フリーランス×公務員が作る”新しい広報”のカタチ
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フリーランス×公務員が作る”新しい広報”のカタチ

Craftsman’s Base Shimane
島根県で職人気質(クラフトマンシップ)を発揮する方々に話を伺い、作りながら考える暮らしを探求する場「Craftsman’s Base Shimane」(以下、CBS)。「ど田舎の島根」にいながら「最先端の実験場」を生み出すエキサイティングなクラフツマンを紹介している。本プロジェクトは、県内外でフリーランスとして活動するUIターン者を中心に活動するチームでもありつつ、島根県庁の事業としての側面もある。そんなフリーランスのチームと行政の協働を進めるリーダーが、島根県政策企画局広聴広報課 広報戦略スタッフの福間 猛(ふくま たけし)さんだ。「伝えたい内容やターゲットによって広報の手法も変わるはず」、そう話す福間さんにCBSを立ち上げた理由や過程、そして行政とフリーランスのコラボレーションに求められることを聞いた。(聞き手・文:山川奈緒子)
福間 猛(ふくま・たけし)
島根県松江市出身。島根県政策企画局広聴広報課 広報戦略スタッフ。高校時代にテレビで旧ソ連(現ロシア)の崩壊を見て、人生の転機を迎える。高校卒業後に飛び込みでロシア総領事館を訪れ留学先を紹介してもらい、大学1年の夏にモスクワ大学へ留学。帰国後は農学を専攻しながら博士後期課程まで進むも研究者の道を断念。「29歳無職、社会人経験なし、スキルなし」という状況に焦り、島根県にUターン。2003年に島根県庁入庁後は、川本農林振興センター農業振興課、農畜産振興課農産グループ、しまねブランド推進課貿易促進支援室、島根県立大学への出向などを経て、現職に就く。
※ プロフィールは2021年3月末時点

すべてはあの夜から始まった

人口減少が続く島根県。その一方で、今までいなかった多種多様なスキルを持った人材が育ちつつある。福間さんがCBSを立ち上げるきっかけも、島根県立大学(以下、県大)へ出向していた時に出会った移住者の若者たちだった。

「県大にいた頃、このCBSのnoteで編集をやってくれている瀬下くんや、ロゴのデザインを手がける太田くんと出会いました。偶然出会った彼らは、今まで僕が出会った人たちとは全く違うタイプでした。最初の疑問は「この若者はなにをして食っているんだ?」、「こんな高学歴の若者がなぜ田舎に?」というものでした。島根になにを求めてやってきたのか興味を持つことから始まって、いろいろ話すうちに仲良くなりました」

その後、福間さんは県庁広報課に異動となる。大学を離れる前夜、瀬下さん宅で深夜3時まで語り合ったという。

「異動先が決まってから自分なりに島根県はどんな広報をやっているのか調べたり、また他の自治体の広報もYouTubeやHPでチェックしたりしていました。「きれいな映像だな」とか「これはこういうウケを狙っているんだろうな」ということはわかりましたが、ずしんと心に響くものはありませんでした。これまでの広報とは違うやり方がないのか探るために、瀬下くんにいろいろ聞いてみたという感じです。たぶん彼なら、僕とは全く違うベクトルから見てくれるだろうなと。自分では思いつかない考えを知りたかったんです。彼や同じくCBSのメンバーである西嶋さんとも議論をするうち、だんだんとアイデアが固まってきました。

これまでの広報は、行政が広告代理店や地元の大手メディアと組み、マスに訴えることが基本的なスタイルでしたよね。しかし、今の時代はYouTubeやSNSなど便利なツールがいろいろ出てきている。そこで、個人で活動するプレイヤーたちと連携し、その発信力をいかして広報するという手法がありうるのではないかと思い至ったのです」

従来型の広報ではなく、個の発信力を生かした広報を

このアイデアを発展させ、CBSというフリーランスのチームを編成して、事業を進めるという初めての試みに挑戦した福間さん。そもそもなぜこうしたやり方を選んだのだろうか。

「もちろん従来型の広報も必要です。ただ、情報を伝えたいターゲットによって、マスメディアと組んだ広報が大切な場合もあれば、個の発信力を活かすほうがいい場合もあるはずです。そうだとしたら、県庁にはそのどちらも実行できる体制を整えておく必要があるのではないでしょうか?

