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2018年ノーベル生理学・医学賞〜免疫細胞のブレーキを外してがん細胞に向かえ!〜

2018年のノーベル生理学・医学賞はJames P. Allison氏、本庶佑氏の2名に授与されることが発表されました。受賞理由は「their discovery of cancer therapy by inhibition of negative immune regulation(負の免疫制御を抑制するがん治療の発見)」です。

(カバー画像はhttps://hataraku-saibou.com/special/content_download/より。広い意味で教育関係ということで)

免疫細胞には車みたいにブレーキがある

プレスリリースのイラストはこちらです。

毎年クセが強いので、何が何だか説明しがいがありますね。

この車が免疫細胞のひとつで、T細胞。奥に見えるピンクが、がん細胞です。T細胞ががん細胞に向かって攻撃するシーンを描いたものです。

車のエンジンをかけるとき、サイドブレーキは上がっていて、ブレーキペダルは足で踏んだ状態ですよね。これではがん細胞に向かって車を発進できません。

実は、がん細胞はこの仕組みを巧みに利用して、T細胞という車を動かさないようにしています。がん細胞がサイドブレーキを上げ、ブレーキペダルを踏むことで、T細胞ががん細胞を攻撃しないようにしています。

ブレーキを外せばがん細胞を攻撃できる

Allison氏が発見したのはサイドブレーキのほうで、CTLA-4というもの(左上)。CTLA-4というサイドブレーキを、抗体(タンパク質に結合できる物質)を使って下げれば、T細胞が攻撃できるようになる、ということです(左下)。

本庶氏が発見したのはブレーキペダルのPD-1。がん細胞がPD-1というブレーキペダルを踏んでいるのを(右上)、抗体を使ってブレーキペダルを保護することでブレーキペダルが上がり、T細胞が攻撃できるようになります(右下)

論文として報告されたのは1990年代ですが、日本で抗PD-1抗体(PD-1に作用する抗体)であるオプジーボは2014年に承認され、現在の日本では悪性黒色腫、非小細胞肺癌、ホジキンリンパ腫、腎細胞癌、頭頸部癌、胃癌、悪性胸膜中皮腫が適応です。

サイドブレーキやブレーキペダルは「免疫チェックポイント分子」と呼ばれており、このブレーキを外す(阻害する)薬は「免疫チェックポイント阻害剤」といいます。

受賞理由にある「負の免疫制御を抑制する」とは、「ブレーキを外す」ということです。

ただの「免疫療法」には気をつけて

がんの治療はこれまで、外科的手術、化学療法(抗がん剤治療)、放射線療法の3種類でしたが、ここに今回の発見を踏まえた新たな治療法「免疫チェックポイント阻害療法」が登場しました。

単に「免疫療法」ということもありますが、今回の免疫チェックポイント阻害剤以前でも、T細胞を活性化させる(アクセルを踏ませる)方法で「免疫療法」という言葉が使われたので、厳密には区別して使う必要があります。

というのも、「免疫療法」で検索すると、自由診療で高額な免疫療法を行うクリニックが見つかりますが、効果が認められたものか怪しげなものも多く含まれています。そこに引っかからないように注意してほしいと思います。詳しくは国立がん研究センターのサイトをご覧ください。

最後に、お二人ともおめでとうございました! Congratulations!

おすすめ図書は『はたらく細胞5巻』。がん細胞のエピソードで今回に近い内容が出てきます。

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