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ピーナッツバターのトースト

私にとってのピーナッツバターは紙のカップに入った甘いやつです。

メーカーはアヲハタだったのか・・・画像を探してみたけど見つかりませんでした。昭和に子供だったみなさんには あーあれか、とわかるのではないでしょうか。正式にはピーナッツクリームでした。

小学校の5、6年だと思うのですが、母と二人暮らしだったそのころの朝ごはんはトーストにピーナッツバターと牛乳にほんのちょっぴりインスタントコーヒーを混ぜた、カフェオレとは言い難いほぼホットミルクのようなものでした。
他のものも食べさせてもらっていたとは思いますが、子供の頃の朝ごはんを思うとその組み合わせなので、よっぽど繰り返し食べたのでしょう。
野菜とか果物とかが添えられていた記憶もありません。
夜遅くまで立ち仕事の母にとって、私の登校に合わせて起きるのがやっとだったのだと思います。
朝ごはんは大切だから、と食べさせるのはピーナッツバターのトーストがやっとだったのだと思います。

あのピーナッツバタートーストは、半分に切ったパンが分厚くて、クリームがたっぷりで、ちょっと端っこが溶けてて、甘ったるいものでした。
牛乳に膜が張ったのをふーふーしながら避けて、トーストの先を浸して食べることもありました。
その思い出も相まって、いまだにピーバッツバターのトーストを食べるたびに、美味しいことは美味しいのですが、“お母さんのとは違うな” と、ちょっと減点になります。
あの当時はそこまで好きじゃなかったのに。


アパートの狭い台所の流しで顔を洗いながら、すぐ後ろでお母さんがせかせかとトースターからパンを出すのを見ている。
ちらちらっと横目で赤いホーローの鍋から牛乳が吹きこぼれないよう確認しながら、トーストにピーナッツバターを塗るのを見ている。
これを食べたら学校に行かなくてはならない、行きたくないけど行かなければならない、と思いながら見ている。

あの頃はあんまり好きじゃなかったピーナッツバター。食べたら学校に行かないといけないから。先生が好きじゃなかったから。体育も算数も好きじゃなかったから。授業は退屈で好きな友達もいなかったから。

歳をとり思い出す子供時代の小さな一片は間違っているのかもしれません。
もう遠い昔だから知らぬ間に記憶を修正してあるのかもしれません。
お母さんに聞いたら、あら、ちょっと違うじゃない、と言うかもしれません。

手元にあるスキッピーのピーナッツバターを見て、あぁあの紙カップのじゃなくて良かった、と思います。
あれを手に取ったら多分泣いてしまうから。
一口食べて、美味しくて美味しくて泣いてしまうから。


シマフィー


*注:読み返してみるとシマ母がもういないような印象ですが、元気でピンピンしております。

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