そのターゲットとして福間さんが想定したのが、「県内の高校生・大学生」と「都会の若者」だ。

「CBSを通じて実現しなければならないミッションは大きく分けてふたつあります。ひとつは、かっこいい大人を県内の高校生・大学生に見せること。もうひとつは「自分の生き方ってこのままでいいのかな」と思っている都会の若者に「ちょっと考えてみませんか」と問いかけをして、できれば「島根にいらっしゃい」と声をかけることです。

そういった人たちにメッセージを届けるためには、テレビCMや新聞広告以上に、ささやかで小さな動画やネット記事のほうが伝わるのではないかと考えました。というのも、CBSに関わるような人たちがいわゆるマス広告から影響を受けるイメージが浮かばなかったのです。noteやFacebookで見かけた記事に心を動かされ、それから行動に移すという可能性のほうがありえるだろう……僕はそういう広報がやりたいと思いました。

CBSの企画に出てくれる方々や運営メンバーたちは、みな自ら島根を選び、主体的に仕事や暮らしを作っている人ばかりです。そんな人たちに触れ、「なにか面白いことをやっている人たちがいるな」と感じてもらうことが大切だと思います。

そこで、僕自身が「こんな人に島根に興味を持ってほしい、来てほしい」と思っている人たちに自ら動画や文章を作ってもらい、ときには出演もしてもらって、直接メッセージを伝えよう。そういった考えで、このプロジェクトの原形ができてきました」

すんなり走り出した背景に島根県庁の”風土”

とはいえ実際に事業を進めていくためには、プロジェクトに対する周囲の理解も当然ながら必要になってくる。今までになかったやり方を提案したとき、どんな反応をされたのだろうか。

「広報歴6年の、AJというあだ名のベテラン上司がいまして。まずAJに何回か話し、自分がやりたい広報のあり方をざっくり説明しました。そのときは「県のミッションから外れているわけではないし、そんなやり方もあるかもしれないね」というふんわりした反応でした。

懸念された部分もありました。フリーランスでクリエイティブ系の方々には個性が強いイメージもあって、彼らをきちんとまとめられるのかという点です。「本当に大丈夫か」と何度も聞かれましたよ。しかし、企画を止められるということはありませんでしたし、今では映像もnoteもすごく評価してもらっています」

心配されつつも、大きな反対もなく新しいスタイルの広報にチャレンジできた福間さん。その理由を尋ねると、島根県庁の“風土”があるのではないかと答えてくれた。

「まずは動画を1本つくってみて、それがダメだったり県の目指すミッションと違っていたりしたら、そこで止めればいい。AJはそんなふうに考えていたんじゃないですかね。結果が出る前から心配しても仕方がないといいますか。

そもそもの話になりますが、広聴広報課の重要な任務のひとつは「島根の魅力を発信すること」です。しかし、その手法まで細かく決められているわけではありません。やり方はいろいろあるはずなんです。僕の場合、先ほどお話ししたように、島根に暮らすかっこいい大人を見てもらい、県内の若者の定着と都会からの移住者の増加を図ることがミッションです。この目的を達成するためのルートはひとつではありません。CBSもひとつのルートであって「もしそれがダメなら、また別のルートから行けばいいだけでしょう、なにか問題ありますか?」そんな空気や姿勢が、AJにも広聴広報課にもあるのかなと思います。

それから、これは僕の個人的な考えですけれども、いわゆる「旦さん気質」のような気風が島根にはあると思います。島根県庁だけでなく、島根県全体にAJのような太っ腹なボスがたくさんいるんですよ。職員や担当者ひとりひとりのスキルや考え方を最大限尊重し、「この分野に関してはお前に任せるわ、責任はわしが取っちゃるけん」と言ってくれる。

さらに個人的な意見ですが、これは出雲に古くから伝わる「たたら製鉄スタイル」とも関係していると思います。たたら製鉄では、経営者である鉄師が様々な職人たちを束ねて和鋼をつくります。その過程で豊かな技術や文化が育まれていく。結果(和鋼)も良いし、いろいろな人たちが関わる過程も良い。むしろその過程が仕事の本質なのかもって感じもしますね

フリーランス×行政に立ちはだかる壁

一方でこのプロジェクトには、行政が複数のフリーランスに発注する難しさも潜んでいたという。CBSを進める上で感じていた難しさを福間さんはこう語った。

「行政の一番難しい部分は、お金の出し方ですよね。たとえば、今回のように抜群にかっこいい映像を作って、noteの記事で深みを付けてブランディングし、トークイベントまで持って行くという流れを考えたとしましょう。これをひとつのプロジェクトだと捉えると、ある程度の規模の事業費になってきます。

そうなると、公正さを担保するために、競争入札だったり、提案競技や見積もり合わせであったりが原則として必要になります。ではフリーランスの人たちもそこに参加すればいいではないかというと、そう簡単ではないと思っています。入札は受注する側にも資金力をはじめ総合力が必要になりますから、広告代理店やマスコミの土俵になってきて、なかなか太刀打ちは難しい。

そこで今回はプロジェクトで担ってもらう役割を細分化し、それぞれの発注額を抑えるというやり方をとりました。業務を小さくするといっても、担っていただくフリーランスの方には丁寧に説明しています。「こういうことがやりたいんだけど、一緒にやってもらえないか」という話をして、CBSの価値観や方法論に共感してもらうことを重視しています。行政では、こうした「共感」を発注につなげることもかなり難しいです。共感は、提案競技で重視される「理解の早さ」や「行政の意図の巧みな反映」といった評価軸とは、ちょっとニュアンスが違いますからね。

