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九州の西端・五島列島小値賀(おぢか)島で、国際交流大好きが、島ビジネスで、会社をつくるまでに行ったこと全てを公開

このnoteを読むとメリットがあるのは、こんな人です。
・離島、田舎で稼ぎたいと本気で思っている
・人生を充実させたいと本気で思っている
こんな意志を持つあなたは、このnoteから得た学びを1つでも実際の行動に移すでしょう。行動に移す人にとっては、何かしらのアドバイスと、やる気アップになると信じてます!

目次

まえがき

岩永太陽、不惑までの軌跡

私を支えている経営理念(離島ビジネス、宿運営など)
宿の経営者として大切にしていること
離島ビジネスを考える
小値賀を舞台としたビジネス
起業する人に知ってほしいことがある

情報発信にこそチャンスあり
 「個人」でも、地方でも勝負ができる時代
すべてがプラスにつながる情報発信
 動画全盛の時代が到来
 この国を変えるインバウンド

コロナ禍とその後の戦略
立ち止まり、物事を考え直すきっかけとなったコロナ
ポストコロナを見据え

補助金などの公的支援制度
 支援制度は積極的に活用したい
 実際に活用したおススメの補助金制度を紹介

友人・家族の声

あとがき

◆◆まえがき


 長崎県北部の海の玄関口・佐世保港。歴史あるこの港からフェリーで3時間半ほど揺られると、大小さまざまな島が姿を現します。小値賀諸島です。
中心となる島が小値賀島。五島列島の北部に浮かぶこの小さな島に、私が経営する宿泊施設「島宿御縁」があります。
人口わずか2300人あまりで、この国の原風景が残る小値賀島では、いわゆるリゾート開発が進んでいません。豪華なホテルはもちろん、コンビニエンスストアもファミリーレストランもありません。「何もない島」と表現する人もいます。
 ですが、私はこの島にこそチャンスがあるとみて島にUターンし、2015年に起業・独立。宿泊施設の経営に乗り出しました。
 離島という特殊な環境でビジネスを展開していることをはじめ、インバウンド対策や海外からやってきたスタッフの積極登用、精力的な情報発信による集客などの取り組みにより、多方面の方から関心を持っていただけるようになりました。
 マスメディアの取材や離島ビジネスに関心のある人、起業を志す学生さん、地方への移住に関心がある人、島の子供たちなどに対して、私自身が大切にしている経営理念やビジネス手法、創業からのストーリーなどをお話する機会に恵まれてきましたが、私の話が誰かの役に立つのであればと思い今回、私の考えや経験を書籍にまとめることを決めました。
 私自身、5年後に売上高1億円の企業を目指して日々奮闘しており、まだまだ「旅」の途中です。この書籍を通じて、これからもたくさんの方と「御縁」が生まれることを楽しみにしています。


2021年3月14日
株式会社御縁 代表取締役 岩永太陽


◆◆岩永太陽、不惑までの軌跡


●島暮らしに息苦しさを感じた少年時代
 生まれは福岡県です。小学校2年生のとき、両親のふるさとである長崎県の離島・小値賀島(小値賀町)に引っ越してきました。
 当時は、島というか田舎特有の距離の近い人間関係になかなかなじめず、息苦しさを感じていました。周りの目を気にして、自分の気持ちを外に出せない時期もありました。とにかく、早く島を出ることばかり考えていました。
 高校生時代は、野球部に所属。地方大会1回戦突破を目指し練習を頑張りました。インターネットも未発達な時代で、試合のため都会の佐世保に行くことがうれしかった記憶があります。チームメイトとアーケードで買い物したり、コンビニエンスストアに行ったり、CD買ったり、ゲームをしたりして、都会の風を感じることが楽しかった思い出があります。振り返れば、あまりパッとしない静かな学生時代でした。

●高校卒業と同時に渡米
 島の高校を卒業した翌日、野球留学の制度を利用し、思い切って海を越えてアメリカ合衆国へ渡りました。人生最初のチャレンジです。
これで自由だ、勉強に遊びにと、いっぱい体験するぞ、と胸を躍らせていたことを、今でもよく覚えています。自分が生き生きできる場所を探していました。アメリカに行ったら、小値賀には絶対、戻らないつもりでいました。当時から、絶対に成功してみせる、人とは違う人生を歩み、違うことにチャレンジして必ず成功して見せる、という思いを胸に秘めていました。
アイオワ州の大学で1年間、野球をしましたが、自分の才能に限界を感じて野球留学は1年で辞めました。2年目からは、英語の楽しさを伝える仕事がしたいと考え英語教師を目指すことに。現地の大学で、英語を母国語としない人向けの英語教授法に関する資格「TESOL(Teaching English to Speakers of Other Languages)」を学びはじめました。通常の留学に切り替えたんです。
もともと英語が話せたわけではないので苦労はしましたが、英語は感情をシンプルに、ストレートに伝える言語なので、自分に合っている気がしました。ものすごく勉強した記憶があります。英語を話すときは快適で、楽しかったせいか、すぐ話せるようになりました。
国籍も人種もばらばらの友達をたくさん作ることができて、毎日笑っていました。英語って、やっぱり素晴らしいですよね。食文化や価値観の違いも楽しむことができるなど、英語を話せたからこそできた経験も多く、間違いなく私の人生を変えてくれました。アメリカ横断旅行をしたこともいい思い出です。
留学をして、遊びも経験も満喫するけれど、大学だけは必ず卒業すると決めていました。どんな大学でもいいので4年制大学を卒業する、と。その目標がかない、2003年5月、北アイオワ大学(The University of Northern Iowa)を卒業することができました。

●自由気ままに好きなことをした20代
20代半ばで帰国した後は、英語を生かした仕事がしたいと思いつつ、青春を満喫するため、いろいろな分野の仕事に飛び込みました。
学習塾の英語講師、ホテル、メキシコ料理店……。テレビ局のアシスタントディレクターをしていたことも。お金がたまると海外旅行に行ったりもして、自分の時間を楽しみました。
この間、実は知人と共同経営という形で、大阪でバーの経営に乗り出したこともあります。26歳の時です。数年で辞めましたが、ある程度事業がうまく回ったこともあり、このときに経営の面白さを知りました。
振り返ると、20代のころは将来何をするかなんてあまり考えず、好きなことをしてお金を稼ぎ、自由気ままに楽しんでいました。ただ、いつか自分で何かを始めたい、何かにチャレンジしてみたい、という考えは胸に秘めていました。
 30歳を目前に、バー経営を離れて「ワーキングホリデー」制度を利用しオーストラリアに渡りました。海外の雰囲気が恋しくなったんです。
約1年間、旅をしながら、英語力のブラッシュアップを兼ね接客業を学びましたが、再度帰国した後はオーストラリアの旅行会社「Venture」で、インバウンド向けツアーガイドの職に就きました。
「ボス」である社長はオーストラリア人で以前、小値賀で1年間、英語教師をしていたんです。母親の紹介でした。
これが転機となります。

●ツアーガイドを通じ宿泊業の面白さに気付く
 ガイドの仕事は国内を飛び回る日々で、1、2カ月間家に戻れないこともあるなど多忙でしたが、海外の人を国内の地方観光地に案内するうち、田舎の良さや魅力を感じられるようになりました。
 ガイドを続けるうちに、この仕事は天職とまで感じるようになりました。大好きな英語も生かせましたし、いろいろな場所に行ってツアー客と一緒に遊んだり、おしゃべりしたりするのが楽しくてしょうがなかった。
地方では小さな宿をよく利用しましたが、インバウンド向けの宿は個性あふれる魅力的なオーナーが多く、食事から宿の雰囲気まで海外の人をもてなす趣向が凝らしてあるところも多かったです。みな心から楽しそうに仕事をしていたのが印象に残りました。心づくしのもてなしに、海外からやってきた観光客も、心の底から旅を楽しんでいるようでした。
満足そうな表情をみせるインバウンド客をみているうち「宿経営も楽しそうだな、私もやってみたいな」という思いが膨らんだのは自然な流れでした。
昔は嫌いだった田舎も、ツアーガイドの仕事を通じて良さや魅力が見えるようになり、子育てにもいいのではないか、とも思うようになりました。

●「オヂカ、ファンスタスティック!」
そんなとき、勤めていた旅行会社で「日本の田舎に行こう」という旅行商品ができ、ふるさとである小値賀島も案内したことがありました。
すると、海外からやってきた旅行客が「東京や京都より、この島がいい!」「オヂカはファンタスティック!」って言うんです。
小値賀島には、観光客が見物できるような観光施設などないですし、コンビニエンスストアもショッピングセンターもありません。でも「それもいい」と。
島の人や私の家族も紹介しましたが、インバウンド客は、地元の島人とふれあえたことが一番楽しかった、って言うんです。
「旅人でも、昔からの知人のように扱われる」。小値賀には、こんな言葉があります。そして、島に足を踏み入れると決しておおげさではないことが分かると思います。
古くは遣唐使、近代は捕鯨船の寄港地として、海上交通の要所でもあった小値賀。さまざまな人が島を出入りしてきた歴史を背景に、島外の人であっても受け入れるおおらかな風土が根付いていると言われていますが、インバウンド客にも気軽に話しかけるんです。
インバウンド客は、地元のおっちゃんとカラオケをしたり、酒を飲んだり、ふれあえたことが楽しかった、と話しました。

●起業を決断し、小値賀にUターン
この経験により、小値賀島を含め地方や田舎に対する見方が180度変わりました。
小値賀も、いいところなんだ、って。
ファンスティックなんだ、って。
インバウンド客が少ない小値賀で宿を開き、海外から観光客を呼び込めばおもしろいのではないか―。そんな気持ちに駆られ、当時、既に結婚して子供もいましたが、時間をかけて家族会議を重ねた結果、ふるさと小値賀に帰り、英語力も生かしながら「海外の人が楽しめる宿をつくる」ことを決断しました。
2013年に家族とともにUターン。ですが、半年ほど島の観光協会で働きながら島の勉強をしたり、実母が経営するカラオケ店を手伝ったりし、あらためて島の魅力探しや宿の経営方針について研究しました。
満を持して起業し「島宿御縁」を開業したのは2015年6月20日のこと。35歳の時でした。
この年の3月2日、私のばあちゃんが他界したまさにその日に島宿御縁の棟上げが行われ、オープンしたのも、ばあちゃんの誕生日である6月20日でした。小さいころはばあちゃんに育てられたので、なんだか見守ってくれたのかとも感じましたし「頑張れ」ってメッセージをもらったようにも思います。
当初は、もう少し長く観光協会で働くつもりでしたが、とにかく「早く宿をやりたい」という思いが強く、銀行を説得して融資を受け、走り始めます。
もう戻ることはできない。チャレンジするしかない、と腹をくくったことをよく覚えています。
「いろいろな人との出会いや縁があり、今の自分がある」との思いが強くあったので、「島宿御縁」と命名しました。この屋号が、経営理念にもなっています。出会いは、偶然ではなく必然だと考えています。

●「世界中の人が集う宿をつくる!」
語学力も生かしながらインバウンド客を積極的に取りこんでいる宿として、今では小値賀ではオンリーワンの存在。海外からインターネットサイトを通じ予約できるは2021年当初時点で、島ではうちの宿しかありません。
ですが、開業して最初の予約は3人様。電話での予約対応、夕食サービスなど、とても緊張しました。
地方創生にはインバウンド対策が不可欠との思いが強かったので、「世界中の人と出会える島宿をつくる」というコンセプトを胸に抱いての船出となりました。
開業時は、海外の人が好むバス・トイレ完備で畳の部屋がある和室八部屋の宿としてスタートしました。宿を建てるとき、島の人たちが手伝ってくれましたし、完成してからはお客さんを紹介してもらったりもしました。
子どものころは、息苦しかった人との距離の近さ。ですが、その近さが本当にありがたかったです。別の島で起業しようと思っても、できなかったと思います。
2016年には「島宿ゲストハウス御縁」を新設し、さらに収容人数を増やしました。

●「あなたの宿で働きたい」世界中から届くラブコール
2017年6月には、株式会社御縁として法人化を果たし、併せて実母が経営していたカラオケ店も吸収すると同時に改装し、カラオケ&カフェ店としてリニューアルオープンさせるなど、スピード感をもった経営を進めてきました。
宿の平均稼働率は、1年目は50%程度にとどまりましたが、2年目には約70%にまで伸長。2019年までは、約80%以上の数字を記録していました。
 インバウンドを呼び込みたい、という当初の思いに沿って、インターネットを活用したインバウンド対策も徹底してきました。
海外向けボランティアサイト​(「Workaway」「 worldpackers」)、日本人向けボランティアサイト(「ひげむう」「ヤドグラシ」) などを活用し、住む場所と3食を無償提供する条件で、海外からヘルパーを募集。新型コロナウイルスが社会問題化するまでは毎日のように応募メールが届くほど人気が高かったです。
海外からやってきたヘルパーには、仕事だけではなく、小値賀での生活も楽しんでもらいたいと考えています。私もいろいろな話を聞きたいし、ファミリーの一員として迎えています。
 開業から5年間で、ワーキングホリデーの学生ら延べ200人以上のヘルパーが、海を渡って島宿御縁に来てくれました。
 島にどんどん外国の人がやってくるようになると、最初は驚いていた島のおじいちゃん、おばあちゃんたちも、小値賀弁で普通に話しかけたり、英語を教えてもらったりと交流を始めました。今や、小値賀に海の向こうからやってきた人がいる風景は、違和感がなくなってしまいました。

●ビジネス層の取り込みで経営安定化を図る
島にUターンしたあと開業までに行ったリサーチで、夏休みや大型連休などのハイシーズンを除くと、小値賀とはいえなかなか観光客を集められない現実が見えてきました。
一方で、ビジネスでの来島者は、繁忙期・閑散期に関係なく、年間を通じ安定して島にやってきます。島のような土地で事業を継続するには、ビジネス需要の取り込みは必須だと考えるようになりました。
結局、収益を上げられないとビジネスを続けたくても続けられなくなる。理想だけで食べていくのは難しいことが分かりました。そして、安定経営のためにはビジネス層の取り込みが不可欠と判断し積極的に取り込みを図ってきました。
また、宿の知名度が上がるにつれて、近年は、インバウンド客だけではなく日本人の「助っ人」も増えました。起業や地方への移住を視野に入れている人も多く実際、御縁で経験を積んだあと起業した人もいます。
今では島を含む地方とかかわりを持ちたい、という潜在的関係人口の「ビジネススクール」のような役割も果たしているように思います。

