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2022年下半期好きな本まとめ

昨年の下半期は、会社を辞めてオーストラリア、チェコ、スペインに行ってきた、とても稀有な年でした。そのせいで(?)、今就職活動に苦しめられているのだが……。昨年下半期に読んだ本38冊の中から、好きな本13冊を紹介させていただきます。少々ネタバレも含まれますので、未読の方はご遠慮ください。

『母性』湊かなえ

母性とはなんぞや? 本書を読んでそう思った。私は友達のお子さんに会うたび、「母性が溢れ出るわ~」と言うことが多い。あれ? そういや男性は「父性が溢れ出る」とは言わないな。子どもを見たら、ただ「かわいい」と言えば良いのに、何かに縛られているのか? 私。
本書に出てくるお母さんは、モラハラの面で義母や義姉の被害者であり、娘の加害者だ。義母は、嫁や孫の加害者であり続けるが、最後にわかる、義父の被害者でもあることに。この連鎖はなぜ止まらない?
家族はこうでなければならない、こういう家庭を築きたいという想いは度を超えると幻想になり、やがて呪いとなって家族自身を苦しめるのだろう。

『こうばしい日々』江國香織

「誰かをほんとに好きになったら、その人のしたこと、全部、許せてしまうものなのよ」 みのりのおばあちゃんの言葉。
人を本気で好きになるって途轍もなく深いな。
許せると信じるはなんだか似ているな。
みのりの次郎くんへの想いは、ピュアで粗くてまっすぐで、心がきゅっとなる。
江國さんの文章は、しゃきしゃきしたフルーツのように瑞々しくて、何度読んでも飽きることを知らない。

『告白』町田康

800ページ超えの大長編で熊太郎の一生が描かれる。確かに長いが、熊太郎を表すためには必然のボリュームだったと思う。
幼い頃から自意識が高い熊太郎。敗北したときに屈辱にまみれたくないから、あたかも本気で取り組んでいないと見せかける姿勢は私にも当てはまる。とことん運がなく、行動全てが裏目裏目に出てしまい、考えた挙句、熊次郎に頼まれるがまま、言う通りに行動してしまう熊太郎に嫌気が差すものの、自分にも熊太郎の側面があるから、どうしても見放すことができなかった。
読後に感じるやるせない気持ちがスタインベックの『ハツカネズミと人間』に似ている。

『ナナメの夕暮れ』若林正恭

「あちこちオードリー」にて、「自己内省が完了し、今は他人のことが気になって仕方がない」というようなことを話されていた若林さん。一体それはどういうことだろうと気になり、本書を手に取った。
本書を通して、大人になればなるほど、知らないことに対して素直に知ろうとする姿勢はとても大事だと思った。深く自分探しをしてきた若林さんの言葉はすべて本物だから、自分に「もやっ」とすることがある人には優しく刺さると思う。
私の自分探しのゴールはまだ先が見えないけど、面倒な自分ともこれからも付き合っていこうじゃないかと思える本だった。

『あるかしら書店』ヨシタケシンスケ

この本大好きだ!
本好きの友達と読み合い、その後2時間ほど語り合った笑。
本書は、こんな書店があったら良いなと思う私の想像のはるか上をゆく、夢が詰まった書店だった。私は特に「月光本」と「お墓の中の本棚」がお気に入り。
「お墓の中の本棚」は、1年に一度だけお墓が開き、中に故人の好きだった本がぎっしり詰まっている。その中から一冊だけ本を持って帰り、代わりに故人に読んでほしい本を一冊置いて帰るという、故人との本のやり取り。こんなにすてきなことを考えている人(ヨシタケさん)がこの世にいることを知れただけで、救いになる。

『かわいい夫』山崎ナオコーラ


タイトルに惹かれた。だって私の夫はかわいいのだもの。
ナオコーラさんのまっすぐな文章でつづられる夫さんとの日々が愛しい。互いを本当に大事に想っていることが伝わってくる。
流産について書かれた「穴は永遠に空いたまま」が印象的だった。喪失体験をつづっているのに温かい気持ちにもなった。大事な存在を喪失したことによって空いた穴は二度と塞がることはなくて、他の誰でも埋められない。
時が経って幸せだけど、それ以前の自分とは違う感じ。穴の空いた自分を好きと言えるナオコーラさんは強く美しいと思った。
生きている限り喪失体験はいつか必ず訪れる。そのときにこの文章をぼんやりと思い出すかもしれない。