そういうわけで、どうにかCBSのチームをつくることはできましたが、事業を細分化したため、とにかく僕がやらないといけない事務や調整の仕事が大量に増えてしまった(笑)。経験を積めばもっと上手くやる方法が見つかるのかもしれませんが、ここは課題ですね」

行政の原則に対する深い理解を前提としつつ、プロジェクトに必要な方法論をつくりだす。福間さんはどうやってこのような手法にたどり着いたのだろうか。

「そんなに特別なことはありませんよ。僕は以前、島根県の牡丹の花をロシアに輸出するというプロジェクトをやったことがあります。そのときもロシアのルールを全部調べて「これは禁止されていないから大丈夫だろう」と探り探り進めていきました。今回もこれと似ていて、特にお金の出し方については、解釈や手続きに精通した同僚にひとつひとつ確認しました。

行政には行政のルールというものがあります。それは行政を効率的かつ間違いが起きないように進めるために絶対必要なものです。我々はそのルールに則って仕事を進めますが、だからといってできないことはありません。手間を惜しまなければ、ちゃんとやり方は見つかります。

手間を惜しまないと言っても、依頼している業務そのものは信頼するCBSのメンバーにお任せできていて、細かなことを指示する必要もないので、楽をさせてもらっているところもありますよ。プロジェクトの質については全く心配していませんからね」

実現したいミッションのために手間を惜しまず、「どうやったら実現できるか?」を考える福間さんのスタイルは牡丹のプロジェクトからCBSまで健在だ。

日本からロシアへの牡丹輸出は前例がない中で、通関・検疫のルールをどう突破したのか。福間さんの手腕が伝わる記事。

これからの公務員と行政のあり方を実験する

CBSのやり方は、今後の行政のあり方にとって新しい選択肢になるのではないかと福間さんは言う。

「こんなふうに何人ものフリーランスを編成してチームを組むやり方は、県庁でもおそらく初めてではないでしょうか。しかし、今後は行政のさまざまな分野で、個の力を活かす施策が求められるのではないかと思います。

どんどん人口が減っていくなかで、行政の事業は大規模なものばかりではなくなるでしょう。もしかしたら、たったひとりの県民に寄り添う事業だって出てくるかもしれません。これまで大きな塊のようにみえた行政課題が、今後は小さい個別のスケールの課題に変わるわけです。そういった流れを想定すると、いままで以上にきめ細かく柔軟なやり方を模索しなければならないでしょう。CBSはそのための先行事例というか、チャレンジとも言えます。

それから、もうひとつ。行政の職員には悲しいことに異動があって、どれだけ与えられた仕事を真面目に一生懸命やり、良い取り組みが生まれても担当が変わってしまうのですね。しかし、CBSのように個が集まるチームであれば、もし僕が2021年度に異動になっても、なにかやれることがあるかもしれない。一個人として関わる余地があると思います

「どう転がっていくのかが全く見えないところが楽しみ」

福間さんは自身を「非主流派の公務員」と形容する。一番の褒め言葉は「福間さんらしいわ」という言葉だそうだ。

「「非主流派」になったのは、性格的なものが一番大きいですね。自分が大学にいた頃、留学するときに多くの人は欧米を目指しました。でも、僕はあえてロシアに行きました。人と違うものが見たい、違うことがやりたいっていう欲求が根本にあるんです。公務員は与えられたミッションをこなすことが仕事ですが、自分らしいスタイルで進めることができます。

うちの実家は農家なんですけど、良い農作物は生産者の顔が見えるって言われますよね。それは行政の事業も同じことで、担当者の個性や経験、これまで見たこと聞いたこと、こだわりが出るはず。そうした事業こそが、良い事業だと思います。僕はそういう仕事ができる公務員でありたいですね」

自分がやりたいことを周囲に話し、知恵を出し合いながら周りを巻き込んでいく。そんなスタイルで仕事を進める福間さんのもとには、何名ものフリーランスが集まる。最後にCBSの今後について聞いてみると、福間さんはワクワクした表情でこう語った。

「CBSの活動には手応えを感じています。成果はこれからですが、なにより楽しみなのはCBSがどう転がっていくのかが全く見えないところです。みんなが「次は何が始まるんだろう」とドキドキしながらアイディアを出し合っている過程がすごくいいなと思います。関わっているみんながやる気をなくしてしまうことが一番嫌ですから」

──すぐに成果を求めたくなる現代に、新しい挑戦を始めた福間さん。もちろんCBSはまだ挑戦の途中で、フリーランスと行政のコラボレーションを円滑に進めるためには課題も残る。しかし、それもある意味「実験」。移住者が島根県という地で暮らしや仕事を作っているように、島根県の公務員も新しい行政のあり方を作ろうと挑戦している。


Craftsman’s Base Shimane
手を動かすなかで、新しい生き方を探る。たしかな手触りをもった、自分らしい暮らしを作る。そんな島根のクラフツマンたちとつながる場「Craftsman’s Base Shimane」。