ライターがChatGPTやBingとの共存を模索するためにいろいろ試したら当たり前の結論に達したことについて
去年の夏くらいからMidjourneyやStable Diffusionといった画像生成AIが話題になり、年末あたりからChatGPTというチャット形式のテキスト生成AIも登場。そして今年の2月にはマイクロソフトの検索サービスBingにもテキスト生成AIが組み込まれ、ちょっとしたブームになっています。
で、一介のサイエンスライターとして気になるのは、やっぱりテキストAIをどう使うかというところ。最初に断っておくけど、個人的には敵対視していなくて、むしろどうやってお仕事に活用していけるか、ということを考えています。
そこで、ChatGPTとBingを使いながら、どういう場面で使え、どういう場面で使えないかというのを考えながら、ライターが生き残る道を模索します。
選手入場
最初に、ChatGPTとBingについて。
ChatGPTはOpenAIという非営利団体がつくったテキストAI。GPT(Generative Pre-trained Transformer)という自然言語処理モデルで、人間が普段使っているような自然な文章をつくるディープラーニングベースAIです。何回かのバージョンアップを重ね、今のChatGPTに搭載されているのはGPT-3.5です。
BingのほうはGPT-4を採用していて、検索インデックスも組み合わせたPrometheusモデルとなっています。バージョンとしてはBingのほうが上だけど、バージョンアップしたては何かとバグが多いのはソフトウェア開発あるあるなので、そのへんは要注意かも。
ちなみに、Bingのフォントが気に入らないことについては、一応マイクロソフト本社の耳に入っているみたいです。
Round1「この用語を教えて」
というわけで、お題は「ゲノム解析」。条件として高校生向けとしました。noteで読みやすいように回答は画像の下に書いておきます。
先攻: ChatGPT
なるほど、いい感じです。せっかくなので追加質問として「ゲノム解析の方法」を聞いてみましょう。
キャピラリーや次世代シーケンサーなど解析装置を想定して質問したのですが、方法論的な回答となりました。こういう切り口からブロックをつくれそうということで、これはこれで有能。これらのキーワードを使えば3000字くらいの記事は簡単に書けます。一人ブレインストーミングとして構成を考えるときにこれは楽だ。
後攻: Bing
割とシンプルな回答。ChatGPTと同じく追加質問で「ゲノム解析の方法」を聞いてみると。
最初がサンガー法かあ。確かにまだ現役で使われているけど、そこは次世代シーケンサーといっしょに出して欲しかったところ。というわけで、追加質問の候補に「サンガー法以外の方法はありますか?」とあったので聞いてみました。
かなり簡潔に説明していますね。さらに追加質問の候補で「次世代シーケンサーでどれくらいの長さのDNAを解読できますか?」とあったので聞いてみると。
うんうん、いい感じですね。「一度に数百万以上のサンプル」だと、解析するのが数百万サンプルと誤解されそうなので、「数百万の断片DNAを一度に」のほうがよさそうです。
Round1総評
どちらもいい感じに返してくれました。ChatGPTは割と長めにリスト形式で教えてくれて、Bingはちょっと短めに返すというクセがありそう。もちろん文字数を指定すれば長さの調節はできるので、そのへんはお好みで。強いて違いを考えるなら、ChatGPTは1回で豊富な情報を提供してくれるコンサル、Bingは会話をもとに情報を選び出すヒアリングみたいなところがあるかもしれません。
あと、Bingの出典明記はやっぱりいいですね。特に仕事柄ac.jpやgo.jpのように信頼性の高いサイトがあると安心します。
「この用語を教えてください」みたいな使い方で一番影響を受けそうなのは、たぶんWikipedia。出典あり情報が前提で手作業でつくっているWikipediaがテキストAIにどう対応していくのか、気になります。
あとは用語集ページ。SEO対策として検索から用語集ページに入ってもらって、そこから自社コンテンツに誘導するという戦略を立てているところもけっこうな影響を受けそう。用語集ページの作成依頼もたまにあるんだけど、テキストAIについてどう考えているんだろう。今後依頼があったら聞いてみよ。
Round2「おすすめの商品を教えて」
ちょっと思い当たるところがあったので、次はおすすめ系です。「〇〇のおすすめ10選!」みたいなやつです。最初に商品を選ぶポイントを3つくらい挙げて、そのあとアフィリエイトリンク付きで商品を紹介するというサイトです。
個人的に食洗機を買おうか考えているところなので、質問は「日本で発売されている食洗機で一人暮らしにおすすめなものを教えてください」としました。
先攻: ChatGPT
まず一人暮らしだって言っているのに「ビルトイン食洗機」を出してくるところに不安があります。しかしそれ以上に気になるところが。ここ数年で食洗機を検討したことのある人なら違和感があるかもしれません。念のため、追加で「最新のものだと何がありますか」と聞きました。
