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あなたのお子さん? ”イエーーース!”

私は映画館に行くのがあまり好きではない。

理由は大きく分けて二つ:周りにたくさん人がいるところで映画を見ると集中できない、それとアメリカの映画館はたいていがあまり綺麗じゃない。床にポップコーンやらジュースのコップやらが散らかっていることが多い。

まとめると、民度の低い客が多い、という理由だ。上演中のおしゃべりや携帯でのテキスト、食い散らかしたゴミを置きっぱなし・・・そんな人間をお金を払って見るのが嫌だから行かない。最後に日本で映画館に行ったのは2008年だったが、私は静かで綺麗で秩序のある環境に感動した。

そんな私が映画館に行かねばならないことが年に1−2度ある。

週末のアクテイィビティーで寮生を連れて映画を観に行くことがあり、その引率を頼まれることがあるからだ(*アメリカで教師をしています)。たいてい引率は2名で、2本の映画に2組の生徒を連れて入る。引率だけど、新しい映画がタダでみれるし、映画好きな先生にとっては楽しいボランティアなのかもしれない。

一度私が引率したのは7年生の男の子が2人だけだった。Fast and Furious の7か8かを観たのを覚えている。全く興味のない映画だったが、彼らより年上の生徒たちは他の映画を選択し、私が7年生2人を連れて劇場内に入った。

男子2名はたまのエンターティンメントとお出かけにウキウキしていて、お小遣いもたくさんもってきてチョコレートやポップコーン、巨大なコーラなどを両手に抱えて席に座る。私は彼らのすぐ後ろの席に座り二人がおしゃべりしているのを見ていた。一人はウクライナ、もう一人はアルゼンチンからの留学生だ。こんなに小さいのに(日本の中1)遠くアメリカの寄宿舎学校に寄越すなんて親は寂しくないのだろうか。

そんなふたりをしばらく見ていたが、つい声が出てしまった。

”ちょっと声が大きいから小さくしなさい。ポップコーンがこぼれてたからちゃんと拾いなさい” 

”ハーイ!ちょっとユーリは向こうの拾って、オレはこっちの拾う” 二人とも即座にかがみこんでポップコーンを拾い始めた。

後ろから2人に声を掛けた私をみて、2つ席を挟んだ向こうにいた若い夫婦がニコニコしながら私に話しかけた。

”お利口な子供じゃない、可愛いね、お母さんの言うことをきちんと聞いて”

お母さん、と呼ばれたことで私はちょっときょとんとしてしまった。男子2人は両方白人でしかも金髪だ。どう見ても私と血は繋がっていない。

一拍間を空けたのを感じ取り、奥さんの方が聞いた

”2人ともあなたのお子さんなの?”

私が口を開く前に、男子2人がくるっと後ろを向いて

”イエーーース!”  

と大きく答え、私を見てケラケラと笑った。そして ”マミー、もう一つポップコーンがいるかもしれないよ、もう映画が始まる前に半分食べちゃった” とニコニコ顔で言うので、うまいことノセられた私は財布を掴んで大きなバケツのポップコーンを買いに出た。

奥さんは何がおかしいのかわからなかったと思うがずっと笑顔だった。

映画が始まってからも男子2人は時々後ろを振り返り ”マミー、今の見た?” やら ”マミー、キャンディまだある?”やら声を掛ける。

映画が終わるまでの2時間、私はニヤニヤが止まらなかった。子供のいない私には、この子たちのお母さんになれた2時間あまりの幸せな気持ちは映画のストーリーよりもずっと長く心に残っていた。

シマフィー 



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