『約束された移動』小川洋子

小川さんの紡ぐ文章はなぜこんなにも静謐で美しいのだろう。口の中で溶けるプリンのように、とろんと体の中に入ってすっと消えていく。優しく少し寂しい世界の中で死が物語の近くを漂っている。そのことが物語により一層の美しさをまとわせ、心地よささえ感じられた。この世界に永遠に浸って、登場人物たちと静かに移動し続けていければ良いのに。

『結婚しなくていいですか。すーちゃんの明日』益田ミリ

言葉が突き刺さってくる。まいちゃんとすーちゃん、二人とも独身時代は仕事という共通の悩みや愚痴があったけど、まいちゃんが仕事を辞めて結婚、妊娠してから互いの悩みは変わっていった。ライフステージが違うと互いに気を遣う/遣わせることが増えるし、もやもやする/させることもあるかもしれない。それを承知の上で、前とは違う「今」の自分で会っておきたいと思える人は、本当の友達なんだと思う。結婚しないということのもやもや、仕事を辞めて妊娠して新しい自分になることへのもやもや。もやもやは尽きない。この感情をこんなに丁寧に扱ってくれる物語があるとは。

『アイネクライネナハトムジーク』伊坂幸太郎

章を追うごとに点と点だった人間関係が立体的につながっていくわくわく感! これぞ伊坂さんの小説を読む醍醐味である。
登場人物それぞれがつながっているというのは、何も小説の中だけではない。世界というのは実は狭くて、誰かから受け取った何気ない言葉や思いが、自分の心境を変えたり、決断したりするきっかけに十分なり得るのだ。本書ほどとは言わないまでも、現実世界も良くも悪くも人の思いや言葉に影響され、連鎖しながら、みんなつながって生きているんだよなぁとしみじみ感じた。

『ぼくの死体をよろしくたのむ』川上弘美

静謐な日常に私の知り得ぬところで非日常なことが起こっているこの感じ、大好きだ。先を読みたい話もあるが、短編だからこそ心地よい余韻が残る。
「なくしたものは」「土曜日には映画を見に」「無人島から」「廊下」が特に好き。
「土曜日には映画を見に」「お金は大切」「廊下」では、各話で半世紀ほどの時が流れ、年月が経つことの悲哀と安堵、永遠のものはないというこの世の理を静かに感じさせてくれる。
出てくる人たちの多くはちょっと「変わっている」。彼らの内面は、自分が美しいと思うもの、好きな人を信じる力でみなぎっていて、とても豊かだ。

『f植物園の巣穴』梨木果歩

前半は、「こんな歯医者には行きたくない。どんなの?」の大喜利回答連発のような歯科でのやり取りがおもしろくてしか(歯科)たがない。
いったいどういう話なんだろうと思いながら、主人公と一緒にうつつと夢の境界線をさ迷っているうちに、いつの間にか記憶の渦の中へ引きずり込まれていた。
記憶を掘り起こす作業は辛く重い。自分に向き合うことはしんどい。
人なんて生きものは、忘れながらでないととても生きていけない。
でも、思い出さないといけないことがあり、すり替えたらいけない記憶が確かに在る。
異世界からぐっと現実に引き戻され、仄かな灯りが灯ったすばらしい幕引き。

『イワン・イリイチの死/クロイツェル・ソナタ』トルストイ

すごい……。こんなに「死」と向き合って考え抜いて書ききった物語をかつて読んだことがない。
死んだことがないとわからないんじゃないかと思うくらいの描写だ。
死んでいく人や残された者に焦点が当たった物語は多いが、人が死ぬ瞬間の心理的葛藤をここまで書ききる物語は初めてだ。そのエネルギーがとんでもない。まさに死ぬ時点の描写に圧倒された。
死んだ瞬間、そこに死はなくなるのだ。
実際、このような感じで死んでいくのだろうか。
すごい。すごいしか言えない。

『独立記念日』原田マハ

超短編だから、あともう少し読みたい、というところで次の人へ物語のバトンが渡されていく。そして物語は巡る。
最愛の人との別れや、親からの独立、社会の呪縛からの決別など、それぞれのいろんな独立の瞬間が切り取られている。
数ページの物語なのに、人生の大事な瞬間に立ち会っているからか、一つの物語を読み終わるたびにすぅーっと静かに涙を流していた。
人はいくつになってもライフスタイルが変わっても、悩み続ける生きものだ。それを肯定し、そっと優しく見守る本書に、私はだいぶ勇気づけられた。

以上です! また2023年もすてきな本にたくさん巡り合えますように!




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