うーん……。
何がまずいかって、日立とSHARPはすでに食洗機事業から撤退しているし、三菱電機はビルトインタイプだけです。パナソニックのところにある NP-TJ1という型番はないし、似ているNP-TH1の発売は2018年です。
実はここがChatGPT最大の弱点で、本人曰く、学習データが2020年までのもの。そのため、ここ1〜2年のことについてはまったく知らないのです。まるで2020年にコールドスリープに入ったみたい。
後攻: Bing
おお、ちょうど検討しているものが出てきました。パナソニックのやつが2017年発売というのが気になったので、追加質問で「特に最新のものを」と聞きました。
おお、今年発売されたばかりのソロタが出てきた!これはすごい。
BingがChatGPTと大きく違うのは、Prometheusモデルによって最新のウェブ情報を収集しているところ。そのため直近のデータにも対応できているところがポイントです。
Round2総評
これはBingの圧勝。最新情報を知りたいのであれば、2020年に冬眠に入ったChatGPTの出る幕はありません。
逆に、数年でそう大きく変わらないことや、過去にあった大きな出来事とかを調べるなら、差はあまり出ないかも。
この使い方で影響が出そうなのは、間違いなく「〇〇のおすすめ10選!」系のサイト。かなりの流入減少が予想されます。今のところBingには出典として「〇〇のおすすめ10選!」系のサイトもあるので、そこにうまく誘導できるような魅力的な内容になっていると生き残る可能性はありそう。
とはいえ、この手の記事を書いているSEO対策得意ライターは仕事が減ることを覚悟したほうがいいかもだし、SEO対策コンサル会社もチャットAIの動向に常に気を配らないといけなくなります。
対決を終えて
ChatGPTとBing、「似てるような全然似てない」2つのテキストAIですが、将来的に情報の探し方を変えるのは間違いないです。GoogleやYahoo検索だって最初はあまり当てにならず、紙の本を読んだほうが早いと言われていたと思うけど、今や論文ですら検索で探す時代になっています。近い将来、テキストAIだけで情報収集のかなりの部分を担うことになると思います。
ライターとしては、資料のリサーチの手順が大きく変わります。今は本とGoogle
を中心にしているけど、まずはテキストAIでざっくり把握したうえで本やGoogleで深く理解する、というフローに変わる可能性は大いにあります。
もちろん、タイトルや構成の提案もお願いして、妙案をひらめくきっかけとして使えます。というか、私はもう使っています。
そうなると気になるのが、特にウェブ記事だけを書いているライターのお仕事。広告収入でまかなっているウェブサイトの中でも、すでにある情報をまとめるだけのところは流入数ダウンによって運営が厳しくなり、ライターを厳選するか、ともすればコンテンツごと撤退もあり得ます。
つまり、ウェブで公開されている情報だけをもとに書いているのでは、テキストAIと勝負にならないということです。
そうなるとライターや編集者が生き延びる道は、まだウェブのどこにもない情報、たとえば取材をして聞いたり感じたりしたことを書き、検索ではなくコンテンツ自体を目的にブックマークやメルマガ、SNSからの流入を狙うという、よく考えたらメディアとして本来あるべき姿に1周回ってもとに戻るということになります。
エッセイみたいに心の動きを表現するコンテンツも、AIには難しいかも。ただ、2つの物事の共通点を見つけて新しい視点をもたらすタイプはAIでもできちゃいます。
これに前後の出来事や風景描写とかを追加すれば、立派なエッセイの完成です。
あとはもう、AIに情報を奪われないようにネットに載せず、知りたい人だけに有料でこっそり情報を教えるという方法もあります。ん、それ本じゃね?
これからのライターや編集者は、ChatGPTとBingという「似てるような全然似てない」2つのテキストAIを使いながら、そして意識しながらお仕事をすることになります。「使わない」という選択肢はないでしょう。共存する未来がやってきます。難しく、そしてどうなるかわからないハラハラドキドキの時代に突入して生き延びていきましょう。
もし、AIに勝てるライターになりたいのなら、いろんなことに興味をもって、横断的な情報を持ち込んで記事に落とし込むというのもアリです。さっき書いた「ChatGPTとBingという『似てるような全然似てない』2つのテキストAI」の「似てるような全然似てない」は、この歌詞からの引用でした。
テキストAIのレビューかと思いきや日向坂4期生の紹介が最終目的だったなんて、AIにはできないでしょ?
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(サムネイル画像はNovelAI作成)
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