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2023年下半期の好きな本まとめ

本年もよろしくお願いいたします!2024年は、風邪をひき、初詣でのおみくじで凶をひき、なんてこったパンナコッタの幕開けとなったが、あとはよくなるだけだ!と前向きな気持ちになったのでした。

さて、昨年下半期に読んだ本の中から(少し漫画も含む)、好きな本を簡単な感想とともにご紹介したい。

今年もたくさんの自分にとっての良書に巡り合えますように!



『乳と卵』 川上未映子

豊胸手術をするために大阪から上京してきた姉の巻子とその娘緑子を迎えるわたしの、三人の三日間の物語。巻子は、豊胸手術をすれば、自分一人のものであった自分の身体を、母乳と一緒に絞り出された気がした、自分が自分であった頃の何かを取り戻せると思ったのかな。

緑子の抱えている不安も凄まじい。小学生のうちから、子どもなんか生まへんと心に決めている。それなのに、もうじき生理が始まり、「初潮を迎える」「赤飯を炊く」「女になった」などの言葉と行為の渦中に入らねばならぬことが厭で厭で仕方がない。毎月これから何十年、体の痛みに悩まされながら、股から血が流れていく歳月が始まる。自分の意志に反して、自分の身体は生命を生み出すものとしてあらかじめ備えられていたという事実が、自分の身体の中でどんどん現実味を帯びていくこと、それはとっても怖いよね。

巻子も緑子も豊胸手術と生理、まったく異なる問題だけど、悩んでいる根っこは同じようなものなのだろうと思った。二人で卵を割り合い、感情をぶつけあうところで、私の魂も震えた。

すごい作品だ。

『ツユクサナツコの一生』 益田ミリ

漫画を描く傍ら、ドーナツ店で働くナツコ。ナツコとナツコの描く漫画の主人公春子のつぶやきに何度もハッとさせられた。

生きること、死んでゆくことをとても丁寧に大切に言語化されている。

ナツコのバイト先の同僚、松本さんがナツコの漫画を読んで感じたこと、「読む前と読んだあとではわたしの世界の質量はちょっと違う気する」私が本書を読んだ前と後との感想でもある。

ナツコの作品『胡桃』を読んでのお父さんの心からのつぶやき「お前歳とってくれたんか。漫画の中ではおばあさんになったんやな」が良かった。小さな静かな安全な胡桃の中でまた一緒にいれるときが来るまで、日々を穏やかに生きてほしい。

以下、大好きな言葉。「過去が薄くなっていっても、それは誰かに申し訳なく思うことではない」「いつか絶対に死ぬってわかってて生きてるのってよう考えたら凄まじいよな」「生きる理由がわからないことより死んでいく理由がわからないことのほうがくやしくてむなしくて悲しい」

『緑の歌 - 収集群風 - 上・下』 高妍

絵に一目ぼれして買ったら、物語も素晴らしかった。映画と小説が混じり合う、漫画の真骨頂のような作品だ。

無音の懐かしい風景にゆっくりと『風を集めて』が流れ出す。緑が音楽を聴くとき、私もその曲をかけながら物語に浸った。優しいギターの音色に合わせて海風の音が細やかに聞こえてくるようだ。

台北で日本の音楽と本に親しむ南峻と緑が出会うカフェの名が「海辺のカフカ」というのが憎い!

きっとまた読み返す。『風を集めて』を聴きながら。

『のっけから失礼します』 三浦しをん

三浦しをんさんってこんなにおもしろいんだ! 化粧を落とすのが面倒だとか、お風呂に入るのが嫌いとか、私とおんなじことを言っているような人なんだと知り、面白かった。こんな愉快な人から『愛なき世界』のような美しい小説が生み出されるんだなと思うと、作家さんという人は本当に多面的なのだと感心する。

『ホリー・ガーデン』 江國香織

江國さんの物語は、人生のBGMのようなもので、ずっと背後で聞いていたい。普段は平行読みすることはなくて、一冊ずつ物語に入っていくのが好きだけど、何度も読んだ江國さんの本は、物語の狭間で流しておきたい心地よい存在だ。

余白が多い物語だから読むたびに印象が変わる。前読んだときは、ずっと公然に片思いしていた中野は果歩と一緒にいられて良かったねと思っていた。今回は、最終章で中野のために青く美しい薔薇の柄の紅茶茶碗に紅茶を淹れる果歩から、中野への慈しみのような愛情が滲み出ているのを感じ、果歩の幸福を深く感じられた。

『鹿の王 1 2 3 4』 上橋菜穂子

目を閉じても開いていても、その情景が無限に広がる。北の涼やかな夏に草を食むトナカイたち、静かに落ちてゆく夕日。その中を長い影を伸ばして淡々と進む荷馬車。美しい草原の風景や、人が行き交う交易都市の様子、暗く鬱屈とさせる岩塩鉱の闇をいとも簡単に想像できるのは、著者の映画のような切り取り方と詳細な描写の為せる技だろう。