●ピンチはチャンス! コロナ禍でも積極的に事業展開
 宿開業から5年目となった2020年、経営に手ごたえを感じ始めたところに、新型コロナウイルスの感染拡大問題が勃発します。
 この原稿を書いている2021年冬も、コロナ第三波が猛威を振るっており、再びビジネスにも大きな影響が出ています。
2020年には売上高が前年同月比で90%以上減った月もあり当初は正直、どうすればいいのか分からない時期もありました。
ですが、ピンチはチャンス。がむしゃらに突っ走ってきたそれまでの5年間のやり方を見直すいい機会にもなり、補助金も活用しながら様々なことにチャレンジ。どんなことがあっても生き残れる経営体制を模索し、経営スタイルだけでなく生活スタイルも変えました。

●変化を恐れていてはチャンスをつかめない
さらに、2021年春には5部屋を増設。定員増により機会損失をなくすと同時に、大型ツアー客の受け入れも対応できる見通しです。
また、コロナ対策として国が新設した「中小企業等事業再構築促進事業」を活用し、カラオケランドリーのオープンも計画しています。株式会社御縁の飲食部門であるカラオケバーは、母が経営を担っています。
コロナの影響でサービス業も売上が減少し、飲食部門でも変化しなければ、未来へのチャンスをつかむことができません。そこで、カウンターにある広いスペースを活用し、布団も洗えるランドリー、シューズランドリー、乾燥機を設置。宿の洗濯、乾燥も可能になります。相乗効果として、カラオケに1人でも多くのお客様に足を運んでいただけるような導線を作りたいと思っています。
小値賀島にはランドリーがないので、宿泊客をはじめ、島の移住者や高齢者、独身者らも使用してくれると思っています。ランドリーの待ち時間にカラオケを楽しんだり、飲んだり、仕事もできるので、売上げアップにつながれば嬉しいです。

◆◆私を支えている経営理念(離島ビジネス、宿運営など)


◆宿の経営者として大切にしていること

●清潔で安心してもらえることが絶対条件
宿の経営で大切なことは、まず清潔で安心できる場を提供することだと考えています。これらのことは私にとっては絶対で、宿としては最低限のことだとも思います。
宿泊された感想をお客様からうかがう機会はたくさんありますが、「快適に眠れました」という言葉は、特にうれしいですね。宿は基本的に「寝る場所」を提供していますが、清潔で安心感があればこそ気持ちよく寝ることができると考えます。
「これまで泊まったなかで、一番快適に寝ることができました」と言われたときは、本当にうれしかったです。

●掃除はサービス業の基本
掃除の重要性に関しては、島宿御縁で働くことが決まった新規のスタッフやアルバイト、ヘルパーなどに最初、必ず伝えているほど徹底しています。
サービス業にとって、すべての仕事は掃除から、という考えが私にはあります。基本は掃除なんです。清潔さは世界共通だと思っているので、これだけは決して手を抜きません
1に掃除、2に掃除。3、4が掃除で、5も掃除です。島宿御縁では、全員汗だくになって、丁寧に隅々まで掃除を行います。
万全を期すため、掃除後の部屋の最終チェックは、必ず私自身が行う入念さ。すべての部屋を確認し、ゴミがないか髪の毛が落ちていないかを厳しくチェックします。掃除の「髪さま」を毎日拾っています。
清潔感のある空間は、本当に気持ちがいいです。宿泊業に限らず、ビジネスや人生の基本も、広い意味での「掃除」ではないでしょうか。身の回りの掃除、整理整頓は、自分自信を整理することにもつながります。

●安心してゆっくり寝て頂くために
安心して宿泊できる。
宿は、この「安心」も非常に重要です。とりわけ島の宿だからこそ、初めてのお客様などは、どのような宿なのか不安になる方も多いのではないでしょうか。インバウンドのお客様であれば、なおさらでしょう。
観光、釣り、ダイビング、海水浴、仕事……。宿をご利用になるお客様の目的はみな違いますが、泊まるのは同じ。安心してゆっくり眠れることを望んでいらっしゃるはずです。
安心感がある雰囲気を生み出すのに必要な要素は、オーナーやスタッフの対応、清潔さ、料金、食事をできるか、ゆっくり寝ることができるか――などが挙げられます。
細かい部分まで踏み込めば、ユニットバス付きの部屋、タオル類、歯ブラシなどのアメニティー類、ドライヤー、鏡、パンフレット、ハンガー、テレビ、エアコン、お茶にポット、WiFi環境、ランドリー、クレジットカード払い対応、送迎があるか、英語対応、ビジネス客向けのロングステイ対応――なども挙げられるでしょう。新型コロナウイルスが社会問題化してからは、マスク着用の徹底や消毒液、空気清浄の配備など、どれだけ対策を講じているのかを公開するのが宿を選ぶ決め手になっているとも思います。
これらがそろって、はじめて泊まって安心できる宿になるでしょう。安心して頂けたことがきっかけとなり、ファンが増え、リピーターになってもらえることもあります。理想の姿ですね。

●お客様との「ほどよい距離感」の大切さ
接客に関しては、お客様との「ほどよい距離感」を心掛けています。一般的なゲストハウスのように、お客様と一緒になってワイワイすることはありません。
民泊やゲストハウスのような、和気あいあいとした雰囲気作りには配慮しながらも、宿は観光やビジネス、海外からのお客様などいろいろな方が利用するので、それぞれのお客様の雰囲気を感じ取りながら、適度な距離をとります。
 お客様とは、あえて少ししか話をしなかったりします。その場の空間を読んで、接するときに一瞬、話をしたりもします。
 お客様がどんな人なのかを知るために、空気感や物事への反応、言葉の使い方、声の張り、目の動き、歩くときの姿勢、服装、肌のつや、食事風景などにさりげなく目を配り、お客様の思いを感じ取って対応するよう心掛けています。五感を使った接客といえるでしょうか。島宿御縁の接客スタイルは、ある意味オールフリーで、その場その場で考えながらサービスすることと言えます。
 旅館だから、民宿だから、ゲストハウスだから、こんなふうにやる、という凝り固まった考えはありません。固定観念は壊しました。宿での過ごし方を提案はしますが、こちらで決めないようにする。思い思いの過ごし方をリスペクトしています。
大切なのは、自然で温かいサービスと空間。サービスの考えは人それぞれ違うと思いますが、おもてなしというのは、不便がなく、やりすぎないサービスが心地よいと考えます。

●ファーストコンタクトは非常に重要
宿には連日、メールや電話でいろいろな問い合わせがありますが、最初のコンタクトが非常に大事だと考えています。
例えば電話。ルルルルル……と電話が鳴り「ハイ! 島宿御縁です!」と元気いっぱいの対応からスタート。受話器の向こう側にいるお客様に伝わる安心感を大切にしています。
電話での対応や会話で、お客様の気分がどれだけ変わるのかを知っています。島らしさを残しながら敬語と方言を交え、優しく、丁寧に。心から、いつもありがとうございます、の気持ちで対応するようにしています。
これまでの経験から、電話やメールを通じたお客様の対応や声、雰囲気で、お客様が何を求めているのか、どんな人なのかを想像できるようになりました。
お客様一人一人が求めていることを感じ取りながら、その要望を大切にして対応するようにしています。

●早朝のゴールデンタイムを有効活用
私の一日は、日が昇る前に起床し、送迎や朝食の準備から始まります。朝は強いです。
そして、やるべきことを済ませた後、スタッフが出勤するまでの落ち着いた時間、おおむね午前5時~8時ごろまでの約3時間が私のゴールデンタイムです。
インターネットでの情報収集、読書、SNSの更新、ユーチューブのチェックなどを進めるのがルーティーン。職掌がら、早く起きなければいけない日々を利用し、集中することができる朝の時間を学びに充て、いろんなことにチャレンジする準備を進めています。私にとって、この時間帯は非常に大切です。
 時間は、どんな人にも平等にやってきます。私も40代に突入し、残りの人生、時間を何に使うか、どう有効に活用するのかを意識して、1分も無駄にせず一日一日充実した時間を過ごせるように意識しています。
これからも毎日早起きし、いっぱい勉強し、仕事を頑張って、ビジネスをもっともっと成長させたいです。
私にとって、早起きが成長への一歩。仕事が楽しく、やりたいこともいっぱいあって、もっともっと働きたいですが、家族の時間も大切にしようと思っています。

●何を学べるか、が大切
経営者として大事だと思うことのひとつに「いくら稼げるか」ではなく「何を学べるか」で仕事をする、ということがあります。
20代前半のころ。特に深い考えを持たず、ただ、いくら稼げるのかを考えながら働いていました。20代後半になって、なんとなく好きなことを仕事にしたいと思うようになり、バーテンダー、ツアーガイド、旅館、レストランでの接客などに汗を流しました。
結果的に、これらの経験を通じて学んだことが土台となって、小値賀島で宿を開くと決めたとき、やれるという確信が生まれました。
大きな利益を手に入れるには、起業することが一番だと学んだのも、実際に20代でバーを開業して知ったことです。リスクはありますが、勤め人に比べ頑張った分だけ稼ぐことができます。すべては自分次第、という点で私のスタイルに合いました。
学びを続けることでそれまでにない価値を生み出すことができれば、自分自身や会社の価値も高めることができます。それにより、売り上げや利益を伸ばすことができれば、最終的に地元・小値賀島や社会にも貢献することにつながります。

●学びを止めない
面白いこと、楽しいことをするためにはアイデアが必要ですが、そのためには勉強あるのみです。
若いときは勉強嫌いでしたが、今は知らない事を知る、新しい事を学ぶことに喜びを感じられるようになりました。できることなら、大学で学び直したいな、と思うこともしばしばです。
学ぶ事がこんなにも素晴らしいとは、起業して分かりました。学ぶことを止めたら、成長も止まってしまいます。勉強することが次へのチャンスをつかむ近道です。
以前読んだ本に「人生で成功するのに必要不可欠なのは、書く、話す、交渉するといったコミュニケーション能力に加え、自分の知識と技術を広げる努力を常に続けることだ」と書いてありました。
仕事に子育てにと、やらなければいけないことは毎日、山積みです。ですが、何とか時間を作って勉強しています。
正直大変ですが、やらなければ、そのまま進歩がありません。だからこそ時間を精一杯有効活用して学びを止めないよう心がけています。

●ビジネスでは信頼、信用を大切に
起業した当初は、誰かとビジネスに関する取引をする際に「どれだけ安くしてもらえるのだろう」と、そんなことばかり考えていました。お金もありませんでしたし、交渉すれば値切れると思っていましたし、しつこいくらい、いろいろ質問したりもしました。
でも今は、相手を信頼・信用し、お金の交渉はしますが値引きなどは求めなくなりました。
信用ある人と取引できるようになったから、というのもありますが、大切なのは、気持ちよく仕事をしてもらうことが、次につながると思うからです。相手に信用、信頼してもらえたら、そちらの方が結果的に得られる価値は大きいし、得をすると思います。
もちろん納得いかないときは話し合いもしますが、相手のプランに沿って、いつも一歩下がって交渉することを学びました。
実際は、損をしていることも多いのかもしれません。逆に安くして頂いているかもしれません。信用信頼で「ウィン・ウィン」の関係に。いろいろな交渉を通じて相手との関係を構築し、宿をもっと成長させていきたいです。

●すべてを明らかにする
私は、SNSやメディアの取材のときなどでも、基本的にすべての情報を公開しています。隠すことなど何もありません。
「情報を公開することはリスクにつながる」と指摘されることもあります。確かにプラベートも知られることになりますが、別に私のプライベートを知られても何にもならないし、いろいろ言われても気にしません。
むしろ、情報を発信しないほうがリスクだと感じています。
何も発信しなかったら、私がどんな人かも伝わらないし、興味も持ってもらえません。ビジネスをするには、むしろ、そのほうがリスクだと考えます。
コツコツと情報発信も続けていますが、普段は、アクセスもほんの数百人程度にすぎません。きっと、自分が思っているほど何とも思われてはいないでしょうし、特に期待もされていないはず。そんなものではないでしょうか。
 宿の経営を通じ、学びえた知識がたくさんあります。離島を舞台にどのように経営したらいいのか、どうしたらお客様と繋がれるのか、インバウンド客を呼び込むにはどうしたらいいか――。私しか知らない情報もたくさんあります。
人によっては勇気が必要かもしれませんが、情報を公開することで、きっとファンが増え、多くの人が興味を持ってくれるでしょう。

●さまざまなジャンルに挑戦できる宿泊業
宿の経営を続けてきて分かったことがあります。それは、宿泊業は、さまざまなジャンルのビジネスに挑戦できる業種、ということです。これって最高ですよね。
宿は、単にお客様に宿泊していただくだけの場ではありません。観光はもちろん、飲食や物産、研修、講習など色々な分野と絡むことができます。私自身も、宿の経営からスタートし、いろいろなビジネスに挑戦してきました。
何か楽しいことができないかリサーチする日々。楽しくて、続けていけそうで、ビジネスとして成立するものは何かシュミレーションし、アクションに移します。
チャンスが来たらやろう、ではなくて、チャンスが来るためにやろう。そんなことを心掛けています。だって、チャンスはごろごろしているから。チャンスは、準備していないときに、いきなりやってくるものだから、普段から準備することが大切ですね。楽しいです。あとは実行あるのみです。

●大切なのは「想像」
何かをチャレンジする時に私が一番大切にしていることは「想像」です。
チャレンジによって、私やスタッフ、お客様など、みんなが笑顔でハッピーになっている姿を想像することができればゴーサインを出します。
想像によりイメージを膨らませるのは、実際にそのプロジェクトを展開する場所やお風呂の中、就寝前の布団の中などが多いです。いつもいろいろなチャレンジで頭がいっぱいですが、取組後どうなるのかを想像して、一番楽しそうなこと、一番みんながハッピーになれそうなことをやることにしています。


◆離島ビジネスを考える

●島を含む地方にこそビジネスチャンスがある
都会で暮らしていて「何かビジネスを始めたい」と思っても、すでにそのエリアで誰かが手掛けていることがほとんどでしょう。人が多すぎる都会。競争が激しく、何をやっても差別化は容易ではありません。さらに、何かを始めたいけれど、何から始めればいいのか、誰に頼っていいのか分からない人も多いのではないでしょうか。
離島を含む地方は、都会では当たり前のサービスが、当たり前に「ない」ことがとても多く、誰もやっていないことだらけです。チャレンジしようという人も少ないので、何かを始めると行政をはじめ商工会などの支援機関が向こうから手を差し伸べてくれることも多いです。これも地方の特権でしょう。

