m10秒の壁

みなさんにも少し身近な事例を挙げると、日本男子の100mも思い込みの最たる例です。
数年前まで、日本記録は1998年に伊東浩司さんが樹立した10秒00でした。
しかし、2017年に桐生祥秀さんが9秒98と10秒の壁を破ると、一気に他の選手も続きます。

画像3

15日後に山縣亮太さんが10秒00を記録したのを皮切りに、サニブラウンさんが9秒97・小池祐貴さんが9秒98を記録します。
20年近く更新されなかった10秒の壁を続々と破っていったのです。
これはシューズの進化など科学的進化も一因であるかもしれませんが、10秒の壁は破れないという思い込みが払拭されたことも大きく影響しているでしょう。

思い込みの要因

「知識は力なり」という言葉を一度は聞いたことがあるのではないでしょうか?
これは哲学者フランシス・ベーコンの有名な格言ですが、彼は実験や観察をもとに帰納的に法則性を見つける際に先入観の影響の大きさに気づき、4つのイドラ(先入観の要因)があると説きました。

画像2

1つ目は、種族のイドラです。
これは人間という種族が持つ感覚や本性に基づくもので、人類一般が共通して持つ思い込みです。人間である以上、ほかの動物の感覚は分かりえないということです。
例えば、人間にとって世界は3つの原色によって構成されているというのが一般常識です。しかし、それは人間の目には色に敏感に反応する錐体細胞が3種類存在するためにそう見えているのであって、鳥類や昆虫は4原色も見分けられる一方、犬などの大部分の哺乳類は2原色しか見分けられません。同じ風景を見ていても、実際は生物によって見えている風景は異なるのです。

2つ目は、洞窟のイドラです。
これは狭い洞窟の中から世界を見るように、各々の考え方はその人の背景・経験に大きく影響されるということです。
例えば、2019年に起きた首里城火災のニュースを聞いた際、歴史に関する知識、住んでいる地域、信仰する宗教などによって印象は大きく異なるでしょう。歴史的遺産の喪失だと捉える人もいれば、沖縄の行きたかった観光名所が1つ無くなってしまったなぁと思うだけの人もいます。または神の怒りや不吉の前兆と受け取る人もいるかもしれません。このように同じ事実でも受け止め方は各々で大きく異なるのです。

3つ目は、市場のイドラです。
これは市場で聞く噂話のような不完全な言葉・情報によって誤解が生じることです。
例えば、ノストラダムスの大予言です。「1999年7月に恐怖の大王が来るだろう」という予言に対し、マスコミが中心となって核兵器・地震・彗星などによって人類が滅亡するという噂を広め、多くの人がこれを信じて翻弄されたそうです。

4つ目は、劇場のイドラです。
これは劇場で精巧な演出を加えられて見せられた物を信じ込んでしまうように、権威や伝統のあるものを率直に信じてしまうことです。
例えば、中世では権威のあるカトリック教会が天動説を主張していたので、コペルニクスやガリレオによって否定されるまで多くの人が天動説を信じていました。今では地球が太陽の周りをまわっていることは小学生でも知っていますが、当時はカトリック教会が主張していたというだけで多くの人が本気で信じていたのです。

思い込みからの脱出法

では、先程のイドラの考え方を基にして思い込みから抜け出す方法について考えていきましょう。
種族のイドラは少し特殊なので今回は対象外として扱います。

まず、洞窟のイドラから抜け出す方法について。
人脈の広い人が重宝されるのはなぜでしょうか?それは多くの人と接していることで多種多様な考え方を取り入れられていることも大きな要因だと思います。
なるべく自分と異なるバックグラウンドを持つ人と接する機会を増やすこと。これによって洞窟のイドラには対処できます。

次に、市場のイドラから抜け出す方法について。
これは近年よく耳にする情報リテラシーと大きく関わっています。メディアの発達によって日常的に情報が身の回りで溢れるようになり、いちいち全ての情報を吟味するのは不可能です。
しかし、その中で自分が大事と思う情報に対しては精査を怠らないようにすることで市場のイドラには対処できます。

最後に、劇場のイドラから抜け出す方法について。
同じ組織・団体に長年所属していると、次第にその組織・団体の権威・伝統というフィルターを通して物事を見て考えるようになっています。
これが必ずしも悪いことであるとは思いませんが、同調圧力によって考えが画一的になっていって外部に対しても排他的になっていく傾向があるように思います。
組織・団体に新しく入ってきた人や外部の人の客観的な視点を寛容に受け入れることで劇場のイドラには対処できます。

総括

精神面で成熟しているトップアスリートですら思い込みに大きく影響されているので、多くの人が思い込みで凝り固まっていることと思われます。

今回はフランシス・ベーコンのイドラという概念を基にして思い込みについて述べてきましたが、その考え方は大いに日常的に役立つものでした。
時折、立ち止まって自分の考え・行動を整理してみる。たったそれだけでも思い込みを減らすことが出来るのかもしれません。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?