世界史が好きな私にとってはこりゃたまらん世界だわい。

東乎瑠帝国に征服されたアカファ王とその懐刀、故郷を追われた火馬の民、ヴァンの故郷ガンサの民、強大な東乎瑠帝国、辺境で苦労しながら暮らす移住民たち、西のムコニア帝国。彼らのいろんな思惑が交錯する線が、巻を進むにつれて少しずつ見えてくる。

なんなんだこれは。ファンタジーなのに、まるで私たちの世界と歴史そのもののよう。

隣の民や国を人として見たら仲良くできても、民族、国というまとまりで考えると、途端に無機質な攻撃対象となり得てしまうことに恐怖を感じた。

国と民族どうし、または民族内でのつながりは、これまでの歩みの中で細い糸が緩く絡まり合い、もう解くことはできない。それを玉結びにならないように緩く絡まったまま維持することが世界の平和となる。

その世界の脈動には、力強い生命の物語があった。ヴァン、サエ、ホッサル、ミラルがひっそりと語り合った話を、その夜を、彼らは生涯忘れないだろう。

私は生きる。過去にも未来にも誰一人私と同じ人は存在しない、唯一の私を生きようと思った。至極当たり前のことだけど、それはとても素晴らしい事実なんだと知った。

『鹿の王 水底の橋』 上橋菜穂子

本作は医療人、ホッサルとミラルの物語だ。

幸せは冷凍して長期保存することができなくて、常に現在の幸せしか手に持つことができない。幸せを保てなかったら、失ったら、その哀しみとともに生きていくしかできないのだ。そのことを知っていてもなお、オタワル医術の未来のためにホッサルとの別れを決めたミラル。

医術を究め、患者を一心に救おうとする思いが、やがて国を動かし、自分の未来までも好転させる。

これまでの物語でも、いつのときも健気で、安らかなミラルが眩しく美しかったが、本作ではよりいっそう煌めいて、魅了された。

『AX アックス』 伊坂幸太郎

伊坂さんの本は登場人物たちの間で繰り広げられる会話が本当に面白いんだよな。この本も例に漏れず。

人は死んでも想いを息子につないで最後は必ず敵を倒す。ありふれたヒーロー物語のようでもあるけど、そのヒーローは殺し屋で。

殺し屋兜と奥さんの出会いで幕を閉じるところも良い!切ないのに温かなハッピーエンドのようにも感じた。

殺し屋シリーズ第三弾も最高でした。

『友情』 武者小路実篤

ほぼ百年前に書かれた本が今の私にもこんなに面白く読めるって不思議だ。良書は時を経ても在り続ける。友情も。

野島が恋焦がれていた杉子との関係を、文学に昇華して野島に伝えた大宮は粋だし、それを受けて文学で決闘しようと誓う野島には頑張れ!と思った。

野島も大宮も一皮むけて大人になった。そして仕事で必ずや再会を果たしてほしい。

『くもをさがす』 西加奈子

西さんは乳がんになったときも冷静に自分を見つめていた。自分の身に起こっていることだと信じられず、自分との距離が遠くなっていったからだといいう。手術直前のアクシデントにより、ずっと一定の距離があった自分と自分がやっと一つにしっかり重なることができた。

そして関西弁で突っ込みまくっていた。笑っていた。現実を楽しんでいた。

手術後からは西さんの思いがどんどん溢れて止まらない。

女性であること。私は私であること。そして自分は最高であること。

生きているという強い思いと、周りの人たちへの止むことなき感謝の気持ちを読むにつれ、力強く美しい生の軌跡にただただ圧倒された。

『逆ソクラテス』 伊坂幸太郎

やっぱり伊坂さんの本は面白い!五編に出てくる登場人物がつながっているところとそうでないところがあり、読んだあとにページを戻って確認する時間も伊坂作品を読む楽しみの一環だ。

メインの登場人物がみんな小学生だから、ふいに同じ小学校だったあの子やあの子は元気かなって思い出した。街ですれ違ってもまったく気がつかないだろうな。

『ライオンのおやつ』 小川糸

人生のすべてを受容したつもりでも、生き続けたいという思いは止まらない。

生きることと死ぬことは対極にあるのではなく背中合わせ。ホスピス「ライオンの家」の施設長、マドンナの考えだ。その考えが私はとても好き。そう思うと、この世のすべての輪郭はぼやけ、今自分が生きているということだけが浮かび上がってくるようだから。

私は温かい。私は今生かされているんだ。

亡くなる間際、先に旅立ったいろんな人たちが会いに来るという。その瞬間が少し楽しみ。

瀬戸内海の穏やかな海に包まれ、心健やかに生きる灯火を大事に守るライオンの家が、いつまでも続きますように。

以上、好きな本12冊の感想でした。

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