●大切なのはターゲット設定
私は以前、ツアーガイドをしていましたが、行く先々の宿のオーナーから「宿は稼働率を高めないとすぐに経営が厳しくなる」と聞いていました。
 島は、ハイシーズンの夏は観光客が大勢、海を渡ってきますが、冬はその数がぐっと減ります。宿の経営者は、1年を通じてどう経営を安定させるのかが勝負です。
 島宿御縁では、オフシーズンの冬、ビジネスで来島するお客様の宿に変身します。小値賀にUターンした直後、観光協会で働きながら起業準備を進めていたとき、観光客だけをターゲットにしても安定的な経営ができない現実を知り、考えた戦略です。
そもそも仕事で来島したビジネスマンであっても、観光客であっても、同じお客様に変わりはありません、もちろん同じようにサービスを提供しています。決して、悪い意味で「ビジネス客扱い」したりなどはしません。
いつも通りの精いっぱいのサービスをご提供すれば、最初はビジネスで宿泊したお客様であっても後日、「観光客」に変身し、プライベートで家族と一緒に宿泊してくださることもあります。
島宿御縁は、まずはビジネス客で底堅い安定した利益を出し、そこから国内の観光客、インバウンド客へとターゲットを拡大して利益を積み増してきました。

●島だからといって安売りする必要はない
離島の宿だから、小さい宿だから、といって価格設定を低くする必要はありません。島の他の宿と値段を合わせないといけない、といった考えも誤っています。
離島だけれど、ほかにはない価値や都会と変わらないような価値を提供している、と自信を持ち値段設定することが大切です。
ゴールデンウィークや夏休みなどの繁忙期に、どれだけ稼ぐことができるのかも重要です。繁忙期は、自信をもって普段より値段を上げ、売上げアップを図ることが重要ではないでしょうか。「価格の常識をぶっ壊す」ぐらいの強い気持ちが必要です。
そもそも、売り上げがなければ会社を継続していくことができません。宿も価値を高めることができれば、必然的に宿泊料金を上げていいはずです。それでも泊まりたいと思ってもらうよう、変化を恐れずグレードアップして、発信も継続し、現状に満足せずさらなる高みを目指して目標設定していくことが大切です。

●キャンセルがつきものの島宿
 「台風の影響で、明日の小値賀行の船が欠航になりそうです! ご予定は大丈夫ですか?」。
 天気予報をにらみながら、宿泊予定のお客様に連絡を入れることがあります。
 小値賀は船しかアクセス方法がないため、台風などの悪天候で船が欠航してしまうと、本土を出発しようとしている観光客の楽しい島旅が全部キャンセルになってしまうこともあります。
例えば2019年秋は、台風の影響で、ざっと400泊以上のキャンセルがありました。悲しいし売り上げも消えてしまいましたが、こればかりは仕方がありません。島の宿命です。
 すでに島に入ってしまった観光客は、迫りくる台風をにらみながら、船が動いているうちに早めに帰るか帰らないか、近くの別の島に船で観光できるかできないか、あれこれ頭を悩ませることになります。
そもそも、何かと制約が多い島旅では、ハプニングがつきもの。いろいろなことが起きます。
 ただ、台風接近でいったんすべての部屋がキャンセルになってからでも、個室が満室になることもあります。ビジネスの方、本土に帰れなくなってしまった方の予約など。それが島宿御縁です。人とのつながりを大切にしてきたから起きる奇跡でもあります。
 台風で来られなかったみなさんが「必ずまた来るね」と言ってくれることも多くあります。こんなお客様は有言実行、みなさん「リベンジ」で来てくれます。2回も天候の関係で島に来ることができず、3度目の正直でようやく来島することができ、宿泊された方もいます。

●思いがけず時間ができるからこそ
台風でお客様が減ったことで、逆にできることもあります。徹底して掃除したり、情報発信のアイデアをみんなと議論したり、勉強したり……。普段忙しいだけに、時間が生まれたからこそできることは、いっぱいあります。
するか、しないか。台風だから休もう、ではなく、台風だからこそ、時間が生まれたからこそできることにチャレンジしてきました。
これも「離島ビジネスあるある」かもしれませんね。

●地方に向けられる熱視線
地方への移住ブームに新型コロナウイルスの感染拡大も相まって、離島を含む地方へ注目度が高まっているのを感じています。
 起業に関しては、田舎は本当にブルーオーシャン。都会ではチャンスをつかむことが難しくても、田舎ならできるかもしれない。この感覚が非常に重要だと感じています。
 ただ、商圏人口が極端に小さい離島ビジネスで生き抜くには、島内の経済エリアだけで勝負するのは難しいです。島外のお客様にお金を落としてもらうことが大事で、そこで得た利益を島へ還元する仕組みを作れば地域にも貢献できます。
地方、島にもチャンスがあると信じて、これからも小値賀島という素晴らしい島に新しい風を吹かせていきたいです。

●島では起業に面白みがある
 小値賀島には大勢の移住者がいますが、島への移住に際しては事前に島での仕事についてよく考えることが大切だと感じています。
ビジネスに関していえば、小値賀などの離島には、プレーヤーが少ないです。なので、すぐにオンリーワン、ナンバーワンになれる可能性を秘めています。
個人的には、島に移住しても、どこかに就職して勤め人になるのではなく、島で起業すること、つまり生産力を生み出す取り組みに主体的にチャレンジすることに面白味があると感じています。
ただ、具体的なビジョンを持って離島で起業し、ビジネスを持続していくことは決して容易でないことも確かです。
地方へ移住し、理想通りの暮らしを送るのはそんなに簡単ではありません。島ライフとは、自然と、島人と、地域社会と生きることでもあります。海が美しいから、といった理由だけで島に移住した人の多くが島を去っていきました。

●根強く残る「Uターン=負け」というイメージ
島へのUターンに関していえば、残念ながら「島に帰ってきた=負け」というようなイメージが根強くあります。
 私が宿を開業したときも「そんなことで食っていけるのか」といったようなことをたくさん言われました。こんなイメージを崩したいと思っていますし、私自身が道を切り開いていきたいとも思っています。
 小値賀をはじめて訪れるきっかけは人それぞれでしょうが、きっかけは何であれ小値賀島に来ることで価値観ががらりと変わり、島のファンになることもあります。
 たくましい人や地域に変化をもたらすことができる人が集まると、地域はもっとおもしろくなり、栄えるような気がします。
私個人は「何度も島宿御縁を利用しているうち、島に住みたくなった」――という流れを作っていきたいと願っています。

●英語と生き方とビジネスと
ツアーガイドをしている友達のブログを読んでいて、共感したことがありました。
それは、英語を使うガイドとして通訳に正解はない、という話です。
ガイドが100人いれば100通りの訳し方があります。それぞれの伝え方、表現方法、アプローチがあって、ある意味で通訳に正解はないのだと。
そして、一番大切なのは、仮に文法が間違っていても発音が間違っていても、伝わること、ということです。
私の英語はジャパニーズイングリッシュで、文法や発音は上手ではありませんが「伝える」ことには自信があります。伝えたいことを、すべて伝えることができます。海外に行っても困ることはありません。
通訳に正解がないように、生き方にも、ビジネスにも正解がないと思います。ああしないといけないとか、みんながそうしているからとか、正解なんてないんです。
正解を探して生きていく社会って何なのでしょうか。100人いれば100人の生き方があっていいと思います。
英語も、ビジネスも、生き方も、自分らしくやっていきましょう。人から何を言われようが、自分を信じて頑張るのみです。

●いつか子供たちと一緒に
現在、私には子供が5人います。みんな私みたいに一度、小値賀島を飛び立ち、夢を、自由を手に入れるために都会へ勉強や働きに行くでしょう。
昔の私はずっと島から出たいと思っていましたし、友達も親も、みな「大学へ行き、都会で頑張れ。小値賀島には帰ってくるな」という感じでした。でも、今の小値賀島の子どもたちは「いったん島を離れても、いつか帰ってきて働きたい、何かやってみたい」と島を大好きなふるさととして考え、ポジティブな印象を持っている子がいっぱいいます。
私も子どもたちに「小値賀島はいいよ! 帰ってこい! 楽しいね!」と言って、一緒に島の未来を考えたり、釣りをしたり、宿の経営やお金のこともすべて話して、興味を持ってもらうよう接しています。
子供は島の、そしてこの国の宝です。小値賀島がこのような雰囲気であれば、若い人は今後もっと帰ってくると感じています。

●島の教育にも力を入れたい
私は、ビジネスで成功することと同じくらい、子供たちへの教育が大切で、ミッションだと考えています。それは教育が田舎、離島、地方を変えていくと考えているからです。
 私は、小値賀島の教育関係の会議や委員に呼ばれることも多いですが、すべて参加し、どのような教育が島で行われているかを学んでいます。島の教育を知ることができるのは、とても嬉しいことです。委員などのメンバーに選んでいただけるのも、発信を続け、Uターンで起業し、結果を残しているからだと思ってます。
2020年12月には、小値賀中学校2年生を対象に、私自身のことや起業をテーマに話をする機会に恵まれました。チャレンジすることの大切さ、常識にとらわれないこと、何か一つ夢中になれることを見つけること――などを話しました。
このように年数回は、いろいろな場所で話をする機会がありますが、これからもチャンスがあれば積極的に思いを伝えていきたいと思います。


◆小値賀を舞台としたビジネス

●価値観、真理の変化
私は20代のころ、海外に憧れてアメリカに留学したり、ワーキングホリデーでオーストラリアに滞在したりしましたが、ツアーガイドとして世界中の人と日本全国を旅するかなで、日本の素晴らしさを世界に伝えたい、という思いが強くなりました。
自分探しの旅や、世界の絶景めぐりもいいですが、母国である日本を旅するのも面白い。この国を知り、この国の歴史を学び、今を知ることにもつながります。いろいろな土地があり、異なる生活環境があって、そこで暮らしている人々がいます。
小値賀島のような小さな島も、おもしろい。離島は「資源の宝庫」です。
インターネットもなく、バブリーだった時代では、今のような価値観はなかったかもしれません。私が子どものころは、田舎イコールダサい、何もない、稼げない、という印象が根強くありました。
でも時代は変わりました。価値観、真理が変化してきたんです。ぜひ小値賀を訪れ、見て、感じて、体験して、頭で考え、感じてみてください。

●「なにげない日常」が貴重な観光資源
小値賀島には、ある意味、何もありません。
一口に島といっても、いろいろな規模の島がありますが、人口2300人の小値賀は、他の島と比べても、何もありません。
 ツアーガイドをしていたころ見聞きしたことや、宿経営を通じて世界中からヘルパーを受け入れている経験などから、学んだことがあります。
 それは、インバウンド客にとって、小値賀島の「なにげない日常」が貴重な観光資源であり、外国からのお客様を引き付けるコンテンツである、ということです。
島人の日常生活において、ごく普通のことが、インバウンド客にとっては刺激的で、楽しい経験なんです。決して何もないわけではありません。
海外の人にとって、滞在期間が限られた貴重な旅の時間のなかで、海外に行くぐらい遠い小値賀島に来てもらうことは、なかなか容易ではありません。
でも、小値賀島の素晴らしさ、日常生活を世界に発信し続ければ、興味を持った人が世界中からもっともっとやってくると思います。

●人に会う旅のおもしろさ
 どうやってその土地のファンになってもらい、つながりを作っていくか。
 非日常的なレジャーや観光資源も大事ですが、小値賀のような小さな島では、それだけを売り物にするだけでは観光業は成り立ちません。
島宿御縁では世界中の人を迎えたいと思っていますが、そのために私は「人」が重要だと思っています。
「人に会う旅のおもしろさ」という話をよく耳にするようになりましたが、まさしくその通りではないでしょうか。
私も旅行が大好きで、ツアーガイド時代は日本中を飛び回りました。日光、高山、広島、京都など、100回以上出かけましたが、毎回楽しみな気持ちで訪れていました。
なぜなら、人に会うのが楽しみだったからです。
振り返ると、面白い、楽しいと感じることができた旅は、素敵な人に出会えた旅ばかりでした。

●「人」にシーズンはない
春、夏、秋、冬。観光にはシーズンがあります。
でも私は、いつ会っても私。どんな季節に会っても私、私、私、私です。
小さな小値賀島は、1日で十分観光できます。何かを見て回るだけであれば、すぐに終わってしまうかもしれません。でも、人に会うことが目的の旅であれば、何度行っても楽しいし、いつ行っても楽しい。
普通の観光であれば「小値賀には一度行ったし、どうせなら次は違う場所かな」ってなりがちですよね。
どうすればリピーターにもなってもらえるか。そのヒントは、リピーターになっている人の決して少なくはない人が、人に会うことを目的としているということです。その意味で、何度も訪れたくなる島をつくるには、そこで暮らす人々が豊かになって、笑顔で楽しいライフスタイルを過ごすことも重要だと考えます。

●小値賀島の魅力を高めているのも「人」
小値賀では近年、UIターン者を中心に、いろいろな分野で起業に挑戦している人がいます。それぞれが得意分野で頑張っています。人口2300人の島なのに起業ラッシュって、すごいですよね。それだけ小値賀には魅力があるということだと感じる日々です。
人が島の魅力を作る一部となっている印象で、いい方向に向かっていると感じています。島は国内の外国かと思うぐらい遠いですが、移動が不便な分だけ、出会いの際の感動も深まるでしょう。
そして私という人も、島宿御縁の、そして小値賀の「個性」の一つです。私という個性が旅の目的になって、また小値賀を訪れたいな、と思ってもらえるよう頑張ります。

●島での楽しみのひとつが「体験」
 島で何をするべきなのか? その答えの一つが「体験」です。
 ほしいものは何でも手に入る時代となり、次は体験を求める人が多くなってきた印象があります。
小値賀では、都会ではできない体験を満喫することができます。例えば島宿御縁ではカブトムシ捕りツアーも行っていますが、子どもたちにとってはとてもすてきな思い出に。私も子どものころよく捕りに行きましたが、あのワクワク感は一生忘れられません。
また、人と人の結びつきを強くするには「体験」が一番です。それは私とお客さんであったり、お客さん同士であったり。絆が深まります。
共通の体験をすることで会話も弾むし、コミュニケーションをとることもできます。私は昔、よく旅をしましたが、やはり旅先での体験は思い出深いです。
 体験が楽しければ、また来てくれるかもしれません。小値賀を忘れられなくなるかもしれません。友人に小値賀の良さを口コミで広めてくれるかもしれません。
宿での夜はお酒も進むでしょうし、帰りの際にはお土産もたくさん買ってくれるでしょう。小値賀でどんな体験ができるかを知ってもらうことが大切です。
小値賀は釣りの聖地でもあるので、2020年からは釣り動画を積極的に作成して、動画配信サービスのユーチューブで発信しています。私自身は初心者ですが、腕を磨いて2021年からは釣りツアーも本格的に手掛けたいです。
釣りは、なかなか思い通りにはいきません。釣れるときも釣れないときもあります。ビジネスや人生とも共通するものがありますね。


