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羽根つきと侮るなかれ

多少の無茶も平気なくらいにはまっていた。
朝7時に学校に行き朝練、お昼休みにサーブの練習、放課後に部活動、終わってから社会人の練習に参加するほどバドミントン漬けの毎日だった。

はじめたきっかけは小学三年生の時地元でバドミントン大会があると聞き遊び半分で参加したことだった。
結果は準優勝。
もっと前から始めていれば、もっと練習しておけば、真面目に取り組んでおけば。と次々と押し寄せる悔しさでいっぱいいっぱいになって泣いた。
その後スポーツクラブに入り、ラケットの持ち方とシューズの靴紐の結び方から始めて、週に二回休まず通った。

想像していた以上にハードなスポーツで、羽根つきと全然ちゃうやん、マラソン並にコート走り回らなあかんやん、きついきつい。
はじめは想定外のことばかりで練習についていくだけで精一杯だったが、準優勝の悔しさを思い出すとやる気が舞い戻ってきた。

喘息持ちもあって他の子達よりも体力のなかった自分は、とにかくがむしゃらに練習するしかないというスポ根魂に無理矢理火をつけて、ずっと燃え続けていなければ試合には勝てないと思っていた。

中学に上がってからは更に練習量が増えて、トレーニングだけではなく、スポーツ医学の本を読んだり、栄養学まで勉強した。
為になるモノは何でも吸収してただただ上手になりたかった。
そのおかげか県内の大会でベスト16、8、4と順調に結果を出していった。

しかし女子中学の部活動で大事なことというのは真面目に練習して強くなることよりも人間関係をうまく構築させるということに気づけなかった自分はとにかく浮いていた。
流行やオシャレなことにめっぽう弱く、会話に入ろうともついていけず、共感力も低かった為、人の表情や心情を察知できず、ずばっと持論を述べてしまうため気がつけば周りにひとがいなくなってしまった。
最終的には皆から無視をされたり、持ち物を壊されたり、大会の日に誰からも応援してもらえないことが続いた。

今でこそ一人が平気なり、言いたいやつには勝手に言わせておけよ。というメンタルができあがっているが、
誰とお弁当を食べるのかが重要課題の14,15の女の子がひとりぼっちで毎日過ごさなければならない苦痛に耐えられるわけもなく、先生に相談しても、もっと真面目に練習していればそんなくだらないことは気にならん!と一喝されて、ついに居場所がなくなってしまったと感じ学校の部活動をやめ、社会人のクラブに入ることにした。

社会人との練習は自分のペースで出来る上に、強い人達とも練習でき有意義だったし、苦手な会話をしなくても嫌みをひとつも言われたりもしなかったから気が楽だった。
大会に出場することもなかったので気負うことなくのびのびと練習した。
熱々沸騰状態のバドミントン熱も、やっぱりスポーツは楽しむ程度がいいねと思うようにまでなっていた。

高校ではバドミントンをする気持ちはすっかりなくなっていた。
高校まで片道1時間の自転車通学だったので部活動をしていたら帰宅時間が遅くなるし、周りも帰宅部が多かったので自然と自分も帰宅部なんだろうと思っていた。

そんなある日、シングルスのメンバーが足りないから試合に出ないか?
と相談された。
もう大会に出ることはないだろうし、会場で中学の同級生に会うの嫌だなと思い一度断った。
しかし、ふと自分の実力ってどの程度なんだろうと疑問に思った。
同級生達と練習しなくなってから周りのレベルを知らなかったのでなんとなく知りたいなという好奇心がうまれ、やっぱり大会に出るよ、久しぶりに体も動かしたいし。でも今回だけね。
と一度だけ高校一年の夏県大会に出場した。
結果は4位。
自分の調子が良かったのか、相手の調子が悪かったのか、トーナメントの運が良かったのか、自分でもとんでもない結果にびっくりしたのを覚えている。

その大会の帰り、もう大会には出ることはないけどいい経験になったなぁと自然と笑顔がこぼれ、と同時にもうバドミントンはすることはないなと思った。
大好きだったものを手放すのは意外とあっけないもので、
まだまだ楽しいことが沢山経験できる若さがあったからなのか、自分のしてきたことに納得をしてしまったのか、引退というのもなんだか仰々しい気もするが引き際は清々しく、飛ぶ鳥後を濁さずがいいもんだ。
すいすい進む自転車の風がいつもよりすっきりとしていた。

それからラケットを握ることなく大人になった。
コートでシューズがキュッキュッとなる音、シャトルを打ったときの爽快感、体育館の匂い、今でもしっかりと覚えている。

10代の時の恐れるモノがなかった強さや、そのときにしか感じられない感情、見られない景色が記憶に突き刺さったままの歪まずに、ふと懐かしい色に触れると色濃く映り出す。
記憶の中の自分はいつも笑顔で、空洞になってしまう気持ちに、ほのかに温かさが灯った。

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