もう決まったから変えられない
バスの中で髪の毛を撫でられた。
ストレートのウエストまであるロングヘアの頃で、大学からの帰りのバスだった。
ミネアポリスのダウンタウンへ向かうバスの中はちょうど仕事や学校帰りの人たちで混雑しており、私は黄色い手すりを掴んで外の風景を見ていた。
後ろの誰かが髪を触ったのがわかる。でも揺れるバスのせいだったかもしれない、と振り返りはしなかった。ちょっとしてもう一度、今度は耳の下から背中の中程までをつーっとたどるように撫でたのがわかり、これは故意に触っているのだとわかった。
ちらっと後ろを見ると、お母さんに抱っこされた3つくらいの女の子だった。
振り返った私の顔を見て驚いた表情をし、さっとお母さんの方を向いた。
お母さんは、ちょっと申し訳なさそうに
ごめんなさいね、この子初めてアジア人を見るの
と微笑んだ。子供は私のまっすぐな髪を一掴み手にとって、
Is this real? (これ、本物?) と聞いた。
自分とお母さんの短くクルクルの髪の毛を見て、今度はお母さんに言う。
大きくなったら、この髪になりたい、長くてツルツルしてるよ
お母さんは困っただろう。まだ小さい子に人種の違いで肌の色や髪の質やなんかが違うこと、そしてそれは変えられないことをどう説明するのか。
その場限りで “そうね、そうなるよ” と言うのかな、と思っていた。
お母さんはちょっと考えて正直に子供に告げた。
この人はアジア人で、この髪で生まれて来たの。
あなたはアフリカ人で、この髪で生まれて来たの。
もう決まったから変えられないのよ。ずっとこのまんまよ。
子供はぐずることもなく そうか〜 としか言わず、私たちはニコニコと微笑みを交わしたままサヨナラをした。
降りたバス停から家まで歩く間、考えていた
もう決まったから変えられない
私は肌の色や、国籍や、目の形や、アクセントや、生まれる遥か昔の歴史なんかで誰かに嫌な思いをさせられるかもしれない。
そんなときに思い出そう、
私はもう決まったから変えられない
でも心や頭は決まって生まれてこないからどんどん変えられる。
人を指差して笑ったり、罵ったりする人の心や頭も、変わることもある。
シマフィー
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