◆起業する人に知ってほしいことがある

●チャレンジする大切さ
2019年ごろからでしょうか。求人やヘルパー募集の呼びかけに、世界中から本当にたくさんの応募が集まるようになりました。
起業したい人、移住したい人、英語を学びたい人、日本文化を学びたい人、大きな夢を持っている人、小値賀で働きたい人……。それぞれがチャレンジ精神をもって、いろいろな思いを胸に小値賀島へ来たい、と訴えます。嬉しい限りです。そんな皆さんが小値賀の、そして島宿御縁のパワーになっています。
みんな、チャンスをつかもうと、経験を積もうと、チャレンジしようと、島宿御縁とコンタクトをとるという具体的なアクションを起こしています。
チャンスって、そこら中にゴロゴロしているかもしれませんが、決して向こうから寄ってくるものではありません。自らつかもうとしなければ、手に届く事はありません。
私自身、失敗することには耐えられますが、チャレンジしないことには耐えられません。何事もチャレンジすることが大事です。
ビジネスをスタートすることに、年齢や立場は関係ありません。ただ、一歩踏み出す勇気があるかないか。それだけです。成功も失敗も、すべては学びへとつながっています。だから、失敗を恐れる必要もありません。

●覚悟を決めれば、あとは力強く前に進むだけ
島宿御縁を訪れる人に対し、私も自分が経験して学んだこと、例えば島という特殊な環境での経営などに関して、知りたい人がいれば何も隠さず、すべて教えてきました。そして、同時に私もいろいろな情報を教えてもらっています。学びも多いです。新たな御縁に感謝です。
起業すると「どうせだめだろう」「無理じゃない」「大丈夫なの」という人もたくさん出てきますが、応援して助けてくれる人もたくさんいます。
 今からチャレンジする人、何かをスタートしたい人に伝えたいです。
他人の意見や誘惑に右往左往してしまうくらいのチャレンジであれば、しないほうがまし。いったん覚悟を決めたのであれば、頑張ってやることが必要です。できる人、できない人は、ここで分かります。
やると決めたことは、腹をくくってチャンレンジしてください。

●「何とかなるさ」スピリッツ形成の背景
 起業に関しても、その後のビジネス展開についても、「何とかなるさ」というある意味、楽観的な部分が私を支えてきました。振り返ると、そのスピリッツは英語をしゃべれなかった私が、米国の大学を4年間で卒業できた留学中に醸成されたと思っています。
 英語自体は、どうしても英語を話したいという強い思いを背景に、ひたすら単語やイディオムなどを覚えたほか、好きな映画を観て表現を記憶するなどして勉強しました。
 問題は大学の単位をどう取得するかですが正直、あらゆる手を使いました。
まず、周囲の人を巻き込み、他人の力を借りる作戦。親切な人と友達になって力を借りたり、親友のアメリカ人に頼み込んだりして課題などをクリアしました。
 また「やさしそうな先生」のクラスを選択したり、「自分はアメリカ人ではないので英語は苦手です」を先生にアピールして理解してもらったこともありました。
 結果、滅茶苦茶勉強したわけでもないのに、何とか卒業できたんです。何でも、やってみたら意外とうまくいくものだな、と感じたことをよく覚えています。

●起業家を後押しするインターネットの発展
 インターネットの発展がなかったら、小値賀に帰って起業していなかったかもしれません。インターネットは、私のビジネスを支える生命線となっています。
 例えば、物資面で島ライフがエンジョイできるのも、アマゾン、楽天などによりオンラインショッピングが格段に発展したからです。小値賀などの離島であっても、欲しいものが気軽にポチッとクリックして買える時代。不便さは感じません。
 島宿御縁にも連日、プライベート品からビジネスで使う備品まで、アマゾンからいっぱい荷物が届きます。物流の変化が世の中を大きく変えたと思っています。
 情報を手に入れる手段も、テレビからインターネットに移行し、私もいつの間にかほとんどテレビを観なくなってしまいました。
アマゾンプライムなどの動画配信サービスを利用すれば、好きなときに好きな映画を観ることができますし、音楽も聴きたい放題。ユーチューブのコンテンツも爆発的に充実してきました。
 SNSなどを活用し自由に情報を発信したり入手したりできるのも、インターネットのおかげです。
 インターネットによりショッピングのハードルが下がり、情報も世界とつながったことが、島の起業をこれからも大きく後押ししていくことは間違いないでしょう。
 これからも、時代の変化に対応できるよう、時代の流れに敏感に、常にアンテナを張っていこうと思っています。

●行動を起こす前には入念な情報収集を
よく「行動力がありますね」と言われます。個人的には、好きなことを、ただやりたいからやっているだけ、という感覚です。
ですが、決してやみくもにアクションを起こしているわけではありません。行動を起こす前に多くの情報を集め、自らの経験や知識に照らし合わせながら、できると思ったことだけ取り組んでいます。
大切なのは情報。豊富な情報が、行動へとつながる力強い足場となります。インターネット、テレビ、書籍、旅など、情報を得られる手段はたくさんあります。ある意味、行動力は、どれだけ情報を得られるかがポイントかもしれません。
ビジネスですから、もちろん数字で結果を出すことは不可欠。私には、宿の経営だけでなく、家族やスタッフの生活、すべてを守る責任があります。なのでアクションを起こす前に頭の中で電卓を叩き、数字をざっと計算して、勝算があると確信を持てたものだけ取り組みます。できると確信を持てるからこそ、行動に移すことができると思っています。
 できることは後回しにしないスピード感も大事だと思います。

●数字は雄弁でウソをつかない
島宿御縁には連日、たくさんのヘルパーや就職を希望する方から連絡を頂きます。目を引く人は学歴や経験よりも、数字でそれまでの実績をきちんと伝えてくる人です。
こんなことに取り組んで、その成果を数字で表すとこうで……。そんな人とやり取りするときは、ワクワクします。
 私も起業した後、融資を受けたり補助金を得たりするために事業計画を作成する時は、今まで取り組んできたことをあれこれ書き連ねるよりも、実績を数字でドーンを見せるようにしています。
売り上げはこれだけ上がって、目標を達成。来季の数値目標はこれくらいです。そのためにこのチャレンジが必要で、これだけのプラスになる見通しです――といった風です。
ホームページのアクセス数、インスタグラムやフェイスブックなどソーシャル・ネットワーキング・システム(SNS)のインプレッション数やフォロワー数、これらの情報発信による集客効果や今後の見通しなども数字を使って具体的に示すと分かりやすいですし、興味が湧きますよね。
数字はある意味雄弁で、ウソをつきません。数字を使って自分のビジネスを上手に表現できるかどうかが、ビジネスでは非常に重要だと考えます。

●数字で見る島宿御縁の経営状況
数字の重要性を説明しましたが、ここで島宿御縁の経営状況と今後の見通しを、数字で分析してみたいと思います。
新型コロナウイルスの影響ですが、宿泊数に目を向けると、観光や海外からのお客様は大幅減でしたが、ビジネス関連のお客様は、1回目の緊急事態宣言以外は少し減ったぐらいの数字でした。
2020年7月〜2021年3月までは月平均約380〜420泊。2021年に、新型コロナウイルスが落ち着けば5月のゴールデンウィーク、7月、8月の繁忙期は550泊以上が期待できます。
2021年は4月以降、増設工事に伴い、新館の5部屋分も増えるので、これまで満室で断らざるを得なかったお客様も宿泊が可能になり、上手くいけば平均100泊以上増えると思います。
ざっくり計算すると、2021年の平均を月450泊、宿泊単価を8000円とすれば、毎月の売上がどの程度か分かると思います。繁忙期の客単価は9000円と設定すれば、数字も変わります。
ただ、この数字はあくまでも売り上げなので、ここから経費や融資の支払い、人件費、固定費などを支払っていくことになります。

●不可能を目指すからこそ楽しい
目標としている売上高1億円突破するには、現在の部屋数では不可能です。カラオケも年間1000万円ぐらいの売上です。2021年は宿泊部門の売上目標4500万円、カラオケ1000万、合計5500万、残り4500万円は、どうするかを考える必要があります。
部屋数を増やす、体験事業を行う、ほかの事業を展開する、値段を上げる……。そして、御縁の価値を上げていくこと、もそうでしょう!
売上を倍にしないといけませんが、不可能を可能するからこそ楽しくて、ワクワク、ドキドキする人生になると考えています!
決して現状維持に満足することなく、必ず高い目標を設定し、日々変化しながら売り上げアップを目指します。
必ず達成できる方法はあるはずなので、その道を見つけるまで準備し、チャレンジします!

●サラリーマン時代には稼げなかった数字を実現できるように
小値賀島に帰ってくる前、「雇われ」でツアーガイドをしていましたが、その時では稼ぐことができないような数字を、起業することで実現することができました。貯蓄、積立投資、子供への投資、7人家族で普通の生活ができるレベルに到達し、家族旅行も行けるし、必要な物は買っても問題はありあません。
もちろん売り上げが下がり、コロナの緊急事態宣言のときのようになったらピンチに陥ります。ですが2020年にコロナで初めて売り上げが下がったとき、あらためて経営、経費などすべて見直す契機となりましたし、どうすれば会社を維持できるのかを学ぶ機会にもなりました。コロナ関連の制度融資などで資金繰りをつなぐこともできました。コロナの影響でピンチも経験しましたが、チャンスも与えられたように思います。
●起業してよかったことは
「起業して良かったことは何ですか?」
取材に来た記者さんや、ヘルパーとして働きに来た人、宿を視察に来た人などに、よく聞かれます。
そんな時は、まず「こうやって、あなたにお会いすることができたことです」とお話ししています。つまり、起業したことに伴い継続して情報発信も行ったおかげで、普段会うことができないような方を含め、たくさんの人との間に「御縁」が生まれたことが、一番良かったことだと感じています。
また、起業してからやり始めたことという切り口では、本を読んで自分の好きな勉強ができること、が挙げられます。
本から一つでも多くの知識が得られると、とてもラッキーな気持ちになれます。自分への投資として、最近は年100冊以上は本を買って読んでいます。知識を得て、大きな気づきもありました。もし本を読んでいなかったら、何も変わっていなかったと思います。もっと前から本を読んでいたら良かったな、と感じることも多いです。
宿の経営があるので、時間を作ってセミナーを受講したり、勉強会に足を運んだりすることはなかなかできませんが、いつか必ず、たっぷりと勉強できる時間や、好きな場所へ行く時間を作れるような会社をつくりあげ、仕事も島ライフも満喫できるよう、今は頑張るのみです。
 さらに、起業してから人前で話す機会が増えましたが、自分の思いを上手に伝えるということが絶対に必要なスキルだと感じています。何をしたいのか、目標は何なのか、これからどうしたいのか……。プレゼンを行う際も、1人でも多くの人に自分の思いを届けることが大切です。
私の話が刺激となって、自分も行動したいな、チャレンジしたいな、って思ってもらえたら最高です。


◆◆情報発信にこそチャンスあり


◆「個人」でも、地方でも勝負ができる時代に

●知ってもらえなければ、存在しないのと一緒
 長崎県の離島・小値賀島で宿を経営している私が、ビジネスを展開するうえで最も重視していることが、インターネットを活用した情報発信です。
例えば旅行に行くことを決めた人は、まず情報収集に取り掛かると思います。雑誌や本もありますが、近年はインターネットを利用する人がほとんどではないでしょうか。
もし、検索してもネット上で情報が出てこなければ、どんなにすばらしい宿で、おいしい料理を提供し、最高に快適な空間であっても、知ってもらうことができません。それでは存在しないのと一緒です。
現代社会では、私たち一人ひとりがコンテンツを作り、情報発信できる時代になりました。SNSの発展により、例えばフェイスブック、インスタグラム、ツイッター、ユーチューブなど、さまざまなツールを個人が簡単に利用することができます。
使い方にもよりますが、基本的にお金もかかりません。情報発信といえばテレビや雑誌など限られた媒体だった時代は、とうに過去の話だということを改めて認識してほしいです。

●1人でも多くの人とつながるよう発信あるのみ
宿を経営する目標の一つに「世界中から小値賀にお客様を呼ぶ」というものがあります。インターネットで世界中がつながったおかげで、チャンスが生まれました。
個人であっても、世界中に情報を届けることができる時代。「個人の時代」がやってきたと言っていいと思います。
そして、このインターネット世界、ソーシャルメディア社会に飛び込み、世界中の人と交流し、情報交換することが、現代のビジネスでは非常に重要だと考えています。
分かってはいるけれど、取り組んでいいない人がたくさんいます。そこにチャンスがあるとも考えます。
 私は日々、経営する島宿御縁のこと、小値賀のこと、自分自身の価値などを発信し、世界に知ってもらう努力を続けてきました。島宿御縁のお客様のうち、ネットで繋がったことがきっかけとなった方はたくさんいます。情報発信していなかったら「御縁」は生まれていませんでした。
1人でも多くの人と繋がるように、発信あるのみ。結論は簡単。やるしかない、です。

●ネットを活用した案件依頼も
最近では、インスタグラムやブログなどのツールを使って「宣伝してください」「応援してください」といった案件依頼の仕事も増えてきました。
これもコツコツと毎日続けてきた情報発信のおかげで、「この人なら信頼できる」と感じていただき、お声がけいただけたと思っています。
あらためて、発信を継続することで新たなビジネスチャンスが必ずやってくると確信することができました。約6年にわたり発信してきたおかげで、いろんな御縁が、チャンスが、いろんな場所からやってきます。
私の1回の発信が数千人に届く現状は、これからの時代に必要とされている資産、価値になると感じています。ビジネスで人に伝える、新規の人に知ってもらえることが、個人でも可能な時代を楽しみましょう!

