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声なき若者のLock Dance:”組曲:時の方舟~Part 3 無の存在”

”組曲:時の方舟”はThe ALFEEの最新アルバム”天地創造”の3曲目、9分近い壮大な組曲です。

これまでも数々の素晴らしい組曲を発表してきたアルフィーさんですが、この曲は高見沢さん曰く”みんなを置いてけぼりにしない”ほどまるで1つの映画を見るような、ギャラリーの部屋から部屋へ移動するような、詩集を読むかのごとく、サラサラと流れる、9分という長さを感じさせない傑作です。

8つのパートが組み合わされており、それぞれにタイトルがついていてパート別にリードボーカルも変わっています。

Part 1: 大地の詩、Part 2:嵐の時代、 Part 3: 無の存在、Part 4: 生々流転、Part 5:眠りの小夜曲、  Part 6: 孤独の力、 Part 7: 時の法則、Part 8: 時の方舟は征く

今日はその”Part 3 無の存在”の歌詞を考察しつつ、アメリカの60年代から70年代にかけての歴史をちらっと見ながら、なぜ高見沢さんはここで16ビートとLock Dance を歌ったのかを考えてみました。

みなさんも歌を聴いて歌詞を読んだ時 ”なぜここでLock Dance?" って思いませんでしたか? っていうか・・・

ロックダンスって何よ(笑)

ダンスのことを何も知らない私がかろうじてLock Dance を知っていた理由は、実は我が夫です!Popping and Locking というカクカクしたwストリートダンスがめちゃめちゃ上手いんです、夫!家でカクカク踊ってるわけではないのでw私も誰かの結婚式やらパーティーやらで踊ってるところしか見たことがないのですが。

Lock(鍵をする・固める・動かなくさせる)というだけあって、ロックダンスは流れるような激しい動きをところどころで止めてポーズをとり、リズムに乗せてまた次の動きに戻る、という元祖ストリートダンスのひとつです。

1970年代初めに出てきたFunk・ファンクミュージックにのり、カリフォルニアの路上でロックダンスは生まれます。ちなみに東海岸では同時期にブレイクダンスがニューヨークの路上で始まります。どちらもアフリカ系の若者の間でポピュラーになり、現在もヒップホップなど色々な形に変化をとげストリートダンスは生き続けています。

Funkといえば アルフィーの"Funky Cat!" のように16ビートで軽快なリズムを刻む音楽、ジェームス・ブラウンやジョージ・クリントンが有名ですね!嫌なことや悩みなんかを忘れさせてくれるようなポップでファンキーなリズムとビートに自然と体が揺れてきます。

そのLock と Funk が生まれた70年代初頭と少し前の60年代は、アメリカに住む黒人にとっては社会では声なき”無の存在”な自分たちの存在意義を問われ試される時代でした。

大きく説明すると、60年代は差別からの自由を求める公民権運動がアフリカ系アメリカ人中心に社会を揺るがします。マルコムXやマーティン・ルーサー・キング牧師が暗殺されるのも60年代です。長い奴隷時代が1800年代後半に”終わった”とされるのは表面的なもので、1900年代の半ばもアフリカ系アメリカ人は差別に苦しんでいました。

自分の価値を見極めないまま 少年少女は大人になってく 無神経な言葉に心閉ざして 存在理由の意味を見失う (組曲:時の方舟)

Part 3の冒頭の歌詞にあるように、有色人種の若者たちは自由も権利もない自分の価値を見出せず、それに反発するように自己の存在を示すべく、声をあげるように独自のダンスや音楽を発展させていきます。それがファンクやロックダンスやブレイクダンスです。同時期の白人の若者もビートルズやツェッペリンなどのロック(こちらはRock)な音楽に夢中になりますね。この時代の若者たち全ての葛藤が時代の音楽やダンスに投影されているようです。

自信過剰を裏返してみれば 弱気な自分が蹲ってる 思い上がりは未来を狭める 意外な小石に躓くだろう 反逆の16ビート鳴り響かせ 体を揺らして踊り続けろ Lock Dance Lock Dance (組曲:時の方舟)

16ビートとロックダンスは対になったものですが、どうして高見沢さんはここでロックダンスを歌詞に入れたのかな、と考えるとやはり社会に縛られ自由も声もない若者たちが集い、社会の波に反発し自由を勝ち取るべく行動した時代(日本でも学生運動が盛んでしたね)に私たちが現在立ち向かっている困難や苦しい状況を重ねたからかな、と感じます。

さらにはロックダンスの動きも現在の状況のようですよね。ちょっと進んでまた止まって、停滞してはまた動かして・・・パンデミックを生きる私たちのこの2年間の世界は流れるように美しいダンスではなく、立ち止まり姿勢を変え、また動いては固まる、を繰り返すロックダンスのようでした。

Lockをダンスの名ではなく、単語の意味と考えると”鍵をする”という主な意味以外に、Lockを使う言葉でここの歌詞と通ずるようなものが2つ思い浮かびます。

Lock up: 閉じ込める・閉じこもる・仕舞い込む 

Lock up(アメリカのスラングでは):成功するのが目に見えている、勝利が確証する

心を閉ざす若者の哀れを表すと同時に、鳴り響く16ビートがまるで苦境を乗り越え勝利に向かうかのような晴れやかさが思い浮かぶ言葉です。

おまけ

1964年に人種や宗教などの差別を禁止する公民権法を勝ち取った公民権運動ですがキング牧師の死(1968年)で終焉を迎えます。そのすぐ後の1969年にはあのウッドストックが開催されました(大トリはジミー・ヘンドリックスです)。この時代、ベトナム戦争開始の1955年からもう15年も経つのに一向に戦争は終わらず、人種を問わず若者は徴兵され戦地に送られます。

70年代はベトナム戦争で社会がさらに揺れ動きます。この時代は戦争反対と平和を願う学生が結託し学生運動があちこちで起こります。その中で軍隊の武力行使によって1970年にオハイオにあるケント大学で4人の学生が銃弾に倒れます

アルフィーさんがよくカバーしているCSN&Yの ”Ohioオハイオ” はその様子を歌った楽曲です。

Tin soldiers and Nixon coming, We're finally on our own (おもちゃの)鉛の兵隊とニクソンが来るぞ、俺らはとうとう見放された This summer I hear the drumming, Four dead in Ohio 今年の夏(軍隊の)ドラムが聞こえるぞ、オハイオで4人死んだ)

Part 3のタイトル”無の存在” の歌詞から派生したアメリカの歴史を見ると、この時代のアメリカは嵐をゆく方舟のようだったのがわかります。

海を超えた反対側では激しい学生運動も徐々に収まりつつあり、もうじき高見沢さんと桜井さんが高校で出会い、あと数年で坂崎さんと出会いアルフィーが出来上がる・・・そんな素敵な運命の序章の時期でしたね。

日本は平和で本当によかったです。あれから50年後の今もアルフィーさんは3人仲良しで幸せで一緒に歌っていて、本当によかった!

感謝しながらもう一度”組曲:時の方舟”を聴いて高見沢さんの才能に感動しましょう〜(カクカク踊ってもいいよ!)

シマフィー 






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