店内に潜むスパイ

学校周辺でやってはいけないことがいくつかある（＊アメリカの高校で教師をしています）。

一つは先生同士でバーで盛り上がり学校関係の良からぬことを（意図せずとも）大きな声で話すこと。先生や生徒の名前を出して、あいつはこうだった、こんなことをした、などと周りに聞こえるように話すのはご法度だ。
外に漏れ出てはいけない噂話もしてはいけない。
もちろんベロベロになって醜態をさらすなどあってはならない。

公共の場で話すときはどんなに気をつけたつもりでいても絶対に誰かが聞いていて、噂の本人や話題の生徒の親などの耳に入ってしまうからだ。学校の評判にも傷がつく。
バーテンもウエイトレスも、後ろに座った客も、ひょっとしたらテラスにつないであるゴールデンレトリバーもスパイかもしれぬ。

一度新入りの教員達がそんな事情など知らずにバーに集まり、まぁそれは思いっきり誰かの悪口を言ったり笑い者にしたり、恋人同士でもないのにイチャイチャしてチューとかしたらしい。
学校外のプライベートな時間とは言え、無防備にはしゃいだ若い先生達は翌週生徒達の笑い者になった。そして生徒達は親切心か、好奇心か、でその場にいなかった先生達にも　”A先生がB先生のおっぱいが大きいと言っていた”　とか
”C先生がD先生と一緒のトイレに入っていった”　などの聞きたくない情報を教えてくれる。

それが正しくてもそうではなくても関係ない。そんな話をするネタを与えた側が悪く、噂は残念ながらマッハで広がるし皆々様よーーーーく覚えている。

そしてもう一つ私が絶対にやらないのは買い物だ。
学校近辺の店で買い物をすると必ず親御さんや生徒、他の先生などに遭遇し、挨拶がてらのスモールトークをしている間に買い物カゴのチェックをされる。
それはさながら税関職員と麻薬捜査犬のようで、まぁ短い間に私のカゴの中にはどの銘柄のビールがあって、セール品の肉や、安いスーパーブランドのクッキーが入っているとかを探知する。

洋服の店だと私のブラのサイズ、セールのシャツが60％オフの６ドルだったとか、派手なパンツを買った、などがモロバレになり、それを知っている生徒に後日学校内で
”あ！それこの前 TJ MAXX（安売りの店） で買ってたやつだね！”　
と声をかけられる。

そんな出来事が何度か続いたので、それ以降は学校から遠い、自宅近くの店に行くようになった。学校から我が家までは１時間弱あり私の家の周辺に住んでいる生徒は少ない。

ある夏休み最後の日曜日、私はカートいっぱいにセール品を詰めてレジの列に並んでいた。パンツや靴下、バカバカしいロゴのTシャツにセクシーなパジャマ（プレゼント）、賞味期限切れ間近で90％オフのお菓子に、脱毛ワックスやダイエットスリッパ、などなど。
レジは７−８箇所あり、順番に番号で呼ばれる。

ピンポーン、次は3番のレジにお進みください　

と表示が出たのでカートを押し進むと見慣れた顔が3番のレジに見えた。
6月に卒業したばかりのエリンちゃんだった。

まずい・・・でももう後戻りはできない。パンツもワックスもスリッパも売り場に返すことは出来ない。ああああああ〜　恥ずかしい〜　と思いつつもレジにたどり着く何秒かの間に

いいよ、彼女はもう卒業したんだから、学校であれこれ楽しくネタにされることもあるまい

そんな風に自分を奮い立たせた。そしてニコニコと笑顔を取り繕い3番にたどり着くと、エリンは

”わーー先生！久しぶり〜お買い物たくさんですね！”と大きな声で迎えてくれた。

心の中で、何を買っているか見るなよ！値段をチェックするなよ！と願う私を尻目に彼女は　

”かわいいパンツですね！”とか　”うわ！このチョコ、こんなに安いの？”　などといちいちコメントをする。

まぁいい。それでも明日学校で　”やーーーん、先生可愛い下着買ったんだって？”　などとからかわれることはなかろう。エリンは卒業したのだから。

そう思っていると、彼女はおもむろに手元のマイクをとりこうアナウンスをした

ベスちゃん、タリーちゃん、3番レジまですぐに来てください、シマ先生がお待ちです。ベスちゃん、タリーちゃん、3番レジまですぐに来てください、シマ先生がお待ちです〜

ベスちゃん、タリーちゃん・・・・それは現役の生徒たち（汗）。

エリンはよかれと思ってバックルームでバイトをしていた彼女達を呼んだのだろう、そして2人はすぐに駆け寄ってきた。

”先生！わー！すごいセクシーパジャマ！ヒョウ柄？こんなの着るんだ？”

”違う！これはプレゼント用！明日学校でぺらぺら喋るなよ！”

”大丈夫〜誰にも言わないよ〜ふふふ”

翌日の月曜日のランチでメインディッシュを盛り付けてくれるおばさんが私の顔を見て笑った。

“シマ、すごいセクシーなヒョウ柄のパンツ履いてるんだって？”

おい、ベス！タリー！ちょっと来い！！

シマフィー