●ルーティーンにしてしまえ!
私は毎日、ブログを更新し、インスタグラムに写真を載せます。ツイートして、フェイスブックにも投稿もします。動画をユーチューブにもアップします。SNSを見て「いいね」したり、いろいろな人へコメントを送ったりもします。
 この作業を、地道にずっと続けています。コツコツ発信し続けています。もはや生活の一部、ルーティーンとなっていて、1人でも多くの人に情報が届けばという思いを胸に発信し続けています。
 情報発信は、すぐに結果が出ないことも多いですが、いつか結果は出ると信じることが大切です。やっていなければ当然、成果はゼロです。
私の場合、時間もかかりましたが、結果は数字となって表れています。ネットでの発信がなかったら、御縁がなかった人もたくさんいると思います。

●継続することの重要性
情報発信の大切さはよく理解していて、スタートしたけれど結局、途中でギブアップしてしまう、という人がほとんどではないでしょうか。
それだけ継続することは大変だということですが、私は毎日続けています。どんなに忙しくても継続が大切で、この蓄積は、いずれものすごく大きなパワーとなります。
続けることで景色が変わり、新たな世界に行くことができます。実際、私の人生は100%変わりました。やった人しか分からない世界。その景色は最高です。
情報発信によって生まれた御縁のおかげで、いろいろな人に知ってもらうことができましたし、いろいろなことにチャンレンジできるようにもなりました。
上手くいくと信じて、これからも続けます。頑張って継続すると必ず反応があります。
たくさんの人に「ブログ読んでいます」「ブログ読んで来ました」と言われますが、本当に励みになりますね。続けてきたことが間違いではなかったことを確認できます。

●ただやみくもに発信するのではなく
SNSで発信する際には、計算したり、考えたりすることも必要です。
発信を継続するためには、あまり悩まずに発信したほうが続くかもしれませんが、ターゲットを決めて、狙って発信することも大切です。
例えば、私はテレビなどのメディアから取材依頼が来るように、毎日今やってることを発信しています。経営だけでなく、家族のことも発信しています。我が家は大家族ですが、大家族ということ計算して発信すると、大家族をテーマにしたテレビ番組からオファーがきます。
ニュースで取り上げてもらいたいと思ったら、ドラマティックなことや、ストーリー性がある内容を発信します。台風などネガティブな時も発信すれば、全国ニュースで台風情報で御縁が流れて、観てもらえることもあるでしょう。
発信により、何かしらの御縁やつながりが生まれると思っています。「釣りよか」「釣りイロハ」など、トップ釣りユーチューバーとも、釣りを発信することで繋がることができました。
コロナを機に新たに取り組みを始めた農園やランドリー事業も、発信することでメディアに取り上げていただけると思っています。

●ブログは気楽に書けばいい
 そうはいっても、継続するのはなかなか容易ではありません。
 私が毎日続けていることの一つにブログがありますが、書き続けるうちに、文章の間違いや表現はあまり気にしないで、自分が思うまま、ありのままペンを走らせることが結果的にいい感じになると思うようになりました。あまり考え込まないことです。
 もともと文章を書くことは得意ではありませんでしたが、ブログを何年も続けたおかげで、もはや書くことへのストレスは感じません。
ブログ執筆に要する時間も、毎日10分ぐらい。ツイッターは毎日5〜10ツイートを計10分程度で、インスタグラムは写真を選んで3分で投稿。こんな感じで、毎日の発信に要する時間は、1時間以内で終わります。

●メンテナンスは必須
装置産業でもある宿はハード面のメンテナンスが不可欠な業種ですが、メンテが必要なのはハードだけではありません。情報発信の分野でもメンテが必要だということを思い知らされる出来事がありました。
 2020年9月のこと。常連のお客様から連絡があり「グーグルマップで島宿御縁を調べたら、宇久島にピンが刺されているし、名前も別棟になっている」と指摘をいただきました。
 調べてみると、確かにそうでした。
 宇久島というのは、島宿御縁がある小値賀島の隣にある島です。行政区分でみても、小値賀は小値賀町にあり、宇久島は佐世保市に属しています。
 島宿御縁が、いつから隣の島にあることになっていたのだろう。予約しようと思った方は、おかしいなって思うはずです。特に知らない土地に行くとグーグルマップに載っていることが正解だと思われるでしょうし正直、焦りました。
 すぐに修正しましたが、念のためにホームページや予約管理システムもチェック。パソコンではスムーズに閲覧できましたが、スマホでの見え方はずっと編集していなかったので、バグが発生していたり、文字が小さくて読めなかったりと、いつの間にかダメダメに。これは良くない、と一日がかりで修正しました。
 一息ついて、今度は試しに予約管理システムで予約してみたところ、宿泊プランの期限が切れていて、予約できない状態が一カ月近く続いていることが判明。なかなか予約が入らないなと思っていましたが、謎が解けました。
ネットから頑張って毎日、情報発信していたのに、ベースとなる大事な足場が機能していなくて、何をやっているんだろう……という感じでした。
何もかもメンテ、チェックが必要だということを再認識した出来事でした。みなさんも気を付けてください。

●ホームページも3回目のリニューアル
また、2021年度はホームページをリニューアルします。6年間で3回目の変更となります。多いか少ないかは分かりませんが、1つ言えることは、ホームページも作ってそのままでは情報も同じままだですし、変化がないと印象がよくありません。
最終的なゴールは、いろいろなSNSを経由してホームページまでたどり着いてもらい、そこから小値賀島に来たい、宿に泊まりたいと思ってもらうこと。これが大切なので、HPにも力をいれたいと思っています。
今回の更新では、シンプルに宿泊だけをテーマに制作してもらう予定です。制作は、プロにお任せ。自分にできないことは「投資」との観点も持ちながら、すべてプロに任せることも大切だと感じています。

●新たな情報発信ツールとしての書籍
毎日、コツコツとSNSで情報発信し続け、約7年が経ちました。
ブログの記事数は2500以上、インスタグラムの投稿数は2500以上。このほか、ツイッター、ユーチューブなどを続けているうちに、それなら今度は本も書いてみようって思いました。
本は名刺代わりにもなると思います。一冊の本を執筆する作業は大変ですが、これまでずっと発信してきた内容をまとめることにもなります。
自分が言いたいこと、書きたいことはこれまでのブログなどにストックされているので、その内容にいろいろなエッセンスを付けて、どうやったら離島で起業したり、暮らしたり、稼いだり、繋がったり、メディアの力を借りたり、事業展開に必要な補助金を活用したり、人を巻き込んだり、ボランティアを含めたスタッフを呼び込んだりできるのか――といったことや、自分が手掛けてきたこと、自分に関することをまとめたいと考えました。
プライベートな部分や起業に関するノウハウなど、ある意味「秘密」なものをすべて公表するのは勇気も必要ですが、日本中の人、世界中の人に知られるわけではありません。
ただ、知りたい人に役に立つ情報を1人でも多くの人に提供できればいいな、と願っています。
もちろん集客にも期待していて「本を見たよ」って宿に来てもらったり、取材して頂いたり、絶対にいろいろなチャンスにつながると思っています。
本を一通り読んでいただければ、私がやっていることをほぼすべて知って頂けるので、その後のコミュニケーションも容易になりますし、ビジネスも交流もスムーズになると思いますね。

●読者のやる気やチャレンジ精神が高まれば
本の出版がどのような結果をもたらすかは未知数です。いいことも、悪いこともあるかもしれませんがその時はその時。嫌なこと、ネガティブなことは気にしないタイプです。
共感してくれる人、興味を持ってくれた人に全力でぶつかるのみで、楽しいですね!
集客に貢献するのか、読者に信用していただけるか。今回は書店に流通させるわけではありませんが、まずは500冊を無料配布し、それからネット出版に自分で挑戦してみます。
アマゾンが販売している電子書籍専用デバイス「kindle」や、文章や写真など多彩な作品を気軽に創作・投稿できるソーシャルメディア「note」も活用してみようと思っています。
人の問題解決に貢献できるもの、何らかの価値を与えるもの、何かを成し遂げる方法、自分が知りえた知識をシェアする方法として、多くの人の役に立てばいいなと思いますし、この本を読んでいただいたことがきっかけとなって、やる気やチャレンジ精神が高まればうれしいですね。

◆すべてがプラスにつながる情報発信

●発信を仕事にしないこと
これまで書いてきた通り、情報発信は非常に大事ではありますが、発信自体を仕事にしてしまうと、なかなか続かないでしょう。私の場合、本業は宿の経営で、あくまでもベースは宿経営を成功させることです。
発信は、あくまでインプットしたことを、アウトプットすることが目的。ためになる情報、経験したこと、チャンレンジしたことなどを発信しています。
発信するために何をしよう、と考えたり練ったりするのではなくて、入ってきた情報や、面白いと感じたことを発信するイメージでしょうか。
例えば、小値賀の情報を発信する際に心掛けているのは、単に情報をシェアするのではなく、その情報の背景にあるストーリーや、物語あふれる島ライフを発信すること。これが大切だと思っています。
 これによって、島宿御縁に限らず一人でも多くの人に小値賀島ファンになってもらいたいし、遊びに来るだけではなくて、できれば移住してもらいたいとも願っています。

●日々の発信により思わぬ副産物も
 情報発信を続けてきた「副産物」として、プレゼンテーション能力が非常に高まったと感じています。
 ビジネスをしていると、プレゼンしなければいけない場面も多くなりますが毎日、ブログやツイッター、インスタで情報発信してきたおかげで、自分の考えが頭の中でまとまっていて、思いを言葉できちんと説明できるようになったことに気が付きました。
 用意しておいた話を思い出しながら話すより、普段から発信している内容を思い出しながら話す方が、正直な気持ちを繕うことなく話すことができて、うまくいくことが多いです。
 プレゼン力、トーク力は、ビジネスを展開する上で欠かせないスキルです。事業拡大に向け補助金を得る際、プレゼンが必要なことがあります。講師を頼まれ、人前で話すこともあります。テレビ番組に出演し、想いを伝えることもあります。
 やはり発信することは、すべてにおいてプラスに作用していると思います。

●「個」のストーリーを伝える
 島宿御縁が選ばれる理由。それは、宿や小値賀島が持つ「物語」、そして「私が持っているワクワクする気持ち」に共感したから、という方が多いです。
島宿御縁はどんな宿で、どんな体験ができて、どんなサービスを提供していて、といった宿の基本情報を発信することは重要です。でも、それだけでは「ブランディング」することはできません。
私がどんな人間で、どんな思いで宿を経営しているのか、といったストーリーのある血の通った情報を発信することがブランディングにつながります。
宿のコンセプト、私が何を目指し、何にチャレンジしているのか、その背景にある小値賀の資源――などを発信することが大切。そこには物語があります。

●何の変哲もない小値賀の日常にこそ価値がある
小値賀の情報を発信する際には、どうやってファンになってもらい繋がっていくか、を考えるようにしています。
小値賀は、日本国内ながら外国ぐらい遠いところにありますが、非日常的なレジャーを売り物にするだけではファンづくりは難しい。
島にある観光資源も大切ではありますが、島のライフスタイルを発信していくことが大切だと考えています。
小値賀島での生活、独自の食文化、季節ごとの伝統行事、島の産業……。実は、一見何の変哲もない島の「日常」に価値があり興味を持っている人が多く、「島に行きたい」という動機になります。
 小値賀は小さな島です。いわゆる観光名所的な資源は限られています。観光イベントや箱モノを作っても、リピーターにはつながらないでしょう。一度足を運んで終わりです。
観光だけでは、なかなか島おこしもできません。何度でも島を訪れたくなるような小値賀をつくりあげるためのカギは、島のライフスタイルの発信にはあると考えています。
そのためには、島で暮らす人々がいろいろな意味で豊かになって、楽しいライフスタイルを過ごすことができる環境整備が大事だと考えます。


◆動画全盛の時代が到来

●動画の活用が欠かせない近年の情報発信
情報発信の一環として、2020年から本格的に取り組んでいるのがユーチューブです。
5G時代へと突入し、動画もサクサクとアップロード・ダウンロードもできるようになります。発信ツールも、写真から動画へと移行しているのを実感。動画は、写真とは違ったリアリティーが魅力だと感じています。
これまで、インターネットを通じて情報発信を続け、非常に多くの人と繋がることができました。そして、ユーチューブはどうなるのかを知りたい、そんな思いが動画を始めたきっかけでもあります。実際、ほかのSNSとは違った反応があるのを感じています。
まずはチャンネル登録1000人を目指しスタート。この原稿を書いている2021年冬現在では、月10本程度の動画をアップしています。やや出遅れた感もありましたが、まだまだチャンスはあると思っています。
出遅れても可能性があるツールであれば、あとは、やるかやらないかでしょう。

●動画に力を入れる理由
 正直、動画を更新することは結構、大変です。宿の経営、農園、5人の子育て、その他にも毎日、やることでいっぱいですが、続けています。
なぜか?
小値賀島、島宿御縁、私たち家族を知ってもらえるから。御縁ができるから。釣りをしたり、農園づくりに汗を流したり、歩いたり、泳いだり、ドローンしたりと、撮影のためにアクションを起こすきっかけとなるから。宿のビジネスに繋がるから。世界と繋がることができるから。新たなビジネスチャンスをいただけるから。広告収入があるから。動画発信が大事な時代を迎えようとしているから。家族の思い出として残せるから。
そして、とても楽しいから。
これだけ理由があるので、これからも続けて更新していきます。実際、たくさんの御縁が生まれていますし、やらないとこれからの時代もったいないと思います。

●2021年は釣り動画に注力
 特に2020年から力を入れている動画のテーマが釣りです。
釣りは初心者でしたが、2021年以降は、たくさんの人と一緒に釣り体験ができるよう「釣りアングラー案内人」を目指し、日々勉強と経験を重ねています。
 釣りは、小値賀島の美しい海があるからこそできる最高のエンターテイメントのひとつではないでしょうか。初心者でも安心して楽しめる、島を代表する体験プログラムの一つに育てられると考えています。
 釣りの楽しさ。それは、行く前の準備、何が釣れるかのドキドキ、釣り場に向かうまでの興奮、海風のにおい、魚との駆け引き、見事釣れた時の感動、食べた時のおいしさ……と奥が深いです。
釣りの聖地である小値賀島は、もしかしたら初心者でも大物をゲットできるかもしれません。釣りの面白さを動画で伝えることができたら、きっと、もっとたくさんの御縁が生まれると思っています。

●投資して自分を追い込む!
ユーチューブに取り組むだけのために、マックブック・プロ、ドローンを購入しました。
投資してしまうと、あとはやるしかありません。投資分は絶対にプラスにするのが私のやり方。お金と、お金よりも大切なモノをゲットできると信じて。自分を追い込む意味合いもあります。
 動画編集も、1年ほど経ったころから慣れてきました。撮影し、編集し、タイトルを入れ、音楽を加えて、1本1時間ぐらいで編集し更新しています。
 慣れてきて分かったことは、やはりオリジナリティーがあって、楽しい動画をつくることが大切だということ。何となくですが、ユーチューブは少しだけ自分のオリジナルを見つけられた気がします。

●どの動画が伸びるのかなんて分からない
 動画作成を続けたおかげで、編集スピード、音楽、効果音、構成などは確実にレベルアップしました。初期の動画をチェックすると、今とは全然違うのはわかりますが、では最新の動画の方が良いかというと、必ずしもそうではありません。
昔の動画は、ある意味、その時のスタイルがあって、それはそれで面白い。どちらが良い、悪い、ということではありません。アクセス数は昔の動画の方が多いものもあり、どの動画が伸びるのかなんて、やってみないと分らないということです。
いつ、誰に見つけてもらい、シェアされ、拡散されるのか分からない時代。結局、しつこく続けることがチャンスにつながるということです。
アンチが発生し、低評価が増えることもあるかもしれませんが、見方を変えれば、アンチが発生するくらい多くの人に知ってもらうことができて、アクセスが増えてきたという事も言えると思います。

●発信によりマスコミの取材を呼び込む
インターネットを活用した情報発信を2014年からコツコツ続けてきましたが、お客様だけではなく、テレビや新聞、雑誌などさまざまなメディアから取材を受ける機会がありました。
 小値賀に戻ってくる前までは、取材を受けるなんて想像もしていませんでした。何が起こるか分からないのが人生です。
 自分としては、それほど変わった内容を発信しているつもりはありませんが、離島という個性ある地域を舞台にビジネスにチャレンジしている、という珍しさもあるのでしょう。私という「個人」も前面に出しながら発信し続けることで、図らずもいつのまにかブランディング化されたように思います。この点で、離島を含む地方には都会にはないチャンスがあると実感しています。

●思い出深いコロナ禍における高田さんとの共演
 とりわけ思い出深いのは、2020年冬にジャパネットたかた創業者の高田明さんとNHKの番組に出演したことです。直後、SNSのアクセス数もグーンと増え、フォロワーも増えました。コロナ禍のなか、様々なことにチャレンジしていることを話しましたが、たくさんの激励やメッセージ、質問なども頂きました。宿の予約にもつながり、うれしい限りです。
1人でも多くの人に小値賀島、島宿御縁を知ってもらえましたし、素晴らしい経験に感謝です。
ひとつ言えるのは、情報発信を継続していなかったら、テレビに出演したり、たくさんの取材を受けたりすることはなかったということです。
メディアの方とも御縁が生まれ、繋がることができたのは毎日発信したおかげだと思っています。


◆この国を変えるインバウンド

●世界中の人が泊まりにやってくる宿へ
世界中の人が泊まりにやってくる楽しい宿。これが、島宿御縁が目指す大きなコンセプトの一つです。
 起業前にツアーガイドをしていたとき、日本を旅するインバウンド客の中には、非常にコアな人がたくさんいることを知りました。
 「都会より地方が好き」という人もたくさん。しかも、みな「○○が好き」というふうに具体的な目的を持っていました。
田舎が好き、泳ぐのが好き、サイクリングが好き……。好きなこと、やりたいことをするために来日する人が多かったんです。
そして、その好きなこと、やりたいことの延長に旅がある印象でした。小値賀が、そんな島旅を提供できる場になればいいなと思っています。

●インバウンドの力で島をもっとおもしろく
例えば、日本好きな海外の人は「祭り」を知っています。「見てみたい」「どんなものなのか知りたい」と興味津々。小値賀島では実際に見ることができるだけでなく参加することまで可能です。
田舎、島でしかできないストーリーのある体験で最高な思い出を作ってもらいたい。そのためにも、地元の人と一緒に、祭りのような島の文化、歴史を守っていくことができれば最高ですね。
インバウンドの力で、島をもっと面白くすること。地域が盛り上がって、外国でも有名になって、世界中から観光客がやってくるようになり、その結果おもしろいことになってきた――と言われるように、島宿御縁も何らかの形で貢献したいと願っています。
 個人的に、インバウンドの力が地方創生を強力に後押しすると考えています。海外からのお客様は、日本の良さを教えてくれます。海外に向けて日本の情報を発信もしてくれます。そして、発信された日本の良さを「逆輸入」する形で知った日本人が地方にやってくる、という循環が生まれるのではないでしょうか。

●世界各国からやってくるヘルパーに支えられる
島宿御縁では、ビジネス客や日本人観光客の取り込みにより経営が安定してきたころから、徐々にインバウンド対策に力を入れるようになりました。
2000年以降は、新型コロナウイルスの影響で採用できなくなりましたが、それまでは島宿御縁の仕事を手伝ってくれるヘルパーが世界中からやってきて常時、宿で働いてもらっていました。
インターネットで世界中にヘルパー募集を呼び掛けていましたが、そのうち毎日のように世界中から「あなたの宿で働きたい」というメッセージがたくさん届くようになり、すぐにでも呼ぶことが可能になりました。その中から、メールでのやりとり、写真、SNS、人間性の感触などをチェックし、任せても安心だと感じた人にヘルプをお願いしています。
コロナ前までは、毎月30人ぐらいのなかから、選抜していました。約5年間で200人程度のヘルパーの力を借りました。

●7カ国のヘルパーが一堂に会したことも
2019年末には、ヘルパーが同時に8人いたことがあり、その1年前の2人と比べても大きく数を増やしました。国際色あふれるところも、島宿御縁の個性になっています。
ある時には、アメリカ、イギリス、フランス、スウェーデン、チェコ、スペイン、日本と、7カ国のヘルパーが一堂に会したことも。多国籍な大家族に、みんなワイワイと楽しんで働いていたのをよく覚えています。
 宿泊しているお客様も、いつも外国からやってきたスタッフがたくさんいるので驚かれますが、ヘルパーとの会話を楽しんだり、一緒に遊んだりと笑顔になっていただいています。

●多彩な才能を持つ外国からの助っ人が情報発信を多面的にサポート
海外からヘルパーを呼ぶ目的は、基本的には掃除や食事の後片付けといった仕事のヘルプですが、一番大切なのは小値賀島ライフを楽しんでもらって、その魅力を世界へ発信してもらうことです。
彼らも「島ライフを楽しみたい」といった動機で応募してくることが多いです。近年は、ヘルパーによって発信された英語の情報が、着実に世界に広がっているのを感じられるようになりました。
 ヘルパーには、いろいろな形で発信をしてもらってきました。動画作成や、ホームページの英語対応、ブログ、写真撮影、小値賀の絵を描いてもらう……。多様な才能を持っている人にたくさん来てもらい、小値賀の魅力をさまざまな形で世界に発信してもらいました。

●日常の中にある魅力を見つけ出すヘルパー
どうやって外国から集客するのが効果的なのか。ワクワクしながらリサーチし、トライしてきました。さまざまな方法にチャレンジした結果、年々、海外への情報発信の質が高まってきたのも実感しています。
日本では、島を含む地方から英語を使った情報発信に取り組んでいる人が、まだまだ少ない印象があります。いち早く取り組みを始めることでチャンスが広がると思います。前例がないということは、チャンスがあるということでもあります。
ヘルパーは、日本人や島人が普通に生活していると気が付かないような魅力をたくさん見つけてきます。小値賀の魅力は、もう「そこにある」ことに気づかされます。そこにあるもの、例えばそれは場所であったり、人であったり、モノであったり――ですが、その魅力を発信することが、長い目で見れば地域おこしにもつながると感じています。
 私自身も、英語を使って発信することがあります。頭をフル回転させ大変ですが、英語の勉強にもなりますし、楽しいですし、チャレンジしたいから、取り組んでいます。

●目標としていた「海外からのお客様が泊まる宿」へ一歩一歩
英語での情報発信とともに、海外の有名旅行サイトへの登録や海外とのツアー提携などを進めた結果、2019年末ごろからは、海外からの問い合わせが目に見えて増加しました。
地道に取り組んできた成果が徐々に出ていることを実感できました。継続は力。外国から団体旅行の問い合わせ、予約もあり「もしもし」ではなく「ハロー」って対応しています。
問い合わせは「小値賀島で何ができるの?」「どんなご飯が食べられるの?」「田舎が好きだけれど、何か体験できる?」といった内容が多いです。
 2020年1月には香港、フランス、ドイツ、カナダ、スロバキア、オーストラリアと6カ国から12人のお客様がやってきました。
 同年2月に宿泊されたオランダ人夫婦は、その3年前に泊まったお客様の友人のおススメで小値賀にやってきたとのこと。御縁がありました。
 このころから、私が目標としていた、海外からのお客様が泊まる宿へ近づいていることが現実として実感できるようになった記憶があります。
これも、海を渡ってやってきてくれたヘルパーのおかげだと感謝しています。彼らがインターネットを使って情報発信し、世界につながりました。

●目標は、お客様全員がインバウンド客!
いずれは、お客様が全員海外からやってきた方、という日がやってくることを目標としています。それも団体ツアー客ではなく、ばらばらの個人客が続々とやってくる形で。
世界中の人が集まる楽しい宿。私がツアーガイド時代に宿泊した、そんな宿に、ようやく近づいてきた実感があります。
とても待ち遠しく、楽しみで仕方がないです。夢でした。必ずできると信じ、海外からやってきたヘルパーの力も借りながら、これからも海外への発信を頑張り続けます。

●インバウンド客を呼び込むために必要なこと
毎年のように、世界中でさまざまな旅行サイトが生まれています。それらを調べて、島宿御縁に合ったサイトへの登録も進めています。インバウンド客を呼ぶ観点としては、宿泊施設やレストランなど旅行に関係する体験談や価格比較ができる世界最大の口コミサイト「トリップアドバイザー」などに登録しています。
世界的に非常に有名な旅のガイドブックのひとつに「ロンリープラネット」という本があります。日本人が海外旅行に行く際に用意する「地球の歩き方」のような書籍で、世界中どこにいっても見かける旅人のバイブルのような存在です。
インバウンド客を集めるためにも、この本に載らなければと思っていましたが、小値賀町・野崎島の集落跡が世界文化遺産に登録されたことを機に、小値賀、野崎両島と島宿御縁をロンリープラネットに載せていただくことができました。まずはこれでスタート地点に立つことができたと感じています。
海外のお客様からの予約は、メールやJTBなどのツアー会社経由もありますが、半分以上は海外の人気旅行サイトから入ります。安心安全で、カード払いもOKな利便性の高い予約サイトが利用されています。
島宿御縁では「Booking.com」「Airbnb」「Agoda」のほか、日本人向けでは楽天トラベルから予約が可能です。


◆◆コロナ禍とその後の戦略


◆立ち止まり、すべてを考え直すきっかけとなったコロナ

●だれも降りてこないフェリー
小値賀で宿をオープンして5年目となる2020年。この年の春、初めて宿泊客がゼロになった日がありました。
経営が軌道に乗り、手ごたえを感じられるようになっていた矢先のこと。新型コロナウイルスの感染拡大が原因です。
私は、お客さんの送迎で毎日、船着き場に足を運ぶんですが、あのころフェリーからはだれも降りてきませんでした。
観光客、ビジネス客、島民……。毎日毎日、たくさんの人が降りてくる光景がそこにありました。ですが、いつもの場所から見る光景は一変し、いつもの光景ではなくなっていました。まさか、こんな日がやってくるなんて、信じられませんでした。
フェリーは、いわば島のライフラインです。日々、人や物資を運んできます。宿を経営する私にとって大切な「人」の姿が消え、とても寂しい思いをしました。
1回目の緊急事態宣言が解除され迎えた夏、感染拡大がいったん収まってきたこともあり、少しずつですが観光客が島に来るようになりました。
普段、フェリーを降りるお客さんは、たいてい笑顔を見せています。暗い顔はいません。フェリーから降りてきたお客さんの笑顔を見たとき「この笑顔を見たくて仕事をしてきたんだ」と、私も自然と笑顔になってしまいました。
これからも頑張ろう。コロナには負けない。心からそう思いました。

●ピンチはチャンス! チャレンジを決断
振り返れば、コロナで揺れた2020年はあっという間に過ぎました。
1月。新型コロナウイルスというものが中国・武漢で広がっているという話を聞き、そうか、どうなるのかな、と身近な出来事とは思えませんでした。2月。島宿御縁では、まだイギリス人、カナダ人の女性がヘルパーとして働いていましたが「どうなるのかな」「いや、大丈夫だよ」といった話をしていました。
3月。一気に緊張感が高まり、春休みはキャンセルラッシュ。長崎県の離島でも、ついに感染者が出始めました。
このころは連日のように怖い夢を見てしまい、39歳にもなって夜中にハッと目覚めてしまうことが何度もありました。きっと大丈夫だと思っていても、精神的に参っていたみたいです。
4月7日、東京、大阪、福岡など7都府県に緊急事態宣言が出され、16日には対象が全国に拡大。この後、金融機関から融資を受けることを決断。経費を切り詰め、キャッシュフローに注意しながら慎重な経営を進めました。
5月14日から順次、緊急事態宣言が解除され25日には、1か月半ぶりに全国で解除となりました。
ですが、緊急事態宣言は観光客でにぎわうはずのゴールデンウィークを直撃し、売上は急降下。海外との往来も禁止となり、外国からの観光客やヘルパーや日本人スタッフも受け入れ不可に。この年は、島宿御縁の新館建設計画もありましたが、翌年に延期となりました。
緊急事態宣言が出たあと、よく考えて腹を決めました。
宿の営業形態の変更、ネットビジネスの開始、体験プログラムの開発、予約システム対応の強化、設備更新……。ビジネスに関して、相次いで新たな取り組みを始めたんです。
 ピンチはチャンス。そう考えました。

●さらなる高みを目指すには変化が必要
コロナは、私のビジネスだけでなく、日々の暮らしや生き方を見つめ直す機会となりました。島宿御縁の連続宿泊記録も途絶え、ある意味「リセット」されたこともあり、新たな出発を決意しました。
家族と過ごす時間が増え、自分がやりたいことができる時間も生まれ、そして自分自身を見つめ直す時間ができました。島宿御縁を開業してから全力で突っ走ってきたため、こんな機会は一度もありませんでした。
見方を変えれば、コロナによりチャンスをいただいたと思います。事業計画のプラン変更を余儀なくされましたが、新しい何かを発見できるチャンスと考えたんです。
コロナが落ち着いたあとを想像すると、それまでのやり方、ビジネスは通用しないだろうと想像しました。経営も変化しないといけません。昔と同じように稼ぐことができないのであれば、自分で新たな道を作る必要があります。新しいビジネス、宿のスタイルを作っていくべきだと考えたんです。
たとえコロナが収束しても、次のステップに進むには、そしてさらなる高みを目指すのであれば、変化が必要となる。コロナがあったからこそ、分かったことがありました。
新しい時代は、人との触れ合いが少なくなっていくかもしれません。寂しいことですが、いろいろなことにチャレンジすれば繋がりは増えていくのではないか。そう考え、1人ひとりとの御縁をより大切にしたいと考えました。
 私には、コロナ前まで積み上げてきた経験と自信があります。また昔のように家族で旅行したり、子どもたちとコンサートや野球観戦に行ったり、頑張るのみ! そう気持ちを奮い立たせました。

●宿の運営スタイルを大きく変更
 コロナ感染拡大に伴う緊急事態宣言が最初に出された2020年4月、長期戦になることを覚悟し、税理士の先生とも相談して、島宿御縁の営業スタイルを大きく変更することを決めました。
素泊まり、朝食のみの営業で、コロナが落ち着いてお客様が戻ってくるまでは同様の営業形態を続けることに。このころ、ゴールデンウィークに向けてすべての予約がキャンセルになる見通しとなり、決断しました。
宿の経営で、一番大変だと感じていることが食事の提供です。料理担当スタッフを雇用し、セッテングや片付け、安心安全に向けた食品衛生、在庫管理……。お客様に、より美味しい料理を食べていただくため、海外から調理の得意なヘルパー、スタッフに来てもらい力を借りたこともありました。
2019年以降、日曜日だけは夕食サービス無しのスタイルで営業していました。これにより、日曜日の夜は私もチェックイン業務が終わると家で家族と食事できるようになり、楽しみでもありました。リラックスできるし、リセットもできる。ある程度休むことも大切だと考えるようになっていました。
 2020年5月からは、弁当による夕食の提供を開始。いわゆる「3密」対策を万全にするため、基本的に部屋で食事して頂くようにしました。
ただ、宿泊の値段は変えませんでした。コロナだから低価格にする、というのは違うと思います。コロナだからこそ、みんな必死だということを、歯を食いしばってビジネスしているんだということを、分かってもらうためでした。

●父親、夫としてのスタイルも変更
 営業スタイルの決断を決めた背景には、家族とのかかわりもあります。
 この時期、妻が5人目の子供の出産を控えていました。出産予定日は2020年6月でした。
 島宿御縁の開業後、私は休みなく、5年間全力で早朝から夜遅くまで働いてきました。走り続けてきました。
一方で、妻も若いころに比べて体力が落ちているように感じることも増え、1人で5人の子育てはやはり難しいし、サポートする必要があると考えました。夕方からは私も家庭に入り、子供たちの世話や家事の手伝いをやっていきたいとも考えていました。

●ネットショップのオープンに踏み切る
 宿の営業スタイル変更と同時期に、新たなチャレンジの一つとして、ネットショップ「御縁ストア」をオープンしました。人と人の接触が制限されるなか、ビジネスを成功させないといけない。そんな思いが背景にありました。
 ネットショップでは、将来の宿泊を先取りして購入して頂く「未来の宿泊チケット」をはじめ、オリジナルグッズのギフト券などの販売に乗り出しました。ネット上の情報や知人との話からヒントを得ました。
 コロナ前まで、情報発信や宿のご利用などを通じ、さまざまな御縁が生まれていましたが、この皆さんとつながることができれば、との思いがありました。
そして、御縁ショップをオープンすると、すぐ5組のお客様に「未来の宿泊チケット」を購入して頂きました。
ジーンときました。涙があふれそうになりました。買ってくれた人の顔が頭に浮かびました。
繋がりの経済と言われる近年ですが、これからも人と人が繋がっていく経済は続いていくでしょう。人の優しさ、あたたかさを感じるために、また人に会って、話して、交流したいと心から思いました。
 このころは、いろいろな方からご連絡を頂き、応援して頂いていることを実感できました。頑張っています、耐えています、私は大丈夫です。ネットショップの開業には、そんなメッセージも込めました。

●「御縁農園」開設で体験プログラム強化へ
コロナ禍の2020年、体験プログラム強化の一環として、大きな投資も行い「御縁農園」プロジェクトの取り組みを新たにスタートさせました。
ポストコロナを見据え、宿泊客が戻ってきたときに備え、島宿御縁の施設周囲で鑑賞用の多肉植物や観葉植物を育てたり、収穫を体験できるようフルーツやハーブの苗を植えたり、秋に紅葉を楽しめるようイチョウやカエデなど島にはない木の苗を植えたりしています。
3年程度のスパンを視野に、少しずつ植物の種類を増やすほか、鶏やヤギなども仲間にして親子連れにも楽しんでもらえるような空間を作ります。島宿御縁を植物、生き物に囲まれた宿へ変貌させたいと考えています。

●時間をかけて継続すればプロになることができる
農園は、植物を地植えではなくプランターで育てる方法を選びました。島では、台風による風と塩害が懸念されるからです。台風が来る前に、倉庫や風の影響を受けない場所に避難させます。大変な作業になりますが、長く続けるためにも頑張ります。
毎日、ユーチューブで植物、多肉、ハーブなどのチャンネルを観て、農園づくりを一から勉強しています。知らなかったことがいっぱいで、ワクワク、ドキドキ。楽しくて、もっと時間が欲しいくらいです。新たなスキルが身につけば、新たなチャレンジが可能となり、新たなチャンスもやってくるでしょう。
何もしないより、何かにチャレンジすることが大切。最初はみんな素人ですが、時間をかけて勉強すれば、プロになることができます。継続あるのみです。
小値賀は、確かに小さい島ですが、チャレンジできることはいろいろあります。土地、場所、資源が豊富にあるので、活用しながら行動あるのみです。

●コロナを機に予約システムも変更
従来、島宿御縁の予約受付は、ほとんどが電話とメールで、インターネットの予約サイト経由はごくわずかでしたが、コロナを機に予約サイトを強化する取り組みにも着手しました。
予約サイトはキャンセルも多いですが、すごい勢いで売れますし、お客様目線に立つと利便性が非常に高いです。予約一つにしても、さまざまな選択肢のあるプラットフォームを構築すると予約率は上がるはずです。
私自身も旅行する際は予約サイトを利用するので利便性は分かっていましたが、上手に管理しないとダブルブッキングなどのミスが発生してしまうなど予約管理が難しいので積極的に手を出せずにいました。
コロナ対策として国が2020年夏からスタートした「GОTОトラベル」事業を利用して予約サイトの効果を実験してみましたが、やはり予約が多く入りました。
GОTОを利用して安く泊まりたいとの要望もあり、手軽に安心して予約ができる宿を目指し、予約サイトも上手に管理できるよう解決策を探りながら、頑張ってチャンレンジしていきたいと思います。今までは私がメーンで予約を受けていましたが、2人体制にする方法を検討しています。機会損失が減るはずです。
 ちなみに、GОTОをはじめ小値賀独自のコロナ対策クーポンなどには随分、助けられましたが、安く泊まれるのはキャンペーン期間中だけのこと。通常価格に戻っても魅力があり選んでもらえる宿になるよう頑張らないといけない、との気持ちを忘れずにいました。

●設備投資
コロナが拡大した2020年は、島宿御縁をオープンして5年目にあたりました。
宿は基本的に装置産業なので、やはりハード面のメンテナンスは必須です。台風による雨漏れ被害や漏電、下水つまりなど日々、いろいろなことが起こるので、1つ1つメンテナンスしていかないといけません。
長く経営するためにも、普段から大切にしている「清潔で快適な空間」を継続していくためにも、新たな投資は必要です。
島宿御縁では、コロナを機に、あえて積極的な設備投資を行い、グレードアップを図りました。コロナ対策としての投資を後押しする国などの支援制度も相次いで打ち出されたので、それも積極活用しながらエアコン、空気清浄機、洗濯機、乾燥機などに投資。ステップアップを図りました。


◆ポストコロナを見据え

●その答えは地方にあるかもしれない
コロナが人々の考えを変え、都会ではなく地方やふるさとで暮らしたいと考える人が増えているようです。
将来、再び今回のコロナのような事態が勃発したとき、都会と地方どちらで暮らしているのがいいと思いますか?
人それぞれ価値観が違いますし、都会と田舎、それぞれに良い面、悪い面があると思いますが、私は1人でも多くの人が地方暮らしを選択し、離島を含む地方が活性化されたら最高だと思う派です。
地方に永住する、というわけじゃなくてもいいと思うんです。例えば、気に入った地方に数カ月だけでも住んでみる、といった形でもいい。そこは柔軟に。
短期間、人が増えるだけでも、地方にとっては、マンパワーが強化され、経済もまわります。地方は、たった1人であっても、その1人が生み出すものの影響は大きいです。
島宿御縁に来たヘルパーのある学生さんは、学歴があり、素晴らしい会社の内定をもらっているなど将来が決まっていたのに、今後どうするべきなのか迷っていて、その答えを探しに島宿御縁へやってきました。
情報があふれる現代社会で、迷いながらも次へのチャレンジを模索する姿が素晴らしいと思いました。
どう人生を歩んでいくのか。短期間であっても地方で暮らしてみれば、何か発見があるかもしれません。
地方への移住を考えている人に勇気やチャンス、アクションを促すような発信ができるように、まずは私自身が行動していかないといけません。コロナは、何か忘れかけていたものを思い起こさせてくれた気がします。

●ピンチと考えるかチャンスと考えるか
 コロナの影響で、テレワークの導入が加速するなど働き方が大きく変化し、働く場も変わりました。都会から田舎へ行こうと考える人が増えたのは自然な流れでしょう。
コロナで仕事がなくなり、従業員を解雇せざるを得ないケースも相次ぎました。一方で、ある企業にとっては優秀な人材を確保するチャンスだったかもしれませんし、仕事を失った人も、より自分らしい仕事を探す好機という側面があったかもしれません。
島宿御縁では、採用予定だったスタッフがコロナの影響で島に来られなくなってしまった一方、コロナで職を失ったことを機に島宿御縁で働いてみたい、とスタッフ募集に応募してきた人もいました。
 コロナのせいでお客さんが減りましたが、宿の予約に空きができたため予約が取れた人もいます。
 人生、何が起こるか分かりませんし、御縁は何から生まれるか分かりません。すべてをポジティブに考えたいです。

●世の中が動きだしてからでは遅い
コロナが猛威を振るった2020年は、私の思考や価値観、生活すべてがリセットされた年となりました。
 社会が大きく変化したら、私たちも変化するのみです。旅行を取り巻く環境は大きく変わりましたが、これに伴い、ビジネススタイル、宿泊業のスタイルも変えないといけません。
 私にとっては、コロナで大変だったからこそ、いろんな御縁やチャンスが生まれました。いろいろなことにチャレンジし、新たなビジョンや御縁が生まれました。
 コロナが収束し、観光が動き出してからでは遅いんです。動き出す日に備え、苦しい日々に耐えながらも、準備することが大切です。
 チャレンジする人は減ったと思いますが、ここはやるか、やらないかです。正直、コロナは怖いけれど、チャンスはあると信じてチャンレンジを続けてきました。「コロナだから」の言い訳はしたくないと思っていました。
 ピンチはチャンスなので、私にとってはある意味、人生はずっとチャンスばかりでしたが、今回も大ピンチがやってきて、そのおかげで大チャンスを頂いたと思っています。

●2021年も突っ走る!
コロナが収束しないまま2021年を迎え、年初の時期に、この年の目標を立てました。
「健康管理の一環としてダイエット(毎月1キロ減、併せて筋力アップ)」「毎月5冊以上本を読み知識を増やす」「売上高、倍返し!」「5部屋有する新館オープン」「投資信託などで資産増」「釣り体験ツアーをスタート」「農園・園芸体験をスタート」「ユーチューブ登録者1000人」「さまざまなメディアでの発信を継続」「自分の本を出版する」「新規雇用でスタッフ力強化」。これらをメーンの目標とします。
ここで挙げたもの以外にも、マインドマップはいろんな考えでいっぱいです。楽しいですね。2021年も、1人でも多くのお客様に 安全で安心できる環境を提供し、宿泊していただきたいと思います。
2020年に完成予定だった新館も、コロナのせいで工事が延期になっていましたが、何とか2021年には、5部屋を擁する新館も完成します。個室が増えることで団体予約もカバーできるほか、シングル、ファミリーと1日15組ぐらいは予約が可能になる予定です。
さらに、カラオケと何でも洗えるコインランドリー設備を組み合わせた施設のオープンも計画中。まだまだチャレンジは続きます。

●ピンチは成長を促す好機
この原稿を書いている2021年冬、コロナ第3波が国内を席巻しています。
GОTОトラベル事業も中止となり、経営にも大きな影響が出始めていますが、事態を予想してきちんと準備を進めてきました。
かかってこいコロナ! 第1波の時のようにはならないぞ!
 そんな気持ちで迎え撃っています。
「経験」は、変化の激しい現代社会やビジネス界を生き抜くうえでも、非常に大切なものです。コロナが勃発して以降、宿経営以外にも、新たなビジネスをいくつもスタートさせ、チャレンジできる環境を整えてきました。
以前から運用している資産もありますし、いざとなればどのような状況になっても対応できる自信があります。
人は、会社は、ピンチを経験すると成長し、逆にチャンスにもできる。そんなことをコロナ禍から学んだ気がします。


◆◆補助金などの公的支援制度


◆支援制度は積極的に活用したい

●活用できる補助金制度は最大限に活用!
 私は、補助金制度を積極的に利用して、事業を展開してきました。
 実は、小値賀島にUターンし起業したころは、補助金というものをよく知りませんでした。ですが、いろいろな方から、いろいろな制度があることを教えてもらい、活用できるものは最大限に活用するようにしています。
 意外に長年、事業を続けている方でも、補助金を活用したことがない、よく分からない、というケースが多いのではないでしょうか。

●事業が大きくなれば地域経済にも貢献できる
補助金制度を活用していると、なぜが非難めいた視線を向けてくる人がいます。税金が原資になっている公金を使っているからなのかもしれませんが、よく分かりません。
補助金を上手に使って事業を拡大し、売り上げや利益が伸びれば、結果として納める税金が増えるので国や地方に貢献できます。島での雇用創出にもつながり、ひいては島が直面している人口減や高齢化対策にもなるはずです。
また、補助金を得るには、きちんとした審査を通過する必要があります。補助金欲しさのいい加減な事業計画ではなく、きちんと将来性のあるビジョンも示しています。

●コロナ対策支援制度も積極活用
 新型コロナウイルスの感染が社会問題化してからは、コロナ対策として国や地方公共団体からさまざまな支援制度が打ち出されました。
 コロナ自体は非常に大きなピンチでしたが、ピンチはチャンス。我慢するべきところは我慢しながら、チャンスをつかむのも経営者の腕の見せどころです。私にとっては、新たなプロジェクトにチャレンジできる機会にもなりました。
日々、公表されるさまざまな支援制度をインターネットやSNSで調べ、使えそうな制度はすべて活用。会社をさらにパワーアップできるよう努めました。

●事業計画をつくる過程で見えてくるものがある
 補助金など公的支援制度に申請する作業は実際、なかなか大変です。
 必要な書類等を集め事業計画書を作成する作業は、慣れていないとコツがつかめず本当に大変ですが、計画を立てる過程で、いろいろなアイデアを形にするために必要なことを考えるなど頭をフル回転させるので、作業自体がビジネスにとってプラスになると感じています。
 頭で考えるだけではなく、実際に文章を書いて形にしていくことで、それまで見えてこなかったものも見えてきます。普段からブログを書いているおかげで、考えていることは比較的スラスラと文章にすることができます。
 いくら素晴らしい支援制度があっても、使わないと何も始まりません。活用することがメリットになるようであれば、ぜひ活用してほしいと思います。


◆実際に活用したおススメの補助金制度を紹介
 ここでは、私がこれまで利用してきた補助金制度をご紹介したいと思います。離島だけで活用できるものもあるので、島でのビジネスを考えている方にとっても参考になると思います。

◆「有人国境離島法」による雇用機会拡充支援制度
●離島での創業、事業拡大を支援
急速な人口減や高齢化などにより離島の経済基盤が揺らいでいることを背景に、2017年に施行された「有人国境離島法」(有人国境離島地域の保全及び特定有人国境離島地域に係る地域社会の維持に関する特別措置法)では、雇用機会の拡充を目的に、民間事業者などが島で創業、事業拡大にチャレンジする際、必要な資金をサポートする制度を設けています。
支援対象は、特定有人国境離島地域(8都道県・71島)に事業所があるか、事業所の設置を計画している事業者など。
資金援助の対象は、設備費や改修費といった「設備投資資金」をはじめ、広告宣伝費や人件費などの「運転資金」も。島の地域社会維持の観点から特に重要と認められた事業に関しては、最長5年間の延長が認められています。
 株式会社御縁では、事業拡大枠で複数年度、活用させていただきました。

●支援額の上限は、創業600万円、事業拡大1600万円
事業費の上限は、創業支援が600万円、事業拡大が1600万円(設備投資が伴わないケースは1200万円)。資金面では、最大3年間の元金据え置き・実質無利子の融資策も設けられています。
補助率は4分の3で、事業費の負担割合は国が2分の1、地方公共団体4分の1、事業者4分の1。
一方、創業支援枠は、島への移住者や、都会から地方に移住してまちおこし活動に従事する「地域おこし協力隊」の任期(最長3年)満了者などが主な対象。これにより、島への移住・定住を後押しするのが狙いとなっています。


◆小規模事業者持続化補助金
●基本は「一般型」 感染症対策などの特別枠も
小規模事業者の販路開拓や生産性向上の取り組みに必要な経費の一部を支援する国の補助金制度。
商工会や商工会議所といった支援団体のサポートを受けながら、経営計画書や補助事業計画書を作成。審査を経て採択が決定されると、所定の補助を受けることができます。
私の場合は、小値賀島に商工会の事務所があるので、商工会のサポートを受けました。
基本となるのは「一般型」と呼ばれるものですが、新型コロナウイルスなどの感染症対策や被災地対応など、毎年度のように「特別枠」の公募も行われています。申請要件や補助内容、受付期間などがそれぞれ異なるので、確認が必要です。

●「一般型」の補助額は最大50万円、補助率は3分の2
一般型は、販路開拓や生産性向上に取り組む際の費用を支援してもらえます。具体的にはウェブサイトやチラシの作成、商談会への参加、店舗の改装などが挙げられます。単独で申請する場合、補助金の上限は50万円、補助率は3分の2となります。
2020年は、コロナの関係で「一般型」の中に「事業再開枠」(補助上限50万円)「追加対策枠」(同)といった別枠を追加申請することができました。
別の主要な補助金制度に比べて採択率が高いとされていますが、将来的にどうなるかは分かりません。

●そのほかにも様々な制度を活用
これら「『有人国境離島法』による雇用機会拡充支援制度」や「小規模事業者持続化補助金」のほかにも、すでに実施されていない制度を含めて、多数の支援制度を積極的に活用しました。
開業直後には、小値賀町の「新規事業準備金」制度を活用。生業として町内で新たに農水産商工業へ就業する人や、後継者となる人が対象で、準備金50万円の補助を受けられます。私は、現在の送迎車を購入しました。
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い設けられた制度では、長崎県が2020年に応募した、ポストコロナを見据えた観光地の魅力向上につながる取り組みを支援する「観光地受入態勢ステップアップ事業」(公募提案型委託事業)、宿泊施設の衛生面改善などを後押しする「宿泊施設安全・安心・快適化促進事業等」なども活用しました。これらの制度活用により、より快適で安心安全な環境を整備することができました。
さらに2021年には、ポストコロナ・ウィズコロナ時代を視野に、思い切った事業の再構築を支援する国の制度「中小企業等事業再構築促進事業」にもチャレンジする予定です。
◆◆友人・家族の声


◆「切磋琢磨」
小値賀町総務課企画係長 神﨑健司(39)

私は、長崎市内から小学2年生のとき、小値賀小学校に転校してきました。同級生の太陽君も時を同じくして、私のすぐあとに小値賀小学校に転校してきました。活発でいつも笑顔の絶えない太陽君の周りにはいつも仲間たちがいたのを思い出します。
高校まで同じ小値賀島で育ち、卒業後、私は育ての親である祖父母を支えるため地元の小値賀町役場に就職。太陽君は単身アメリカへと旅立っていき、それぞれが違う道を歩んでいきました。
久々に再開したのは、確か太陽君がインバウンドのツアーガイドで小値賀に来島した時だったかと思いますが、外国の方と巧みに英語で会話する太陽君を見て正直心の底から驚きました。
申し訳ない話、学生時代は確かそこまで成績も上位ではなかったような記憶(違っていたらごめん(笑))があったのですが、やはり現場で生の英会話に触れることでここまで伸びるものなんだと感心し、またうらやましくも思いました。
それからしばらくして、太陽君が小値賀にUターンし、現在の「御縁プラン」を彼から直接聞いた時に、何の根拠もありませんでしたが太陽君なら成功するだろうという思いが真っ先にきたのを覚えています。持ち前の明るさや英会話力もあり、島ではこれまで無に等しかったインバウンドが急激に増えていき、相乗効果で観光客やビジネス客が増えてきました。
今の小値賀に必要なのは、太陽君のような「先見の目」と「情報発信能力」、そして「行動力」だと思います。この原稿を書いている時点では、新型コロナウイルスの影響もあり、小値賀のみならず全国に暗雲が立ち込めていますが、同級生同士、切磋琢磨して、なるべく早い段階で小値賀に光を取り戻していければと思います。
「ぎばるぞ!太陽君!」


◆「太陽」という名前がピッタリ!
名前そのもの、みんなを照らす人。まるで男性版・天照大神!
島宿御縁というシップの船長として、大海原へ航海中☆
島宿御縁 ヘルパースタッフ 大橋麻紀(40)

私は現在(2020年1月時点)、島宿御縁にヘルパースタッフとして在籍しておりますが、小値賀島に身を置いた理由の一つは、太陽さんの人柄でした。
出会いは、2020年3月。五島列島の旅の途中で、島宿御縁にお世話になることに。フェリーターミナルで笑顔でお出迎えしてくださった太陽さん。海外在住経験や観光ガイド経験など共通点も多く、滞在中に太陽さんが描くビジョンの話題にもなりました。
島で雇用を生みたい、若い世代の人たちが「島には仕事がない」ではなく、「島でできることがたくさんある、島だからこそ仕事がある」というきっかけになってほしいという想いを聞き、何だか面白そうだな、太陽さんともっと話をしてみたい! この人のもとで仕事をしてみたい! という気持ちで、ヘルパースタッフのオファーを承諾しました。
笑顔で、愛をもってお客さんやスタッフに接するところを見ていると、太陽さんの周りに集まる人が、太陽の光を浴びて元気になるひまわりのような光景に見えてきます。
 そんな太陽さんの生き方は……自分自身が一番楽しんでいる!
世の中の状況が刻一刻と変化していく中、何ができるだろう? 何をしたら面白いだろう? 自分の役割は何だろう? と、今を楽しみながら、未来を見つめている。
まずはやってみよう! やってみて考えよう! 失敗したっていいじゃないか! さすがアメリカ在住経験者、こんなフロンティアスピリットも備えている。
挑戦することが人生、という生き方をしてきた人だからこそ逆境すらも楽しみに変えてしまう、究極の遊び人! 屈託のない子供のような笑顔で、楽しそうに、釣りの話、ビジネスの話をしています。
笑顔の裏では、読書家・勉強家。常に本を読み、時々漫画も読み、御縁図書館も好評。そして子煩悩パパ! 子供のためなら、と、プロ野球観戦チケットを奮発しちゃう、そして自分自身が大興奮、など、日々子育ても楽しんでいます。
私生活では「今年は○キロ痩せるぞ!」なんて宣言してみたり(ダンベルを買うなど形から入ってみる 笑)、ちょっと忘れっぽいところがあったり……。お宿のお客さんからは見えない一面も魅力のひとつ! 小値賀島には、こんな面白い人がいますよ~!
独特の歴史が残っている、古い街並みが保存されている。日本といえども、なかなかここまで日本らしさを味わえる場所は、多くはない。一度日本を離れたからこそ見える、小値賀島の、日本の良いところ。観光ガイドを経て気づき、そして故郷の島にクローズアップし、起業した太陽さん。これからも太陽のようにみんなを照らし、そして日本、小値賀島へ足を運ぶ方へ幸せを提供し続けることと思います。


◆「太陽兄さん」
奈良ゲストハウス神奈寐 スタッフ早野晶恵(39)

岩永太陽さんとは、2016年の夏に出会いました。
当時、私は宿泊業への転職が決まっていたのですが、未経験だったので研修ができるところを探していたところ、友人に紹介してもらったのが「島宿御縁」でした。
5泊6日のフリーアコモ(宿で働く代わりに、無料宿泊できる仕組み)を快く引き受けてくださり、それはそれはとっても温かく迎えてくださいました。
そして宿泊業務の知識も惜しみなく教えてくださり、最初に「1にも2にも3にも4にも5にも大切なのは掃除。これは絶対!」と伝えてくださったのは、今でも強く印象に残っています。
岩永さんは、英語が堪能で、フレンドリーで、パワフル!
海外のフリーアコモスタッフが3人いましたが、英語が話せず、かつ初対面だった私は、かなり緊張していたのですが「大丈夫! 大丈夫! 良い子達ばっかりだから!」と頼もしくまさに「太陽兄さん」でした。
おかげさまで、楽しく実のある5泊6日になりました。(宿に隣接している岩永ママン=太陽さんの実母=が営む「スナックメロディー」での時間も忘れられない楽しい思い出です!)
小値賀に「岩永太陽兄さん」と「島宿御縁」があるからこそ、また行きたい、帰りたい、と思える場所が一つ増えました。


◆「その行動力を尊敬」
島宿御縁 岩永明里さん(32)

 出会ったころ、彼は海外からやってきた観光客のツアーガイドとして日本中をめぐる仕事に携わっていました。日本に対して興味を持って来て下さっている様々な国籍の方に、丁寧に、親切に、名所や文化、風習などを、持ち前の笑顔で接客し、帰宅する時はいつも両手一杯にお礼の手紙やプレゼントを抱えていたことが印象的でした。
 「今まで参加したツアーの中で一番楽しかった!」「日本をもっと好きになった」と言ってくださる方も沢山いらっしゃったのを記憶しています。
 彼自身、他のガイドスタッフより特別知識が豊富でネイティブのように話せるパーフェクトなガイドだったから、そのように評価して頂けた……という訳ではなく、ただ目の前のお客様に喜んでもらいたい! 楽しんでほしい! といった真心のこもった接客が人種を超えてお客様に喜ばれたのだと感じます。
 私たちは結婚して間もなく長男を授かり、彼もガイドとしてキャリアと自信を持ち始めたころ、東日本大震災が発生。それまで受けていたガイドの仕事も潮が引くように一気にキャンセルとなり、夫婦で今後を見通せない現実に直面したことを今でも鮮明に覚えています。
 しかし「ピンチはチャンス!」という彼がモットーにしているその言葉通り、一見マイナスな状況であっても、その中から、今までのガイド経験で培ったものや可能性を生かせないだろうかと考えていたようです。
 そして、ある時「ツアーガイドを辞めて自分の郷里である小値賀島で宿を開きたい」と相談されました。もちろん驚きはありましたが、彼の道を切り拓くエネルギーの強さやどんな逆境が来てもめげずに前進していく姿を見ていたので「この人なら大丈夫!」と確信し、島への移住を決意。そして、住んでいた神戸から引っ越し、開業とあっという間の出来事でした。
 私が彼に対して最も尊敬している所は、行動力です。その怖がる事なく目標に突き進む行動力には、いつも驚かされると同時に感動もさせられます。
 「何もない所からビジョンを描き、それを現実化する」。なかなか普通の人ではためらう事でもプラス思考でどんどん現実にしていく姿には石橋をたたいても渡れないような真逆の性格の私は日々、隣で刺激を受けています。
 時代に合わせ、ブログやSNSなどで日々、情報発信。1日も欠かさず発信していく中で、日本のみならず世界中からも小値賀という普段聞きなじみのない島を認識してもらっているのは、まぎれもなく彼の発信力の賜物だと確信しています。
 そして、これからもその発信がより多くの方の目に留まり、島を訪れ感動を共有できるような宿になっていくことを願っています。


◆◆あとがき

この本の執筆を始めた2020年、私は40歳を迎えました。
1980年生まれの私は、プロ野球界の表現を借りると「松坂世代」と呼ばれます。野球の世界では、現役選手として活躍している人はごくわずか。スポーツ界全体を見渡してみても、とうに引退している人が多い年ごろだと思いますが、ビジネス界で戦っている私は、これからが勝負だと感じています。
30代で小値賀にUターンし、起業することで、働くということに対する概念が大きく変化し、稼ぐことに対する意識や思考も変化。本業である宿経営はもちろん、いろいろ勉強して、将来を見据え投資なども始めました。
家庭面では、5人の子供たちを抱え大忙し。何もかも今が一番クレイジーな時期ですが、子育てを通じ学ぶことも多いです。子供にはたくさんチャンスを与えたいと考えています。
ビジネス面では、今後も新たなチャレンジを続けていきます。40代での「出会い」は、若いころとは全然違うものがあるでしょうし、将来につながる新たな御縁もこれまで同様、どんどん生まれると思います。
 私の夢は、いま小値賀で暮らしている子供たちが将来、戻ってきたいと思えるような島を作ることです。
 小値賀島の人口は1950(昭和25)年の10968人がピーク。少子高齢化や、基幹産業だった第一次産業の衰退により右肩下がりが続き、現在は2300人程度にまで落ち込みました。
このままでは近い将来、島から人がいなくなってしまう。大切な故郷を残すためにも、今の私たちの世代が頑張らないといけません。
この本の中で何度も触れてきたように、小値賀は島がまるごと観光資源です。これから島で何かをしようという人にとっても、チャンスはたくさんあります。
 私自身の子供たちにも、高校を卒業していったんは島を離れても、ぜひ島に戻ってきてほしいし、戻ってきたくなるような島にしないといけないと思っています。島に人がたくさん暮らしていて、みんなでワイワイ過ごせたら最高ですね。
 海外に飛び込んだり、思いのまま旅をしたり、ふるさとで起業したり、チャレンジを続けたり……。これまでの人生を振り返ると、もちろん大変な時期もありましたが、どんな状況でも楽しく、幸せだと感じることができました。
このポジティブさが、いつもワクワクを感じていたことが、運やチャンスを呼び込んだのではないかと感じています。
 ワクワクしたからこそ今があり、ワクワクする姿こそが社会に価値をもたらします。まずは自分が楽しんでハッピーになり、まわりの人もハッピーにすることができればいいな、って思いながら最近は頑張っています。
 最後に、私が経営スローガンに掲げている言葉で締めたいと思います。

楽しい場所には人が集まる
小値賀だからこそチャンスがいっぱい
外国人から日本一行きたい日本の離島、宿にする
田舎だから、離島だからの常識をぶっ壊す
島だからできないを、島だからできる、に。
エンジョイ・アイランドライフ!


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